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第10話:断罪の氷剣
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「やっちまえ! その女も、邪魔な男も、全員殺せ!」
カミロのヒステリックな絶叫が、夜の森に響き渡った。 彼は恐怖と怒りで正気を失っているようだった。公爵家の紋章を見てもなお、自分の罪を揉み消せると思っている愚か者。それが私の元婚約者だった。
「へっ、上等だ! 相手が貴族だろうが、森の中で死体になればただの肉塊だ!」
闇組織『黒蛇』のリーダー、ガストンがドスを抜き、部下たちに合図を送る。 十数人の男たちが、一斉に殺気を放って私たちに襲いかかってきた。 普通なら足がすくむ光景だ。 だが、私の隣にはこの国最強の男がいる。
「……五月蝿い羽虫どもだ」
クラウス様は、襲い来る凶刃を前にしても眉一つ動かさなかった。 ただ、静かに右手を掲げ、指を鳴らした。
パチンッ。
乾いた音が響いた瞬間、森の闇が揺らいだ。 木々の影、草むらの陰、ありとあらゆる場所から、黒装束の集団が湧き出るように現れた。 公爵家直属の隠密部隊、『影』たちだ。
「制圧せよ。手足の一本や二本は構わん」
クラウス様の冷徹な命令が下る。
「御意!」
影たちが疾風のように動いた。 ガキンッ! ズドォォン! 金属音が響き、男たちの悲鳴が上がる。
「な、なんだこいつら!? 速えッ!」 「ぐあぁぁっ!」
戦力差は歴然だった。 『黒蛇』のゴロツキたちは、喧嘩慣れはしていても、訓練された戦闘のプロではない。 対する『影』は、国境紛争や要人警護で鍛え上げられた精鋭中の精鋭だ。 一瞬にして攻守は逆転し、男たちは次々と地面にねじ伏せられていく。
「ひっ、ひいぃッ! ガストン! なんとかしろ!」
カミロが腰を抜かしそうになりながら後退る。
「うるせえ! こっちだって手一杯なんだよ! ……クソッ、相手が悪すぎる! ずらかるぞ!」
ガストンは形勢不利と見るや、部下を見捨てて逃亡を図った。 彼は煙幕玉を地面に叩きつけ、白い煙に紛れて森の奥へと走る。
「逃がすかよ」
煙の中から、低い声が聞こえた。 セバスチャンだ。 老執事は、燕尾服の裾を翻し、驚くべき跳躍力でガストンの頭上を飛び越えた。 そして、着地と同時に仕込み杖を振るう。
バシィッ!!
「ぐべぇッ!?」
杖の一撃がガストンの鳩尾に深々と突き刺さった。 巨漢のガストンが、まるで枯れ木のように吹き飛び、大木に激突して白目を剥いた。
「……当家の庭を荒らしておいて、タダで帰れるとお思いで?」
セバスチャンは乱れた手袋を直し、冷ややかに見下ろした。
「ば、化け物だ……こいつら全員、化け物だ……!」
残った男たちは戦意を喪失し、武器を捨てて降伏した。 あっという間の出来事だった。
「……さて」
クラウス様が、ゆっくりとカミロの方へ歩き出す。 カツ、カツ、と枯れ葉を踏む音が、死刑台へのカウントダウンのように響く。
「のこるゴミは、お前だけだな」
「く、来るな……! 僕は子爵家の跡取りだぞ! こんなことをして、ただで済むと……!」
カミロは錯乱状態で叫び、そして視線を走らせた。 その目が、地下室の入り口――壊された扉の方へ向く。
「そうだ……人質だ! ミラさえ捕まえれば!」
彼は血走った目で、地下室へと飛び込もうとした。
「させない!」
私は叫び、地面を蹴った。 ドレスの裾が邪魔だが、構っていられない。 泥にまみれることも厭わず、私はカミロの背中めがけてタックルした。
「ぐわっ!?」
不意を突かれたカミロが、無様に地面に転がる。 私も勢いで転倒したが、すぐに体勢を立て直し、彼の前に立ちはだかった。 背後には、ミラのいる地下室。 ここからは一歩も通さない。
「どけ! どけアリア! この役立たずが!」
カミロが顔を真っ赤にして立ち上がり、私に掴みかかろうとする。
「役立たず? ええ、そうね。貴方にとってはそうでしょうね」
私は冷静だった。 かつて、この男に怒鳴られるたびに震えていた自分はもういない。 今の私には、セバスチャンに叩き込まれた体術と、公爵の隣で培った度胸がある。
カミロが右腕を振り上げる。 遅い。 あくびが出るほど遅い。
私は半歩踏み込み、彼の手首を掴んだ。 そして、その力を利用して背負い投げの要領で回転し、彼の体を地面に叩きつけた。
ドォン!!
