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終焉
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桜をいいなと思い始めたのは、実年齢が80を超えてからだった。
ガキの頃は、桜なんて気にした事もなかった。
何に惹かれたのか、実は、今でもよくわかっていない。
もしかしたら、単なる懐郷病かもしれない。
もしかしたら、純粋に、その儚さに憧れたのかもしれない。
もしかしたら……
うん。理由は分からない。
ただ――
★
1000人のセンに、サイケルは囲まれていた。
※ (神の数え方は、『人』でも『柱』でもいいって事にしていただきたく)
サイケルを囲んでいる1000人のセンは、全員、サイケルに冷たい視線を送っている。
(影分身? オーラドール? ……違う……これは、なんだ?)
サイケルは、目線を何度も往復させて、1000人のセン、その一人一人を睨みつける。
困惑しているサイケルに、センは言う。
「……裏閃流、秘奥義『閃舞千本桜』。80秒しか同調できない、俺の異次元同一体。ようするに、ぜんぶ俺だ。人形でも分身でもない。まぎれもない俺自身」
「ま、まさか……」
虚偽だとは言えなかった。
感じてしまったから。
一人一人が、確かな威圧感を放っている。
彼らは、一人一人が、まぎれもなく、舞い散る閃光。
「……く、狂っている……」
「そうでもないさ。同調するだけなら、さほど難しくない。お前も使えると思うぜ。つぅか、究極超神で、この程度の技が使えないヤツは一人もいない」
時空系と次元系の魔法を組み合わせる応用技。
簡単ではないが、神であれば出来ない技ではない。
「ただ、混線する無意識を統一するのに、俺は250年かかった。知り合いの一人は、万年単位で修行していながら、いまだに700体の制御しか出来ていない。……さて、お前は『お前』を何体制御できるかな」
「……」
「やらないのか? もしかして、やり方がわからないか? はっ、だろうな。なんだってそうさ。『可能性がある』と『出来る』は概念レベルで全く違う。……もちろん、やり方を教えてやったりはしねぇぞ? 当たり前だろ? 俺は神の号を名乗った。つまり、『ここから先の俺』は明確な『お前の敵』だ。塩の一粒たりとも、おくりはしない」
「……てき……きさまが……私の……てき?」
改めて認識すると、脳味噌に穴が開いたような気分になった。
スゥウっと背筋が凍る。
センは、サイケルの覚悟が固まるのを待ったりしない。
問答無用で、
「さあ、行くぞ。全力で……心をこめて……」
全てのセンが、一斉に、両手で印を組む。
「「「「「「「「――【センの創世日記】――」」」」」」」」」
――次の瞬間、サイケルは、違う世界にいた――
荒野と草原と海が混ざっている砂漠。
上を見れば、青空とオーロラ。
そのさらに上には、敷き詰められた満点の星。
朝で、昼で、夜だった。
乱反射している鏡の虹と、クルクル踊っている流星。
「ぁ??!!!」
狂った世界だった。
ただ広大で、何もないのに、全てが詰め込まれていると、暴力的に理解させてくる、イカれた時空。
(世界を創ったのか……神ならばおかしくはない。おそらく、私だって、その気になれば可能……それはいい、それはいいのだ……が……これはどういう世界だ?)
