『婚約破棄された瞬間、前世の記憶が戻ってここが「推し」のいる世界だと気づきました。恋愛はもう結構ですので、推しに全力で貢ぎます。

放浪人

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第12話:推しを死なせないための物流戦争

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「総員、展開! 陣形を『鶴翼』に! ただし中央は私が支えるから、両翼は敵を包み込むことだけに集中しなさい!」

戦場に、私の怒号が響き渡る。 ここは北の古砦。 数万の魔獣がひしめく死地であり、そして今、世界で最も金のかかった『工事現場』と化していた。

「補給部隊、前へ! 前線の武器消耗率は!?」 「A小隊、剣が全損! 槍も折れました!」 「新品を投げなさい! 『鋼鉄の長剣(量産型カスタム)』50本、投入!」

ドサドサドサッ! 私の指示と同時に、荷馬車から木箱が蹴り落とされる。 中からこぼれ落ちたのは、油紙に包まれた新品の剣だ。 一般の兵士が一生かかっても買えないような業物が、まるで雨のように前線へ供給される。

「うおおおッ! マジかよ、また新品だ!」 「切れ味が段違いだぜ! これならオークの鎧も紙切れ同然だ!」

傭兵たちが歓喜の声を上げて剣を拾い、また敵陣へと突っ込んでいく。 彼らの目は血走っているが、絶望の色はない。 あるのは、「稼げる」という確信と、無限に湧いてくる物資への興奮だけだ。

「ポーション班、散布用意! 負傷者が倒れる前にかけなさい! 『霧散布(ミスト・シャワー)』起動!」

シュァァァァァ……ッ!

巨大な噴霧器(農業用の魔道具を私が改造したもの)から、緑色の霧が噴き出す。 中身は、薄めた中級ポーションだ。 霧状になった回復薬が前線を包み込み、兵士たちの切り傷や打撲を、その場で瞬時に癒やしていく。

「すげえ……! 傷が勝手に塞がっていくぞ!」 「疲れも吹っ飛んだ! これなら無限に戦える!」

ゾンビ映画ではない。 これは、圧倒的な『資本』によるドーピング戦争だ。

私は馬車の御者台に仁王立ちし、戦況を見渡していた。 隣では、セバスチャンが青ざめた顔でそろばんを弾いている。

「お、お嬢様……。開始15分で、金貨5000枚分の物資が消えました。このペースでは、ハルティア家の流動資産が……」

「構わないわ! 金貨がなんだと言うの! あのオークの一撃がレオンハルト様に当たったら、損害額はプライスレスよ!」

私は叫び返した。 金ならまた稼げばいい。 化粧品でも、新薬でも、なんでも作って売りさばいてやる。 でも、レオンハルト様の命は一つしかないのだ。

「グルルルルッ!!」

上空で、ブラック・ドラゴンが咆哮を上げる。 その眼下では、黒いコートを翻した英雄が、光の帯となって空を駆けていた。

レオンハルト様だ。 私があげた完全回復薬(エリクサー)で復活した彼は、今や鬼神の如き強さを発揮していた。

「はあああっ!!」

彼が一閃するたびに、ドラゴンの鱗が飛び散り、空気が凍結する。 『月光の聖剣』と『古代竜のコート』。 最強の装備が、最強の使い手を得て、その真価を120%発揮している。

「すごい……。あれが、本来の彼の力……」

私は見惚れた。 ゲーム画面で見ていたポリゴンの動きとは違う。 生身の、躍動する筋肉、飛び散る汗、鋭い眼光。 その全てが芸術的で、神々しい。

だが、敵もさるものだ。 ブラック・ドラゴンは、スタンピードの「核」となる個体。 周囲の魔素を吸収し、傷を再生しながら、執拗にレオンハルト様を狙ってくる。

「ブレスが来るぞ! 防御!」

レオンハルト様の警告が飛ぶ。 ドラゴンの口が赤熱し、極太の火炎放射が放たれた。 狙いはレオンハルト様ではない。 地上で戦う、我々『補給部隊』だ。

「お嬢様ッ!?」

セバスチャンが叫ぶ。 傭兵たちが恐怖に足を止める。 逃げ場はない。 馬車ごと消し炭になる――誰もがそう思った。

だが。

「想定内よ! 展開ッ!!」

私は懐から、虹色に輝く水晶玉を取り出し、地面に叩きつけた。

パァァァァンッ!!

