悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第38話 公開裁判

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(視点:リディア)

王都の中央広場は、人の波で埋め尽くされていた。
むせ返るような熱気と、人々の興奮した体臭、そして屋台から漂う油の匂いが混じり合い、強烈な「人いきれ」となって私を包囲している。

私は広場の中央に設けられた仮設の審問台に立っていた。
手錠は外されたが、周りを近衛兵に囲まれ、まるで猛獣の見世物だ。
視線が痛い。
数千、数万の瞳が、一斉に私に向けられている。
そのどれもが、敵意と好奇心に満ちていた。

『あれが悪女リディアか』
『聖女様をいじめた女だろ?』
『早く裁かれればいいのに』

ざわめきが波のように押し寄せ、私の鼓膜を圧迫する。
足元の木の床が、私の震えに合わせてギシギシと頼りない音を立てた。
怖い。
喉が渇いて張り付き、呼吸がうまくできない。
半年前の記憶がフラッシュバックする。
あの時も、こうして視線に殺されそうになった。

(……逃げたい)

本能が叫ぶ。
でも、逃げ場はない。
そして何より、観客席の最前列には、あの人がいる。
レージ。
彼は無表情に、直立不動でこちらを見つめていた。
助けに来てはくれない。
でも、その瞳だけは、私を信じて揺るがない。
『あなたの真実を、そのままに』
彼の言葉が、震える背中を支える唯一の柱だった。

「これより、アルノー公爵令嬢リディアの審問を行う!」

裁判官の声が響き渡る。
壇上の高い位置には、王太子セオドールと、その隣に寄り添う聖女ミレイユの姿があった。
ミレイユは悲しげに眉を下げ、まるで私が哀れで仕方ないというような顔をしている。

「被告人リディア。そなたは領地の採掘場を爆破し、横領の証拠を隠滅した。……相違ないか?」

裁判官の問いかけに、広場が静まり返る。
すべての耳が、私の答えを待っている。
「やっていない」と言えば、証拠を突きつけられて笑い者になる。
「やった」と言えば、その場で終わりだ。

私は一度、深く息を吸い込んだ。
肺の中の空気を全部入れ替えるように。
そして、顔を上げた。

「……いいえ」

声が震えた。小さい。
観衆から失笑が漏れる。
レージの眉が、ピクリと動いた気がした。
違う。こんな弱々しい声じゃない。
私は、誰だ?
無能な令嬢? 違う。
私は、雪の中で子供を助け、村を守ろうとした、白夜領のリディア・アルノーだ。

「いいえ! 違います!」

私は声を張り上げた。
喉が裂けてもいいと思った。

「私は爆破などしていません! あれは密輸団による襲撃でした! そして、横領を隠そうとしたのは私ではなく、王都にいる何者かです!」

私の叫びに、広場がどよめいた。
まさか反論するとは思わなかったのだろう。
王太子が不快そうに顔をしかめる。

「嘘をつくな! 証拠はあるのだぞ!」

「その証拠が偽物だからです!」

私は一歩前に出た。
木の床が強く鳴る。

「私が領地で見てきたもの、肌で感じた寒さ、民の苦しみ……それらは、殿下が紙切れ一枚で語るような薄っぺらいものではありません!」

「ひどい……!」

突然、高い悲鳴のような声が響いた。
ミレイユだ。
彼女は両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちるように膝をついた。

「どうして……どうしてそんな嘘をつくの、リディア様! 私はただ、あなたに罪を認めて、楽になってほしかっただけなのに……!」

彼女の目から、大粒の涙が溢れ出す。
その姿があまりに可憐で、あまりに痛々しくて。
瞬く間に、広場の空気が変わった。
私の「真実」が、彼女の「涙」によって、冷酷な言い訳へと塗り替えられていく。

『聖女様を泣かせたぞ!』
『やっぱり悪女だ!』

罵声が飛ぶ。
石が投げられる幻覚が見える。
けれど、不思議と私の心は冷えていくどころか、熱くなっていた。
わかったからだ。
彼女の武器は「感情」しかないのだと。
ならば、私は「事実」という氷の刃で、その涙ごと切り裂いてやる。
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