悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第55話 悪女の噂の終わらせ方

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森の入り口で、その影はうずくまっていた。
追うのを諦めたのか、それとも力が尽きたのか。
雪の上に倒れ込んだミレイユは、以前の面影がないほど痩せ細り、美しい金髪も泥と雪で汚れていた。

「……どうして」

私が近づくと、彼女は虚ろな目で私を見上げた。

「どうして……あんたなのよ。どうして、いつもあんたが立ちはだかるの」

「立ちはだかってなどいません。あなたが私の領地に入り込んだだけです」

私は冷静に告げた。
同情はしない。けれど、嘲笑もしない。
彼女は胸元を握りしめていた。
そこには、もう光を失った聖印の欠片があるのだろう。
依存症の禁断症状なのか、彼女の歯はガチガチと鳴り、全身が痙攣(けいれん)している。

「……殺しなさいよ」

彼女が掠(かす)れた声で笑う。

「悪女なんでしょ? ここで私を殺せば、あんたの勝ちよ。……どうせ私は、もう行く場所なんてないんだから」

自暴自棄。
彼女は私に殺されることで、最期まで「悪女の被害者」という役を全うしようとしている。
物語に依存した末路。

「……いいえ、殺しません」

私は彼女の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
白い吐息が、私たちの間で混ざり合う。

「私は悪女ではありません。ただの領主です。……領主は、行き倒れた者を保護し、罪を犯した者を法で裁きます。それだけです」

「……は?」

「あなたを殺して、悲劇のヒロインにはさせません。生きて、罪を償いなさい。……そして、誰も見ていないところで、平凡に生きなさい」

「平凡に……?」

彼女の目が揺れる。
それは彼女にとって、死刑宣告よりも恐ろしいことかもしれない。
誰からも注目されず、称賛もされず、ただ自分の足で歩くこと。
今の私にはそれが幸福だとわかるけれど、彼女には地獄に聞こえるのだろう。

「リディア様!」

レージが遅れて駆けつけてきた。
私の無事を確認し、ホッとした顔をする。
そして、倒れているミレイユを見て、冷たい目で剣の柄に手をかけた。

「……始末しますか」

「いいえ。捕縛して、王都へ引き渡すわ。……ただし、彼女の治療が終わってからね」

私は立ち上がり、空を見上げた。
雪雲が切れ、わずかに星が見え始めている。
悪女の噂は、これで終わる。
私が「悪女」という役を降り、彼女が「聖女」という役を降ろされた今、ここにあるのは、ただの雪国の日常と、法による裁きだけだ。

「……連れて行って」

レージが部下に指示を出し、ミレイユが連行されていく。
彼女はもう暴れなかった。
ただ、去り際に一度だけ私を振り返り、何かを言おうとして……結局、何も言わずに雪の中に消えていった。
その沈黙が、私たちの物語の本当の終わりだった。
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