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「マリアンさんが素材の収集依頼を出し、それをリヴァさんとセシリアさんに受けて頂くのですね」
「えぇ、そうよ。この子たちにちょーっと奮発してあげたから、見返りに素材を獲って来て貰おうと思ってぇ」
「あぁ、前借ですね」
「んふふ、そういうこと」
マリアン店長がギルドに素材収集依頼を、冒険者指定で出す。
しかしなんでわざわざギルドを通す必要があるんだろうか。素材を獲ってこいってんなら、別に依頼として受けなくたって持って来てやるのに。どうせダンジョンには行くんだからさ。
それより、ギルドを通すことで仲介料を取られるだろうに。
「それじゃあ詳しい依頼内容をお話しましょうかしらん?」
「あぁ、頼むよ。どの素材が必要なんだ」
「キックバードの羽根と皮、それとルガーウルフの毛皮をお願い。それぞれ五枚あると嬉しいかしら」
知らないモンスターだな。まぁ十五階はまだ行ったことないし、そこに生息しているなら狩りまくればいい。
「でもただのキックバードがルガーウルフじゃないのよん」
「ただの……ん?」
「その先は私がご説明いたしますね。ダンジョンに生息するモンスターは、同一種でしたら個体差はまったくございません。見た目もステータスもまったく一緒なんです」
ギルド職員がそう言って本を開いた。
モンスターの絵が描かれた本だ。
「ダンジョンモンスターはダンジョンそのものが生成していると言われています。生成された時から大人のサイズで、年を取ることもありません」
「不老ってことか」
「対して地上のモンスターは卵から孵化する種もいれば、出産によって生まれる種もいます。生まれるのはもちろん赤ん坊です。体は小さく、力も弱い」
まぁ別におかしな話じゃない。ダンジョンモンスターが本来おかしな存在なんだ。
ダンジョンモンスターは地上のモンスターのコピー品。そのコピー元が一体であれば、その一体とまったく同じものがリポップし続けているだけ。
そう言われれば納得出来る。
「ご存じの通り、ダンジョンモンスターは死ねば溶けて地面に吸収されます。それゆえ、素材を剥ぐことも出来ません」
「代わりにドロップするんだろ?」
「えぇ。しかしドロップも確実ではありませんし、同じ素材の品質レアを落す確率はかなり低いのです」
しかも生息階層も限られているため、万が一狩場の独占でもされようものなら……。
つまり今このダンジョンでは、それが行われているらしい。
「一部の大きなクランになるとぉ、職人を抱き込むなんて当たり前なのよん。需要のある素材を独占し、市場価格を操作。値が吊り上がったところで、貯め込んだ素材で作った武具を売り出せば──」
「ボロ儲け出来るってことか」
「そういうことよん。ほぉんともう、嫌になっちゃうわよぉ」
この町で需要のあるレベル帯の素材を落す狩場が、ことごとく独占されているのが今の状態だ。
おかげで既存の素材や装備の価格まで値上がりしているし、まったく関係のない素材の値段まで釣り上げる業者もいるっていう。
市場価格をなんとか戻したい。それで俺と専属契約を結ばせてくれということだ。
何故俺なのか──
「だってあなた、あの『紅の翼』のスティアンを蹴ったんでしょう。アタシもねぇ、あの子は嫌いなのよぉん。貴族の次男坊で、お高くとまってるのが鼻につくのよねん」
「そんな理由で俺なのか」
「大事なことよん。素材の独占をしているのが、その紅の翼なのだからぁん」
なるほど、そういうことか。
「アタシが欲しいのはレア物ヨん。同じキックバードでも羽根色の違う奴がいるのよ。ルガーウルフもそう」
百羽に一羽。そのぐらいの確率で生まれてくるモンスターの素材が狙いだ。
結構厳しい数字だな。
1%と言えばそう悪くないようにも聞こえるけど、実際同種のモンスターがその数で群れているとも思えない。
いたとしても五枚欲しいんだ。百羽の群れを五つ見つけなくちゃならないってことで……。
「んふふ。心配しないのぉ。五枚とは言ったけど、それはあくまで希望の数。実際は取れた数だけでいいわ」
「なるほど、それならまぁ」
「受けてくれるなら、期間は三カ月よん」
「キックバードの生息地はこちらでもある程度把握しているのですが、ルガーウルフは目撃情報が少なくて……それで三カ月という期間が設定されます」
つまり依頼を受けている間は、俺は地上に出たままでいられるってことだ。
ただし期日までに戻ってこなければ、冒険者カードに付与された力で強制送還させられる。
その上、冒険者カード剥奪、地下の資源企画で強制労働だ。
「結構厳しいな。獲物を探すのに手間取ってると、素材を剥ぎ取ることもできないままつれもどされることになしそうだ」
「んふ」
隣でじっと黙って聞いていたセシリアが、突然声を漏らした。
それから俺を見て、笑みを浮かべる。
もしかして、獲物となるモンスターのことを知っているのか?