「がはっ……!?」
カミロは背中を強打し、肺の空気を吐き出して悶絶した。
「い、いつの間に……こんな……」
「貴方が酒と女とギャンブルに溺れている間に、私は血の滲むような努力をしていましたから」
私は懐から短剣を抜き、カミロの喉元に突きつけた。 切っ先が、彼の肌に触れるか触れないかの距離で止まる。
「ひっ……!」
「動かないで。手が滑って、その綺麗な喉を切り裂いてしまうかもしれません」
私の声は、自分でも驚くほど冷たかった。 殺意がないと言えば嘘になる。 この男は、ミラを――私の命よりも大事な妹を、汚い欲望の道具にしようとした。 その罪は、万死に値する。
「あ、アリア……落ち着け、話し合おう……」
カミロが涙目で懇願する。
「僕たちは婚約者だったじゃないか。愛し合っていただろう? 魔が差しただけなんだ。許してくれよ。な? 復縁してもいいぞ。僕が妻にしてやるから……」
「……」
呆れて言葉も出ないとはこのことだ。 この期に及んで、自分が選ぶ立場だと思っているのか。
「お断りします」
私は短剣を握る手に力を込めた。
「貴方のような腐った人間に、私の人生を一秒たりとも使うつもりはありません。……それに、愛し合っていた? 貴方が愛していたのは、私の実家の『伯爵』という肩書きだけでしょう?」
「そ、それは……」
「図星ね。……さようなら、カミロ。二度と私の視界に入らないで」
私が短剣を振り上げようとした、その時。
「待て、アリア」
背後から、氷のような声がかかった。 クラウス様だ。 彼は私の肩に手を置き、静かに制した。
「その男の血で、お前の手を汚す価値はない」
「……ですが、閣下」
「法で裁く。それが貴族のやり方だ。……もっとも、死ぬより辛い地獄を見ることになるだろうがな」
クラウス様は、ゴミを見るような目でカミロを見下ろした。
「カミロ・バンデラス。現行犯で逮捕する。容疑は公爵家関係者への襲撃、拉致未遂、違法組織との共謀、そして……脱税、横領、詐欺」
クラウス様が指を鳴らすと、『影』たちがカミロを取り囲み、乱暴に立たせて拘束した。
「ま、待ってください公爵閣下! 誤解です! 私は騙されたんです! 借金があって、仕方なく……!」
「借金?」
クラウス様は鼻で笑った。
「アリアが先日、お前の借金を肩代わりしたはずだが?」
「そ、それは……その金は、別の借金の返済に消えてしまって……」
「……救いようのない馬鹿だな」
クラウス様は呆れてため息をついた。
「連れて行け。鉱山送りにする。向こう三十年、太陽を拝めると思うな」
「いやだ! いやだぁぁぁ! 父上! 助けてくれぇぇぇ!」
カミロの情けない絶叫が遠ざかっていく。 かつて私を地獄へ突き落とした男の末路としては、あまりにあっけない幕切れだった。
私は短剣を鞘に納め、その場にへたり込んだ。 緊張の糸が切れ、全身の力が抜けていく。
「……終わった……」
ついに、終わったのだ。 父が残した負の遺産も、カミロという悪夢も。
「お姉ちゃん……?」
地下室の奥から、震える声が聞こえた。
私は弾かれたように顔を上げた。
「ミラ!」
私は壊された扉をこじ開け、暗闇の中へと駆け込んだ。 ランプの薄明かりの中、部屋の隅で毛布にくるまり、震えている小さな影があった。
「ミラ!」
「お姉ちゃんッ!!」
ミラが飛びついてきた。 私は彼女を強く、強く抱きしめた。 温かい。 生きている。 怪我もない。
「よかった……無事で……本当によかった……」
