偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第19話:北の地の氷狼と、救出計画(アレクシス視点)

彼女が、リリアーナが、俺の目の前で王都へ連れ去られてから、数日。
ヴァインベルクの城は、再び、あの忌まわしい沈黙と停滞に包まれていた。

執務室の窓から見える、彼女が蘇らせてくれたはずの中庭。
その花々の鮮やかさだけが、まるで残酷な冗談のように、色褪せた俺の世界で輝いている。

あれは、彼女がいたという証。
そして、俺が彼女を、この手で守れなかったという、許しがたい無能の証だった。

「……っぐ……!」

胸の奥深く、呪いの根源が、疼き始める。
彼女がそばにいてくれた間は、まるで冬眠でもするかのように鳴りを潜めていた、あの地獄の苦痛だ。
彼女という唯一の光を失った俺の魂を、ここぞとばかりに闇が蝕もうとしているかのようだった。

だが、感傷に浸っている暇など、一瞬たりともない。

コン、コン。

執務室の扉が、控えめにノックされる。

「入れ」

入ってきたのは、俺の腹心であり、公爵家に代々仕える諜報役の壮年の男、セバスチャンだった。
彼の顔には、常に冷静沈着な彼らしからぬ、苦渋の色が浮かんでいる。

「旦那様。王都に放った『影』から、第一報が参りました」

セバスチャンの言葉に、俺の蒼い瞳が、鋭い光を取り戻す。

「……話せ」

「はっ。リリアーナ様は、王宮に到着後、アルフォンス王太子の命令で、一時、地下牢に監禁された模様にございます」

その報告に、俺の拳が、ミシリと音を立てて握りしめられる。
机の樫の木が、俺の魔力に耐えきれず、わずかに凍りついた。

あの、愚かな王子め……!

「……それで?」

「ですが、現在は客室に移され、かの『王家の儀式場』を蘇らせるよう、強要されている、とのこと。……三日間の猶予が与えられた、と」

「儀式場……だと?」

その場所に、心当たりがあった。
王家の権威の象徴。しかし、百年も前に強力な呪いに蝕まれ、打ち捨てられた禁足地。
王太子の浅はかで、自己中心的な狙いが、手に取るように分かった。
あいつは、彼女の力を、自分の名声のために利用するつもりだ。

「……リリアーナは、どうしている。衰弱してはいないだろうな」

「『影』の報告によれば、気丈に振る舞い、その猶予期間を使い、儀式場で瞑想を行っている、と。目立った衰弱などはない模様です」

その言葉に、俺は、わずかに安堵の息を漏らした。
あの健気で、見た目に反して、鋼のような芯を持つ少女のことだ。
きっと、泣き寝入りなどしていないだろう。

だが、安心はできない。
三日後、彼女があの強力な呪いに満ちた場所で無理に力を解放すれば、その身にどんな危険が及ぶか分からない。
最悪の場合、彼女の生命そのものが……。

そこまで考えて、俺は思考を打ち切った。

「……動くぞ」

俺は、静かに、しかし、有無を言わさぬ力強さで、そう宣言した。

「セバスチャン、城の精鋭を、五十名集めろ。装備は軽装。あくまで、非公式の『視察』という名目だ」

「はっ……! と、申しますと……旦那様、まさか……!」

「王都へ行く。あいつらが、俺の***『宝』***に指一本でも触れるというのなら、たとえ王家であろうと、容赦はしない」

俺の瞳は、獲物を狩る狼のように、冷たく、獰猛な光を宿していた。
もう、理性で感情を抑えるのはやめだ。
俺の全てを懸けて、彼女を取り戻す。

「だが、正面から乗り込むのは愚策だ。王太子も、あの偽聖女も、俺の動きを警戒しているだろう」

俺は机の上に広げられた王都の古い地図を、指でなぞる。
その指先から放たれる冷気で、羊皮紙がパリパリと凍っていく。

「リリアーナを、奪還する。最も静かに、そして、最も確実に」

俺の頭脳は、すでにいくつもの救出計画をシミュレートし始めていた。
王宮の警備体制、騎士団の配置、抜け道となりうる古い地下水路……。
俺はもう、待つだけの無能な男ではない。

愛する者を守るためならば、このヴァインベルクの氷狼は、喜んで牙を剥く。

「リリアーナ……」
「必ず、迎えに行く。だから、それまで無事でいてくれ……」

執務室の窓辺に飾られた、一輪の薔薇。
リリアーナが、この城に来て、初めて咲かせてくれた、思い出の花。
その花に誓うように、俺は静かに、しかし、固く、そう呟いた。

俺の孤独な戦いが、今、静かに始まろうとしていた。
彼女を取り戻す、ただその一点のために。
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