『「女は黙って従え」と婚約破棄されたので、実家の軍隊を率いて王都を包囲しますわ』

放浪人

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第三章:獅子の覚醒

第21話 女神の演説

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追討軍を殲滅した我々は、ついに故郷、ローゼンベルク領へと凱旋した。領都の城門が見えてきた時、私は我が目を疑った。城門から続く道が、領民たちで黒山の人だかりのように埋め尽くされていたのだ。

彼らはどこで聞きつけたのか、私たちの勝利と帰還を知りこうして出迎えてくれているのだ。その数、数千……いや、一万は下らないだろう。

私たちが姿を現すと、地鳴りのような大歓声が天を衝いた。

「おおおっ!ヴィクトリア様だ!」 「お帰りなさいませ、我らが姫君!」 「ローゼンベルク、万歳!ヴィクトリア様、万歳!」

彼らは手に手に花を持ち、涙を流しながら私たちの名を叫んでいる。その熱狂ぶりは王都の民が国王を迎える時の比ではなかった。これは心からの、魂からの叫びだ。

私は馬上からその光景を呆然と見つめていた。泥と血にまみれたみすぼらしい姿の私に、彼らは英雄を迎えるかのような熱狂的な歓迎を送ってくれている。

「……すごいな」

隣を馬で進む父が、感嘆の声を漏らした。

「私がこれまでのどんな戦で勝利を収めて帰還した時よりも、凄まじい熱気だ。……皆、お前を待っていたのだな、ヴィクトリア」

父の言葉に、私の胸は熱いもので満たされた。ああ、私はこの人々のために戦うのだ。この笑顔を、この熱狂を守るために。その想いが改めて、私の覚悟を固めてくれた。

居城にたどり着き身を清めてから、私は父と共に城の最も高い場所にあるバルコニーへと向かった。眼下には城の前の広場を埋め尽くした無数の領民たちが、私と父の登場を今か今かと待ちわびている。

「……父上。私が話をします」

「うむ。お前の言葉で民に、我々の覚悟を伝えよ」

父に背中を押され、私は一歩前へ出た。私の姿がバルコニーに現れると、再び割れんばかりの大歓声が巻き起こる。私は静かに、その喧騒が収まるのを待った。

やがて広場に静寂が訪れる。全ての民が固唾を飲んで、私の一言を待っていた。私は大きく息を吸い込み、そして語りかけた。私の、愛すべき民たちに。

「私の愛する、ローゼンベルクの民よ!」

私の声は魔力を帯びたかのように、広場の隅々にまで、そして民一人一人の心にまっすぐに届いた。

「私は帰ってきました!あの偽りと腐敗に満ちた王都から、この私たちの故郷へ!」

民衆から賛同の雄叫びが上がる。

「私は王都で、この国の嘆かわしい真実を見てきました!国王は老い、宰相リヒターと第一王子アルフォンスは己の欲望のためだけに国を私物化しています!彼らは我々辺境の民から重税を取り立て、その金で贅沢な暮らしを送り、夜毎馬鹿騒ぎを繰り返しているのです!」

「許せん!」 「我々の血税を!」

民衆の怒りが渦を巻いていく。

「それだけではありません!彼らは代々この国の東の守りを固め、平和を維持してきた我がローゼンベルク家の力を恐れ、その牙を抜こうと画策しました!彼らは私との婚約を利用し、我々を王都の言いなりの無力な犬にしようとしたのです!」

私は王都で受けた個人的な屈辱も包み隠さず語った。王子に公の場で「女は黙って従え」と罵られたことも、ローゼンベルクの誇りを土足で踏みにじられたことも。

民衆はまるで自分のことのように憤り、涙を流し、拳を握りしめている。

「私は耐えられなかった!私個人の屈辱ならばいくらでも耐えましょう。しかし私の愛する故郷が、そしてここにいるあなたたち、私の家族が侮辱されることは、断じて許せなかった!」

私は両腕を大きく広げ、天を仰いで叫んだ。

「だから私は決別しました!腐敗した王家と、その犬たちに反旗を翻すことを決意したのです!」

一瞬の静寂。そして次の瞬間、今までで最も巨大な地響きのような歓声が、ローゼンベルクの空を揺るがした。

「そうだ!よくぞ決断してくださった!」 「我々はヴィクトリア様と共に戦う!」 「ローゼンベルクに栄光あれ!」

民衆の熱気は最高潮に達していた。彼らの瞳にもはや迷いや不安はない。あるのは私と共にこの正義の戦いを戦い抜くという、揺るぎない覚悟だけだ。

私は最後に彼らに、未来を約束した。

「この戦いは厳しいものになるでしょう。多くの血が流れるかもしれません。しかし私は誓います!必ずやこの戦いに勝利し、腐敗した王都を浄化し、我々民が真に平和で豊かに暮らせる新しい時代を、この手で築き上げてみせると!」

私は腰の銀薔薇の剣を抜き放ち、高々と掲げた。

「私についてきなさい!獅子と薔薇の旗の下に、我々の、我々による、我々のための国を創るのです!」

「ヴィクトリア!ヴィクトリア!ヴィクトリア!」

もはや彼らは私のことを「姫」とも「様」とも呼ばなかった。ただ私の名を繰り返し叫び続けている。それは彼らが私を君主としてではなく、共に戦う希望の象-徴として認めた証だった。

彼らの目には、私はもはやただの公爵令嬢ではない。この腐敗した世界を救うために現れた救世主。そう、『女神』として映っているのだ。

この日、この瞬間。ローゼンベルクは完全に一つになった。私の演説は、民衆の心を完全に掌握したのだ。

これから始まる革命の炎は、もはや誰にも消すことはできない。このローゼンベルクの地から、王国全土を焼き尽くすほどの巨大な炎となって燃え上がっていくのだから。
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