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第11話:公爵様の独占欲と、初めての贈り物
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王国からの手紙を、カイが「アリアの意志である」として、丁重に、しかし断固として突っぱねてから、数日後。
私の体調もすっかり回復し、再びカイとの魔力制御訓練が再開された。
以前と何も変わらない、執務室での訓練風景。
……のはず、なのだけれど。
私たちの間の空気は、明らかに、前とは違っていた。
「アリア」
「はい、カイ」
「……いや、なんでもない」
カイが、時々、意味もなく私の名前を呼ぶようになったのだ。
婚約者でも恋人でもないのに、いつの間にか、お互いを名前で呼び合うのが自然になっていた。
そして、私が返事をすると、彼は満足そうに、ほんの少しだけ微笑む。
まるで、私がここにいることを、確かめるかのように。
それに、彼の過保護と独占欲が、日に日に、エスカレートしている気がする。
「アリア、少し寒いか? これを羽織れ」
「アリア、喉が渇いただろう。俺の分の果実水も飲め」
「アリア、その本は高い場所にあるな。俺が取ろう」
私が他の男性使用人と、ほんの少し、業務連絡で話しているだけで、背後から氷点下のオーラを放ってくる。
その度に、使用人たちは青ざめて逃げていくし、私は気まずくて仕方がない。
(これは……どういう状況なのかしら……)
鈍い私でも、さすがに気づき始めていた。
カイが私に向ける感情が、単なる「便利な部下」へのものではないということに。
そして、その過剰なまでの執着を、私が、心のどこかで喜んでいることにも。
そんなある日の午後。
訓練を終えて自室に戻ると、部屋に見慣れない、大きな箱が置かれていた。
美しい装飾が施された、高級そうな箱。
「……? これは、何かしら」
恐る恐る箱を開けてみると、中には――息を呑むほど美しい、一着のドレスが入っていた。
夜空を思わせる、深い、深い、青色のシルク生地。
胸元には、星屑のように繊細な銀糸の刺繍と、光を浴びてキラキラと輝く、小さなダイヤモンドが、無数に散りばめられている。
それは、カイの瞳の色を、そのまま写し取ったかのような、美しいドレスだった。
「……綺麗……」
思わず、ため息が漏れる。
こんな素敵なドレス、一体誰が?
ドレスに添えられていたカードには、カイの、少し硬質で、けれど力強い筆跡で、こう書かれていた。
『――明日の夜会で着ろ』
「……夜会?」
そういえば、明日は年に一度、このヴォルフガング領で最も大きな夜会が、この城で開かれる日だった。
領内の有力貴族たちが、一堂に会する、重要な社交の場。
でも、まさか、私まで参加するなんて。
コンコン、とドアがノックされ、カイが部屋に入ってきた。
「ドレスは、届いたか」
「か、カイ! これは、いったい……」
「お前への贈り物だ。気に入ったか?」
彼は、どこか期待するような、子供のような眼差しで私を見つめている。
「気に入ったか、ですって……? こ、こんな高価なもの、いただけませんわ!」
「なぜだ。お前は、俺の専属鑑定士だろう。それに、森の一件の、報酬でもある。これくらいの対価は当然だ」
そういう問題ではない。
これは、ただの報酬なんかじゃない。もっと、個人的で、特別な意味が込められている気がして、素直に受け取れなかった。
「ですが、私は、王都を追放された身です。そのような華やかな場に、私のような者が出ていってもよろしいのでしょうか。カイの、ご迷惑になってしまいますわ……」
「誰が迷惑だと言った」
私の言葉を遮り、カイは強い口調で言った。
「お前は、俺の客だ。誰にも文句は言わせん。……それに」
彼は一歩、私に近づくと、私の髪に、そっと触れた。
その指先が、耳たぶを掠めて、心臓が跳ねる。
「……そのドレスを着たお前を、見てみたい」
耳元で、囁かれた言葉。
その声は、いつもより低く、甘く、熱っぽく、私の理性を、根こそぎ溶かしていく。
「……っ」
もう、だめだ。
この人には、絶対に、敵わない。
私の顔は、きっと茹でダコみたいに真っ赤になっているだろう。
「……ありがとう、ございます。大切に、着させていただきます」
かろうじて、それだけ言うのが精一杯だった。
私の返事を聞いて、カイは満足そうに、ほんの少しだけ口元を緩めた。
あの、雪解けのような、稀少な微笑み。
「ああ。……きっと、似合う」
そう言って、彼は私の部屋から出て行った。
一人残された部屋で、私はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。
手の中には、美しい夜空色のドレス。
胸の中には、カイへの、もう名前のつけようがない、甘くて苦しい感情。
(これは、もう……)
認めるしかない。
私は、この不器用で、独占欲が強くて、でも、誰よりも優しい氷の公爵様に、どうしようもなく、惹かれているのだと。
