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第57話 白夜の告白前
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ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の音が、耳の奥でうるさいほど響いている。
まるで胸の中に小さな鐘があって、それが休むことなく打ち鳴らされているみたいだ。
私は自室の鏡の前で、真新しい外套(コート)の襟を直していた。
今夜は白灯祭。
窓の外には、すでに無数の灯りが雪原に並び、幻想的なオレンジ色の川を作っている。
本来なら、領主として堂々と村へ降りていけばいい。
なのに、私の足は床に縫い付けられたように動かなかった。
(……怖い)
鏡の中の自分を見つめる。
頬が上気し、瞳が揺れている。
これは「恋」だ。
認めてしまえば簡単だ。私はレージが好きだ。
執事としてではなく、私を守り、時に突き放し、ボロボロになりながら支えてくれた一人の男として。
でも、その気持ちを認めるのが怖かった。
かつて、私は王太子セオドールを愛していた。
あの時の恋は「依存」だった。
彼に愛されることが自分の価値だと思い込み、彼に合わせて自分を殺し、結果として全てを失った。
もし、レージへの想いも同じだったら?
彼に守られる心地よさに溺れて、また自分を見失ってしまったら?
「パートナー」と言葉では言ったけれど、心のどこかで私はまだ、彼に甘えているだけなのではないか。
「……ううん」
私は首を振った。
鏡の中の私が、強い目で睨み返してくる。
違う。私はもう、あの頃の無力な令嬢じゃない。
雪の中で子供を助け、王都の広場で声を上げ、自分の足でここに立っている。
「私は、私で生きる」
小さく声に出してみる。
言葉が空気に溶け、確かな輪郭を持つ。
私は彼がいなくても生きていける。
一人でも領地を守れるし、明日を歩ける。
その「自立」の上で、それでも彼と一緒にいたいと願うなら。
それは依存ではなく、選択だ。
コンコン。
控えめなノックの音が、私の思考を現実に戻した。
「リディア様。お迎えに上がりました」
扉越しに聞こえる、穏やかなバリトンボイス。
その声を聞くだけで、胸の鼓動がまた早くなる。
でも、もう迷いはなかった。
「……入って」
レージが入ってくる。
今夜の彼は、いつもの執事服の上に、深い藍色のコートを羽織っていた。
それが雪国の夜空の色に似ていて、息を呑むほど似合っている。
「準備はよろしいですか? 皆様がお待ちです」
彼は優しく微笑み、手を差し出した。
白手袋ではなく、素手だ。
私の命令通り、彼は私の前ではもう手袋をしない。
その無骨で、温かそうな手のひら。
「ええ、行きましょう」
私は自分の手を重ねた。
温かい。
その熱が指先から伝わり、震える心臓を包み込んでくれるようだ。
戻れない覚悟はできた。
私はこの手を握ったまま、新しい関係へと踏み出すのだ。
窓の外を見上げると、白夜の空が薄く光っている。
雪の反射で青白く輝くその光は、もう冷たくも怖くもなかった。
私の隣に、彼がいるから。
心臓の音が、耳の奥でうるさいほど響いている。
まるで胸の中に小さな鐘があって、それが休むことなく打ち鳴らされているみたいだ。
私は自室の鏡の前で、真新しい外套(コート)の襟を直していた。
今夜は白灯祭。
窓の外には、すでに無数の灯りが雪原に並び、幻想的なオレンジ色の川を作っている。
本来なら、領主として堂々と村へ降りていけばいい。
なのに、私の足は床に縫い付けられたように動かなかった。
(……怖い)
鏡の中の自分を見つめる。
頬が上気し、瞳が揺れている。
これは「恋」だ。
認めてしまえば簡単だ。私はレージが好きだ。
執事としてではなく、私を守り、時に突き放し、ボロボロになりながら支えてくれた一人の男として。
でも、その気持ちを認めるのが怖かった。
かつて、私は王太子セオドールを愛していた。
あの時の恋は「依存」だった。
彼に愛されることが自分の価値だと思い込み、彼に合わせて自分を殺し、結果として全てを失った。
もし、レージへの想いも同じだったら?
彼に守られる心地よさに溺れて、また自分を見失ってしまったら?
「パートナー」と言葉では言ったけれど、心のどこかで私はまだ、彼に甘えているだけなのではないか。
「……ううん」
私は首を振った。
鏡の中の私が、強い目で睨み返してくる。
違う。私はもう、あの頃の無力な令嬢じゃない。
雪の中で子供を助け、王都の広場で声を上げ、自分の足でここに立っている。
「私は、私で生きる」
小さく声に出してみる。
言葉が空気に溶け、確かな輪郭を持つ。
私は彼がいなくても生きていける。
一人でも領地を守れるし、明日を歩ける。
その「自立」の上で、それでも彼と一緒にいたいと願うなら。
それは依存ではなく、選択だ。
コンコン。
控えめなノックの音が、私の思考を現実に戻した。
「リディア様。お迎えに上がりました」
扉越しに聞こえる、穏やかなバリトンボイス。
その声を聞くだけで、胸の鼓動がまた早くなる。
でも、もう迷いはなかった。
「……入って」
レージが入ってくる。
今夜の彼は、いつもの執事服の上に、深い藍色のコートを羽織っていた。
それが雪国の夜空の色に似ていて、息を呑むほど似合っている。
「準備はよろしいですか? 皆様がお待ちです」
彼は優しく微笑み、手を差し出した。
白手袋ではなく、素手だ。
私の命令通り、彼は私の前ではもう手袋をしない。
その無骨で、温かそうな手のひら。
「ええ、行きましょう」
私は自分の手を重ねた。
温かい。
その熱が指先から伝わり、震える心臓を包み込んでくれるようだ。
戻れない覚悟はできた。
私はこの手を握ったまま、新しい関係へと踏み出すのだ。
窓の外を見上げると、白夜の空が薄く光っている。
雪の反射で青白く輝くその光は、もう冷たくも怖くもなかった。
私の隣に、彼がいるから。
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