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第58話 白灯祭の告白
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むせ返るような蝋(ろう)の匂いと、焦げた松脂(まつやに)の香ばしさ。
村の広場は、無数の雪灯籠(ゆきどうろう)で埋め尽くされていた。
揺らめく炎が雪面をオレンジ色に染め、人々の顔を照らし出している。
「領主様! こっちです!」
「今年の焼き菓子は最高だぞ!」
村人たちが口々に声をかけ、私たちに道を譲る。
私は笑顔で応えながら、レージと共に灯りの回廊を歩いた。
かつては「悪女」と呼ばれ、石を投げられた私が、今はこうして温かい光の中にいる。
それが奇跡のように思えて、目頭が熱くなった。
一通りの挨拶を終え、私たちは喧騒(けんそう)から少し離れた丘の上に立った。
ここからは、村全体の灯りが一望できる。
まるで地上に降りた天の川のようだ。
「……綺麗ですね」
隣でレージが呟く。
彼の横顔が、炎の光で陰影を帯びて美しい。
私はコートのポケットの中で、拳をギュッと握りしめた。
言うなら、今だ。
この美しい光の中で、私の言葉で、これからの未来を選び取りたい。
「レージ」
「はい」
「私、嘘をついていたわ」
彼が驚いてこちらを見る。
「無能なふりをしていたことじゃないわ。……もっと、根本的なこと」
私は一度息を吸い込み、冷たい空気を肺に入れた。
声が震えないように。
「私、一人でも生きていけるなんて思っていた。あなたがいなくても、領主としてやっていけるって」
「……リディア様」
「でも、それは違うの。……できるけど、したくないの」
私は彼の方へ向き直った。
彼の瞳に、私の姿が映っている。
逃げない。逸らさない。
「私は、あなたと生きたい。執事としてじゃなく、共犯者としてじゃなく。……私の人生の、たった一人のパートナーとして」
言ってしまった。
世界が変わる音がした気がした。
主従という安全な壁が崩れ落ち、ただの男と女が雪の上に立っている。
拒絶されたらどうしよう。
「執事の一線を越えられません」と言われたら。
恐怖で膝が笑いそうになる。
でも、私は続けた。
「私はあなたが好きなの、レージ。……あなたが私を『守る対象』としてしか見ていなくても、私はあなたを『愛する人』として見ているわ」
沈黙が痛い。
風の音だけがヒュウと鳴る。
レージは彫像のように固まっていたが、やがてその表情が崩れた。
いつも冷静な彼が、見たこともないほど動揺している。
「……あ」
彼の手が震えていた。
行き場をなくしたように空を彷徨い、やがて自分の顔を覆う。
指の隙間から、赤い耳が見えた。
「……参りました。完全に、不意打ちです」
震える声。
彼はゆっくりと手を下ろし、私を見た。
その瞳は潤んでいて、どうしようもないほどの熱情が宿っていた。
「私の仮面を、あなたは粉々に壊してしまう」
彼は一歩近づいてきた。
素手の温かさが、私の頬に触れる。
蝋の匂いと、彼の匂いが混じり合う。
言葉を取り戻した私が手に入れたのは、この温もりだったのだ。
村の広場は、無数の雪灯籠(ゆきどうろう)で埋め尽くされていた。
揺らめく炎が雪面をオレンジ色に染め、人々の顔を照らし出している。
「領主様! こっちです!」
「今年の焼き菓子は最高だぞ!」
村人たちが口々に声をかけ、私たちに道を譲る。
私は笑顔で応えながら、レージと共に灯りの回廊を歩いた。
かつては「悪女」と呼ばれ、石を投げられた私が、今はこうして温かい光の中にいる。
それが奇跡のように思えて、目頭が熱くなった。
一通りの挨拶を終え、私たちは喧騒(けんそう)から少し離れた丘の上に立った。
ここからは、村全体の灯りが一望できる。
まるで地上に降りた天の川のようだ。
「……綺麗ですね」
隣でレージが呟く。
彼の横顔が、炎の光で陰影を帯びて美しい。
私はコートのポケットの中で、拳をギュッと握りしめた。
言うなら、今だ。
この美しい光の中で、私の言葉で、これからの未来を選び取りたい。
「レージ」
「はい」
「私、嘘をついていたわ」
彼が驚いてこちらを見る。
「無能なふりをしていたことじゃないわ。……もっと、根本的なこと」
私は一度息を吸い込み、冷たい空気を肺に入れた。
声が震えないように。
「私、一人でも生きていけるなんて思っていた。あなたがいなくても、領主としてやっていけるって」
「……リディア様」
「でも、それは違うの。……できるけど、したくないの」
私は彼の方へ向き直った。
彼の瞳に、私の姿が映っている。
逃げない。逸らさない。
「私は、あなたと生きたい。執事としてじゃなく、共犯者としてじゃなく。……私の人生の、たった一人のパートナーとして」
言ってしまった。
世界が変わる音がした気がした。
主従という安全な壁が崩れ落ち、ただの男と女が雪の上に立っている。
拒絶されたらどうしよう。
「執事の一線を越えられません」と言われたら。
恐怖で膝が笑いそうになる。
でも、私は続けた。
「私はあなたが好きなの、レージ。……あなたが私を『守る対象』としてしか見ていなくても、私はあなたを『愛する人』として見ているわ」
沈黙が痛い。
風の音だけがヒュウと鳴る。
レージは彫像のように固まっていたが、やがてその表情が崩れた。
いつも冷静な彼が、見たこともないほど動揺している。
「……あ」
彼の手が震えていた。
行き場をなくしたように空を彷徨い、やがて自分の顔を覆う。
指の隙間から、赤い耳が見えた。
「……参りました。完全に、不意打ちです」
震える声。
彼はゆっくりと手を下ろし、私を見た。
その瞳は潤んでいて、どうしようもないほどの熱情が宿っていた。
「私の仮面を、あなたは粉々に壊してしまう」
彼は一歩近づいてきた。
素手の温かさが、私の頬に触れる。
蝋の匂いと、彼の匂いが混じり合う。
言葉を取り戻した私が手に入れたのは、この温もりだったのだ。
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