54 / 61
第54話 雪の夜の襲撃
しおりを挟む
(視点:リディア)
白灯祭の前夜。
雪は激しさを増し、視界は白一色に染まっていた。
村は静まり返っているが、それは嵐の前の静けさだ。
私は屋敷の屋根裏部屋にある監視窓から、村へと続く一本道を見下ろしていた。
レージは外の見回りに出ている。
屋敷と村の間には、自警団と協力して即席の「結界」を張ってある。
結界といっても、魔法的なものではない。
私が糸環紋(しかんもん)の応用で作った、細い糸の罠だ。
「……来た」
雪の中に、違和感があった。
風の音に混じって、雪を踏みしめる音が不規則に響く。
獣ではない。
足音を消そうとしている人間の気配だ。
数は……五人、いや六人。
彼らは村の倉庫――白銀晶が保管されている場所へ向かっている。
祭りの準備で人が出払っている隙を狙ったのだろう。
甘いわ。
そこは、私が一番警戒して網を張った場所よ。
私は窓を開け、冷気を吸い込んだ。
手袋を外し、素手を外気に晒す。
かじかむ指先に意識を集中させる。
「繋げ……!」
私の指から、視認できないほど細い魔力の糸が伸びる。
それは雪の下に埋めておいた、無数の鈴と、起爆用の小さな火薬玉に繋がっている。
侵入者たちが倉庫の扉に手をかけた瞬間。
私は指を弾いた。
チリン。
鈴の音が鳴ると同時に、私が張り巡らせた糸が一斉に収縮する。
侵入者たちの足首に糸が絡みつき、彼らの体勢を崩す。
「なっ、何だ!?」
「罠か!」
男たちの狼狽(うろた)える声。
私は間髪入れずに、次の糸を引いた。
「ドガァァン!!」
雪の中で、赤い閃光が走った。
威嚇用の火薬が炸裂し、雪煙が舞い上がる。
殺傷能力はないが、視界と聴覚を奪うには十分だ。
キーンという耳鳴りが、遠く離れた私の耳にも届くほどの衝撃音。
「うわぁぁっ!」
パニックになった男たちが、雪の中を逃げ惑う。
そこに、待ち構えていた村の自警団と、闇に紛れたレージが襲いかかった。
影が交錯し、すぐに勝負はついた。
プロの暗殺者ではない。ただの金に目がくらんだ密輸団の残党だ。準備万端のこちらが負けるはずがない。
「……ふぅ」
私は窓枠にもたれかかった。
指先が冷え切って、感覚がない。
糸を操るには神経を研ぎ澄ませる必要があり、その反動で指が痺れて動かなくなるのだ。
以前なら、怖くて震えていただろう。
でも今は、この痺れが「守りきった」証のように思えて、誇らしかった。
その時、眼下の雪道に、逃走する小さな影が見えた。
一人だけ、包囲網を抜けて森へ向かう影。
ボロボロのローブを引きずり、裸足のように見える足取り。
(……ミレイユ?)
