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「いやな、うちに若い冒険者パーティーがきてさぁ、お前がモンハウからそいつら助けたっていうからよぉ」

 神父はそう言って通路の奥を見つめた。

 ぐちゃり……と嫌な音が聞こえる。
 以前、スタンピードの時に聞いたことのある咀嚼音だ。

「セシリア、お前は見るな」
「ぅあ……」

 セシリアを抱き寄せ、目線が後ろに行かないようにする。
 俺が肩越しに見たのは、神父の魔法からギリで逃れたモンスターがトレインマンを食う姿だ。

 難を逃れたといっても重症だ。だけどモンスターは恐怖に震えることもなければ、怯えることも、増して逃げることすらしない。
 ただ目の前にある獲物を食うことしか頭にないようだ。

「"ホーリー・ライト"」

 神父が無詠唱で魔法を放ち、モンスターは塵と化した。
 魔力四桁は伊達じゃねえようだな。

「──けて……たす……け」

 一時停止の時間はとっくに終わっている。
 こうなるように、俺は仕向けたんだ。だから後ろから追って来るトレインマンが最初に追加で持って来たモンスターには、一時停止を使わなかった。
 俺とセシリアが魔法陣を使う僅かな時間でも稼ぐために、そう思って最後のあの瞬間だけはスキルを使わなかったんだ。

「た、のむ……死に……た、く、ない」

 手足はもうない。全部食われちまっている。
 よくもまぁ生きているもんだ。

「死に、たく、な、い」
「お前……なんのリスクもなく、モンスタートレインなんて出来ると思ったのか」
「いだ、ぃ……ぐるじぃ……」
「人が死ぬような状況を作っておいて、あんだけ笑ってたじゃねえか! 他人は死んでも、自分だけは死なないと思っていたのかよっ」

 俺とセシリアが助けたパーティーは、もしかすると状況が分からないままモンスターに喰われていたかもしれない。
 そんな状況を、あいつは作ったんだ。
 顔を歪めて笑いながら、誰かが困ることを──誰かが死ぬかもしれないことを楽しんだんだ。

「自分が死にそうだからって『助けてください』は勝手過ぎるだ──」
『ルゴアアァッ』

 バクん──と、通路の奥から恐竜みたいなモンスターが現れ、トレインマンを丸飲みにした。
 
「あ……」
「あぁあ。ありゃこの階層のレアモンスターだ。強ぇーぞ」
「レアモンッ。とま──」
「"ジャッジメント"」

 隣で神父がそう呟くと、何十もの光の筋が恐竜めがけて飛んで行った。

『ギォアアァァァァッ』

 光に貫かれた恐竜がそのままどろりと溶ける。
 え、あの一発で死んだ?
 いや一発っていうか十発以上あったけど。

「あの、生臭……強いモンスターじゃないのか?」
この・・階層の中では強いモンスターだぜ」
「今ドヤった?」
「お、わっかるー? ところでリヴァちゃぁーん。お嬢ちゃんとお手てぎゅーしてるけどぉ」

 くっ。ニマニマといやらしい顔でこっち見やがって。
 けど今は離せない。
 セシリアが震えている間は、握っててやらないと。

「それとなリヴァ。さっきの事は気にすんなよ」
「さっき……別に、気にしてなんかいないさ。あのトレインマン、モンハウ作って人を殺そうとしたんだろうし」
「たまにいるんだよ、あぁいう奴が」

 そう言って神父は恐竜のいた場所へと向かった。
 そこには予想外なほどにドロップアイテムが……ドロップか、あれ?
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