18 / 20
第18話:処刑台の決闘――真実の暴露
しおりを挟む
「執行せよ!!」
ギリアード宰相の怒号が、夕暮れの広場に響き渡りました。 処刑人が巨大な斧を振り上げます。 その刃が夕日を受けて鈍く光り、エリザベート王女殿下の白く細い首へと振り下ろされようとした、その刹那。
ヒュンッ!!
空気を切り裂く鋭い音と共に、一本の氷の槍が飛来しました。 それは正確に処刑人の手元を直撃し、斧を弾き飛ばしました。
ガキィィン!!
重い斧が石畳に転がり、火花を散らします。 処刑人は腕を押さえてうずくまりました。
「な、何事だ!?」
ギリアード宰相がバルコニーから身を乗り出します。 広場を埋め尽くしていた数万の民衆が、一斉に息を呑み、そして振り返りました。
大通りの向こうから、一騎の馬が疾風のごとく駆けてきます。 馬上の二人は、泥と煤にまみれてはいましたが、その瞳は王宮のどんな宝石よりも強く輝いていました。
「待たせたな、お転婆姫!」
クラウス様が手綱を引き、馬をいななかせました。 前足を高く上げた馬は、そのまま処刑台へと続く階段を一気に駆け上がりました。
「ク、クラウス!? それにアリアか!?」
縛られたままのエリザベート殿下が、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げました。
「遅いぞ! もう少しであの世行きじゃったわ! この馬鹿者どもめ!」
「馬鹿とはひどいですね、殿下。……地獄の山を越えて、死に物狂いで迎えに来たというのに」
私はクラウス様の背後から飛び降り、殿下の縄を短剣で切り裂きました。
「無事ですか、エリザベート」
私が抱きとめると、殿下は私の胸に顔を埋めて号泣しました。
「怖かった……っ、怖かったのじゃぁ……!」
「もう大丈夫です。……主役は遅れて登場するものですから」
私は殿下の背中を優しく叩き、そしてゆっくりと立ち上がりました。 視線の先には、バルコニーで顔面を蒼白にしているギリアード宰相がいます。
「き、貴様ら……! 生きていたのか!」
宰相の声が裏返ります。
「残念でしたね、宰相閣下。地獄の鬼たちも、私たちを持て余して追い返したようですわ」
私はドレスの裾を払い、凛と胸を張りました。 広場の民衆たちがざわめき始めます。
「おい、あれは……ラインハルト公爵か?」 「隣にいるのは、『国一番の淑女』アリア様だ!」 「反逆者じゃなかったのか? どうして王女様を助けたんだ?」
混乱する民衆。 ギリアード宰相は、この空気が変わるのを恐れ、スピーカー代わりの拡声魔道具を使って叫びました。
「民よ、騙されるな! 奴らは国王陛下を暗殺した大罪人だ! 処刑を妨害し、国家転覆を企む悪魔だ! 近衛兵、であえ! 奴らを八つ裂きにせよ!」
宰相の命令で、広場の周囲に配置されていた数百の兵士たちが、槍を構えて処刑台を取り囲みました。 彼らの目は虚ろで、まるで人形のようです。 『黒蛇』の薬物で操られているのです。
「アリア、殿下を守れ。……雑魚は私が引き受ける」
クラウス様が剣を抜き、前に進み出ました。 その背中から、圧倒的な冷気が噴き出します。
「私の領地を焼き、妻と妹を泣かせた罪……その体で払ってもらうぞ」
「殺せぇぇぇ!!」
兵士たちが一斉に襲いかかります。 しかし、クラウス様は一歩も動きません。
「氷結領域(ニブルヘイム)・解放」
彼が剣を大地に突き立てた瞬間、処刑台を中心に青白い波紋が広がりました。 波紋に触れた兵士たちの足が、次々と氷漬けになっていきます。
「うわぁぁっ!?」 「足が! 動かん!」
一瞬にして、数十人が氷の彫像と化しました。 民衆から悲鳴と歓声が上がります。
「化け物め……! だが、多勢に無勢だ! 弓兵、構え!」
ギリアード宰相が次の手を打ちます。 周囲の建物の屋上から、無数の弓兵が私たちに狙いを定めました。
「まずい……アリア、伏せろ!」
クラウス様が叫びますが、全方位からの射撃を防ぎきることは不可能です。
その時でした。
「させねえよ!!」
ドォォォン!!