涙が溢れて止まらなかった。 公爵の前では気丈に振る舞っていたけれど、本当はずっと怖かった。 もし間に合わなかったら。 もし、この温もりが冷たくなっていたら。 そう思うだけで、心臓が押し潰されそうだった。
「怖かったよぉ……お姉ちゃん、怖かったよぉ……」
「ごめんね。遅くなってごめんね。もう大丈夫よ。怖い人はもういないわ」
私はミラの背中をさすり、何度もキスをした。 その髪からは、少しカビ臭い地下室の匂いがしたけれど、私にとっては世界で一番愛おしい匂いだった。
入り口の方で、足音がした。 振り返ると、クラウス様が立っていた。 彼は地下室の惨状――湿気た壁、粗末なベッド、わずかな食料――を見回し、痛ましげに眉をひそめた。
「……こんな場所に隠れていたのか」
「はい。ここしか、安全な場所がなかったので」
私は涙を拭い、ミラの手を引いて立ち上がった。
「ミラ、ご挨拶して。この方が、私を……私たちを助けてくださった、ラインハルト公爵閣下よ」
ミラは私の後ろに隠れながら、おずおずと顔を出した。
「……あ、ありがとう、ございます……」
蚊の鳴くような声だったが、クラウス様はその場にしゃがみ込み、目線をミラに合わせてくれた。
「ミラと言ったな。……怖い思いをさせた。私の管理不行き届きだ」
公爵である彼が、子供に頭を下げた。 私は驚いたが、それ以上に、彼の誠実さに胸を打たれた。
「姉上は、勇敢だったぞ。お前を守るために、私ですら躊躇うような無茶をした」
クラウス様は私の頭をポンと撫でた。
「さあ、帰ろう。こんなカビ臭い場所は、淑女の寝床にはふさわしくない」
「……帰るって、どこへ?」
ミラがキョトンとして尋ねる。
「決まっているだろう。私の屋敷だ」
クラウス様は立ち上がり、マントを翻した。
「今日からお前たち姉妹は、ラインハルト公爵家の保護下に入る。温かいスープと、ふかふかのベッドを用意させてある。文句はないな?」
「……はい!」
私は満面の笑みで答えた。 ミラも、状況がまだ飲み込めていないようだが、私の笑顔を見て安心したのか、小さく笑った。
私たちは手を取り合い、地下室を出た。 外の空気は冷たかったが、空には雲が切れ、満天の星空が広がっていた。 それは、私たちの新しい未来を祝福しているように輝いていた。
◇
公爵邸への帰路。 ミラは疲れ切って、馬車の中で私の膝を枕に眠ってしまった。 その寝顔を見つめながら、私はクラウス様に話しかけた。
「閣下。本当にありがとうございました」
「礼には及ばん。契約を守っただけだ」
クラウス様は窓の外を見ながら、ぶっきらぼうに答える。 素直じゃない。でも、そこが彼らしい。
「カミロの実家、バンデラス子爵家はどうなるのでしょうか」
「取り潰しだ。今回の件で余罪が山ほど出てきたからな。資産は没収、爵位は剥奪。一族郎党、路頭に迷うことになる」
「そうですか……」
同情はしなかった。 自業自得だ。
「それより、アリア。お前自身のことを考えろ」
「私のこと?」
「借金は消えた。妹の安全も確保された。……もう、あんなボロ屋敷に戻る必要はない」
クラウス様が私に向き直る。 その瞳が、真剣な光を帯びていた。
「改めて契約を結び直したい。……アリア・ベルンシュタイン。私の正式な秘書官として、これからも私の傍で働いてくれないか?」
それは、事実上のプロポーズ……のように聞こえなくもなかった。 心臓がトクンと跳ねる。 「一生こき使う」と言われた時とは違う、対等なパートナーとしての勧誘。
私は眠るミラの髪を撫で、それからクラウス様を真っ直ぐに見つめ返した。
「……条件があります」
「なんだ? 給料アップか? それとも休暇か?」
