妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第二十話『覚醒する力と、守るべきもの』

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「闇の淵より来たれ、魂を喰らう鎖よ!」

ザラキの詠唱と共に黒い魔力の渦が何本もの禍々しい鎖となって私に襲いかかってきた。
それは魂そのものを縛り上げ抜き取ろうとする禁断の魔術。

「させない!」

私は自分の前に両手を突き出した。
その瞬間胸のペンダントがこれまでで最も強い眩いばかりの光を放った。

カァァァンッ!

光の壁が黒い鎖を弾き返す。
その衝撃でザラキが「ぐっ…!?」と後ずさった。

光に包まれながら私の脳裏に優しい声が響く。

『……イリス』

(おばあ様……!)

『恐れることはないわ可愛い私の孫。あなたの力は何かを奪うためでも傷つけるためでもない』

『あなたのその力は……大切なものを守るためにあるのよ』

おばあ様の温かい言葉が私の心にすっと染み込んでいく。
そうだ。
私はもう無力な少女じゃない。

私には守りたい人がいる。
私を信じてくれる愛しい人が。
そして……たとえどんなに憎らしくても血を分けたたった一人の妹が。

「うおおおおおっ!」

私の体から金色の光の奔流が溢れ出した。
それは邪悪な魔力を浄化し癒しを与える聖女の力。
私の魂が完全に覚醒した瞬間だった。

(美しい……。我が妃は本物の女神だったか……!)

どこからかアレクシオス陛下の感動に打ち震える声が聞こえた気がした。

(陛下、今は感心している場合ではありません!)
ライオス団長の冷静なツッコミも聞こえる。

「こ、この光は……! まさか完全に覚醒したというのか!? 馬鹿な!」

ザラキが信じられないという顔で狼狽えている。

私は彼に向かって覚醒したばかりの力を解き放った。

「あなたの邪悪な野望はここで終わりです!」

私の手から放たれた光の波がザラキの黒い魔力をまるで朝日に溶ける霧のようかき消していく。

「ぎゃあああああっ!」

魔力の源を断たれたザラキは無様に地面を転がった。

その瞬間を待っていた。

「「「うおおおおおっ!!!」」」

谷中に雄叫びが響き渡る。
岩陰に隠れていたアレクシオス陛下とリンドール騎士団が一斉に姿を現したのだ。

ドガァァン!
バキィィン!

騎士たちの剣がザラキの仲間である『黒き蛇』の魔術師たちを圧倒的な力で次々となぎ倒していく。
もはや勝負は決まったも同然だった。

全てが終わり静寂が戻った谷。
私は祭壇に縛られたまま震えているセレーナの前に立った。
ライオス団長が彼女の縄を解く。

「お、お姉様……」

セレーナは助かった安堵と私の神々しい姿への畏怖で声が震えている。
彼女はおずおずと私の顔を見上げた。

私はそんな妹をただ静かに見下ろしていた。

何を言うべきか。
許す? 許さない?
そんな単純な言葉では私たちの歪んでしまった関係を表すことはできないだろう。

私はゆっくりと口を開いた。
私と妹の新しい関係が始まるその第一声を発するために。
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