屋上の一つが爆発しました。 黒煙と共に現れたのは、隻眼の男――情報屋のジャックと、彼が率いる裏社会の荒くれ者たちでした。
「へっ、借りっ放しは性に合わなくてな! 助太刀するぜ、嬢ちゃん!」
「ジャック!?」
「こっちもいるぞ!」
別の屋上からは、北方の民――ヴォルフガング将軍率いる精鋭部隊が、ロープを使って降下してきました。 彼らは本隊より先に、早馬で駆けつけてくれていたのです。
「若様! 遅くなり申した!」
「ヴォルフガング! よく来た!」
戦場は混戦状態となりました。 クラウス様と味方が敵を引きつけている間に、私はある「準備」を進めました。
私は処刑台の中央に設置されていた、宰相が演説に使っていた拡声魔道具へと歩み寄りました。
「アリア、何をする気じゃ?」
エリザベート殿下が問います。
「『演説』ですわ、殿下。……武器では、兵士は倒せても、民衆の心までは動かせません。この戦いを終わらせるには、真実を白日の下に晒す必要があります」
私は魔道具のスイッチを入れました。 キーン、というハウリング音が広場に響き、喧騒が一瞬止みました。
「王都の皆様。聞こえますか?」
私の声が、広場全体、いいえ、王都中に響き渡りました。 人々が顔を上げ、私を見つめます。
「私はアリア・ベルンシュタイン。ラインハルト公爵の秘書官であり、婚約者です」
私は深呼吸をし、言葉を紡ぎました。
「ギリアード宰相は言いました。私たちが国王陛下を殺したと。……ですが、それは真っ赤な嘘です!」
「黙れ小娘! スイッチを切れ! 誰かあいつを止めろ!」
ギリアード宰相が狼狽して叫びますが、クラウス様が氷壁を作って誰も近づけさせません。
「アリア、続けろ!」
「はい!」
私は懐から、あの『黒革の帳簿』を取り出し、高々と掲げました。
「これが証拠です! 王宮の禁書庫から持ち出した、宰相の裏帳簿! ここには、彼が十年間にわたって行ってきた横領、不正、そして……ガリア帝国への資金援助の記録が記されています!」
「な、なんだと……?」 「帝国へ?」 民衆がざわめきます。
「三年前の飢饉を覚えていますか? 救済金が出たはずなのに、なぜ私たちは飢えたのか。……その金はすべて、宰相が着服し、帝国の武器商人へと流れていたのです!」
私は具体的な数字と日付を読み上げました。 それは、民衆が実際に体験した苦しみと一致する事実でした。
「嘘だ! でっち上げだ!」
宰相が手すりを叩いて叫びます。
「証拠ならまだあります!」
私は畳み掛けました。
「この広場の地下を見てください! 処刑台の下には、大量の『爆薬』が仕掛けられています!」
「なっ!?」
「宰相は、この処刑が終わった後、広場ごと爆破して民衆を虐殺し、それを『公爵の残党の仕業』に見せかけて、帝国軍を引き入れるつもりでした!」
これはハッタリではありません。 『影の書庫』の知識と、今朝潜入させた密偵からの報告で掴んだ情報です。
「ば、馬鹿な……なぜそれを……」
宰相の顔色が土気色に変わりました。 図星だったのです。 その反応を見て、民衆の疑念は確信へと変わりました。
「おい、本当なのかよ……」 「俺たちを殺そうとしてたのか?」 「ふざけるな! 人殺し宰相!」
民衆の怒りが爆発しました。 石礫が宰相のバルコニーへと投げ込まれます。 「殺せ!」「降りてこい!」という怒号が地鳴りのように響きます。
形勢は逆転しました。 ギリアード宰相は、もはや国の指導者ではなく、国民の敵となったのです。
「おのれ……おのれぇぇぇッ!!」
追い詰められた宰相は、狂気の形相で叫びました。
「ええい、ままよ! こうなれば道連れだ! 全員死ねぇッ!」
宰相は懐から起爆スイッチのようなものを取り出しました。 地下の爆薬を起爆させるつもりです。
「させんッ!」
クラウス様が動こうとしましたが、距離があります。 間に合わない――!