いくつもの世界が無秩序にばらまかれているようで、しかし、どこか不思議に調和している。
存在しているだけで、脳がバグりそうな世界。
「ここは、牢獄。無数の世界で出来た檻」
「……センエース! 私の前に立つ神よ! どこだ? どこにいる?!」
「86000のアルファ。――大きさと密度だけならば、現存する『世界全て』をも上回る多元領域」
センが創造した『虚無界』の広大さは異常。
規模だけならば、『現実世界』を超えている。
あくまでも、規模だけに限定した話ではあるが、しかし、間違いなく、この『サイケルを閉じ込めるためだけに創られた世界』の方が、実在する全宇宙よりも大きいのだ。
「その全てを超速圧縮させて、お前を潰す」
その発言を聞いて、サイケルは、クラっとした。
センが口にした内容の『途方も無さ』に、ただただ言葉を失った。
センは、続けて言う。
「終わらない恐怖を教えてやるよ。俺が散々味わってきた絶望を知るがいい」
声が終わると、
1000人のセンが合唱。
「「「「「「「――【弧虚炉こころ 天螺あまら 終焉加速】――」」」」」」」
次元震が起きた。
強制的なビッグクランチ(超大収縮)。
その連鎖。
「ぁ――」
サイケルを包んでいた86000の断層世界が、一瞬で、一対の素粒子にまで圧縮された。
最初の0と1。
そこからさらに小さくなっていく。
破れて、重なって、崩れて、もっと、もっと奥へ。
終わりなく無に近づいていく。
生じたのは、サイケルが望んでいた、全てが一になる瞬間を包む、極小の泡。
悲鳴をあげるまでもなく崩壊してしまったサイケルの肉体。
圧縮されたコスモスの深部で、数え切れないほどの再生を繰り返すサイケルの魂魄。
オメガ無矛盾を殺す、有機的なカオス。
何も書かれていないラクガキという秩序。
注視すれば前衛芸術、俯瞰図ではただの二次関数グラフ。
――やがて、肉体の再生が追いつかなくなり、
// ……あれは……コスモゾーンか…… //
サイケルの『一次的に得た、本物の多角性を有する無意識』が、終着点を垣間見た。
神の視点。
形而上の観測。
死が収束する無次元の特異点。
タイプ8の価値観。
『ここではないどこか』しかない世界で、永遠に踊り続ける。
無限の死を感じた。
とてつもない恐怖が込みあがってくる。
輪郭が円よりも丸くなっていく。
直線が実現する。
一秒が膨張していく。
億倍速で見る興奮時の脳波みたいに、死と再生が超短期の間で幾度となく繰り返される、そんな無間地獄の途中で、
サイケルは、『神域に至った無意識』を狩られたのを感じた。
//まだ――殺す気か――もう――やめて――//
センは、止まらない。
まだ、神の一手は終わっていない。
サイケルの精神体を抽象化させて、
また、全員で合唱。
「「「「「「――『余威よいの鴉からすと虚数殺し』――」」」」」」
グリムアーツを放った。
一見、ただの、空くうを握るアイアンクロー。
千人のセンが、それぞれ、何もない場所を掴んだだけ。
だが、
//……今、どれだけの私が死んだ……というより……私の何が死んだ……//
果てない暗闇。
宵の銃牙が謳うたう弾奏。
『凍える朝焼け』だけが繰り返されては霧散する。
ゼロの奥底に閉じ込められて、終わらない死をつきつけられる。
限りなく永遠に近い一瞬が、
幾度となく、何度となく、ただただ、延々に、
――繰り返される。
//オオオオオオオオオオオオ//
続く、続く、つづく、地獄。
廻って、廻って、廻って、
だけれど、まだ、それなのに、どうして、続く、
無限を彷彿させる地獄の中で、
// ……アイサレ…… //
// ……タカッタノ…… //
深部の底で、ほんのわずかに、すくいあげられた心。
全部とっぱらった奥に残った、一番純粋な気持ち。
すべてを一つにすれば、もしかして……なんて、そんなクダラナ――
――ふいに、
サァアアアアア……
っと、暗闇が晴れた。
風景を取り戻す。
滅んだ無人都市。
――風が吹いていたんだ。
「ぁ……ぁあ……」
気付いた時には、ほとんどが灰と化した真っ白なサイケルが、無人都市の道路で横たわっていた。
蘇生が追いつかず、末端から崩れていく。
再生と破壊が、サイケルの中を何度も何度もループする。
「――ころし……て……」
全ては、たった8秒の出来ごとだった。
が、センによって、強制的に心的時間を引き延ばされていたため、サイケルが体感した地獄の尺度は20億年を超えていた(カウントされた数字ではないため、正式に断言する事はできないが、サイケルに聞いた時、『このくらいだった』と答える数字の範囲が20億年オーバー)。
「……私に……死を……どうか……」
潰れた声で、そう懇願するサイケルの耳元で、
サイケルの事などガン無視して、センは、
「アダム」
その奥にいるアダムに声をかける。
「お前は今まで頑張ってきた。今も頑張っているのは知っている。全て理解した上で、これから俺は、お前に命じる」
どこまでも厳しい命令。
センは言う。
「もともと買ってはいたが、今回の件で、俺はお前を完全に認めた。俺はお前が、お前で在り続ける事を望む。だから、俺のために」
――まだ、頑張れ――
ビシィ……
と、何かがヒビ割れる音がした。
サイケルの外殻が割れた音。
ヒビはビシビシと広がっていって、ついには、そのカラを砕く。
奥から――
「……おおせの……ままに」
全身ズクズクで、原形をとどめていない、デカいアメーバが這い出してきた。
センは、その不定形の塊を、
「よく頑張った。偉いぞ」
やさしく抱きしめて、そう言った。
ガキの頃は、桜なんて気にした事もなかった。
何に惹かれたのか、実は、今でもよくわかっていない。
もしかしたら、単なる懐郷病かもしれない。
もしかしたら、純粋に、その儚さに憧れたのかもしれない。
もしかしたら……
うん。理由は分からない。
ただ――
★
1000人のセンに、サイケルは囲まれていた。
※ (神の数え方は、『人』でも『柱』でもいいって事にしていただきたく)
サイケルを囲んでいる1000人のセンは、全員、サイケルに冷たい視線を送っている。
(影分身? オーラドール? ……違う……これは、なんだ?)
