『「お前のような悪女は追放だ!」と父に言われましたが、追放先が私溺愛の祖父母が治めるリゾート領地だった件。これただのバカンスでは?』

放浪人

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第13話:『王都への凱旋準備。幽閉中の家族が「脱走計画」を立てたようですが、筒抜けすぎてコントにしか見えません』

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 星祭りの夜、海辺のテラスで交わした口づけは、私の人生の中で最も甘く、そして熱い記憶として刻まれた。  翌朝、目が覚めた時、窓から差し込む陽光がいつもよりも眩しく感じられたのは、きっと私の心が浮き立っているせいだけではないだろう。

 「……んぅ」

 私はベッドの中で大きく伸びをした。  隣の枕には誰もいないけれど(当たり前だ、まだ結婚していない)、昨夜レオンが耳元で囁いた「愛している」という言葉が、まるでリフレインのように脳内で再生され続けている。

 「へへ……」

 だらしない声が出た。  鏡を見ると、そこには頬を緩ませ、少し目が潤んだ、見たこともないほど「乙女」な顔をした私がいた。  これが、恋する女の顔?  かつて「鉄仮面」「能面令嬢」と呼ばれた私が?

 「……しっかりしなさい、エリザ。今日からは『戦い』なんだから」

 私は両頬をパンと叩き、気合を入れた。  そう。昨夜、レオンと約束したのだ。  王都へ戻り、全てを清算すると。

 お気に入りのリゾートドレスではなく、動きやすい外出着に着替え、私は部屋を出た。

          ◇

 ダイニングルームに行くと、すでに祖父母とレオンが揃っていた。  レオンは私を見るなり、花が咲いたような笑顔を見せた。

 「おはよう、エリザ。よく眠れたかい?」

 「え、ええ。おはよう、レオン」

 視線が絡み合うだけで、体温が一度上がる気がする。  そんな私たちを見て、祖父ギルバートが「朝から砂糖を吐きそうだ」と呆れたようにコーヒーを啜り、祖母エレオノーラは「まあまあ、若いっていいわねぇ」と嬉しそうに微笑んでいる。