その時。 シュッ! という風切り音と共に、銀色の閃光が走りました。
「ぐあっ!?」
宰相の手首に、一本の短剣が突き刺さりました。 スイッチが手から滑り落ち、バルコニーの床に転がります。
「……私の獲物を、勝手に爆破しないでいただけますか?」
声の方を振り向くと、処刑台の陰から、包帯だらけの老執事が現れました。 セバスチャンです!
「セバスチャン様! 動けるのですか!?」
「アリア様のおかげで。……主人の晴れ舞台に遅刻するなど、執事の恥ですからな」
彼はニヤリと笑い、もう一本のナイフを構えました。
「き、貴様ら……!」
ギリアード宰相は血の吹き出る手首を押さえ、よろめきながら後退しました。 しかし、その背後にはすでに逃げ道はありませんでした。
バルコニーの扉が蹴破られ、エリザベート殿下の親衛隊(王女派の騎士たち)が突入してきたのです。
「ギリアード! 年貢の納め時じゃ!」
エリザベート殿下が処刑台の上から叫びました。
「国王殺し、国家反逆、そして殺人未遂の罪で拘束する! ……大人しくお縄につけ!」
「ひっ、ひぃぃ……!」
宰相はへたり込み、無様に命乞いを始めました。
「ま、待ってください殿下! 私は魔が差しただけで……そうだ! すべては帝国に脅されてやったことで……私は被害者なのです!」
「見苦しいぞ、古狸」
クラウス様が、氷の階段を作り出し、ゆっくりとバルコニーへと上がっていきました。 その足音は、死神の足音のように重く、冷たいものでした。
「アリアの父を殺し、私の家を焼き、この国を売った罪。……その薄汚い命一つで償えると思うなよ」
「ヒッ、公爵……! 助けてくれ! 金ならやる! 地位もやる! だから……!」
「いらん」
クラウス様は剣を一閃させました。 刃は宰相の首を刎ね――る寸前で止まりました。
「殺しはせん。……死ぬより辛い、一生続く『氷の牢獄』で、己の罪を悔い改めろ」
クラウス様が宰相の体に手を触れると、パキパキという音と共に、宰相の体が首から下まで完全に氷漬けにされました。 意識はあるまま、指一本動かせない状態。 永遠の拘束です。
「連れて行け。……二度と日の光を見せるな」
騎士たちが氷像となった宰相を引きずっていきました。 広場からは、割れんばかりの歓声が上がりました。
「ラインハルト公爵万歳!」 「アリア様万歳!」 「王女殿下万歳!」
歓喜の渦の中、クラウス様はバルコニーから私を見下ろし、優しく手を差し伸べました。 私は氷の階段を駆け上がり、彼の手を取りました。
「終わりましたね、クラウス様」
「ああ。……長かったな」
私たちは抱き合いました。 泥だらけの服も、汗の匂いも気になりませんでした。 ただ、互いの鼓動と体温だけが、私たちが生き残り、勝利したことを実感させてくれました。
「おい、イチャイチャするな! 民衆が見ておるぞ!」
エリザベート殿下が顔を真っ赤にして叫びましたが、私たちは無視してキスを交わしました。 民衆の歓声がさらに大きくなり、王都の夜空に花火が上がりました。 それは、新しい時代の幕開けを告げる祝砲でした。
◇
事件から一週間後。
王都は落ち着きを取り戻しつつありました。 ギリアード派の貴族たちは一掃され、エリザベート殿下が摂政として国を立て直す新体制が発足しました。 幼い王子が即位するまでの間、彼女が実質的な女王として君臨することになったのです。
そして、公爵邸の再建も始まりました。 燃え落ちた屋敷の跡地には、多くの市民がボランティアとして集まり、瓦礫の撤去を手伝ってくれました。 「アリア様のためなら!」と、かつて私が助けた人々や、市場のおばちゃんたちが笑顔で働いてくれています。
仮住まいの別邸にて。
「お姉ちゃん! 見て見て、新しい制服!」
ミラがくるりと回って見せてくれました。 学校も再開され、彼女は元気に通っています。
「可愛いわよ、ミラ。……友達はできた?」
「うん! みんな、お姉ちゃんのことを『救国の聖女様』だって言うの。私、鼻が高いよ!」
「聖女だなんて、大げさね」
私は苦笑いしました。 私はただ、自分の大事なものを守るために、爪を立てて戦っただけの「悪女」ですから。
「アリア」
執務室に呼ばれた私は、新しい机に向かうクラウス様と向き合いました。 彼は山積みの書類(戦後処理のもの)と格闘していましたが、私を見ると手を止めました。
「話がある」
「はい、なんでしょうか」