直感的にそう思った。
あの後ろ姿には、かつての輝きはなく、ただ何かに追われる獣のような必死さだけがあった。
私は急いで階段を駆け下りた。
レージに任せるべきかもしれない。
でも、彼女との因縁には、私が自分で幕を引かなければならない気がした。
白灯祭の前夜。
雪は激しさを増し、視界は白一色に染まっていた。
村は静まり返っているが、それは嵐の前の静けさだ。
私は屋敷の屋根裏部屋にある監視窓から、村へと続く一本道を見下ろしていた。
レージは外の見回りに出ている。
屋敷と村の間には、自警団と協力して即席の「結界」を張ってある。
結界といっても、魔法的なものではない。
私が糸環紋(しかんもん)の応用で作った、細い糸の罠だ。
「……来た」
雪の中に、違和感があった。
風の音に混じって、雪を踏みしめる音が不規則に響く。
獣ではない。
足音を消そうとしている人間の気配だ。
数は……五人、いや六人。
彼らは村の倉庫――白銀晶が保管されている場所へ向かっている。
祭りの準備で人が出払っている隙を狙ったのだろう。
甘いわ。
そこは、私が一番警戒して網を張った場所よ。
私は窓を開け、冷気を吸い込んだ。
手袋を外し、素手を外気に晒す。
かじかむ指先に意識を集中させる。
「繋げ……!」
私の指から、視認できないほど細い魔力の糸が伸びる。
それは雪の下に埋めておいた、無数の鈴と、起爆用の小さな火薬玉に繋がっている。
侵入者たちが倉庫の扉に手をかけた瞬間。
私は指を弾いた。
チリン。
鈴の音が鳴ると同時に、私が張り巡らせた糸が一斉に収縮する。
侵入者たちの足首に糸が絡みつき、彼らの体勢を崩す。
「なっ、何だ!?」
「罠か!」
男たちの狼狽(うろた)える声。
私は間髪入れずに、次の糸を引いた。
「ドガァァン!!」
雪の中で、赤い閃光が走った。
威嚇用の火薬が炸裂し、雪煙が舞い上がる。
殺傷能力はないが、視界と聴覚を奪うには十分だ。
キーンという耳鳴りが、遠く離れた私の耳にも届くほどの衝撃音。
「うわぁぁっ!」
パニックになった男たちが、雪の中を逃げ惑う。
そこに、待ち構えていた村の自警団と、闇に紛れたレージが襲いかかった。
影が交錯し、すぐに勝負はついた。
プロの暗殺者ではない。ただの金に目がくらんだ密輸団の残党だ。準備万端のこちらが負けるはずがない。
「……ふぅ」
私は窓枠にもたれかかった。
指先が冷え切って、感覚がない。
糸を操るには神経を研ぎ澄ませる必要があり、その反動で指が痺れて動かなくなるのだ。
以前なら、怖くて震えていただろう。
でも今は、この痺れが「守りきった」証のように思えて、誇らしかった。
その時、眼下の雪道に、逃走する小さな影が見えた。
一人だけ、包囲網を抜けて森へ向かう影。
ボロボロのローブを引きずり、裸足のように見える足取り。
(……ミレイユ?)
直感的にそう思った。
あの後ろ姿には、かつての輝きはなく、ただ何かに追われる獣のような必死さだけがあった。
私は急いで階段を駆け下りた。
レージに任せるべきかもしれない。
でも、彼女との因縁には、私が自分で幕を引かなければならない気がした。
20
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
蔑まされた没落貴族家の悪役令嬢ですが、この舞台の主役は私がやらせていただきます!
あぷりこっと
恋愛
「君の嫉妬深さにはもう辟易しているんだ」
婚約者のハイベルクにそう告げられた瞬間、レーウは確信した。
――計画通り。
何も知らない侯爵令嬢ランダ。王国最強と謳われた騎士団長ハイベルク。彼がその双剣を振るう相手を間違えた時、破滅のカウントダウンは始まった。
世間がレーウを嫉妬に狂った没落家の伯爵令嬢と蔑んでいる間、彼女は自警団と共に貴族院の秘密を暴き敵の逃げ場を奪い続けていた。
格安警備会社へのすり替え、配電盤の掌握、そして夜視の魔導具。
感情を切り捨て毒となった令嬢が公爵邸舞踏会を、社会的抹殺の舞台へと変える。
「不運と踊る?……いいえ。私に踊らされていたのだと、地獄で気づきなさい!!」
※ヒロインの活躍が凛々しいので応援してください♪
冷遇夫がお探しの私は、隣にいます
終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに!
妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。
シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。
「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」
シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。
扉の向こうの、不貞行為。
これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。
まさかそれが、こんなことになるなんて!
目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。
猫の姿に向けられる夫からの愛情。
夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……?
* * *
他のサイトにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる