偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第6話:気まずい空気と、秘めた決意

あの夜、アレクシス様の苦しむ姿を目の当たりにしてから、私と彼の間の空気は、どうしようもなくぎこちないものになってしまった。

(なんて声をかければいいの……?)
(昨夜のこと、触れてもいいの? それとも、知らないふりをするべき……?)

朝、長い廊下で彼とすれ違っても、「おはようございます」と挨拶するのが精一杯。
彼の蒼い瞳には、あの夜と同じ、深い苦悩の色が、癒えない傷のように影を落としているように見えて、私はすぐに視線を逸らしてしまう。

彼もまた、何かを言いかけては、重々しく口を閉ざす。
そんなことを、何度も繰り返していた。

美しく蘇った中庭だけが、私たちの間の重苦しい沈黙を知らないかのように、明るい日差しの中で、生命力豊かに咲き誇っている。
そのコントラストが、余計に胸を締め付けた。

その日の午後、私は庭の手入れをしていた。
花がらを摘んだり、新しい苗を植えたり……。
無心で土に触れていると、少しだけ、本当に少しだけ、心が落ち着く気がしたからだ。

「リリアーナ」

不意に、背後から声をかけられた。
振り返ると、アレクシス様が、少し離れた場所に、佇んでいた。

「公爵様……」

彼の元へ歩み寄るべきか、ここで待つべきか、迷ってしまう。
そんな私の葛藤を見透かしたように、彼の方からゆっくりと近づいてきた。

「……先日は、すまなかった」

彼が切り出したのは、謝罪の言葉だった。
私の心臓が、小さく跳ねる。

「みっともないところを、見せた」

「そ、そんなこと、ありません……! 私は、公爵様のお身体が、とても心配で……」

慌てて首を横に振る私に、彼は静かにかぶりを振った。

「あれは、昔からの……私の持病のようなものだ。心配には及ばない」

持病。
そんな言葉で片付けられるような、生やさしい苦しみには到底見えなかった。
あれは、魂そのものが削られていくような、壮絶な痛みのはずだ。

でも、彼はそれ以上を語るつもりはないらしい。
その瞳が、「これ以上は聞くな」と雄弁に物語っていた。

「……そうですか」

そう答えるのが、私にできる精一杯だった。
彼の秘密に、土足で踏み込むことはできない。彼がそれを望まないのなら。

でも。

このまま、見て見ぬふりをするなんて、絶対に嫌だ。
彼が夜ごと、たった一人で、あの地獄に耐えているのを知ってしまったのだから。

(私にできることは、きっとあるはず)

王都では、私の力は「地味」で「矮小」だと笑われた。
でも、この領地に来て、私の力は確実に、日に日に強くなっている。
植物を癒し、死んだ大地を浄化するこの力が、あるいは、彼の身体を蝕む呪いにも、何かしらの影響を与えられるのではないだろうか。

(知りたい……)
(公爵様の呪いのことを。そして、それを解く方法を、知りたい)

俯いていた顔を上げると、アレクシス様が心配そうに私を覗き込んでいた。
その距離の近さに、どきりとする。

「どうした? 顔色が良くない」

「い、いえ! 大丈夫です! 少し、考え事を……」

私は無理やり笑顔を作って見せた。

「……そうか。だが、無理はするな。君に倒れられては、困る」

彼はそう言うと、私の頭に、ポン、と手を……置こうとして、寸前で止めた。
その伸ばされた手が、所在なげに宙を彷徨い、そして、何かを諦めるように、ゆっくりと下ろされる。
その一連の動作に、彼の深い、深い葛藤が見えた気がして、胸がちくりと痛んだ。

彼が去った後、私は固く、固く、決意した。

(待っているだけじゃダメだ)

彼が話してくれないのなら、私から探し出すまで。
この城のどこかに、きっと手がかりがあるはずだ。
ヴァインベルク公爵家に代々伝わる呪いならば、その記録が、どこかに残されているに違いない。

私が向かうべき場所は、一つしかなかった。

——城の、図書室。

膨大な書物が眠るその場所なら、きっと、きっと答えが見つかるはず。

今はまだ無力かもしれないけれど、諦めたくはない。
あの氷のような仮面の下に隠された、彼の本当の笑顔を、私はこの目で見たいのだから。

夕日に照らされた自分の手のひらを見つめる。
そこから溢れる、淡い若葉色の光。

この力が、彼の絶望を照らす希望になると、私は、強く、強く信じたかった。
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