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第20話:時空を超えた魂の交感
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三日間の猶予、最終日の夜。
灰色の儀式場は、相変わらず死の気配に満ち、重い沈黙に支配されていた。
しかし、その中心で瞑想を続ける私の周りだけ、空気がわずかに、本当にわずかに、澄んでいるような気がした。
この三日間、私はひたすらに自分自身の力と向き合い続けた。
そして、ようやく、その本質の一端を掴みかけていた。
私の力は、やはり「生命そのもの」に働きかける力。
そして、この儀式場の呪いは、その力を爆発的に増幅させるための、巨大な「器」になりうる。
問題は、それを私の意志で、完全にコントロールできるかどうか。
もし失敗すれば、暴走した力が、私自身を滅ぼすだろう。
(でも、やるしかない……!)
約束の朝は、もうすぐそこまで来ている。
私は最後の賭けに出ることにした。
遠く離れたアレクシス様へ、この想いを届けるための、最後の試み。
意識を、極限まで研ぎ澄ませる。
心に描くのは、ただ一人、アレクシス様の姿。
(アレクシス様……私は、ここにいます)
(私は、諦めてなんかいません)
(あなたとの約束を、必ず果たしますから……!)
心の中で、強く、強く、念じる。
すると、私の身体から、今までで最も強く、そして温かい、若葉色の光が溢れ出した。
光は、ただ輝くだけではない。
まるで意志を持っているかのように、儀式場の床や壁を這う、黒く炭化した蔦へと伸びていく。
そして、光が触れた瞬間。
——ドクン。
確かに、感じた。
黒く、死んでいたはずの蔦が、まるで心臓のように、一度だけ、微かに脈打ったのを。
儀式場に満ちていた強大な呪いの力が、私の想いを乗せて、枯れた蔦に生命の息吹をほんの一瞬だけ、与えたのだ。
「……届いて……!」
私は、残った力の全てを、その一念に注ぎ込んだ。
◇◆◇
その瞬間、遥か北のヴァインベルク城。
アレクシスの執務室。
彼は、腹心たちと、王都への潜入経路についての最終確認を行っていた。
その目は、氷のように冷徹で、一切の感情を排している。
作戦遂行マシーンと化した彼に、最早ためらいはなかった。
しかし、その時だった。
机の上に飾られていた、一輪の薔薇。
リリアーナの思い出の形見であるその花が、何の前触れもなく、***眩いほどの、優しい光***を放ち始めたのだ。
「なっ……!?」
「こ、これは……一体……!?」
セバスチャンたちが、驚愕の声を上げる。
アレクシスは、弾かれたようにその薔薇に駆け寄った。
その光は、若葉のように鮮やかで、そして、信じられないほどに温かい。
まるで、***彼女***が、すぐそばにいるかのような……。
「……リリアーナ……?」
無意識に、彼の口から、愛しい人の名前がこぼれる。
光は、数秒間、力強く輝いた後、ゆっくりと元の状態に戻っていった。
しかし、薔薇の花は、以前よりもさらに生き生きと、瑞々しくなっている。
執務室は、静寂に包まれた。
だが、その場にいた誰もが、今の現象がただ事ではないことを理解していた。
アレクシスは、そっと、その薔薇の花びらに、手袋越しに触れた。
そこから伝わってくる、確かな温もり。
そして、彼は気づく。
長年、彼の身体を、魂を蝕んできた、あの呪いの疼きが、嘘のように消え去っていることに。
まるで、分厚い氷が、春の日差しを浴びて、音もなく溶けてしまったかのように。
(……君は、戦っているんだな)
彼女からの、メッセージ。
遠く離れた場所から、彼に送られた、魂の叫び。
私は、ここにいる、と。
私は、負けない、と。
あなたを、絶望から救い出す、と。
「……計画を変更する」
アレクシスは、静かに振り返ると、腹心たちに告げた。
その瞳には、先ほどまでの冷徹さに加え、確固たる、熱い決意が宿っていた。
「——夜明けと共に、王都へ向けて出立する。全速力でだ」
彼女が、命を懸けて時間を稼ぎ、奇跡を起こしてくれている。
ならば、それに応えるのが、男の務めというものだ。
二人の魂は、確かに繋がった。
物理的な距離など、もはや何の意味もなさない。
夜明けが、近づいていた。
それは、絶望の終わりと、反撃の始まりを告げる、希望の光だった。
灰色の儀式場は、相変わらず死の気配に満ち、重い沈黙に支配されていた。
しかし、その中心で瞑想を続ける私の周りだけ、空気がわずかに、本当にわずかに、澄んでいるような気がした。
この三日間、私はひたすらに自分自身の力と向き合い続けた。
そして、ようやく、その本質の一端を掴みかけていた。
私の力は、やはり「生命そのもの」に働きかける力。
そして、この儀式場の呪いは、その力を爆発的に増幅させるための、巨大な「器」になりうる。
問題は、それを私の意志で、完全にコントロールできるかどうか。
もし失敗すれば、暴走した力が、私自身を滅ぼすだろう。
(でも、やるしかない……!)
