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第二十四話『公爵の謝罪と、月の聖杯』
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リンドール公爵との面会は城の公式な謁見の間で行われた。
もちろん私の隣には守護者のようにアレクシオス陛下が座っている。
厳かな雰囲気の中、現れたリンドール公爵は以前の傲慢な態度が嘘のように憔悴しきっていた。
彼は私と陛下の前に進み出ると何の躊躇もなくその場に深々と膝をついた。
「イリス妃殿下、そしてアレクシオス陛下。この度は我が娘ロザリアが大変な非礼を働き誠に誠に申し訳ございませんでした!」
床に額をこすりつけ彼は心からの謝罪を口にした。
「妃殿下こそが真にリンドールの国母にふさわしいお方。聖女の力をその身に宿された慈愛に満ちた偉大なるお方でございます。それを分からぬは愚かな私と愚かな娘だけでございました……!」
彼のあまりに劇的な変化。
私は驚いて陛下と顔を見合わせた。
公爵は語る。
『黒き蛇』の一件そして私が聖女の力を覚醒させたという話は瞬く間にリンドール中の貴族に広まった。
私の力と国王の揺るぎない愛を目の当たりにしてもはや私を次期王妃と認めない者はいなくなったと。
「今後はこのリンドール公爵家、陛下とそしてイリス妃殿下に未来永劫変わらぬ忠誠を誓いまする」
かつての最大の敵対勢力が今私の足元にひれ伏している。
これでリンドール国内における私の立場は完全に盤石なものとなったのだ。
公爵が帰った後アレクシオス陛下はふんと鼻を鳴らした。
「ふん、やっと頭を下げに来たか。遅すぎるくらいだ」
「陛下、もう許してあげてくださいませ」
私がそう言うと陛下はすぐに機嫌を直した。
「うむ! 君がそう言うのなら許してやろう! 何しろ私の心は太平洋よりも広いからな!」
「陛下、申し訳ありませんがこの世界に太平洋はございません……」
「そ、そうだったか!? はっはっは!」
自分の天然ボケを高笑いで誤魔化す陛下。
そのお茶目な姿に私は心から愛しさを感じた。
和やかな空気の中、私はふとリンドール公爵が帰り際に置いていった一つの情報を思い出していた。
「そういえば陛下、公爵様がこのようなことを……」
『――黒き蛇の残党が西の商業都市国家**『水の都』**の周辺で何かを探しているとの噂がございます。くれぐれもお気をつけください――』
水の都。
それはリンドールを建国した三つの部族のうちの一つ。
今はリンドール王国内の半独立自治都市として栄えている場所だ。
「奴らが何かを探している……?」
アレクシオス陛下が眉をひそめる。
その時私は書庫で見つけた別の文献の一節を思い出していた。
『聖女の力は月の満ち欠けに影響を受ける。そしてその力を最大限に増幅させるという失われた神器が存在する。その名を**『月の聖杯』**という――』
まさか『黒き蛇』の残党の狙いは……!
その夜。
私の考えをまとめるために一人部屋で本を読んでいると扉が控えめにノックされた。
入ってきたのはセレーナだった。
彼女は意を決したような真剣な表情をしていた。
そして私の前に進み出ると何の迷いもなくその場にひざまずき土下座をした。
「お姉様っ!」
「今まで……! 今まで本当に……!」
「本当に申し訳ございませんでしたっ!」
それは彼女が初めて口にした心からの魂からの謝罪だった。
もちろん私の隣には守護者のようにアレクシオス陛下が座っている。
厳かな雰囲気の中、現れたリンドール公爵は以前の傲慢な態度が嘘のように憔悴しきっていた。
彼は私と陛下の前に進み出ると何の躊躇もなくその場に深々と膝をついた。
「イリス妃殿下、そしてアレクシオス陛下。この度は我が娘ロザリアが大変な非礼を働き誠に誠に申し訳ございませんでした!」
床に額をこすりつけ彼は心からの謝罪を口にした。
「妃殿下こそが真にリンドールの国母にふさわしいお方。聖女の力をその身に宿された慈愛に満ちた偉大なるお方でございます。それを分からぬは愚かな私と愚かな娘だけでございました……!」
彼のあまりに劇的な変化。
私は驚いて陛下と顔を見合わせた。
公爵は語る。
『黒き蛇』の一件そして私が聖女の力を覚醒させたという話は瞬く間にリンドール中の貴族に広まった。
私の力と国王の揺るぎない愛を目の当たりにしてもはや私を次期王妃と認めない者はいなくなったと。
「今後はこのリンドール公爵家、陛下とそしてイリス妃殿下に未来永劫変わらぬ忠誠を誓いまする」
かつての最大の敵対勢力が今私の足元にひれ伏している。
これでリンドール国内における私の立場は完全に盤石なものとなったのだ。
公爵が帰った後アレクシオス陛下はふんと鼻を鳴らした。
「ふん、やっと頭を下げに来たか。遅すぎるくらいだ」
「陛下、もう許してあげてくださいませ」
私がそう言うと陛下はすぐに機嫌を直した。
「うむ! 君がそう言うのなら許してやろう! 何しろ私の心は太平洋よりも広いからな!」
「陛下、申し訳ありませんがこの世界に太平洋はございません……」
「そ、そうだったか!? はっはっは!」
自分の天然ボケを高笑いで誤魔化す陛下。
そのお茶目な姿に私は心から愛しさを感じた。
和やかな空気の中、私はふとリンドール公爵が帰り際に置いていった一つの情報を思い出していた。
「そういえば陛下、公爵様がこのようなことを……」
『――黒き蛇の残党が西の商業都市国家**『水の都』**の周辺で何かを探しているとの噂がございます。くれぐれもお気をつけください――』
水の都。
それはリンドールを建国した三つの部族のうちの一つ。
今はリンドール王国内の半独立自治都市として栄えている場所だ。
「奴らが何かを探している……?」
アレクシオス陛下が眉をひそめる。
その時私は書庫で見つけた別の文献の一節を思い出していた。
『聖女の力は月の満ち欠けに影響を受ける。そしてその力を最大限に増幅させるという失われた神器が存在する。その名を**『月の聖杯』**という――』
まさか『黒き蛇』の残党の狙いは……!
その夜。
私の考えをまとめるために一人部屋で本を読んでいると扉が控えめにノックされた。
入ってきたのはセレーナだった。
彼女は意を決したような真剣な表情をしていた。
そして私の前に進み出ると何の迷いもなくその場にひざまずき土下座をした。
「お姉様っ!」
「今まで……! 今まで本当に……!」
「本当に申し訳ございませんでしたっ!」
それは彼女が初めて口にした心からの魂からの謝罪だった。
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