五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人

文字の大きさ
53 / 61

第53話 街道の雨

しおりを挟む
 馬車の窓ガラスを、パラパラと冷たい雨粒が叩き続けている。
 王都を出発してから数日。辺境へと続く街道は、秋の深まりと共に冷たい雨に濡れていた。
 車内には、湿った土の匂いと、濡れた外套から漂う羊毛の匂いが立ち込めている。

 「……けほっ」

 エリシアの膝の上で丸くなっていたクララが、小さな咳をした。
 馬車の揺れと急激な冷え込みで、少し体調を崩してしまったようだ。
 エリシアは鞄から取り出した祝布の切れ端をクララの首元に巻き、その背中をゆっくりと撫でた。

 「クララ、寒くない? もう少しで宿場に着くからね」
 「うん……だいじょうぶ」

 クララがうとうとと目を閉じるのを見守りながら、エリシアは窓の外の灰色の景色を眺めた。
 五年前、大聖堂から追い出され、身一つで馬車に揺られていた夜を思い出す。
 あの時は、寒さと恐怖で息もできず、ただ絶望だけが隣にあった。
 だが今は違う。

 「エリシア。……湯たんぽの代わりです。少しは温まるでしょう」

 向かいの席に座るリュシアンが、布で包んだ温かい水筒をそっと差し出してくれた。
 それを受け取ると、彼の手の温もりが指先から伝わってくる。
 さらに、この馬車の前後には、ロルフが手配してくれた屈強な護衛たちがついている。彼らは決してエリシアたちの空間に干渉しないが、確実な安全を保証してくれていた。

 自由だ。
 誰にも支配されず、自分の意思で選んだ道を、大切な人たちと一緒に進んでいる。
 守られているという安心感が、冷たい雨の音を心地よい子守唄に変えてくれた。

 やがて馬車は、街道沿いの宿場町へと到着した。
 通された部屋にはすでに暖炉の火が入れられており、パチパチとはぜる薪の音と、乾いた木の香りが部屋を包み込んでいた。

 エリシアは持参した薬草をすり潰し、温かいお湯に溶かしてクララに飲ませる。
 甘苦い香りが湯気と共に広がる。
 リュシアンが階下から運んできた温かいスープを飲むと、クララの顔色もすっかり良くなり、静かな寝息を立て始めた。

 翌朝。
 雨が上がり、窓を開けると、ひんやりとした朝の空気が流れ込んできた。
 遠くの山の稜線に、濃い霧に包まれた巨大な石造りの建造物が見える。
 辺境の入り口を守る、霧の砦だった。

♦︎♦︎♦︎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死ぬ瞬間にだけ、愛してほしい

しょくぱん
恋愛
「代わって。死なない程度に、ね?」 異母姉リリアーヌの言葉一つで、エルゼの体は今日もボロボロに削られていく。 エルゼの魔法は、相手の傷と寿命を自らに引き受ける「禁忌の治癒」。 その力で救い続けてきたのは、初恋の人であり、姉の婚約者となった王太子アルベルトだった。 自分が傷つくほど、彼は姉を愛し、自分には冷ややかな視線を向ける。 それでもいい。彼の剣が折れぬなら、この命、一滴残らず捧げよう。 だが、エルゼの寿命は残りわずか。 せめて、この灯火が消える瞬間だけは。 偽りの聖女ではなく、醜く焼けた私を、愛してほしい。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

三歳年下の婚約者は、嘘を覚えた

恋せよ恋
恋愛
ランバート侯爵令嬢フィオーラには三歳年下の病弱な婚約者がいる。 保養地で十二歳まで静養するフィッチモ公爵家の嫡男、エドワード。 病弱で儚げだった可愛い彼を、フィオーラは献身的に励まし支えた。 十四歳でエドワードが健康を取り戻し王都へ戻ると、環境に変化が。 金髪に青い目の整った容姿の公爵家嫡男に群がる令嬢たち。 「三歳年上の年増」「素敵なエドワード様に相応しくないおばさん」 周囲の令嬢たちによるフィオーラへの執拗な侮辱。 そして、エドワードの友人の義妹マリアンヌの甘い誘惑と、接近。 思春期真っ盛りのエドワードと、美しいフィオーラの関係は拗れていく。 二人の婚約の結末は、婚約解消か、継続か、はたまた……。 若い二人の拗れた恋の行方の物語 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...