「いいえ。……ミラのことです」
私は深呼吸をして言った。
「ミラを、学校に通わせてください。貴族の子女が通う、王立学園へ。あの子には、私のように苦労させたくないんです。普通の女の子として、友達を作って、恋をして、幸せになってほしい」
学費は高い。没落貴族には手が出ない金額だ。 でも、公爵の力があれば。
「……フッ、そんなことか」
クラウス様は笑った。
「安い御用だ。王立学園の理事長は私の叔父だ。推薦状など何枚でも書いてやる。制服も教科書も、最高級のものを用意させよう」
「本当ですか!?」
「ああ。その代わり……お前は私のために、その有能な頭脳と度胸をフル活用してもらうぞ。これからの戦いは、カミロごときとは次元が違う」
「望むところです」
私はニヤリと笑った。
「私の命、私の能力、そして私の未来。すべて閣下に捧げます。……今度は、期限なしで」
「契約成立だな」
クラウス様が手を差し出し、私はその手を握り返した。 硬くて、大きくて、温かい手。 この手となら、どんな地獄でも歩いていけそうだ。
馬車は公爵邸の門をくぐる。 そこには、明るい光が灯っていた。 セバスチャンや使用人たちが、総出で出迎えてくれているのが見える。
「おかえりなさいませ、閣下。アリア様」
「ただいま戻りました、セバスチャン様」
私はミラを抱きかかえて馬車を降りた。 屋敷の光が眩しい。 ここが、私の新しい家。 そして、新しい戦場だ。
第2章『氷の薔薇の開花』――完。
◇
そして、物語は第3章へと進む。
平和な日常が戻った……と思いきや、公爵邸には新たな嵐が近づいていた。 それは、外敵ではない。 内部からの、そして社交界の嫉妬という名の嵐だ。
数日後の朝。 公爵邸の朝食の席で、ミラが目を輝かせて言った。
「お姉ちゃん! このパン、すっごく美味しい! 魔法みたい!」
「ふふ、よかったわねミラ。たくさんお食べ」
私が微笑んでいると、クラウス様が新聞を読みながら言った。
「……アリア。今日から客が一人増える」
「客、ですか?」
「ああ。私の遠縁の娘で、公爵家への輿入れを狙っている『自称・婚約者』だ」
「はい?」
私が聞き返すより早く、食堂の扉が開いた。
「クラウス様~! 会いたかったですわ~!」
甘ったるい声と共に飛び込んできたのは、フリルの塊のようなドレスを着た、可愛らしい――しかし目が全く笑っていない令嬢だった。
彼女は私と、私の隣でパンを食べているミラを見て、ピタリと止まった。
「……あら? 何かしら、この薄汚い平民たちは? 新しい使用人?」
その瞬間、私の頭の中でゴングが鳴った。
カミロを倒しても、安息の日々は遠いらしい。 今度の敵は、女の嫉妬とマウンティング。 ある意味、闇組織よりも厄介な敵の登場だ。
「……受けて立ちましょう」
私はナイフとフォークをカチャリと置き、優雅に微笑んだ。
「はじめまして。……どちらの田舎からいらしたのか存じませんが、ご挨拶もなしに食卓を荒らすのは、マナー違反ですわよ?」
火花が散る。 国一番の淑女への道は、まだまだ険しい。
カミロのヒステリックな絶叫が、夜の森に響き渡った。 彼は恐怖と怒りで正気を失っているようだった。公爵家の紋章を見てもなお、自分の罪を揉み消せると思っている愚か者。それが私の元婚約者だった。
「へっ、上等だ! 相手が貴族だろうが、森の中で死体になればただの肉塊だ!」
闇組織『黒蛇』のリーダー、ガストンがドスを抜き、部下たちに合図を送る。 十数人の男たちが、一斉に殺気を放って私たちに襲いかかってきた。 普通なら足がすくむ光景だ。 だが、私の隣にはこの国最強の男がいる。