明日の夜会。
何かが起こる、そんな予感がした。
良いことも、そして、おそらくは……悪いことも。
それでも、少しだけ、楽しみだと思ってしまう自分に、私は、もう気づかないふりはできなかった。
私の体調もすっかり回復し、再びカイとの魔力制御訓練が再開された。
以前と何も変わらない、執務室での訓練風景。
……のはず、なのだけれど。
私たちの間の空気は、明らかに、前とは違っていた。
「アリア」
「はい、カイ」
「……いや、なんでもない」
カイが、時々、意味もなく私の名前を呼ぶようになったのだ。
婚約者でも恋人でもないのに、いつの間にか、お互いを名前で呼び合うのが自然になっていた。
そして、私が返事をすると、彼は満足そうに、ほんの少しだけ微笑む。
まるで、私がここにいることを、確かめるかのように。
それに、彼の過保護と独占欲が、日に日に、エスカレートしている気がする。
「アリア、少し寒いか? これを羽織れ」
「アリア、喉が渇いただろう。俺の分の果実水も飲め」
「アリア、その本は高い場所にあるな。俺が取ろう」
私が他の男性使用人と、ほんの少し、業務連絡で話しているだけで、背後から氷点下のオーラを放ってくる。
その度に、使用人たちは青ざめて逃げていくし、私は気まずくて仕方がない。
(これは……どういう状況なのかしら……)
鈍い私でも、さすがに気づき始めていた。
カイが私に向ける感情が、単なる「便利な部下」へのものではないということに。
そして、その過剰なまでの執着を、私が、心のどこかで喜んでいることにも。
そんなある日の午後。
訓練を終えて自室に戻ると、部屋に見慣れない、大きな箱が置かれていた。
美しい装飾が施された、高級そうな箱。
「……? これは、何かしら」
恐る恐る箱を開けてみると、中には――息を呑むほど美しい、一着のドレスが入っていた。
夜空を思わせる、深い、深い、青色のシルク生地。
胸元には、星屑のように繊細な銀糸の刺繍と、光を浴びてキラキラと輝く、小さなダイヤモンドが、無数に散りばめられている。
それは、カイの瞳の色を、そのまま写し取ったかのような、美しいドレスだった。
「……綺麗……」
思わず、ため息が漏れる。
こんな素敵なドレス、一体誰が?
ドレスに添えられていたカードには、カイの、少し硬質で、けれど力強い筆跡で、こう書かれていた。
『――明日の夜会で着ろ』
「……夜会?」
そういえば、明日は年に一度、このヴォルフガング領で最も大きな夜会が、この城で開かれる日だった。
領内の有力貴族たちが、一堂に会する、重要な社交の場。
でも、まさか、私まで参加するなんて。
コンコン、とドアがノックされ、カイが部屋に入ってきた。
「ドレスは、届いたか」
「か、カイ! これは、いったい……」
「お前への贈り物だ。気に入ったか?」
彼は、どこか期待するような、子供のような眼差しで私を見つめている。
「気に入ったか、ですって……? こ、こんな高価なもの、いただけませんわ!」
「なぜだ。お前は、俺の専属鑑定士だろう。それに、森の一件の、報酬でもある。これくらいの対価は当然だ」
そういう問題ではない。
これは、ただの報酬なんかじゃない。もっと、個人的で、特別な意味が込められている気がして、素直に受け取れなかった。
「ですが、私は、王都を追放された身です。そのような華やかな場に、私のような者が出ていってもよろしいのでしょうか。カイの、ご迷惑になってしまいますわ……」
「誰が迷惑だと言った」
私の言葉を遮り、カイは強い口調で言った。
「お前は、俺の客だ。誰にも文句は言わせん。……それに」
彼は一歩、私に近づくと、私の髪に、そっと触れた。
その指先が、耳たぶを掠めて、心臓が跳ねる。
「……そのドレスを着たお前を、見てみたい」
耳元で、囁かれた言葉。
その声は、いつもより低く、甘く、熱っぽく、私の理性を、根こそぎ溶かしていく。
「……っ」
もう、だめだ。
この人には、絶対に、敵わない。
私の顔は、きっと茹でダコみたいに真っ赤になっているだろう。
「……ありがとう、ございます。大切に、着させていただきます」
かろうじて、それだけ言うのが精一杯だった。
私の返事を聞いて、カイは満足そうに、ほんの少しだけ口元を緩めた。
あの、雪解けのような、稀少な微笑み。
「ああ。……きっと、似合う」
そう言って、彼は私の部屋から出て行った。
一人残された部屋で、私はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。
手の中には、美しい夜空色のドレス。
胸の中には、カイへの、もう名前のつけようがない、甘くて苦しい感情。
(これは、もう……)
認めるしかない。
私は、この不器用で、独占欲が強くて、でも、誰よりも優しい氷の公爵様に、どうしようもなく、惹かれているのだと。
明日の夜会。
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