約束の朝は、もうすぐそこまで来ている。
私は最後の賭けに出ることにした。
遠く離れたアレクシス様へ、この想いを届けるための、最後の試み。
意識を、極限まで研ぎ澄ませる。
心に描くのは、ただ一人、アレクシス様の姿。
(アレクシス様……私は、ここにいます)
(私は、諦めてなんかいません)
(あなたとの約束を、必ず果たしますから……!)
心の中で、強く、強く、念じる。
すると、私の身体から、今までで最も強く、そして温かい、若葉色の光が溢れ出した。
光は、ただ輝くだけではない。
まるで意志を持っているかのように、儀式場の床や壁を這う、黒く炭化した蔦へと伸びていく。
そして、光が触れた瞬間。
——ドクン。
確かに、感じた。
黒く、死んでいたはずの蔦が、まるで心臓のように、一度だけ、微かに脈打ったのを。
儀式場に満ちていた強大な呪いの力が、私の想いを乗せて、枯れた蔦に生命の息吹をほんの一瞬だけ、与えたのだ。
「……届いて……!」
私は、残った力の全てを、その一念に注ぎ込んだ。
◇◆◇
その瞬間、遥か北のヴァインベルク城。
アレクシスの執務室。
彼は、腹心たちと、王都への潜入経路についての最終確認を行っていた。
その目は、氷のように冷徹で、一切の感情を排している。
作戦遂行マシーンと化した彼に、最早ためらいはなかった。
しかし、その時だった。
机の上に飾られていた、一輪の薔薇。
リリアーナの思い出の形見であるその花が、何の前触れもなく、***眩いほどの、優しい光***を放ち始めたのだ。
「なっ……!?」
「こ、これは……一体……!?」
セバスチャンたちが、驚愕の声を上げる。
アレクシスは、弾かれたようにその薔薇に駆け寄った。
その光は、若葉のように鮮やかで、そして、信じられないほどに温かい。
まるで、***彼女***が、すぐそばにいるかのような……。
「……リリアーナ……?」
無意識に、彼の口から、愛しい人の名前がこぼれる。
光は、数秒間、力強く輝いた後、ゆっくりと元の状態に戻っていった。
しかし、薔薇の花は、以前よりもさらに生き生きと、瑞々しくなっている。
執務室は、静寂に包まれた。
だが、その場にいた誰もが、今の現象がただ事ではないことを理解していた。
アレクシスは、そっと、その薔薇の花びらに、手袋越しに触れた。
そこから伝わってくる、確かな温もり。
そして、彼は気づく。
長年、彼の身体を、魂を蝕んできた、あの呪いの疼きが、嘘のように消え去っていることに。
まるで、分厚い氷が、春の日差しを浴びて、音もなく溶けてしまったかのように。
(……君は、戦っているんだな)
彼女からの、メッセージ。
遠く離れた場所から、彼に送られた、魂の叫び。
私は、ここにいる、と。
私は、負けない、と。
あなたを、絶望から救い出す、と。
「……計画を変更する」
アレクシスは、静かに振り返ると、腹心たちに告げた。
その瞳には、先ほどまでの冷徹さに加え、確固たる、熱い決意が宿っていた。
「——夜明けと共に、王都へ向けて出立する。全速力でだ」
彼女が、命を懸けて時間を稼ぎ、奇跡を起こしてくれている。
ならば、それに応えるのが、男の務めというものだ。
二人の魂は、確かに繋がった。
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