サイケルは、目線を何度も往復させて、1000人のセン、その一人一人を睨みつける。
困惑しているサイケルに、センは言う。
「……裏閃流、秘奥義『閃舞千本桜』。80秒しか同調できない、俺の異次元同一体。ようするに、ぜんぶ俺だ。人形でも分身でもない。まぎれもない俺自身」
「ま、まさか……」
虚偽だとは言えなかった。
感じてしまったから。
一人一人が、確かな威圧感を放っている。
彼らは、一人一人が、まぎれもなく、舞い散る閃光。
「……く、狂っている……」
「そうでもないさ。同調するだけなら、さほど難しくない。お前も使えると思うぜ。つぅか、究極超神で、この程度の技が使えないヤツは一人もいない」
時空系と次元系の魔法を組み合わせる応用技。
簡単ではないが、神であれば出来ない技ではない。
「ただ、混線する無意識を統一するのに、俺は250年かかった。知り合いの一人は、万年単位で修行していながら、いまだに700体の制御しか出来ていない。……さて、お前は『お前』を何体制御できるかな」
「……」
「やらないのか? もしかして、やり方がわからないか? はっ、だろうな。なんだってそうさ。『可能性がある』と『出来る』は概念レベルで全く違う。……もちろん、やり方を教えてやったりはしねぇぞ? 当たり前だろ? 俺は神の号を名乗った。つまり、『ここから先の俺』は明確な『お前の敵』だ。塩の一粒たりとも、おくりはしない」
「……てき……きさまが……私の……てき?」
改めて認識すると、脳味噌に穴が開いたような気分になった。
スゥウっと背筋が凍る。
センは、サイケルの覚悟が固まるのを待ったりしない。
問答無用で、
「さあ、行くぞ。全力で……心をこめて……」
全てのセンが、一斉に、両手で印を組む。
「「「「「「「「――【センの創世日記】――」」」」」」」」」
――次の瞬間、サイケルは、違う世界にいた――
荒野と草原と海が混ざっている砂漠。
上を見れば、青空とオーロラ。
そのさらに上には、敷き詰められた満点の星。
朝で、昼で、夜だった。
乱反射している鏡の虹と、クルクル踊っている流星。
「ぁ??!!!」
狂った世界だった。
ただ広大で、何もないのに、全てが詰め込まれていると、暴力的に理解させてくる、イカれた時空。
(世界を創ったのか……神ならばおかしくはない。おそらく、私だって、その気になれば可能……それはいい、それはいいのだ……が……これはどういう世界だ?)