「今回の功績により、王家から莫大な報奨金が出た。……これで屋敷は元通り、いや、以前より豪華に再建できるだろう」
「それは良かったです。セバスチャン様も喜びますわ」
「それと……私の爵位も上がった。『大公』だそうだ」
「まあ。……出世ですね」
「他人事みたいに言うな。お前も『大公妃』になるんだぞ」
クラウス様は立ち上がり、私の前に来ました。 そして、ポケットから小さな箱を取り出しました。
「あの日、燃えてしまった指輪の代わりだ」
パカッ、と開かれた箱の中には、見たこともないほど巨大なブルーダイヤモンドの指輪が輝いていました。 『王家の涙』と呼ばれる、国宝級の宝石です。
「ちょ、ちょっと待ってください! こんな高価なもの……!」
「受け取れ。……これでも、お前の価値には釣り合わん」
クラウス様は強引に私の左手を取り、薬指に指輪をはめました。 サイズはぴったりでした。
「アリア。……改めて言う」
彼は私の目を見つめ、真剣な表情で言いました。
「愛している。……これからの人生、どんな困難があろうと、お前だけを守り、お前だけと共に歩むと誓う」
「……クラウス様」
涙が溢れました。 嬉し涙です。
「はい。……私も、貴方を愛しています。世界中の誰よりも」
私たちはキスをしました。 それは、戦場での激しいものではなく、穏やかで、甘く、深い口づけでした。
窓の外では、春の陽光が降り注ぎ、庭の花々が咲き誇っています。 長い冬が終わり、私たちの人生に、本当の春が訪れたのです。
◇
……と、ここで物語が終わればハッピーエンドなのですが。 人生とは、そう簡単にはいかないようです。
「大変ですわ、アリア様!」
部屋に飛び込んできたのは、侍女のエミリーでした。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「お、お客様です! それも……とんでもない方々が!」
「とんでもない方々?」
私が首を傾げていると、廊下からドタドタという足音と、大声が聞こえてきました。
「どこだ! 私の可愛いアリアはどこだ!」 「お義兄様! アリアに会わせてください!」
現れたのは、見知らぬ壮年の男性と、美少年。 彼らは私を見るなり、目を輝かせて駆け寄ってきました。
「おお、アリア! 生きていたか! 父だぞ! 感動の再会だ!」
「姉さん! 僕だよ、弟のレオだよ!」
「……は?」
私は思考が停止しました。 父? 弟? 私の父は死んだはずだし、弟なんていた記憶はありません。
「な、何を仰っているのですか? 人違いでは……」
「人違いなものか! その顔、死んだ母さんにそっくりだ!」
自称・父は私を抱きしめようとしました。 クラウス様がすかさず割って入り、彼を氷の壁でブロックしました。
「……誰だ、貴様らは。私の妻に気安く触れるな」
「む! 君が噂の氷の公爵か! 私はガリア帝国の皇帝、アレクサンデルだ!」
「皇帝!?」
私たち全員が叫びました。
「そしてこっちは、皇太子のレオナルド。……実はな、アリア。君の母親は、わが国から亡命した元皇女だったのだよ!」
「はぁぁぁぁ!?」
爆弾発言。 母が帝国の皇女? ということは、私は……帝国の皇女の娘?
「というわけで、アリア。帝国へ帰ろう! 君には皇位継承権があるのだ!」
「姉さん! 一緒に帰って、僕を助けてよ!」
新しい嵐の予感です。 国内の敵を倒したと思ったら、今度は隣国の皇帝一家(しかも実の親戚?)が襲来。
「……アリア」
クラウス様がこめかみを押さえながら、私を見ました。
「お前の人生は、どうしてこうも退屈しないんだ」
「……分かりません。私のせいではないと思いますけど!」
私は叫びました。 幸せな新婚生活は、まだ少しお預けのようです。 でも、きっと大丈夫。 私には最強の旦那様と、可愛い妹、そして頼れる仲間たちがいるのですから。
「望むところですわ! ……皇帝だろうが何だろうが、まとめて相手して差し上げます!」
私はドレスの裾を翻し、新たな戦場へと足を踏み出しました。 私の名前はアリア。 国一番の淑女にして、氷の大公妃。 私の物語は、まだまだ終わりそうにありません。
ギリアード宰相の怒号が、夕暮れの広場に響き渡りました。 処刑人が巨大な斧を振り上げます。 その刃が夕日を受けて鈍く光り、エリザベート王女殿下の白く細い首へと振り下ろされようとした、その刹那。
ヒュンッ!!
