偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第29話:私たちの家へ、初めての口づけ

王都からの帰り道は、来た時とは何もかもが違っていた。
アレクシス様が用意してくれたのは、公爵家の紋章が黄金に輝く、最も豪華な馬車。
そのふかふかのソファの上で、私たちは、初めて、ゆっくりと二人だけの時間を過ごしていた。

私の隣に座るアレクシス様は、あの儀式場での『氷狼』の姿が嘘のように、穏やかで、優しい表情をしている。
そして、私の左手を、ずっと、彼の右手で優しく握りしめてくれていた。
素肌で触れ合う手のひらが、少し汗ばんで、くすぐったい。でも、とても心地よかった。

「……あの、アレクシス様」

「アレクでいい」

「え……?」

「君には、そう呼んでほしい」

彼は、少し照れたように、視線を窓の外に向けながら言った。
その、年相応の青年のような仕草と、少しだけ赤くなった耳が、たまらなく愛おしい。

「……アレク、さん」

「『さん』はいらない」

「……アレク」

彼の名前を呼ぶだけで、心臓が、とろけるように甘く締め付けられるようだ。
彼は私の呼び声に、満足そうに微笑むと、今度は私の名前を呼んでくれた。

「リリアーナ」

「はい」

「……すまなかった」

不意に、彼の口から、謝罪の言葉が紡がれる。

「私が、もっと早く、君の価値に気づいていれば。もっと、強く君を引き留めていれば、君にこんな辛い思いをさせることはなかった」

彼の声には、深い後悔が滲んでいた。
私は、慌ててぶんぶんと首を横に振る。

「そんなことありません! アレクがいたから、私は頑張れました。それに、あの時間があったから、私は、自分の力の本当の意味を知ることができたんです。だから、これでよかったんです」

そう、あの孤独な日々は、無駄ではなかった。
彼を想う気持ちが、私を強くしてくれたのだ。

私の言葉に、彼は驚いたように目を見開いた後、ふっと、愛おしさに満ちた笑みを浮かべた。

「……君は、本当に、強いな」

彼はそう言うと、握っていた私の左手を、そっと彼の唇へと持っていく。
そして、その甲に、優しく、そして少しだけ熱っぽい口づけを落とした。

「きゃっ……!」

その、あまりにも甘い行為に、私の顔は、カッと林檎のように赤くなる。
心臓が、今にも馬車の屋根を突き破って、飛び出してしまいそうだった。

「リリアーナ。君は、私の女神だ。私の全てだ。……もう二度と、誰にも渡さない」

彼の蒼い瞳が、熱い、熱い独占欲を宿して、私をまっすぐに見つめる。
その瞳に吸い込まれそうになりながら、私は、こくりと頷くのが精一杯だった。

馬車は、順調に北の地を目指す。
窓の外の景色が、少しずつ、緑の少ない、見慣れたものへと変わっていく。
でも、その景色は、もはや荒涼とは感じなかった。
そこは、愛する人が守り、そして私が、これから共に生きていく、大切な、大切な故郷なのだ。

やがて、ヴァインベルク領の城門が見えてきた。
そこには、信じられないほどの数の領民たちが集まり、私たちの帰りを今か今かと待ちわびていた。
私たちの乗る馬車が姿を現した瞬間、割れんばかりの、地鳴りのような大歓声が、空気を震わせた。

「公爵様のお戻りだ!」
「リリアーナ様もご一緒だぞ!」
「聖女様、おかえりなさいませ!」

その熱狂的な歓迎に、私は、胸がいっぱいになる。
ああ、本当に、帰ってきたんだ。
私たちの、家へ。

馬車が止まり、アレクが先に降りて、私に手を差し伸べてくれる。
その手を取り、馬車を降りた私の目の前で、彼は、集まった全ての領民の前で、ゆっくりと、厳かに、私の前に跪いた。

「アレク……!?」

彼がこれから何をしようとしているのか。
その予感に、私の胸は、期待と喜びで、大きく、大きく、高鳴っていくのだった。
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