偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第5話:触れられない温もりと、夜の秘密

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私が手掛けた中庭は、日を追うごとに、その彩りを取り戻していった。
黒い墓標のようだった薔薇の木は、見事な大輪の花を咲かせ、甘い香りを漂わせるようになった。
地面を覆うように、様々な種類の花々が咲き乱れ、蝶や蜂がどこからともなく集まってくる。

それは、この死んだ土地に生まれた、本当に小さな、奇跡の楽園だった。

その変化は、城に住む人々の心にも、確かな光を灯し始めていた。
いつも暗く俯きがちだった使用人たちも、今ではすっかり私に心を開いてくれていた。
彼らは休憩時間になると中庭にやってきて、花を眺めながら談笑するようになったのだ。
沈みきっていた城に、少しずつ、本当に少しずつ、明るい笑い声が戻ってきた。

「リリアーナ様のおかげだわ」
「本当に、女神様みたい……。この城に、春が来たようだ」

そんな彼らの言葉は少し恥ずかしいけれど、素直に嬉しかった。
私のちっぽけな力が、誰かの笑顔に繋がっている。
その事実が、私にさらなる勇気を与えてくれた。

そして、アレクシス様。
彼は相変わらず無口で無表情だったけれど、その態度は、誰の目にも明らかなほど軟化していた。
食事も、時々、私の部屋ではなく、城の大きなダイニングルームで一緒に取るようになったのだ。

広すぎるテーブルで、向かい合って座る食卓は、まだ少し緊張する。
でも、彼が美しい花々で満たされた中庭に視線を向け、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、口元を緩める瞬間を見るのが、私の密かな楽しみになっていた。

「このスープ、とても美味しいです。野菜の味が濃くて」

ある日の夕食、私がそう言うと、彼は「そうか」と短く答えた。
でも、その声は以前よりもずっと優しく、温かく響く。

「庭で採れたカモミールを使っている。君が、育てたものだ」

「まあ……!」

知らなかった。
私の育てたハーブが、こうして彼の口に入っている。
その事実が、たまらなく嬉しくて、胸がキュンと甘く高鳴った。

食事が終わった後、彼が珍しく私を呼び止めた。

「リリアーナ」

「はい、公爵様」

「……その、庭のこと、感謝している」

不器用な、彼なりの精一杯の感謝の言葉。
その一言を口にするのに、彼がどれだけ葛藤したのかが伝わってきて、愛おしさが込み上げてくる。
私はぶんぶんと首を横に振った。

「とんでもないです! 私が好きでやっていることですから! それに、公爵様が許可してくださったおかげです」

私が太陽のような笑顔で言うと、彼はまた、何かを言いたそうに口を開きかけて……やめてしまった。
そして、いつものように、ふいっと顔を背けてしまう。

(まただ……)

彼が私に何かを伝えようとして、寸前でやめてしまうのは、もう何度目だろう。
その度に、彼の瞳には、深い、深い葛藤の色が浮かぶのだ。
その理由を、私はまだ知らない。

その夜、私はどうにも寝付けず、喉の渇きを覚えて部屋を出た。
キッチンで水を一杯飲んで、自分の部屋に戻ろうとした時だった。

ふと、廊下の先にある公爵様の寝室の扉が、わずかに、本当にわずかに開いていることに気づいた。
そして、そこから聞こえてきたのは……。

——っ……ぐ、ぅ……うぅっ……!

苦しげな、押し殺したような呻き声だった。

心臓が、嫌な音を立てて、どくんと跳ねる。
まさか、急な病気……!? それとも、昼間の無理が祟ったとか……!?

心配で、不安で、気づけば私は、吸い寄せられるように、その扉の前に立っていた。
マナー違反だと分かっていながらも、そっと、隙間から中を覗き込む。

そこで私が見たのは、信じられない、あまりにも壮絶な光景だった。

月明かりだけが差し込む、薄暗い部屋の中。
アレクシス様が、大きなベッドの上で蹲り、身を捩っていた。

その身体から、禍々しいほどの***冷気***が、オーラのように立ち上っているのが、扉の隙間からでもはっきりと分かる。
まるで、絶対零度の氷の塊に、内側から身体を苛まれているかのように、彼の全身は激しく、激しく震えていた。

「公爵、様……?」

これが、この土地を蝕む***呪い***の正体……?
彼は、毎晩、毎晩、こんな地獄のような苦しみに、たった一人で耐えているというの……?

助けなきゃ。
助けなきゃ、彼を。

その一心で、私は部屋に駆け込もうとした。
しかし、その瞬間。

「***来るなッ!***」

切り裂くような、悲痛な声が、私の動きを止めた。

アレクシス様が、苦悶に歪んだ顔で、私を睨みつけていた。
その蒼い瞳は、普段の冷静さなど微塵もなく、ただ純粋な苦痛と……そして、何故か、私を傷つけたくないという、必死の想いに満ちていた。

「リリアーナ……頼むから、そこを動かないでくれ……!」
「私に……近づくな……!」

彼の、懇願するような声に、私の足は床に縫い付けられたように動かなくなった。
どうして? なぜ、近づいてはいけないの?
あなたは、こんなに苦しんでいるのに。
あなたのその苦しみを、少しでも和らげたいのに。

私の力が、あなたに何らかの影響を与えていることには、もう気づいている。
私が近くにいれば、あなたのその苦しみも、少しは楽になるのではないの?

手を伸ばせば、届く距離。
でも、彼の必死の形相が、それを許さない。

触れたいのに、触れられない。
助けたいのに、その方法が分からない。

氷の公爵の呪いに苦しむ彼の姿と、それをただ見つめることしかできない自分の無力さ。
もどかしい想いが、胸を張り裂けそうに締め付ける。

月明かりの下、二人の間には、決して越えることのできない、冷たい透明な壁が存在しているかのようだった。

彼の秘密の、最も深い部分に触れてしまった夜。
私たちの物語は、甘いだけではない、切ない痛みを伴って、新たな局面を迎えようとしていた。
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