空気を切り裂く鋭い音と共に、一本の氷の槍が飛来しました。 それは正確に処刑人の手元を直撃し、斧を弾き飛ばしました。
ガキィィン!!
重い斧が石畳に転がり、火花を散らします。 処刑人は腕を押さえてうずくまりました。
「な、何事だ!?」
ギリアード宰相がバルコニーから身を乗り出します。 広場を埋め尽くしていた数万の民衆が、一斉に息を呑み、そして振り返りました。
大通りの向こうから、一騎の馬が疾風のごとく駆けてきます。 馬上の二人は、泥と煤にまみれてはいましたが、その瞳は王宮のどんな宝石よりも強く輝いていました。
「待たせたな、お転婆姫!」
クラウス様が手綱を引き、馬をいななかせました。 前足を高く上げた馬は、そのまま処刑台へと続く階段を一気に駆け上がりました。
「ク、クラウス!? それにアリアか!?」
縛られたままのエリザベート殿下が、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げました。
「遅いぞ! もう少しであの世行きじゃったわ! この馬鹿者どもめ!」
「馬鹿とはひどいですね、殿下。……地獄の山を越えて、死に物狂いで迎えに来たというのに」
私はクラウス様の背後から飛び降り、殿下の縄を短剣で切り裂きました。
「無事ですか、エリザベート」
私が抱きとめると、殿下は私の胸に顔を埋めて号泣しました。
「怖かった……っ、怖かったのじゃぁ……!」
「もう大丈夫です。……主役は遅れて登場するものですから」
私は殿下の背中を優しく叩き、そしてゆっくりと立ち上がりました。 視線の先には、バルコニーで顔面を蒼白にしているギリアード宰相がいます。
「き、貴様ら……! 生きていたのか!」
宰相の声が裏返ります。
「残念でしたね、宰相閣下。地獄の鬼たちも、私たちを持て余して追い返したようですわ」
私はドレスの裾を払い、凛と胸を張りました。 広場の民衆たちがざわめき始めます。
「おい、あれは……ラインハルト公爵か?」 「隣にいるのは、『国一番の淑女』アリア様だ!」 「反逆者じゃなかったのか? どうして王女様を助けたんだ?」
混乱する民衆。 ギリアード宰相は、この空気が変わるのを恐れ、スピーカー代わりの拡声魔道具を使って叫びました。
「民よ、騙されるな! 奴らは国王陛下を暗殺した大罪人だ! 処刑を妨害し、国家転覆を企む悪魔だ! 近衛兵、であえ! 奴らを八つ裂きにせよ!」
宰相の命令で、広場の周囲に配置されていた数百の兵士たちが、槍を構えて処刑台を取り囲みました。 彼らの目は虚ろで、まるで人形のようです。 『黒蛇』の薬物で操られているのです。
「アリア、殿下を守れ。……雑魚は私が引き受ける」
クラウス様が剣を抜き、前に進み出ました。 その背中から、圧倒的な冷気が噴き出します。
「私の領地を焼き、妻と妹を泣かせた罪……その体で払ってもらうぞ」
「殺せぇぇぇ!!」
兵士たちが一斉に襲いかかります。 しかし、クラウス様は一歩も動きません。
「氷結領域(ニブルヘイム)・解放」
彼が剣を大地に突き立てた瞬間、処刑台を中心に青白い波紋が広がりました。 波紋に触れた兵士たちの足が、次々と氷漬けになっていきます。
「うわぁぁっ!?」 「足が! 動かん!」
一瞬にして、数十人が氷の彫像と化しました。 民衆から悲鳴と歓声が上がります。
「化け物め……! だが、多勢に無勢だ! 弓兵、構え!」
ギリアード宰相が次の手を打ちます。 周囲の建物の屋上から、無数の弓兵が私たちに狙いを定めました。
「まずい……アリア、伏せろ!」
クラウス様が叫びますが、全方位からの射撃を防ぎきることは不可能です。
その時でした。
「させねえよ!!」
ドォォォン!!