いくつもの世界が無秩序にばらまかれているようで、しかし、どこか不思議に調和している。
存在しているだけで、脳がバグりそうな世界。
「ここは、牢獄。無数の世界で出来た檻」
「……センエース! 私の前に立つ神よ! どこだ? どこにいる?!」
「86000のアルファ。――大きさと密度だけならば、現存する『世界全て』をも上回る多元領域」
センが創造した『虚無界』の広大さは異常。
規模だけならば、『現実世界』を超えている。
あくまでも、規模だけに限定した話ではあるが、しかし、間違いなく、この『サイケルを閉じ込めるためだけに創られた世界』の方が、実在する全宇宙よりも大きいのだ。
「その全てを超速圧縮させて、お前を潰す」
その発言を聞いて、サイケルは、クラっとした。
センが口にした内容の『途方も無さ』に、ただただ言葉を失った。
センは、続けて言う。
「終わらない恐怖を教えてやるよ。俺が散々味わってきた絶望を知るがいい」
声が終わると、
1000人のセンが合唱。
「「「「「「「――【弧虚炉こころ 天螺あまら 終焉加速】――」」」」」」」
次元震が起きた。
強制的なビッグクランチ(超大収縮)。
その連鎖。
「ぁ――」
サイケルを包んでいた86000の断層世界が、一瞬で、一対の素粒子にまで圧縮された。
最初の0と1。
そこからさらに小さくなっていく。
破れて、重なって、崩れて、もっと、もっと奥へ。
終わりなく無に近づいていく。
生じたのは、サイケルが望んでいた、全てが一になる瞬間を包む、極小の泡。
悲鳴をあげるまでもなく崩壊してしまったサイケルの肉体。
圧縮されたコスモスの深部で、数え切れないほどの再生を繰り返すサイケルの魂魄。
オメガ無矛盾を殺す、有機的なカオス。
何も書かれていないラクガキという秩序。
注視すれば前衛芸術、俯瞰図ではただの二次関数グラフ。
――やがて、肉体の再生が追いつかなくなり、
// ……あれは……コスモゾーンか…… //
サイケルの『一次的に得た、本物の多角性を有する無意識』が、終着点を垣間見た。
神の視点。
形而上の観測。
死が収束する無次元の特異点。
タイプ8の価値観。
『ここではないどこか』しかない世界で、永遠に踊り続ける。
無限の死を感じた。
とてつもない恐怖が込みあがってくる。
輪郭が円よりも丸くなっていく。
直線が実現する。
一秒が膨張していく。
億倍速で見る興奮時の脳波みたいに、死と再生が超短期の間で幾度となく繰り返される、そんな無間地獄の途中で、
サイケルは、『神域に至った無意識』を狩られたのを感じた。
//まだ――殺す気か――もう――やめて――//
センは、止まらない。
まだ、神の一手は終わっていない。
サイケルの精神体を抽象化させて、
また、全員で合唱。
「「「「「「――『余威よいの鴉からすと虚数殺し』――」」」」」」
グリムアーツを放った。
一見、ただの、空くうを握るアイアンクロー。
千人のセンが、それぞれ、何もない場所を掴んだだけ。
だが、
//……今、どれだけの私が死んだ……というより……私の何が死んだ……//
果てない暗闇。
宵の銃牙が謳うたう弾奏。
『凍える朝焼け』だけが繰り返されては霧散する。
ゼロの奥底に閉じ込められて、終わらない死をつきつけられる。
限りなく永遠に近い一瞬が、
幾度となく、何度となく、ただただ、延々に、
――繰り返される。
//オオオオオオオオオオオオ//
続く、続く、つづく、地獄。
廻って、廻って、廻って、
だけれど、まだ、それなのに、どうして、続く、
無限を彷彿させる地獄の中で、
// ……アイサレ…… //
// ……タカッタノ…… //
深部の底で、ほんのわずかに、すくいあげられた心。
全部とっぱらった奥に残った、一番純粋な気持ち。
すべてを一つにすれば、もしかして……なんて、そんなクダラナ――
――ふいに、
サァアアアアア……
っと、暗闇が晴れた。
風景を取り戻す。
滅んだ無人都市。
――風が吹いていたんだ。
「ぁ……ぁあ……」
気付いた時には、ほとんどが灰と化した真っ白なサイケルが、無人都市の道路で横たわっていた。
蘇生が追いつかず、末端から崩れていく。
再生と破壊が、サイケルの中を何度も何度もループする。
「――ころし……て……」
全ては、たった8秒の出来ごとだった。
が、センによって、強制的に心的時間を引き延ばされていたため、サイケルが体感した地獄の尺度は20億年を超えていた(カウントされた数字ではないため、正式に断言する事はできないが、サイケルに聞いた時、『このくらいだった』と答える数字の範囲が20億年オーバー)。
「……私に……死を……どうか……」
潰れた声で、そう懇願するサイケルの耳元で、
サイケルの事などガン無視して、センは、
「アダム」
その奥にいるアダムに声をかける。
「お前は今まで頑張ってきた。今も頑張っているのは知っている。全て理解した上で、これから俺は、お前に命じる」
どこまでも厳しい命令。
センは言う。
「もともと買ってはいたが、今回の件で、俺はお前を完全に認めた。俺はお前が、お前で在り続ける事を望む。だから、俺のために」
――まだ、頑張れ――
ビシィ……
と、何かがヒビ割れる音がした。
サイケルの外殻が割れた音。
ヒビはビシビシと広がっていって、ついには、そのカラを砕く。
奥から――
「……おおせの……ままに」
全身ズクズクで、原形をとどめていない、デカいアメーバが這い出してきた。
センは、その不定形の塊を、
「よく頑張った。偉いぞ」
やさしく抱きしめて、そう言った。
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