妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第二十三話『不器用な姉妹と、王様のやきもち』

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セレーナの寝言を聞いてから私の心の中にはなんとも言えない複雑な感情が渦巻いていた。
憎しみはもうない。けれど簡単に許せるほど私の心は広くなかった。

翌日から私とセレーナの奇妙な共同生活が始まった。

「セレーナ。あなたは今日からこの離宮の掃除と私の身の回りのお世話をしてもらいます」

「……え?」

「もちろん侍女としてではありません。罪を償うための奉仕活動です。嫌なら今すぐ実家にお帰りなさい」

私の言葉にセレーナは青い顔でぶんぶんと首を横に振った。
こうして元侯爵令嬢の生まれて初めての労働が始まったのだ。

しかしこれがまあひどいものだった。
雑巾の絞り方一つ知らず床は水浸し。
洗濯物を畳ませればしわくちゃの塊が出来上がる。
紅茶を淹れさせれば濃すぎて苦いか薄すぎて水みたいかそのどちらか。

「はあ……」

私は盛大なため息をつく。
あまりの不器用さに見かねて私が手本を見せようとしたその時だった。
セレーナが熱いティーポットを倒しそうになりそれを庇った私の指先に熱湯がかかってしまった。

「きゃっ!」
「お、お姉様! ご、ごめんなさい!」

真っ赤になった私の指を見てセレーナはパニックに陥る。
私はそんな彼女を落ち着かせながら自分の指にそっと治癒の光を灯した。
温かい光が火傷の痛みをすっと消していく。

「……すごい……」

その光景をセレーナは呆然と見つめていた。
自分のせいで姉が怪我をしたという罪悪感とその不思議な力への畏怖。
彼女の心の中で何かが少しずつ変わり始めているのが分かった。

そんな不器用な姉妹の時間をぶち壊す声が響いた。

「イリスーーーッ! 私の愛しいイリス! 一体何をしているんだ!」

アレクシオス陛下が部屋に飛び込んできた。
そして私とセレーナが一緒にいるのを見るなり眉を吊り上げる。

「なぜ君がそんな女の世話などをしているんだ! 君のその白魚のような美しい手は私の頬を撫でるためだけにあるというのに!」

「へ、陛下……。大げさですわ」

「大げさではない! 断じてだ! この私ですらまだ君に掃除の一切をさせたことがないのだぞ! それをこんなどこの馬の骨とも知れぬ女のために……!」

嫉妬の炎をメラメラと燃やす陛下。
その姿は国王というより恋人に意地悪された子供のようだ。

「陛下、見苦しいですぞ」
いつの間にか現れたライオス団長が心底呆れたようにため息をつく。
陛下のやきもちに私は困りながらもどこか可笑しくてくすりと笑ってしまった。

そんなある意味で平穏な日々が続いていたある日。
一人の意外な人物が私との面会を求めてきた。

「リンドール公爵……?」

ロザリア嬢の父親であり国内の保守派貴族の筆頭。
『黒き蛇』の事件で娘と共に私に完膚なきまでに敗北した後、領地に引きこもっていたはずの彼が一体何の用だろうか。

私の胸に新たな波乱の予感がよぎった。
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