偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第8話:初めての祭りと、彼からの誘い

私が城に来てから、季節は静かに巡り、北の辺境の地にも、実りの秋が訪れようとしていた。

あれだけ荒れ果て、死んでいたはずの大地が、嘘のようだ。
私が毎日、祈りを込めて力を注いだ畑では、瑞々しい野菜や、黄金色の麦が、豊かに、たわわに実っている。
中庭の花々は、季節を問わずに咲き誇り、果樹には、宝石のような色の実がなっていた。

この奇跡的な変化に、領民たちの顔にも、明るい笑顔が戻っていた。
子供たちの笑い声が、活気のなかった村に響き渡るようになった。
市場には、私が育てた野菜が並び、人々はそれを「聖女様の恵み」と呼び、大切に分け合って食べているという。

そして、彼らは今年の豊かな収穫を祝い、さらにこの土地の再生を導いた私への感謝を示すため、ささやかながらも村で祭りを開催したいと、城に申し出てきたのだ。

その話を聞いたアレクシス様は、珍しく「良いだろう」と、即座に許可を出した。
執事のセバスチャンが、驚きに目を見開いていたのを、私は見逃さなかった。
普段の彼なら、そんな浮かれた催しは許可しなかっただろう、と。

そして祭りの前日。
私はアレクシス様に、再び執務室へと呼び出された。
最近では、呼び出されることにも少し慣れてきた。

「明日の祭りだが」

彼はいつものように、机の上の書類から目を離さずに、切り出した。

「君も、見に行ってみるといい。領民たちも、君が来るのを待っているだろう」

「はい! もちろんです。とても楽しみにしています!」

私が子供のように無邪気な笑顔で答えると、彼は一度、言葉を切った。
そして、何か大きな決意をしたように、ペンを置き、ゆっくりと顔を上げて、私をまっすぐに見つめた。

その真剣な眼差しに、私の心臓が、どきりと音を立てる。

「——私が、案内しよう」

「…………え?」

時が、止まったかと思った。
今、この人は、なんて言った?
聞き間違い? 空耳?

私を、祭りに?
彼が?
二人で?

「こ、公爵様が、ですか……? あの、お忙しいのでは……」

「たまには、息抜きも必要だ」

彼はそう言うと、ふいっと気まずそうに視線を逸らす。
その、いつもは白い彼の耳が、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、赤く染まっているのを、私は見逃さなかった。

(お誘い……してくれてるんだ……!)

あの『氷の公爵』様からの、初めての、デートのお誘い。

その事実に気づいた瞬間、心臓がトクン、トクン、と大きく脈打ち始めた。
顔に、ぼっと火がついたように熱くなるのがわかって、慌てて俯いた。

「……その、お忍びで行くことになる。君の身の安全のためにもな。質素な服を用意させよう。城の者にも、気づかれぬように」

「は、はい……!」

「明日の日没後、裏門で待っている」

それだけを早口で言うと、彼は「もう行っていい」と、まるで私を部屋から追い出すように促した。
完璧に、照れ隠しをしている。
可愛すぎる……!

部屋に戻っても、胸のドキドキは一向に収まらなかった。
嬉しくて、嬉しくて、ベッドの上で思わずごろごろと転がってしまう。
そんな私を見て、様子を見に来た侍女のマーサが、くすくすと上品に笑っている。

「リリアーナ様、本当に嬉しそうでございますね。まるで恋する乙女のようですわ」

「ま、マーサまで……! からかわないでください!」

「あらあら。ですが、公爵様も、きっと同じ気持ちでいらっしゃいますよ」
マーサは、優しく目を細めた。
「あの方が、ご自分から誰かを誘うなんて、この城に来てから……いえ、生まれてから、一度もなかったことですから」

マーサの言葉に、さらに顔が熱くなる。
アレクシス様も、私と同じ気持ち……?
そんなことを考えたら、もう、どうにかなってしまいそうだった。

その夜、マーサが用意してくれたのは、村娘が着るような、素朴で、でもレースの飾りがついた可愛らしいワンピースだった。
それを鏡の前で何度も合わせてみては、一人で胸をときめかせる。

(どんなお祭りなんだろう……)
(公爵様と、二人きり……手を、繋いだりできるのかな……?)

期待と少しの不安で、胸がいっぱいになる。
王都から追放された時は、こんな幸せな日が来るなんて、夢にも思わなかった。
絶望の底にいた私を救い出してくれた、冷たくて、不器用で、でも本当は、世界で一番優しい人。

彼との初めての、二人きりの外出。
それはきっと、私の人生で、忘れられない一日になる。

そんな予感を胸に抱きながら、私は祭りの夜を、今か今かと、待ちわびるのだった。
彼がどんな顔で私を待っていてくれるのか、想像するだけで、頬が緩んでしまうのを止められなかった。
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