 席に着き、朝食のプレート(今日はエッグベネディクトだった)に手をつけながら、私は切り出した。

 「おじい様、おばあ様。……お話があります」

 私の真剣な声色に、祖父もカップを置き、居住まいを正した。

 「うむ。……王都へ行くのだな?」

 「! ……お見通しですか」

 「伊達に長く生きておらんよ。昨夜の二人の顔を見ればわかる。……覚悟を決めた顔だ」

 祖父はレオンをじっと見据えた。

 「レオン。貴様、本当にエリザを守りきれるんだろうな? 王都には魑魅魍魎が住んでいるぞ。特に、王宮という伏魔殿にはな」

 「承知の上です」

 レオンは力強く頷いた。

 「俺は……いえ、私は、その伏魔殿で生まれ育ちました。あそこの戦い方は熟知しています。エリザに傷一つつけさせません」

 「……ふん。その言葉、信じよう」

 祖父はニヤリと笑い、私に向き直った。

 「エリザ。寂しくなるが、行ってきなさい。お前が受けた不当な扱い、奪われた名誉……全て取り戻してくるがいい」

 「はい!」

 「ただし! 手ぶらでは帰さんぞ!」

 祖父は指を鳴らした。

 「我が精鋭部隊『黒鉄騎士団』から選りすぐりの護衛を十名つける! さらに、移動用の馬車は対魔法防御仕様の最新型だ! あと、路銀として金貨一万枚持っていけ!」

 「多すぎます! 戦争でもしに行く気ですか!?」

 「人生は戦いだ! 備えあれば憂いなし!」

 相変わらずの過保護っぷりに苦笑しつつも、その愛が心強い。    「それと……あの『ゴミども』も、一緒に連れて行くのか?」

 祖父が眉をひそめて、窓の外――ゲストハウスの方角を見た。  そこには、私の父、継母、マリア、カイルが幽閉されている。

 「ええ。彼らには、王都の法廷で証言してもらわなければなりませんから。私の無実と、彼らの罪を証明するために」

 「ふむ。……まあ、奴らが大人しくついてくれば良いがな」

 祖父は意味深に笑った。

 「ちょうどいい。奴らが今、何を考えているか……覗いてみようか」

 祖父が手をかざすと、テーブルの上に魔法の鏡が出現した。  そこには、ゲストハウス内部の様子が映し出されていた。

          ◇

 【ゲストハウス内部】

 「くそっ! 出せ! ここから出せぇぇ!」

 画面の中で、父フェルゼン伯爵が扉をドンドンと叩いていた。  昨日の「断罪」から一夜明け、彼らの疲労と焦燥はピークに達しているようだった。

 「あなた、落ち着いて。叫んでも無駄よ。ここの壁、防音結界が張られているみたいだわ」

 継母のカテリーナが、やつれた顔でソファに沈んでいる。  その横で、マリアが爪を噛みながらブツブツと言っていた。

 「信じられない……私、公爵夫人になるはずだったのに……なんでこんなボロ着を着て、監禁されてるのよ……」

 「マリア……大丈夫だ、僕がついてる……」

 カイルが弱々しく声をかけるが、マリアは「触らないでよ無能!」と彼の手を払いのけた。  完全に家庭崩壊している。

 「ええい、泣き言を言っている場合か!」

 父が振り返り、血走った目で家族を見回した。

 「このままでは、我々は本当に破産だ。いや、それどころか横領の罪で投獄されるかもしれん! あの親父(ギルバート卿)は本気だぞ!」

 「ど、どうするんですか、伯爵……」

 カイルが怯えながら尋ねる。  父は声を潜め、邪悪な笑みを浮かべた。

 「……逃げるぞ」

 「えっ? 逃げるって……どうやって?」

 「今夜だ。今夜、夜陰に乗じてここを抜け出す」

 父は窓の外を指差した。

 「見ろ。この屋敷の警備は、表門に集中している。裏手の森側は手薄だ。あそこから抜け出し、港へ向かう。そこから船に忍び込んで王都へ戻るのだ!」

 「王都へ戻って、どうするの?」

 「決まっているだろう! 王宮へ駆け込み、あることないこと吹聴してやるのだ!」

 父は唾を飛ばして熱弁した。

 「『ギルバート辺境伯が反乱を企てている』『娘のエリザがその首謀者だ』と密告する! そうすれば、奴らは国家反逆罪で捕らえられ、我々は『国を救った英雄』として返り咲ける!」

 「おお……! さすがです、お義父様!」

 カイルが手を叩く。  マリアも目を輝かせた。

 「いいわねそれ! お姉様を犯罪者にして、私が悲劇のヒロインになるのね!」

 「そうだ! 一発逆転だ! 見ていろエリザ、最後に笑うのは私だ!」

 父たちは「うひひ」「やってやるぞ」と盛り上がり、脱走計画の細部(シーツを繋いでロープにする等)を話し合い始めた。

          ◇

 「…………」

 ダイニングルームの空気が、凍りついていた。  私とレオン、そして祖父母は、魔法の鏡の前で無言になっていた。

 「……あはは」

 私が乾いた笑いを漏らすと、堰を切ったように全員が呆れ返った。

 「馬鹿なの? ねえ、あの人たち本物の馬鹿なの?」

 「反乱を企てている、か。……わしがその気なら、とっくに国の一つや二つ落としているわ」

 祖父が鼻で笑う。

 「それに、裏手が手薄? あそこは『実験場』だぞ。わしが開発した新型の対侵入者用トラップの実験場だ」

 「えっ」

 私は知らなかった。  あの綺麗な森が、そんな危険地帯だったなんて。

 「まあ、死にはせんよ。……ただ、ちょっとばかり『恥ずかしい』目に遭うだけだ」

 祖父は悪戯っ子のような顔をした。

 「どうする、エリザ? 泳がせるか?」

 私はレオンと顔を見合わせた。  レオンも肩をすくめて、「お手並み拝見といこうか」と笑っている。

 「ええ。せっかく計画を立ててくれたんですもの。実行させてあげましょう」

 私は紅茶を飲み干し、不敵に微笑んだ。

 「最後の思い出作り(トラウマ)にね」

          ◇

 その夜。  月も雲に隠れた、絶好の脱走日和。  ゲストハウスの裏窓から、四つの影がこっそりと滑り落ちた。

 「静かにしろよ……」  「わかってるわよ……ドレスが汚れる……」

 父たちは、繋ぎ合わせたシーツを伝って地面に降り立った。  見張りはいない。計画通りだ。

 「よし、今のうちだ! 森へ走れ!」

 父を先頭に、カイル、カテリーナ、マリアが続く。  彼らは屋敷の明かりが届かない闇の中へ、希望を見出して駆け出した。

 「やった! 脱出成功だ!」  「ざまぁみろエリザ! 今に見ていろ!」

 彼らが森の入り口に差し掛かった、その時だった。

 カチッ。

 父の足元で、何かが鳴った。

 「ん?」

 次の瞬間。

 ビョイイイイイイイイウン!!!

 地面から巨大なネットが弾け飛び、父の体を空中に吊り上げた。

 「うわあああああっ!?」

 「きゃあああっ!」  「な、なんだこれは!?」

 連鎖的に罠が発動する。  カイルは足元の落とし穴(底にはネバネバしたトリモチが敷き詰められている)に落下。  カテリーナとマリアは、上から降ってきた大量の「小麦粉」と「蛍光塗料」を浴びて、闇夜に光る白いお化けと化した。

 「ごふっ! げほっ!」  「目が! 目がぁぁぁ!」

 さらに、森の奥から「ブモオオオオオ!」という雄叫びと共に、番犬代わりの小型魔獣(見た目は可愛いが突進力は凄まじいイノシシの子供たち)が突撃してきた。

 ドカッ! バシッ!