「……五月蝿い羽虫どもだ」
クラウス様は、襲い来る凶刃を前にしても眉一つ動かさなかった。 ただ、静かに右手を掲げ、指を鳴らした。
パチンッ。
乾いた音が響いた瞬間、森の闇が揺らいだ。 木々の影、草むらの陰、ありとあらゆる場所から、黒装束の集団が湧き出るように現れた。 公爵家直属の隠密部隊、『影』たちだ。
「制圧せよ。手足の一本や二本は構わん」
クラウス様の冷徹な命令が下る。
「御意!」
影たちが疾風のように動いた。 ガキンッ! ズドォォン! 金属音が響き、男たちの悲鳴が上がる。
「な、なんだこいつら!? 速えッ!」 「ぐあぁぁっ!」
戦力差は歴然だった。 『黒蛇』のゴロツキたちは、喧嘩慣れはしていても、訓練された戦闘のプロではない。 対する『影』は、国境紛争や要人警護で鍛え上げられた精鋭中の精鋭だ。 一瞬にして攻守は逆転し、男たちは次々と地面にねじ伏せられていく。
「ひっ、ひいぃッ! ガストン! なんとかしろ!」
カミロが腰を抜かしそうになりながら後退る。
「うるせえ! こっちだって手一杯なんだよ! ……クソッ、相手が悪すぎる! ずらかるぞ!」
ガストンは形勢不利と見るや、部下を見捨てて逃亡を図った。 彼は煙幕玉を地面に叩きつけ、白い煙に紛れて森の奥へと走る。
「逃がすかよ」
煙の中から、低い声が聞こえた。 セバスチャンだ。 老執事は、燕尾服の裾を翻し、驚くべき跳躍力でガストンの頭上を飛び越えた。 そして、着地と同時に仕込み杖を振るう。
バシィッ!!
「ぐべぇッ!?」
杖の一撃がガストンの鳩尾に深々と突き刺さった。 巨漢のガストンが、まるで枯れ木のように吹き飛び、大木に激突して白目を剥いた。
「……当家の庭を荒らしておいて、タダで帰れるとお思いで?」
セバスチャンは乱れた手袋を直し、冷ややかに見下ろした。
「ば、化け物だ……こいつら全員、化け物だ……!」
残った男たちは戦意を喪失し、武器を捨てて降伏した。 あっという間の出来事だった。
「……さて」
クラウス様が、ゆっくりとカミロの方へ歩き出す。 カツ、カツ、と枯れ葉を踏む音が、死刑台へのカウントダウンのように響く。
「のこるゴミは、お前だけだな」
「く、来るな……! 僕は子爵家の跡取りだぞ! こんなことをして、ただで済むと……!」
カミロは錯乱状態で叫び、そして視線を走らせた。 その目が、地下室の入り口――壊された扉の方へ向く。
「そうだ……人質だ! ミラさえ捕まえれば!」
彼は血走った目で、地下室へと飛び込もうとした。
「させない!」
私は叫び、地面を蹴った。 ドレスの裾が邪魔だが、構っていられない。 泥にまみれることも厭わず、私はカミロの背中めがけてタックルした。
「ぐわっ!?」
不意を突かれたカミロが、無様に地面に転がる。 私も勢いで転倒したが、すぐに体勢を立て直し、彼の前に立ちはだかった。 背後には、ミラのいる地下室。 ここからは一歩も通さない。
「どけ! どけアリア! この役立たずが!」
カミロが顔を真っ赤にして立ち上がり、私に掴みかかろうとする。
「役立たず? ええ、そうね。貴方にとってはそうでしょうね」
私は冷静だった。 かつて、この男に怒鳴られるたびに震えていた自分はもういない。 今の私には、セバスチャンに叩き込まれた体術と、公爵の隣で培った度胸がある。
カミロが右腕を振り上げる。 遅い。 あくびが出るほど遅い。
私は半歩踏み込み、彼の手首を掴んだ。 そして、その力を利用して背負い投げの要領で回転し、彼の体を地面に叩きつけた。
ドォン!!