屋上の一つが爆発しました。 黒煙と共に現れたのは、隻眼の男――情報屋のジャックと、彼が率いる裏社会の荒くれ者たちでした。
「へっ、借りっ放しは性に合わなくてな! 助太刀するぜ、嬢ちゃん!」
「ジャック!?」
「こっちもいるぞ!」
別の屋上からは、北方の民――ヴォルフガング将軍率いる精鋭部隊が、ロープを使って降下してきました。 彼らは本隊より先に、早馬で駆けつけてくれていたのです。
「若様! 遅くなり申した!」
「ヴォルフガング! よく来た!」
戦場は混戦状態となりました。 クラウス様と味方が敵を引きつけている間に、私はある「準備」を進めました。
私は処刑台の中央に設置されていた、宰相が演説に使っていた拡声魔道具へと歩み寄りました。
「アリア、何をする気じゃ?」
エリザベート殿下が問います。
「『演説』ですわ、殿下。……武器では、兵士は倒せても、民衆の心までは動かせません。この戦いを終わらせるには、真実を白日の下に晒す必要があります」
私は魔道具のスイッチを入れました。 キーン、というハウリング音が広場に響き、喧騒が一瞬止みました。
「王都の皆様。聞こえますか?」
私の声が、広場全体、いいえ、王都中に響き渡りました。 人々が顔を上げ、私を見つめます。
「私はアリア・ベルンシュタイン。ラインハルト公爵の秘書官であり、婚約者です」
私は深呼吸をし、言葉を紡ぎました。
「ギリアード宰相は言いました。私たちが国王陛下を殺したと。……ですが、それは真っ赤な嘘です!」
「黙れ小娘! スイッチを切れ! 誰かあいつを止めろ!」
ギリアード宰相が狼狽して叫びますが、クラウス様が氷壁を作って誰も近づけさせません。
「アリア、続けろ!」
「はい!」
私は懐から、あの『黒革の帳簿』を取り出し、高々と掲げました。
「これが証拠です! 王宮の禁書庫から持ち出した、宰相の裏帳簿! ここには、彼が十年間にわたって行ってきた横領、不正、そして……ガリア帝国への資金援助の記録が記されています!」
「な、なんだと……?」 「帝国へ?」 民衆がざわめきます。
「三年前の飢饉を覚えていますか? 救済金が出たはずなのに、なぜ私たちは飢えたのか。……その金はすべて、宰相が着服し、帝国の武器商人へと流れていたのです!」
私は具体的な数字と日付を読み上げました。 それは、民衆が実際に体験した苦しみと一致する事実でした。
「嘘だ! でっち上げだ!」
宰相が手すりを叩いて叫びます。
「証拠ならまだあります!」
私は畳み掛けました。
「この広場の地下を見てください! 処刑台の下には、大量の『爆薬』が仕掛けられています!」
「なっ!?」
「宰相は、この処刑が終わった後、広場ごと爆破して民衆を虐殺し、それを『公爵の残党の仕業』に見せかけて、帝国軍を引き入れるつもりでした!」
これはハッタリではありません。 『影の書庫』の知識と、今朝潜入させた密偵からの報告で掴んだ情報です。
「ば、馬鹿な……なぜそれを……」
宰相の顔色が土気色に変わりました。 図星だったのです。 その反応を見て、民衆の疑念は確信へと変わりました。
「おい、本当なのかよ……」 「俺たちを殺そうとしてたのか?」 「ふざけるな! 人殺し宰相!」
民衆の怒りが爆発しました。 石礫が宰相のバルコニーへと投げ込まれます。 「殺せ!」「降りてこい!」という怒号が地鳴りのように響きます。
形勢は逆転しました。 ギリアード宰相は、もはや国の指導者ではなく、国民の敵となったのです。
「おのれ……おのれぇぇぇッ!!」
追い詰められた宰相は、狂気の形相で叫びました。
「ええい、ままよ! こうなれば道連れだ! 全員死ねぇッ!」
宰相は懐から起爆スイッチのようなものを取り出しました。 地下の爆薬を起爆させるつもりです。
「させんッ!」
クラウス様が動こうとしましたが、距離があります。 間に合わない――!
その時。 シュッ! という風切り音と共に、銀色の閃光が走りました。
「ぐあっ!?」
宰相の手首に、一本の短剣が突き刺さりました。 スイッチが手から滑り落ち、バルコニーの床に転がります。
「……私の獲物を、勝手に爆破しないでいただけますか?」
声の方を振り向くと、処刑台の陰から、包帯だらけの老執事が現れました。 セバスチャンです!
