偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

第18話：孤独な瞑想と、一つの仮説

与えられた三日間の猶予。
その初日、私は灰色の儀式場の冷たい石畳の上で、静かに座禅を組んで瞑想を始めた。

食事とわずかな水以外、何も口にせず、ただひたすらに自分自身の内なる力と向き合う。
最初は、焦りや不安で、なかなか集中できなかった。

アレクシス様のこと、領地のこと、そして王太子からの卑劣な脅迫……。
様々な思いが、次から次へと浮かんでは、私の心を乱す。

（落ち着いて……私……）

深く、深く、呼吸を繰り返す。
吸って、吐いて。
そして、意識を、手のひらから放たれる若葉色の光へと、ただひたすらに集中させていく。

（この力は、どこから来るの……？）
（どうすれば、もっと強くなれるの……？）

ヴァインベルク領で、なぜ私の力は強くなったのか。
その理由を、私はもう一度、考え直してみた。

あの土地は、呪われていた。
この儀式場と同じように、生命力を失い、死にかけていた。
私の力は、その「死」に抗うようにして、より強く、より鮮やかに、輝きを増した。

まるで、マイナスが大きければ大きいほど、それを打ち消すプラスの力もまた、大きくなるかのように。

（……だとしたら）

一つの、途方もない仮説が、脳裏に雷のように閃いた。

（この儀式場の、この強大な呪い……これも、***私の力に変えることができるんじゃないだろうか？***）

呪いをただ浄化し、消し去るのではない。
その莫大な負のエネルギーを、私の生命力を与える力の***触媒***として、利用するのだ。
負の力を取り込み、それを正の力へと変換する。

そうすれば、本来の私では考えられないほどの、奇跡を起こせるかもしれない。

それはあまりにも荒唐無稽で、常軌を逸した、危険な発想。
一歩間違えれば、呪いの濁流に魂ごと喰われかねない。

でも、今の私には、それしか道はなかった。
ハイリスクハイリターン。上等じゃないか。

そして、もう一つ。
この力を高めた先に、私がどうしても成し遂げたいことがあった。

（アレクシス様に、伝えたい……）

私が無事であること。
諦めてなどいないこと。
そして、必ず帰るという、あの日の約束を、忘れてなどいないということを。

私たちの間には、あまりにも遠い、絶望的な距離がある。
手紙を出すことさえ、許されない。
でも、もし、私のこの生命の力が、空間を超えて、彼の元まで届くとしたら……。

ヴァインベルク領で、私が彼のそばにいると、彼の呪いの苦痛が和らいだ。
それは、私たちの生命力が、どこかで共鳴し合っていたからではないだろうか。
魂が、惹かれ合っていたからではないだろうか。

（お願い……届いて……！）
（私の声よ、私の想いよ、彼に……！）

私は意識の全てを、その一点に集中させる。
心に描くのは、ただ一人、アレクシスの姿だけ。
凍てつく湖のような蒼い瞳。
氷の仮面の下に隠された、不器用な優しさ。
私に触れたくても触れられない、その苦悩と、切なさ。

「アレクシス様……」

私の唇から、彼の名前が、祈りのように、愛を込めてこぼれ落ちた。

その瞬間。

私の身体から溢れ出す若葉色の光が、今までとは比べ物にならないほど、***強く、鮮やかに輝き始めた***気がした。

まだ、確信はない。
でも、確かに感じた。
私の魂が、この灰色の牢獄を抜け出して、遥か北の大地を目指して飛んでいくような、不思議な、不思議な感覚を。

この孤独な瞑想は、ただの自己満足ではない。
必ず、彼に繋がると、私は信じていた。
私たちの絆は、こんなものでは断ち切れないのだと。