27 / 31
第27話:氷狼の牙と、下される裁き
「さて、国王陛下」
私の手を固く、しかし優しく握りしめたまま、アレクシス様は、国王へと向き直った。
その声は、先ほどまでの甘さなど微塵も感じさせない、絶対支配者の、冷徹な響きに戻っていた。
そのギャップに、私は少しだけ、どきりとした。
「言い訳は、お聞きになりましたかな? この、***あなたの愚かな息子***と、***魔族と通じた偽聖女***の」
その言葉の一つ一つが、鋭い氷の刃となって、国王と王太子に突き刺さる。
国王は、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔で、唇を震わせた。
「ヴァインベルク公爵……。今回の件、我が息子の非であることは認めよう。だが、これも、あの女に唆されたことであり……」
「ですが、何です?」
アレクシス様の追及は、容赦がない。
氷の瞳は、一切の言い訳を許さないと語っていた。
「私の唯一の光を、私の命そのものであるこの女性を、あなた方は偽物と蔑み、王都から追放した。それだけでは飽き足らず、再びその身柄を拘束し、その力を己の欲望のために利用しようとした。……これは、私個人への侮辱に留まらず、ヴァインベルク公爵家そのものへの、許しがたい挑戦だ。違いますかな?」
彼の言葉に、その場にいた宰相や大臣たちの顔が、一斉に青ざめる。
もしここでヴァインベルク公爵家が王家を見限れば、この国は、北と南に分断され、血で血を洗う内乱状態に陥るだろう。
いや、圧倒的な軍事力を持つヴァインベルクが本気になれば、この国が滅びる可能性さえある。
そのことを、ここにいる誰もが知っていた。
「そ、それは……!」
国王が、必死に弁解の言葉を探す。
その姿は、一国の王というより、ただ狼狽する一人の父親にしか見えなかった。
アレクシス様は、そんな国王を一瞥すると、今度は、地面で狂ったように蹲るイザベラに、虫けらでも見るかのような冷たい視線を向けた。
「そして、その女。聖女を騙り、王太子を唆し、魔族の力を以てこの国を内側から蝕もうとした大罪人。……生かしておく理由がありますかな?」
その言葉は、事実上の、そして揺るぎない死刑宣告だった。
イザベラは、ヒッと甲高い悲鳴を上げ、後ずさろうとするが、すでにアレクシス様の兵士に両脇を固められ、逃げ場はどこにもなかった。
「陛下、ご裁断を」
アレクシス様は、全ての選択を、国王に委ねた。
しかし、それは形だけのもの。
答えは、すでに決まっていた。
ここでアレクシス様の要求を呑まなければ、王家は、そしてこの国は終わる。
国王は、深く、深く、ため息をつくと、苦渋に満ちた、そして一気に老け込んだ顔で、ゆっくりと口を開いた。
それは、自らの息子と、息子が愛した女を見捨てる、王としての、非情な決断だった。
「……イザベラ・フォン・カークランドを、捕らえよ」
国王の厳かな声が、儀式場に響く。
「聖女の称号を剥奪の上、魔族と通じ、国家転覆を謀った大罪人として、終生、地下牢の最下層、光の届かぬ『忘れられた牢獄』に幽閉するものとする」
「いやぁぁぁっ! 離して! 私は、私は聖女よぉぉぉっ! 殿下、殿下ぁぁぁっ!」
イザベラの最後の絶叫も虚しく、彼女は兵士たちに引きずられていく。
その顔は、涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになり、もはやかつての美貌の面影はどこにもなかった。
自業自得、という言葉が、これほど似合う光景もないだろう。
そして、国王は、震える声で、最後の裁きを下した。
その目は、ただ一点、自分の息子だけを見つめていた。
「アルフォンス・フォン・エルグランドよ。お前は……」
全ての視線が、王太子に注がれる。
彼の運命が、今、決まろうとしていた。
私の手を固く、しかし優しく握りしめたまま、アレクシス様は、国王へと向き直った。
その声は、先ほどまでの甘さなど微塵も感じさせない、絶対支配者の、冷徹な響きに戻っていた。
そのギャップに、私は少しだけ、どきりとした。
「言い訳は、お聞きになりましたかな? この、***あなたの愚かな息子***と、***魔族と通じた偽聖女***の」
その言葉の一つ一つが、鋭い氷の刃となって、国王と王太子に突き刺さる。
国王は、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔で、唇を震わせた。
「ヴァインベルク公爵……。今回の件、我が息子の非であることは認めよう。だが、これも、あの女に唆されたことであり……」
「ですが、何です?」
アレクシス様の追及は、容赦がない。
氷の瞳は、一切の言い訳を許さないと語っていた。
「私の唯一の光を、私の命そのものであるこの女性を、あなた方は偽物と蔑み、王都から追放した。それだけでは飽き足らず、再びその身柄を拘束し、その力を己の欲望のために利用しようとした。……これは、私個人への侮辱に留まらず、ヴァインベルク公爵家そのものへの、許しがたい挑戦だ。違いますかな?」