「がはっ……!?」
カミロは背中を強打し、肺の空気を吐き出して悶絶した。
「い、いつの間に……こんな……」
「貴方が酒と女とギャンブルに溺れている間に、私は血の滲むような努力をしていましたから」
私は懐から短剣を抜き、カミロの喉元に突きつけた。 切っ先が、彼の肌に触れるか触れないかの距離で止まる。
「ひっ……!」
「動かないで。手が滑って、その綺麗な喉を切り裂いてしまうかもしれません」
私の声は、自分でも驚くほど冷たかった。 殺意がないと言えば嘘になる。 この男は、ミラを――私の命よりも大事な妹を、汚い欲望の道具にしようとした。 その罪は、万死に値する。
「あ、アリア……落ち着け、話し合おう……」
カミロが涙目で懇願する。
「僕たちは婚約者だったじゃないか。愛し合っていただろう? 魔が差しただけなんだ。許してくれよ。な? 復縁してもいいぞ。僕が妻にしてやるから……」
「……」
呆れて言葉も出ないとはこのことだ。 この期に及んで、自分が選ぶ立場だと思っているのか。
「お断りします」
私は短剣を握る手に力を込めた。
「貴方のような腐った人間に、私の人生を一秒たりとも使うつもりはありません。……それに、愛し合っていた? 貴方が愛していたのは、私の実家の『伯爵』という肩書きだけでしょう?」
「そ、それは……」
「図星ね。……さようなら、カミロ。二度と私の視界に入らないで」
私が短剣を振り上げようとした、その時。
「待て、アリア」
背後から、氷のような声がかかった。 クラウス様だ。 彼は私の肩に手を置き、静かに制した。
「その男の血で、お前の手を汚す価値はない」
「……ですが、閣下」
「法で裁く。それが貴族のやり方だ。……もっとも、死ぬより辛い地獄を見ることになるだろうがな」
クラウス様は、ゴミを見るような目でカミロを見下ろした。
「カミロ・バンデラス。現行犯で逮捕する。容疑は公爵家関係者への襲撃、拉致未遂、違法組織との共謀、そして……脱税、横領、詐欺」
クラウス様が指を鳴らすと、『影』たちがカミロを取り囲み、乱暴に立たせて拘束した。
「ま、待ってください公爵閣下! 誤解です! 私は騙されたんです! 借金があって、仕方なく……!」
「借金?」
クラウス様は鼻で笑った。
「アリアが先日、お前の借金を肩代わりしたはずだが?」
「そ、それは……その金は、別の借金の返済に消えてしまって……」
「……救いようのない馬鹿だな」
クラウス様は呆れてため息をついた。
「連れて行け。鉱山送りにする。向こう三十年、太陽を拝めると思うな」
「いやだ! いやだぁぁぁ! 父上! 助けてくれぇぇぇ!」
カミロの情けない絶叫が遠ざかっていく。 かつて私を地獄へ突き落とした男の末路としては、あまりにあっけない幕切れだった。
私は短剣を鞘に納め、その場にへたり込んだ。 緊張の糸が切れ、全身の力が抜けていく。
「……終わった……」
ついに、終わったのだ。 父が残した負の遺産も、カミロという悪夢も。
「お姉ちゃん……?」
地下室の奥から、震える声が聞こえた。
私は弾かれたように顔を上げた。
「ミラ!」
私は壊された扉をこじ開け、暗闇の中へと駆け込んだ。 ランプの薄明かりの中、部屋の隅で毛布にくるまり、震えている小さな影があった。
「ミラ!」
「お姉ちゃんッ!!」
ミラが飛びついてきた。 私は彼女を強く、強く抱きしめた。 温かい。 生きている。 怪我もない。