水晶が砕け散ると同時に、半透明の巨大なドーム状の光が、私たちの陣地を覆った。 『聖女の守護石(使い捨てVer.)』。 隣国の国宝級アイテムのレプリカで、一度きりの絶対防御結界を展開する。 お値段、金貨10万枚。

ドゴォォォォォォォォンッ!!

業火が結界に衝突し、激しく爆ぜる。 視界が真っ赤に染まるが、熱さは感じない。

「な、なんだ!? 弾いたぞ!?」 「ドラゴンのブレスを無効化した!?」

炎が晴れた後、そこには無傷の私たちと、驚愕するドラゴンの姿があった。

「ふふん、残念だったわねトカゲさん。私の財布(HP)は、あんたの火力より厚いのよ!」

私は勝ち誇って叫んだ。 そして、空中にいるレオンハルト様に向かって手を振る。

「殿下! 今です! 奴はブレスを吐いて隙だらけです! 新しい剣を送りますから、最大出力でぶちかましてください!」

私は『アイテムボックス(大容量リュック)』から、一本の槍を取り出した。 ただの槍ではない。 ミスリル合金に、爆裂魔法のスクロールを何重にも巻き付けた、特製の『対ドラゴン用使い捨てパイルバンカー』だ。

「受け取ってぇぇぇッ!」

私は身体強化魔法で筋力をブーストし、槍を上空へ向かって投擲した。 ヒュンッ! 槍は正確にレオンハルト様の手元へと飛んでいく。

「……ハハッ、無茶苦茶だな!」

レオンハルト様は空中でそれを受け取ると、ニヤリと笑った。 その笑顔は、少年のように楽しげだった。

「だが、最高のタイミングだ! 感謝する!」

彼は槍を構え、魔力を込めた。 切っ先が赤く発光する。

「落ちろォォォォッ!!」

流星のような急降下攻撃。 ドラゴンの眉間に、槍が突き刺さる。 その瞬間、巻き付けられた魔法スクロールが一斉に起動した。

ズドォォォォォォォンッ!!

空中で爆発が起きた。 ドラゴンの巨体が吹き飛び、錐揉み回転しながら森の奥へと墜落していく。

「やったか!?」

傭兵たちが歓声を上げる。 しかし、私は気を緩めなかった。 煙の向こうで、まだ赤い目が光っている。

「まだよ! あれくらいじゃ死なない! 第二波、来るわよ!」

私の予感は的中した。 ドラゴンの墜落地点から、再び無数の魔物が湧き出してきたのだ。 しかも今度は、ドラゴンを守るように配置された親衛隊クラスの強力な個体ばかりだ。

「くっ……数が減らない!」

レオンハルト様が地上に降り立ち、肩で息をする。 さすがの彼も、連戦で疲労の色が見え始めていた。 私のポーションで回復しているとはいえ、精神的な摩耗までは消せない。

