偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第1話:偽聖女の烙印

「君は——偽物の聖女だ」

厳粛な空気が満ちる玉座の間に、アルフォンス王太子の冷酷な声が、氷の刃のように突き刺さった。

その一言が、私のささやかな人生の全てを、容赦なく、そしてあっけなく終わらせた。

私の名前はリリアーナ。
ほんの数分前まで、この国の聖女として、ささやかながらも敬意を払われていた……はずだった。

「リリアーナ! お前がこれまで行ってきたという奇跡……植物をわずかに成長させるなど、聖女様の御業と呼ぶにはあまりに矮小! 我々の目は節穴ではなかったぞ!」

金糸銀糸の刺繍が施された、目に痛いほど豪奢な衣装に身を包んだ王太子が、まるで道端の汚物でも見るかのような、侮蔑に満ちた目で私を蔑む。

彼の隣には、勝ち誇った笑みを浮かべる一人の女性。
燃えるような真紅の髪に、宝石のエメラルドを嵌め込んだかのような翠の瞳。
絶世の美女と名高い伯爵令嬢、イザベラ様。

彼女こそが、本物の聖女。

イザベラ様が優雅に手をかざせば、瀕死の重傷者さえも眩い黄金の光に包まれ、瞬く間に傷が癒えていく。
その神々しい光景は、まさに奇跡。誰もが彼女を称え、ひれ伏した。

それに比べて、私の力は……。
教会の片隅に咲く、名もなき花を、少しだけ長く咲かせる。
本当に、ただ、それだけ。

「も、申し訳ございません……。ですが、私は、嘘など……一度も……」

か細く震える声で、最後の抵抗を試みる。
けれど、私の言葉に耳を貸す者など、この場には誰一人としていなかった。

かつては「聖女様、いつもありがとうございます」と柔らかな笑みを向けてくれた貴族たちも、今は氷のように冷たい侮蔑の視線を、私に突き刺すだけ。
まるで、汚らわしい何かを見るように。
彼らの心変わりは、あまりにも早く、そして残酷だった。

「黙れ、偽物めが!」

王太子が、吐き捨てるように怒鳴った。
その声に、私の身体はびくりと震え上がる。心臓が、冷たい手で鷲掴みにされたかのようだった。

「イザベラこそが、我らが待ち望んだ真の聖女! お前のような紛い物を、これ以上王宮に置いておくわけにはいかぬ!」
「よって、リリアーナを聖女の位から解任し、***即刻、王都より追放処分とする!***」

「そ、そんな……」

追放。

その二文字が、頭の中で何度も何度も木霊する。
天涯孤独の身である私にとって、この国から追い出されることは、死ねと言われるのと、何ら変わりはなかった。
血の気が、さあっと引いていく。

衛兵に乱暴に両腕を掴まれ、まるで罪人のように、引きずられていく。
最後に見た玉座の間。
王太子の隣で、イザベラの美しい唇が、歪んだ三日月の形を描いていたのを、私は見逃さなかった。
あの笑みは、悪魔のそれだった。

着ていた聖女の簡素な法衣さえも剥ぎ取られ、与えられたのは、みすぼらしい旅支度と、スラムの物乞いにくれてやるような、わずかばかりの銀貨だけ。
私が住んでいた聖女の離宮は、もうイザベラ様のものになっているらしい。
追い立てられるように王宮の門をくぐり、当てもなく王都の雑踏を歩く。

(どこへ行けばいいの……? 私には、もう、なにも……)

ぽつり、ぽつり。
冷たい雨が降り始めた。
私の心を映すかのように、空はどこまでも暗く、重く、淀んでいく。

みすぼらしい格好の私を、道行く人々が訝しげに見ては、舌打ちをして避けていく。
同情してくれる人など、どこにもいない。
もう、おしまいだ。
全て、終わってしまったんだ。

絶望が、冷たい雨と一緒に、骨の髄まで染み込んでくる。
人通りのない、ゴミの悪臭が漂う路地裏に座り込み、汚れるのも構わずに膝を抱えた。
涙さえ、もう出なかった。
心というものが、身体から抜け落ちてしまったかのようだった。

その、時だった。

「——見つけた」

低く、けれど芯のある、美しい声が、私の頭上から降ってきた。
ゆっくりと顔を上げる。

そこに、一人の男性が立っていた。

夜の闇を溶かして仕立てたような、艶やかな黒髪。
凍てつく冬の湖を思わせる、深く、澄んだ蒼い瞳。
寸分の隙もなく仕立てられた漆黒の軍服は、彼がただ者ではないことを雄弁に物語っている。
雨に濡れているはずなのに、その姿は少しも崩れていなかった。

その顔には、見覚えがあった。
確か、年に数えるほどしか王宮の謁見に姿を見せない、北の辺境を治める公爵様。
人を寄せ付けないその絶対零度の雰囲気から、人々が畏怖を込めて『氷の公爵』と揶揄する、あの……。

アレクシス・フォン・ヴァインベルク公爵様。

なぜ、こんな薄汚い路地裏に?
彼ほどの高貴な方が、偽物の烙印を押され、追放されたばかりの私に、何の用があるというのだろう。

「……君が、リリアーナか?」

彼の蒼い瞳が、私を射抜くように見つめる。
その視線には、王宮にいた者たちのような、侮蔑も同情も含まれていない。
ただ、何かを確かめるような、真剣な色だけが宿っていた。

「……は、い」

かろうじて、そう答えるのが精一杯だった。

彼は私の返事を聞くと、ふっと短く息を吐き、無表情のまま、有無を言わさぬ口調で告げた。

「我が領地へ来てもらう」

「……え?」

意味が、分からなかった。聞き間違いだろうか。
彼の領地は、呪われた不毛の地だと聞いている。草木一本生えない、死の大地だと。
そんな場所に、私を? 一体、なぜ?

「拒否権はない。これは決定事項だ」

それは、命令だった。
私の返事を待つことなく、彼は音もなく屈むと、まるで羽毛でも持ち上げるかのように、軽々と私を腕に抱き上げた。

「きゃっ……!」

突然の浮遊感に、思わず彼の首にしがみついてしまう。
硬い軍服越しに、彼の鍛えられた分厚い胸板の感触が伝わってきて、止まっていたはずの心臓が、大きく、大きく、跳ね上がった。

「大人しくしていろ。馬車はすぐに用意させてある」

そう言って歩き出す彼の腕の中は、不思議と安心感があった。
『氷の公爵』と噂される人なのに、その腕は、驚くほどに温かい。
冷たい雨から私を守るように、彼の外套が、優しく私を包んでいた。

路地の向こうに、豪奢な公爵家の紋章が入った、黒塗りの大きな馬車が停まっているのが見えた。

(どうして、この人が私を……? 偽物の私に、何の価値が……?)

訳が分からないまま、私は氷の公爵様の腕に抱かれ、夜の闇へと連れ去られていく。

それは、絶望の終わりなのか。
それとも、新たな絶望の始まりなのか。

今の私には、知る由もなかった。
ただ、彼の腕の温かさだけが、妙に現実味を帯びていた。
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