彼の言葉に、その場にいた宰相や大臣たちの顔が、一斉に青ざめる。
もしここでヴァインベルク公爵家が王家を見限れば、この国は、北と南に分断され、血で血を洗う内乱状態に陥るだろう。
いや、圧倒的な軍事力を持つヴァインベルクが本気になれば、この国が滅びる可能性さえある。
そのことを、ここにいる誰もが知っていた。
「そ、それは……!」
国王が、必死に弁解の言葉を探す。
その姿は、一国の王というより、ただ狼狽する一人の父親にしか見えなかった。
アレクシス様は、そんな国王を一瞥すると、今度は、地面で狂ったように蹲るイザベラに、虫けらでも見るかのような冷たい視線を向けた。
「そして、その女。聖女を騙り、王太子を唆し、魔族の力を以てこの国を内側から蝕もうとした大罪人。……生かしておく理由がありますかな?」
その言葉は、事実上の、そして揺るぎない死刑宣告だった。
イザベラは、ヒッと甲高い悲鳴を上げ、後ずさろうとするが、すでにアレクシス様の兵士に両脇を固められ、逃げ場はどこにもなかった。
「陛下、ご裁断を」
アレクシス様は、全ての選択を、国王に委ねた。
しかし、それは形だけのもの。
答えは、すでに決まっていた。
ここでアレクシス様の要求を呑まなければ、王家は、そしてこの国は終わる。
国王は、深く、深く、ため息をつくと、苦渋に満ちた、そして一気に老け込んだ顔で、ゆっくりと口を開いた。
それは、自らの息子と、息子が愛した女を見捨てる、王としての、非情な決断だった。
「……イザベラ・フォン・カークランドを、捕らえよ」
国王の厳かな声が、儀式場に響く。
「聖女の称号を剥奪の上、魔族と通じ、国家転覆を謀った大罪人として、終生、地下牢の最下層、光の届かぬ『忘れられた牢獄』に幽閉するものとする」
「いやぁぁぁっ! 離して! 私は、私は聖女よぉぉぉっ! 殿下、殿下ぁぁぁっ!」
イザベラの最後の絶叫も虚しく、彼女は兵士たちに引きずられていく。
その顔は、涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになり、もはやかつての美貌の面影はどこにもなかった。
自業自得、という言葉が、これほど似合う光景もないだろう。
そして、国王は、震える声で、最後の裁きを下した。
その目は、ただ一点、自分の息子だけを見つめていた。
「アルフォンス・フォン・エルグランドよ。お前は……」
全ての視線が、王太子に注がれる。
彼の運命が、今、決まろうとしていた。
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜
遠野エン
恋愛
セレスティア伯爵家の長女フィーナは、生まれつき強大すぎる魔力を制御できず、常に体から生命力ごと魔力が漏れ出すという原因不明の症状に苦しんでいた。そのせいで慢性的な体調不良に陥り『幽霊令嬢』『出来損ない』と蔑まれ、父、母、そして聖女と謳われる妹イリス、さらには専属侍女からも虐げられる日々を送っていた。
晩餐会で婚約者であるエリオット王国・王太子アッシュから「欠陥品」と罵られ、公衆の面前で婚約を破棄される。アッシュは新たな婚約者に妹イリスを選び、フィーナを魔力の枯渇した不毛の大地『グランフェルド』へ追放することを宣言する。しかし、死地へ送られるフィーナは絶望しなかった。むしろ長年の苦しみから解放されたように晴れやかな気持ちで追放を受け入れる。
グランフェルドへ向かう道中、あれほど彼女を苦しめていた体調不良が嘘のように快復していくことに気づく。追放先で出会った青年ロイエルと共に土地を蘇らせようと奮闘する一方で、王国では異変が次々と起き始め………。
「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜
腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。
絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。
しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身!
「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」
シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。
虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される
高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。
【2024/9/25 追記】
次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。