「エリザベート! これ以上は危険だ! 一度下がれ!」

彼が叫ぶ。

「物資も尽きかけているだろう! ここから先は泥仕合になる!」

確かに、私の馬車の荷台は軽くなっていた。 剣の予備はあと30本。 ポーションの樽も残りわずか。 金貨10万枚の結界石も使い切った。

戦線は膠着状態。 このままでは、物量差で押し切られる。

「下がりません!」

私は即答した。

「ここで下がれば、魔物たちは勢いづいて王都まで雪崩れ込みます! ここで食い止めるしかないのです!」

「だが、弾切れだ!」

「弾なら……まだあるわ!」

私は空を指差した。 南の空。王都の方角だ。

「見てください、殿下! 私の『商売』は、戦場だけで完結しているわけではありません!」

彼が振り返る。 そこには、信じられない光景があった。

夜明けの空を背に、数え切れないほどの『光』が近づいてきていた。 松明の明かりではない。 それは、整然と並んだ騎馬隊の、魔法ランタンの輝きだった。

「あれは……騎士団?」

先頭を走るのは、白銀の鎧を着た一団。 彼らが掲げている旗は、王家の紋章ではない。 ハルティア公爵家の紋章と、そして――『正義』を意味する天秤の紋章だ。

「お待たせいたしました、お嬢様!」

先頭の騎士が大声で叫んだ。 王都の近衛騎士団、副団長を務める男だ。 本来ならジュリアン殿下の命令しか聞かないはずの彼が、今は私の私兵として駆けつけてくれたのだ。

「遅いわよ! 残業手当カットするわよ!」

「ははっ、それは手厳しい! ですが、最高の商品(戦力)を持ってきましたぞ!」

彼の背後には、数百名の騎士たち。 彼らは皆、王宮で冷遇され、ジュリアン殿下に愛想を尽かしていた『良識派』の騎士たちだ。 セバスチャンが裏で接触し、『ハルティア商会警備部』として臨時雇用契約を結んだ精鋭たちである。

「状況を開始する! 我らの雇い主(ボス)と、真の英雄を守れ!!」

「「「オオオオオオオオッ!!!」」」

数百の騎馬隊が、魔物の側面に突撃した。 正規の訓練を受けた騎士たちの突撃は、傭兵たちのそれとは桁違いの破壊力を持っていた。 一撃で魔物の陣形が崩れ、分断される。

「こ、これは……」

レオンハルト様が目を丸くしている。

「騎士団が……俺のために?」

「違いますよ、殿下」

私は馬車から飛び降り、彼の隣に立った。

「彼らは『仕事』をしに来たのです。国を守り、民を守るという、騎士本来の仕事を。……貴方が、彼らにその場所を与えたのですよ」

レオンハルト様が一人で戦い続けたこと。 その事実は、腐っていた騎士たちの心に火をつけたのだ。 「あの不遇な王子が命懸けで戦っているのに、俺たちは何をしているんだ」と。 私がしたのは、その火種に「金」という油を注いだだけ。

「……そうか」

レオンハルト様の目に、涙が光った気がした。 彼は剣を強く握り直した。

「全軍、反撃だ! 俺に続け!」

「「「応ッ!!」」」

戦場の空気が一変した。 孤立無援の撤退戦から、完全なる殲滅戦へ。

「さあ、ここからは『在庫処分セール』よ!」

私は残った物資を全てぶちまけた。

「ポーション飲み放題! 武器使い放題! 魔石爆弾もサービスしちゃう! 一匹残らず駆除しなさい!」

戦場はカオスと化した。 騎士たちが新品の剣でオークを切り伏せ、疲れたらポーションをラッパ飲みし、魔法使い部隊(商会所属)が後方から炎魔法の雨を降らせる。 その中心で、レオンハルト様が踊るようにドラゴンと斬り結ぶ。

物流が、戦況をひっくり返した瞬間だった。

しかし。 まだ終わらない。 ドラゴンの向こう側。森の最深部から、さらに強大な、禍々しい魔力が膨れ上がっているのを、私は感じ取っていた。

(……おかしいわ。スタンピードの規模にしては、魔力の質が違いすぎる)

私のゲーマーとしての勘が告げている。 これは自然発生したスタンピードではない。 誰かが、意図的に引き起こした『人災』だ。

「殿下!」

私は叫んだ。

「まだ奥に何かいます! あれが元凶です!」

レオンハルト様も気づいていたようだ。 彼はドラゴンを騎士たちに任せ、森の奥を睨み据えた。

「ああ。……呼んでいる。俺を」

「行きますか?」

「行かねば終わらない」

彼は私を見た。 その瞳は、私を心配するように揺れていた。 ここから先は、金や物資だけではどうにもならない、未知の領域だ。

「……来るな、とは言わない」

彼は手を差し出した。

「だが、俺の背中から離れるな。……俺が必ず守る」

「ええ。離れませんよ」

私は彼の手を取った。 その手は、戦いの熱で熱く、そして力強かった。

「行きましょう、レオンハルト様。このふざけたイベントの主催者に、請求書を叩きつけに」

私たちは走り出した。 物流戦争は勝利した。 次は、この地獄を生み出した真の敵との決戦だ。
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