「セバスチャン様! 動けるのですか!?」
「アリア様のおかげで。……主人の晴れ舞台に遅刻するなど、執事の恥ですからな」
彼はニヤリと笑い、もう一本のナイフを構えました。
「き、貴様ら……!」
ギリアード宰相は血の吹き出る手首を押さえ、よろめきながら後退しました。 しかし、その背後にはすでに逃げ道はありませんでした。
バルコニーの扉が蹴破られ、エリザベート殿下の親衛隊(王女派の騎士たち)が突入してきたのです。
「ギリアード! 年貢の納め時じゃ!」
エリザベート殿下が処刑台の上から叫びました。
「国王殺し、国家反逆、そして殺人未遂の罪で拘束する! ……大人しくお縄につけ!」
「ひっ、ひぃぃ……!」
宰相はへたり込み、無様に命乞いを始めました。
「ま、待ってください殿下! 私は魔が差しただけで……そうだ! すべては帝国に脅されてやったことで……私は被害者なのです!」
「見苦しいぞ、古狸」
クラウス様が、氷の階段を作り出し、ゆっくりとバルコニーへと上がっていきました。 その足音は、死神の足音のように重く、冷たいものでした。
「アリアの父を殺し、私の家を焼き、この国を売った罪。……その薄汚い命一つで償えると思うなよ」
「ヒッ、公爵……! 助けてくれ! 金ならやる! 地位もやる! だから……!」
「いらん」
クラウス様は剣を一閃させました。 刃は宰相の首を刎ね――る寸前で止まりました。
「殺しはせん。……死ぬより辛い、一生続く『氷の牢獄』で、己の罪を悔い改めろ」
クラウス様が宰相の体に手を触れると、パキパキという音と共に、宰相の体が首から下まで完全に氷漬けにされました。 意識はあるまま、指一本動かせない状態。 永遠の拘束です。
「連れて行け。……二度と日の光を見せるな」
騎士たちが氷像となった宰相を引きずっていきました。 広場からは、割れんばかりの歓声が上がりました。
「ラインハルト公爵万歳!」 「アリア様万歳!」 「王女殿下万歳!」
歓喜の渦の中、クラウス様はバルコニーから私を見下ろし、優しく手を差し伸べました。 私は氷の階段を駆け上がり、彼の手を取りました。
「終わりましたね、クラウス様」
「ああ。……長かったな」
私たちは抱き合いました。 泥だらけの服も、汗の匂いも気になりませんでした。 ただ、互いの鼓動と体温だけが、私たちが生き残り、勝利したことを実感させてくれました。
「おい、イチャイチャするな! 民衆が見ておるぞ!」
エリザベート殿下が顔を真っ赤にして叫びましたが、私たちは無視してキスを交わしました。 民衆の歓声がさらに大きくなり、王都の夜空に花火が上がりました。 それは、新しい時代の幕開けを告げる祝砲でした。
◇
事件から一週間後。
王都は落ち着きを取り戻しつつありました。 ギリアード派の貴族たちは一掃され、エリザベート殿下が摂政として国を立て直す新体制が発足しました。 幼い王子が即位するまでの間、彼女が実質的な女王として君臨することになったのです。
そして、公爵邸の再建も始まりました。 燃え落ちた屋敷の跡地には、多くの市民がボランティアとして集まり、瓦礫の撤去を手伝ってくれました。 「アリア様のためなら!」と、かつて私が助けた人々や、市場のおばちゃんたちが笑顔で働いてくれています。
仮住まいの別邸にて。
「お姉ちゃん! 見て見て、新しい制服!」
ミラがくるりと回って見せてくれました。 学校も再開され、彼女は元気に通っています。
「可愛いわよ、ミラ。……友達はできた?」
「うん! みんな、お姉ちゃんのことを『救国の聖女様』だって言うの。私、鼻が高いよ!」
「聖女だなんて、大げさね」
私は苦笑いしました。 私はただ、自分の大事なものを守るために、爪を立てて戦っただけの「悪女」ですから。
「アリア」
執務室に呼ばれた私は、新しい机に向かうクラウス様と向き合いました。 彼は山積みの書類(戦後処理のもの)と格闘していましたが、私を見ると手を止めました。
「話がある」
「はい、なんでしょうか」
「今回の功績により、王家から莫大な報奨金が出た。……これで屋敷は元通り、いや、以前より豪華に再建できるだろう」