「よかった……無事で……本当によかった……」
涙が溢れて止まらなかった。 公爵の前では気丈に振る舞っていたけれど、本当はずっと怖かった。 もし間に合わなかったら。 もし、この温もりが冷たくなっていたら。 そう思うだけで、心臓が押し潰されそうだった。
「怖かったよぉ……お姉ちゃん、怖かったよぉ……」
「ごめんね。遅くなってごめんね。もう大丈夫よ。怖い人はもういないわ」
私はミラの背中をさすり、何度もキスをした。 その髪からは、少しカビ臭い地下室の匂いがしたけれど、私にとっては世界で一番愛おしい匂いだった。
入り口の方で、足音がした。 振り返ると、クラウス様が立っていた。 彼は地下室の惨状――湿気た壁、粗末なベッド、わずかな食料――を見回し、痛ましげに眉をひそめた。
「……こんな場所に隠れていたのか」
「はい。ここしか、安全な場所がなかったので」
私は涙を拭い、ミラの手を引いて立ち上がった。
「ミラ、ご挨拶して。この方が、私を……私たちを助けてくださった、ラインハルト公爵閣下よ」
ミラは私の後ろに隠れながら、おずおずと顔を出した。
「……あ、ありがとう、ございます……」
蚊の鳴くような声だったが、クラウス様はその場にしゃがみ込み、目線をミラに合わせてくれた。
「ミラと言ったな。……怖い思いをさせた。私の管理不行き届きだ」
公爵である彼が、子供に頭を下げた。 私は驚いたが、それ以上に、彼の誠実さに胸を打たれた。
「姉上は、勇敢だったぞ。お前を守るために、私ですら躊躇うような無茶をした」
クラウス様は私の頭をポンと撫でた。
「さあ、帰ろう。こんなカビ臭い場所は、淑女の寝床にはふさわしくない」
「……帰るって、どこへ?」
ミラがキョトンとして尋ねる。
「決まっているだろう。私の屋敷だ」
クラウス様は立ち上がり、マントを翻した。
「今日からお前たち姉妹は、ラインハルト公爵家の保護下に入る。温かいスープと、ふかふかのベッドを用意させてある。文句はないな?」
「……はい!」
私は満面の笑みで答えた。 ミラも、状況がまだ飲み込めていないようだが、私の笑顔を見て安心したのか、小さく笑った。
私たちは手を取り合い、地下室を出た。 外の空気は冷たかったが、空には雲が切れ、満天の星空が広がっていた。 それは、私たちの新しい未来を祝福しているように輝いていた。
◇
公爵邸への帰路。 ミラは疲れ切って、馬車の中で私の膝を枕に眠ってしまった。 その寝顔を見つめながら、私はクラウス様に話しかけた。
「閣下。本当にありがとうございました」
「礼には及ばん。契約を守っただけだ」
クラウス様は窓の外を見ながら、ぶっきらぼうに答える。 素直じゃない。でも、そこが彼らしい。
「カミロの実家、バンデラス子爵家はどうなるのでしょうか」
「取り潰しだ。今回の件で余罪が山ほど出てきたからな。資産は没収、爵位は剥奪。一族郎党、路頭に迷うことになる」
「そうですか……」
同情はしなかった。 自業自得だ。
「それより、アリア。お前自身のことを考えろ」
「私のこと?」
「借金は消えた。妹の安全も確保された。……もう、あんなボロ屋敷に戻る必要はない」
クラウス様が私に向き直る。 その瞳が、真剣な光を帯びていた。
「改めて契約を結び直したい。……アリア・ベルンシュタイン。私の正式な秘書官として、これからも私の傍で働いてくれないか?」