「えぇ、そうよ。この子たちにちょーっと奮発してあげたから、見返りに素材を獲って来て貰おうと思ってぇ」
「あぁ、前借ですね」
「んふふ、そういうこと」
マリアン店長がギルドに素材収集依頼を、冒険者指定で出す。
しかしなんでわざわざギルドを通す必要があるんだろうか。素材を獲ってこいってんなら、別に依頼として受けなくたって持って来てやるのに。どうせダンジョンには行くんだからさ。
それより、ギルドを通すことで仲介料を取られるだろうに。
「それじゃあ詳しい依頼内容をお話しましょうかしらん?」
「あぁ、頼むよ。どの素材が必要なんだ」
「キックバードの羽根と皮、それとルガーウルフの毛皮をお願い。それぞれ五枚あると嬉しいかしら」
知らないモンスターだな。まぁ十五階はまだ行ったことないし、そこに生息しているなら狩りまくればいい。
「でもただのキックバードがルガーウルフじゃないのよん」
「ただの……ん?」
「その先は私がご説明いたしますね。ダンジョンに生息するモンスターは、同一種でしたら個体差はまったくございません。見た目もステータスもまったく一緒なんです」
ギルド職員がそう言って本を開いた。
モンスターの絵が描かれた本だ。
「ダンジョンモンスターはダンジョンそのものが生成していると言われています。生成された時から大人のサイズで、年を取ることもありません」
「不老ってことか」
「対して地上のモンスターは卵から孵化する種もいれば、出産によって生まれる種もいます。生まれるのはもちろん赤ん坊です。体は小さく、力も弱い」
まぁ別におかしな話じゃない。ダンジョンモンスターが本来おかしな存在なんだ。
ダンジョンモンスターは地上のモンスターのコピー品。そのコピー元が一体であれば、その一体とまったく同じものがリポップし続けているだけ。
そう言われれば納得出来る。
「ご存じの通り、ダンジョンモンスターは死ねば溶けて地面に吸収されます。それゆえ、素材を剥ぐことも出来ません」
「代わりにドロップするんだろ?」
「えぇ。しかしドロップも確実ではありませんし、同じ素材の品質レアを落す確率はかなり低いのです」
しかも生息階層も限られているため、万が一狩場の独占でもされようものなら……。
つまり今このダンジョンでは、それが行われているらしい。
「一部の大きなクランになるとぉ、職人を抱き込むなんて当たり前なのよん。需要のある素材を独占し、市場価格を操作。値が吊り上がったところで、貯め込んだ素材で作った武具を売り出せば──」
「ボロ儲け出来るってことか」
「そういうことよん。ほぉんともう、嫌になっちゃうわよぉ」
この町で需要のあるレベル帯の素材を落す狩場が、ことごとく独占されているのが今の状態だ。
おかげで既存の素材や装備の価格まで値上がりしているし、まったく関係のない素材の値段まで釣り上げる業者もいるっていう。
市場価格をなんとか戻したい。それで俺と専属契約を結ばせてくれということだ。
何故俺なのか──
「だってあなた、あの『紅の翼』のスティアンを蹴ったんでしょう。アタシもねぇ、あの子は嫌いなのよぉん。貴族の次男坊で、お高くとまってるのが鼻につくのよねん」
「そんな理由で俺なのか」
「大事なことよん。素材の独占をしているのが、その紅の翼なのだからぁん」
なるほど、そういうことか。
「アタシが欲しいのはレア物ヨん。同じキックバードでも羽根色の違う奴がいるのよ。ルガーウルフもそう」
百羽に一羽。そのぐらいの確率で生まれてくるモンスターの素材が狙いだ。
結構厳しい数字だな。
1%と言えばそう悪くないようにも聞こえるけど、実際同種のモンスターがその数で群れているとも思えない。
いたとしても五枚欲しいんだ。百羽の群れを五つ見つけなくちゃならないってことで……。
「んふふ。心配しないのぉ。五枚とは言ったけど、それはあくまで希望の数。実際は取れた数だけでいいわ」
「なるほど、それならまぁ」
「受けてくれるなら、期間は三カ月よん」
「キックバードの生息地はこちらでもある程度把握しているのですが、ルガーウルフは目撃情報が少なくて……それで三カ月という期間が設定されます」
つまり依頼を受けている間は、俺は地上に出たままでいられるってことだ。
ただし期日までに戻ってこなければ、冒険者カードに付与された力で強制送還させられる。
その上、冒険者カード剥奪、地下の資源企画で強制労働だ。
「結構厳しいな。獲物を探すのに手間取ってると、素材を剥ぎ取ることもできないままつれもどされることになしそうだ」
「んふ」
隣でじっと黙って聞いていたセシリアが、突然声を漏らした。
それから俺を見て、笑みを浮かべる。
もしかして、獲物となるモンスターのことを知っているのか?
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