「それは良かったです。セバスチャン様も喜びますわ」
「それと……私の爵位も上がった。『大公』だそうだ」
「まあ。……出世ですね」
「他人事みたいに言うな。お前も『大公妃』になるんだぞ」
クラウス様は立ち上がり、私の前に来ました。 そして、ポケットから小さな箱を取り出しました。
「あの日、燃えてしまった指輪の代わりだ」
パカッ、と開かれた箱の中には、見たこともないほど巨大なブルーダイヤモンドの指輪が輝いていました。 『王家の涙』と呼ばれる、国宝級の宝石です。
「ちょ、ちょっと待ってください! こんな高価なもの……!」
「受け取れ。……これでも、お前の価値には釣り合わん」
クラウス様は強引に私の左手を取り、薬指に指輪をはめました。 サイズはぴったりでした。
「アリア。……改めて言う」
彼は私の目を見つめ、真剣な表情で言いました。
「愛している。……これからの人生、どんな困難があろうと、お前だけを守り、お前だけと共に歩むと誓う」
「……クラウス様」
涙が溢れました。 嬉し涙です。
「はい。……私も、貴方を愛しています。世界中の誰よりも」
私たちはキスをしました。 それは、戦場での激しいものではなく、穏やかで、甘く、深い口づけでした。
窓の外では、春の陽光が降り注ぎ、庭の花々が咲き誇っています。 長い冬が終わり、私たちの人生に、本当の春が訪れたのです。
◇
……と、ここで物語が終わればハッピーエンドなのですが。 人生とは、そう簡単にはいかないようです。
「大変ですわ、アリア様!」
部屋に飛び込んできたのは、侍女のエミリーでした。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「お、お客様です! それも……とんでもない方々が!」
「とんでもない方々?」
私が首を傾げていると、廊下からドタドタという足音と、大声が聞こえてきました。
「どこだ! 私の可愛いアリアはどこだ!」 「お義兄様! アリアに会わせてください!」
現れたのは、見知らぬ壮年の男性と、美少年。 彼らは私を見るなり、目を輝かせて駆け寄ってきました。
「おお、アリア! 生きていたか! 父だぞ! 感動の再会だ!」
「姉さん! 僕だよ、弟のレオだよ!」
「……は?」
私は思考が停止しました。 父? 弟? 私の父は死んだはずだし、弟なんていた記憶はありません。
「な、何を仰っているのですか? 人違いでは……」
「人違いなものか! その顔、死んだ母さんにそっくりだ!」
自称・父は私を抱きしめようとしました。 クラウス様がすかさず割って入り、彼を氷の壁でブロックしました。
「……誰だ、貴様らは。私の妻に気安く触れるな」
「む! 君が噂の氷の公爵か! 私はガリア帝国の皇帝、アレクサンデルだ!」
「皇帝!?」
私たち全員が叫びました。
「そしてこっちは、皇太子のレオナルド。……実はな、アリア。君の母親は、わが国から亡命した元皇女だったのだよ!」
「はぁぁぁぁ!?」
爆弾発言。 母が帝国の皇女? ということは、私は……帝国の皇女の娘?
「というわけで、アリア。帝国へ帰ろう! 君には皇位継承権があるのだ!」
「姉さん! 一緒に帰って、僕を助けてよ!」
新しい嵐の予感です。 国内の敵を倒したと思ったら、今度は隣国の皇帝一家(しかも実の親戚?)が襲来。
「……アリア」
クラウス様がこめかみを押さえながら、私を見ました。
「お前の人生は、どうしてこうも退屈しないんだ」
「……分かりません。私のせいではないと思いますけど!」
私は叫びました。 幸せな新婚生活は、まだ少しお預けのようです。 でも、きっと大丈夫。 私には最強の旦那様と、可愛い妹、そして頼れる仲間たちがいるのですから。
「望むところですわ! ……皇帝だろうが何だろうが、まとめて相手して差し上げます!」
私はドレスの裾を翻し、新たな戦場へと足を踏み出しました。 私の名前はアリア。 国一番の淑女にして、氷の大公妃。 私の物語は、まだまだ終わりそうにありません。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる