追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人

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第三幕:過去の影、新たな運命の鍛造

第20話:転換点/対決と啓示

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アラリック王子とイゾルデが王都へ送還されてからしばらく経ち、グレイロック城には平穏な日々が戻っていた。しかし、私の心の中には、まだ解決されていない一つのわだかまりが残っていた。それは、父ヴァレリウス公爵のことだ。彼は、イゾルデの悪行を知りながら、なぜ私を見捨てたのか。その理由を知りたかった。

そんな折、王都から父が私に会いに来るという知らせが届いた。驚いたが、同時に、これが彼と直接話す最後の機会かもしれないと思った。

数日後、ヴァレリウス公爵はグレイロック城に到着した。以前よりも少しやつれたように見える父の顔には、深い苦悩の色が浮かんでいた。

「セラフィナ……息災であったか」

彼の声はか細く、かつての威厳は感じられなかった。

「……お父様。わざわざこのような辺境まで、何のご用でございましょうか」

私は、努めて冷静に尋ねた。彼に対して、どのような感情を抱けばいいのか、自分でも分からなかった。

「……お前に、謝罪に来たのだ」

父の言葉に、私は耳を疑った。あの厳格で、決して自分の非を認めようとしなかった父が、謝罪だと?

「私は……イゾルデとエラーラの言葉を鵜呑みにし、お前を疑い、そして見捨ててしまった。父親失格だ。本当に、すまなかった……」

父は深々と頭を下げた。その姿は、あまりにも痛々しく、私の心は揺れた。

「……なぜ、今になってそのようなことを仰るのですか? 私が悪役令嬢として断罪された時、お父様は何も仰らなかったではありませんか」

「……言い訳になるかもしれんが、あの時は、ヴァレリウス家の体面を守ることで頭がいっぱいだったのだ。そして、イゾルデの巧妙な嘘に、私もエラーラも完全に騙されていた。だが、今回の事件で、ようやく目が覚めたのだ。あの子は……イゾルデは、悪魔のような娘だった」

父の言葉には、深い後悔と絶望が滲んでいた。彼は、イゾルデの本性を見抜けなかった自分を、そして私を守れなかった自分を、心の底から恥じているようだった。

「……お父様のお気持ちは分かりました。ですが、私が受けた傷は、そう簡単には癒えませんわ」

「……分かっている。お前に許しを請う資格などないことも。だが、これだけは信じてほしい。私は、心の底から後悔しているのだ」

父の目には、涙が浮かんでいた。その姿を見て、私の心の中にあった怒りや憎しみが、少しずつ溶けていくのを感じた。彼もまた、イゾルデの被害者だったのかもしれない。

「……もう、よろしいのです、お父様。過去のことは、水に流しましょう。私は、ここで新しい人生を見つけましたから」

私の言葉に、父は驚いたように顔を上げた。

「セラフィナ……お前は……」

「私は、カシアン様と共に、このグレイウォールで生きていきます。王都にも、ヴァレリウス家にも、もう未練はございません」

私は、はっきりと自分の意志を伝えた。それは、父との決別を意味すると同時に、私自身の過去との決別でもあった。

父は、しばらく黙って私を見つめていたが、やがて、力なく頷いた。

「……そうか。お前が、そう決めたのなら、俺は何も言うまい。ただ、幸せになるのだぞ、セラフィナ」

「はい、お父様も、お元気で」

それが、私たち親子の最後の会話だった。父は、翌日、寂しそうにグレイロック城を後にした。

彼の訪問は、私にとって一つの転換点となった。過去のしがらみを断ち切り、未来へ向かって力強く歩き出すための。私はもう、不遇な悪役令嬢ではない。カシアン・グレイウォールの妻、セラフィナとして、新たな人生を切り開いていくのだ。

その決意を胸に、私はカシアン様の元へと向かった。彼に、全てを話そう。そして、改めて、彼と共に生きる誓いを立てよう。私たちの未来は、ここから始まるのだから。
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