それは、事実上のプロポーズ……のように聞こえなくもなかった。 心臓がトクンと跳ねる。 「一生こき使う」と言われた時とは違う、対等なパートナーとしての勧誘。
私は眠るミラの髪を撫で、それからクラウス様を真っ直ぐに見つめ返した。
「……条件があります」
「なんだ? 給料アップか? それとも休暇か?」
「いいえ。……ミラのことです」
私は深呼吸をして言った。
「ミラを、学校に通わせてください。貴族の子女が通う、王立学園へ。あの子には、私のように苦労させたくないんです。普通の女の子として、友達を作って、恋をして、幸せになってほしい」
学費は高い。没落貴族には手が出ない金額だ。 でも、公爵の力があれば。
「……フッ、そんなことか」
クラウス様は笑った。
「安い御用だ。王立学園の理事長は私の叔父だ。推薦状など何枚でも書いてやる。制服も教科書も、最高級のものを用意させよう」
「本当ですか!?」
「ああ。その代わり……お前は私のために、その有能な頭脳と度胸をフル活用してもらうぞ。これからの戦いは、カミロごときとは次元が違う」
「望むところです」
私はニヤリと笑った。
「私の命、私の能力、そして私の未来。すべて閣下に捧げます。……今度は、期限なしで」
「契約成立だな」
クラウス様が手を差し出し、私はその手を握り返した。 硬くて、大きくて、温かい手。 この手となら、どんな地獄でも歩いていけそうだ。
馬車は公爵邸の門をくぐる。 そこには、明るい光が灯っていた。 セバスチャンや使用人たちが、総出で出迎えてくれているのが見える。
「おかえりなさいませ、閣下。アリア様」
「ただいま戻りました、セバスチャン様」
私はミラを抱きかかえて馬車を降りた。 屋敷の光が眩しい。 ここが、私の新しい家。 そして、新しい戦場だ。
第2章『氷の薔薇の開花』――完。
◇
そして、物語は第3章へと進む。
平和な日常が戻った……と思いきや、公爵邸には新たな嵐が近づいていた。 それは、外敵ではない。 内部からの、そして社交界の嫉妬という名の嵐だ。
数日後の朝。 公爵邸の朝食の席で、ミラが目を輝かせて言った。
「お姉ちゃん! このパン、すっごく美味しい! 魔法みたい!」
「ふふ、よかったわねミラ。たくさんお食べ」
私が微笑んでいると、クラウス様が新聞を読みながら言った。
「……アリア。今日から客が一人増える」
「客、ですか?」
「ああ。私の遠縁の娘で、公爵家への輿入れを狙っている『自称・婚約者』だ」
「はい?」
私が聞き返すより早く、食堂の扉が開いた。
「クラウス様~! 会いたかったですわ~!」
甘ったるい声と共に飛び込んできたのは、フリルの塊のようなドレスを着た、可愛らしい――しかし目が全く笑っていない令嬢だった。
彼女は私と、私の隣でパンを食べているミラを見て、ピタリと止まった。
「……あら? 何かしら、この薄汚い平民たちは? 新しい使用人?」
その瞬間、私の頭の中でゴングが鳴った。
カミロを倒しても、安息の日々は遠いらしい。 今度の敵は、女の嫉妬とマウンティング。 ある意味、闇組織よりも厄介な敵の登場だ。
「……受けて立ちましょう」
私はナイフとフォークをカチャリと置き、優雅に微笑んだ。
「はじめまして。……どちらの田舎からいらしたのか存じませんが、ご挨拶もなしに食卓を荒らすのは、マナー違反ですわよ?」
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