悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第56話 執事の手放し方

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(視点:レージ)

騒動が落ち着き、夜が明ける頃。
屋敷の執務室で、私はリディア様と向かい合っていた。
暖炉の火が静かに燃えている。

「……今回の件、私の判断ミスでした」

私は深く頭を下げた。

「ミレイユの接近にもっと早く対処していれば、あなたを危険な前線に立たせずに済んだ。……執事失格です」

私はまだ、どこかで彼女を「守るべき対象」として見ていた。
彼女が前線で戦う姿を見て、誇らしいと思う反面、心臓が止まるような恐怖を感じていた。
もし、あの爆発が彼女に届いていたら。
もし、ミレイユが隠し持ったナイフで襲いかかっていたら。

「顔を上げなさい、レージ」

リディア様の声は穏やかだった。

「ミスじゃないわ。あなたは私を信じて、情報を共有してくれた。だから私も準備ができたの」

「ですが……」

「それにね、気づいたの。……守られるって、安全な場所に閉じ込められることじゃないのね」

彼女は立ち上がり、私の手を取った。
その手はまだ冷たかったが、確かな力強さがあった。

「私が転ばないように石を退けるんじゃなくて、私が転んでも起き上がれるように、そばで見ていること。……それが、今の私に必要な『守り』なの」

「……リディア様」

「だから、もう手放して。……あなたの過保護な手を」

彼女は私の手袋を、そっと引っ張った。
いつもなら拒む動作だ。
素手を見せることは、執事としての武装解除を意味するから。
だが、私は抵抗しなかった。
白い布が滑り落ち、私の素手が露(あら)わになる。

彼女はその手に自分の指を絡ませ、笑った。
その笑顔の温度が、私の凍りついた懸念を溶かしていく。

「あなたはもう、私の保護者じゃなくていいわ。……私の背中を預ける、パートナーになって」

「……パートナー」

その響きに、胸が熱くなる。
主従を超え、かといって恋人とも違う、戦友のような、共犯者のような関係。

「……承知いたしました」

私は彼女の手を握り返した。
強く、でも痛くないように。

「これからは、あなたの前を歩いて道を作るのではなく、あなたの隣で、同じ景色を見ることに致します」

「ええ、そうして。……でも、お茶を淹れるのはあなたの仕事よ?」

「もちろんです。それだけは、誰にも譲りません」

私たちが笑い合う声が、部屋に響く。
窓の外では、朝日が雪面を照らし始めていた。
私の手はもう、彼女を囲い込む檻(おり)ではない。
彼女と手を繋ぎ、共に歩んでいくための、温かい手になっていた。
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