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第53話 街道の雨
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馬車の窓ガラスを、パラパラと冷たい雨粒が叩き続けている。
王都を出発してから数日。辺境へと続く街道は、秋の深まりと共に冷たい雨に濡れていた。
車内には、湿った土の匂いと、濡れた外套から漂う羊毛の匂いが立ち込めている。
「……けほっ」
エリシアの膝の上で丸くなっていたクララが、小さな咳をした。
馬車の揺れと急激な冷え込みで、少し体調を崩してしまったようだ。
エリシアは鞄から取り出した祝布の切れ端をクララの首元に巻き、その背中をゆっくりと撫でた。
「クララ、寒くない? もう少しで宿場に着くからね」
「うん……だいじょうぶ」
クララがうとうとと目を閉じるのを見守りながら、エリシアは窓の外の灰色の景色を眺めた。
五年前、大聖堂から追い出され、身一つで馬車に揺られていた夜を思い出す。
あの時は、寒さと恐怖で息もできず、ただ絶望だけが隣にあった。
だが今は違う。
「エリシア。……湯たんぽの代わりです。少しは温まるでしょう」
向かいの席に座るリュシアンが、布で包んだ温かい水筒をそっと差し出してくれた。
それを受け取ると、彼の手の温もりが指先から伝わってくる。
さらに、この馬車の前後には、ロルフが手配してくれた屈強な護衛たちがついている。彼らは決してエリシアたちの空間に干渉しないが、確実な安全を保証してくれていた。
自由だ。
誰にも支配されず、自分の意思で選んだ道を、大切な人たちと一緒に進んでいる。
守られているという安心感が、冷たい雨の音を心地よい子守唄に変えてくれた。
やがて馬車は、街道沿いの宿場町へと到着した。
通された部屋にはすでに暖炉の火が入れられており、パチパチとはぜる薪の音と、乾いた木の香りが部屋を包み込んでいた。
エリシアは持参した薬草をすり潰し、温かいお湯に溶かしてクララに飲ませる。
甘苦い香りが湯気と共に広がる。
リュシアンが階下から運んできた温かいスープを飲むと、クララの顔色もすっかり良くなり、静かな寝息を立て始めた。
翌朝。
雨が上がり、窓を開けると、ひんやりとした朝の空気が流れ込んできた。
遠くの山の稜線に、濃い霧に包まれた巨大な石造りの建造物が見える。
辺境の入り口を守る、霧の砦だった。
♦︎♦︎♦︎
王都を出発してから数日。辺境へと続く街道は、秋の深まりと共に冷たい雨に濡れていた。
車内には、湿った土の匂いと、濡れた外套から漂う羊毛の匂いが立ち込めている。
「……けほっ」
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馬車の揺れと急激な冷え込みで、少し体調を崩してしまったようだ。
エリシアは鞄から取り出した祝布の切れ端をクララの首元に巻き、その背中をゆっくりと撫でた。
「クララ、寒くない? もう少しで宿場に着くからね」
「うん……だいじょうぶ」
クララがうとうとと目を閉じるのを見守りながら、エリシアは窓の外の灰色の景色を眺めた。
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それを受け取ると、彼の手の温もりが指先から伝わってくる。
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自由だ。
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やがて馬車は、街道沿いの宿場町へと到着した。
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エリシアは持参した薬草をすり潰し、温かいお湯に溶かしてクララに飲ませる。
甘苦い香りが湯気と共に広がる。
リュシアンが階下から運んできた温かいスープを飲むと、クララの顔色もすっかり良くなり、静かな寝息を立て始めた。
翌朝。
雨が上がり、窓を開けると、ひんやりとした朝の空気が流れ込んできた。
遠くの山の稜線に、濃い霧に包まれた巨大な石造りの建造物が見える。
辺境の入り口を守る、霧の砦だった。
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