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第十三話『ざまぁの始まりと、陛下の黒い微笑』
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アレクシオス陛下が語り始めた内容は私の想像を遥かに超えるものだった。
「私が君を王妃として迎えると宣言した後アルメリア侯爵家は貴族社会で完全に孤立した」
「……」
「国王の婚約者を虐げていた家という烙印を押され今まで付き合いのあった家はことごとく手を引いた。長年続けてきた領地の交易も多くの取引先から契約を打ち切られているそうだ。経営は火の車だと聞く」
父が事業の成功を何よりも誇りにしていたことを思い出す。
その拠り所が今ガラガラと崩れ去っているのだ。
「そして……」
陛下はさらに言葉を続けた。
「君の元婚約者フレデリック・フォン・バーンシュタイン。彼の実家である公爵家が正式にセレーナ嬢との婚約話を白紙に戻した」
「え……!?」
それは予想外の展開だった。
あれほどセレーナに夢中だったフレデリック様が?
「バーンシュタイン公爵家も馬鹿ではない。未来の国王の義姉を虐げた令嬢を家の嫁として迎え入れることのリスクを計算したのだろう。表向きの理由は『セレーナ嬢のあまりに激しい気性が公爵家の嫁にふさわしくないと判断した』とのことだ」
全てを手に入れたはずの妹セレーナ。
彼女はその全てを失ったのだ。
自分の行いのせいで。
「セレーナ嬢は今屋敷でヒステリーを起こし物に当たり散らす毎日。侯爵は酒に溺れて仕事も手につかないとか」
その話を聞いて私の心は複雑に揺れた。
ざまあみろと思う気持ちとほんの少しの同情。
そんな私の表情を読み取ったのかアレクシオス陛下は私の手を優しく握った。
「君が心を痛める必要はない。全て彼らが自分たちの行いのために支払っている代償だ。自業自得というやつだよ」
「……はい」
「ちなみに……」
陛下はふと何かを思い出したようににやりと口の端を上げた。
「バーンシュタイン公爵家には我が国から『最近良質な鉄鉱石が不足気味でね。貴国への輸出量を少し見直そうかと思っている』とそれとなく伝えておいたんだ」
「え?」
「そうしたら驚くほど迅速にセレーナ嬢との婚約破棄を決断したそうだ。実に物分かりの良いご家庭だ」
その言葉に私は目を丸くした。
それは穏やかな外交交渉などではない。
紛れもない脅迫だ。
「へ、陛下……。意外とその……黒い一面もお持ちなのですね……」
私が恐る恐るそう言うと陛下は私の手を自分の胸に引き寄せうっとりとした表情で囁いた。
「君のためなら漆黒にでも奈落の闇にでもなろう我が愛しのイリス」
そのキザなセリフと真剣な表情のギャップに私は思わず噴き出してしまった。
この人は本当に面白い人だ。
そんな風に私たちの穏やかな時間が流れていたその時。
侍従が一通の手紙を運んできた。
差出人の名前を見て私の心臓が跳ねた。
『フレデリック・フォン・バーンシュタイン』
元婚約者からの手紙……?
なぜ今さら。
震える手で封を切るとそこには彼の弱々しい筆跡でこう綴られていた。
『イリス、君に一目会って心から謝罪したい。私は取り返しのつかないほど愚かだった。どうかもう一度だけ……最後に一度だけでいい。会ってはくれないだろうか』
その懇願するような文面に私の心は再び静かに揺れた。
「私が君を王妃として迎えると宣言した後アルメリア侯爵家は貴族社会で完全に孤立した」
「……」
「国王の婚約者を虐げていた家という烙印を押され今まで付き合いのあった家はことごとく手を引いた。長年続けてきた領地の交易も多くの取引先から契約を打ち切られているそうだ。経営は火の車だと聞く」
父が事業の成功を何よりも誇りにしていたことを思い出す。
その拠り所が今ガラガラと崩れ去っているのだ。
「そして……」
陛下はさらに言葉を続けた。
「君の元婚約者フレデリック・フォン・バーンシュタイン。彼の実家である公爵家が正式にセレーナ嬢との婚約話を白紙に戻した」
「え……!?」
それは予想外の展開だった。
あれほどセレーナに夢中だったフレデリック様が?
「バーンシュタイン公爵家も馬鹿ではない。未来の国王の義姉を虐げた令嬢を家の嫁として迎え入れることのリスクを計算したのだろう。表向きの理由は『セレーナ嬢のあまりに激しい気性が公爵家の嫁にふさわしくないと判断した』とのことだ」
全てを手に入れたはずの妹セレーナ。
彼女はその全てを失ったのだ。
自分の行いのせいで。
「セレーナ嬢は今屋敷でヒステリーを起こし物に当たり散らす毎日。侯爵は酒に溺れて仕事も手につかないとか」
その話を聞いて私の心は複雑に揺れた。
ざまあみろと思う気持ちとほんの少しの同情。
そんな私の表情を読み取ったのかアレクシオス陛下は私の手を優しく握った。
「君が心を痛める必要はない。全て彼らが自分たちの行いのために支払っている代償だ。自業自得というやつだよ」
「……はい」
「ちなみに……」
陛下はふと何かを思い出したようににやりと口の端を上げた。
「バーンシュタイン公爵家には我が国から『最近良質な鉄鉱石が不足気味でね。貴国への輸出量を少し見直そうかと思っている』とそれとなく伝えておいたんだ」
「え?」
「そうしたら驚くほど迅速にセレーナ嬢との婚約破棄を決断したそうだ。実に物分かりの良いご家庭だ」
その言葉に私は目を丸くした。
それは穏やかな外交交渉などではない。
紛れもない脅迫だ。
「へ、陛下……。意外とその……黒い一面もお持ちなのですね……」
私が恐る恐るそう言うと陛下は私の手を自分の胸に引き寄せうっとりとした表情で囁いた。
「君のためなら漆黒にでも奈落の闇にでもなろう我が愛しのイリス」
そのキザなセリフと真剣な表情のギャップに私は思わず噴き出してしまった。
この人は本当に面白い人だ。
そんな風に私たちの穏やかな時間が流れていたその時。
侍従が一通の手紙を運んできた。
差出人の名前を見て私の心臓が跳ねた。
『フレデリック・フォン・バーンシュタイン』
元婚約者からの手紙……?
なぜ今さら。
震える手で封を切るとそこには彼の弱々しい筆跡でこう綴られていた。
『イリス、君に一目会って心から謝罪したい。私は取り返しのつかないほど愚かだった。どうかもう一度だけ……最後に一度だけでいい。会ってはくれないだろうか』
その懇願するような文面に私の心は再び静かに揺れた。
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