 「痛い痛い! お尻突かないで!」  「助けてぇぇぇ!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図。  ネットに吊るされて回転する父。  トリモチ塗れでもがくカイル。  光るお化けになって逃げ惑う女性陣。

 そこへ。

 パァァァァッ!

 強烈なサーチライト(魔法灯)が、彼らを照らし出した。

 「――ごきげんよう、皆様。夜のピクニックですか?」

 涼やかな声が響く。  彼らが眩しさに目を細めて見上げると、そこには――。

 優雅にティーカップを持った私と、呆れ顔のレオン、そして腹を抱えて笑っている祖父の姿があった。  私たちは、ゲストハウスを見下ろす高台のテラスから、彼らの醜態を特等席で観賞していたのだ。

 「エ、エリザ……!?」

 父が逆さまの状態で私を見た。

 「わ、罠か……! 貴様、最初から……!」

 「罠だなんて人聞きが悪い。そこは『害獣駆除エリア』ですもの。勝手に入り込んだのはそちらでしょう?」

 私はクスクスと笑った。

 「それにしても、見事な引っかかりっぷりでしたわ。おじい様、実験成功ですね」

 「うむ! トリモチの粘着度も、ネットの強度も申し分ない! データが取れて感謝するぞ、愚息よ!」

 祖父は上機嫌だ。

 「くそっ……! 下ろせ! ここから下ろせぇ!」

 「嫌ぁぁ! 粉まみれ! 私の肌がぁぁ!」

 彼らは喚き散らすが、誰も助けようとはしない。  使用人たちも集まってきて、「あらあら」「みっともない」とクスクス笑っている。  完全に、見世物小屋の猿だ。

 私は手すりに身を乗り出し、冷ややかに告げた。

 「……いい機会ですわ。お父様、皆様。明日、私は王都へ発ちます」

 「な、なんだと……?」

 「そして、貴方たちも連れて行きます。……もちろん、『罪人』として護送用の檻に入れて、ね」

 「檻だと!? 私は伯爵だぞ!」

 「今はただの『横領犯』兼『不法侵入者』です。……王都へ着いたら、たっぷりと罪を償っていただきますから、覚悟しておいてくださいね」

 私の宣告に、父は顔面蒼白になり、そのまま白目を剥いて気絶した(逆さまのまま)。  カイルもトリモチの中で力尽き、マリアたちは泣き崩れた。

 「さあ、ショーは終わりよ。衛兵、彼らを回収して。……あ、檻に入れる前に洗ってあげてね。粉まみれだと馬車が汚れるから」

 私は冷たく言い捨て、テラスを後にした。

          ◇

 翌朝。  フェルゼン辺境伯邸の正門には、二台の馬車が用意されていた。

 一台は、王族が使うような白亜の豪華な馬車。  最強の防御魔法と、快適な居住空間を備えた、祖父からのプレゼントだ。  これを引くのは、美しい白馬たち。  御者台には、レオンが(お忍びのため変装を解いて)座ることになっている。

 そしてもう一台は……。  鉄格子がはめられた、頑丈な黒い箱馬車。通称「ドナドナ号」。  中からは、「狭い!」「臭い!」「ここから出して!」という悲痛な叫び声が聞こえてくる。

 「行ってらっしゃい、エリザ。いつでも帰っておいで」

 祖母が私の頬にキスをしてくれた。    「困ったことがあれば、すぐに通信機で連絡しろ。飛竜部隊を送り込んでやるからな」

 祖父も力強く肩を叩いてくれた。

 「ありがとうございます。おじい様、おばあ様。……行ってきます!」

 私はドレスの裾を翻し、豪華な馬車へと乗り込んだ。  レオンが手綱を握り、振り返ってウインクした。

 「準備はいいかい、姫君?」

 「ええ、いつでも!」

 「では、出発!」

 鞭の音が響き、馬車が動き出す。  領民たちが沿道に集まり、花吹雪を撒いて見送ってくれる。

 「エリザ様ー! 頑張ってー!」  「また帰ってきてくださいねー!」  「レオン様も、エリザ様を頼みますよー!」

 温かい声援に包まれながら、私は窓から手を振った。    さようなら、私の楽園。  でも、これは永遠の別れじゃない。  戦いが終わったら、必ずまたここへ戻ってくる。  今度は、本当のハネムーンとして。

 後ろの護送車から聞こえる「揺れるー!」「気持ち悪いー!」という怨嗟の声は、心地よいBGMとして聞き流しながら、私たちは王都への帰路についた。

 待っていろ、王都。  待っていろ、私の敵たち。  最強の布陣で、完全勝利を掴み取りに行くわ!

 ――次回、『再会。優雅にお茶をする私を見て、義妹が「ズルい!」と叫びました。処罰とは何か、教えて差し上げましょう』。  王都到着! いよいよ本格的な「ざまぁ」パートが始まります。  王宮での夜会、あるいは実家の屋敷での対決……どちらにせよ、スカッとする展開をお約束します!
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