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「──て訳でしばらくここには来れそうにない」
「はぁー。えらくすぐ戻って来たと思ったら、そういう事か。まぁよかったじゃねーか。暫く上を満喫できるぞ」
依頼を受けた後、食料、衣類、寝具と買い込んで地下の教会へ。買ったのは子供たち用のものだ。
それと大きな桶を二つと石鹸、洗髪剤も買い込んだ。樽が二つなのはそれをマリアンの店で買った時にアドバイスされたからだ。
「一つにはお湯をたぁーっぷり用意するの。もう一つはすこーしでいいのよ。すこーしの方に入って髪、体を洗ったら、たっぷり溜めた方からお湯を汲んで洗い流す。風呂場がない家庭はこうやって使うこともあるのよん。まぁ水の魔石を使わなきゃ、水汲みで力尽きちゃうけどねぇん」
そう教えて貰った。
水を沸かす方法は、火の魔石で可能──というのも聞いた。
水も火も、魔石は十分にある。
「無茶すんじゃねーぞ。上は下と違って、イレギュラーなことだらけだからな」
「分かってる──といいたいけど、実際行ってみなきゃなんも分からねえよ」
「そりゃそうだ。セシリアちゃんの言う事ちゃーんと聞いて、良い子にしてりゃいいのさ」
俺はガキかよ。
「セシリアちゃん、このガキ頼むわ」
「はい!」
元気よく返事するセシリアが小憎たらしい。
「お、そうだそうだ。ちょっと待ってろ。遠出するならいいもん貸してやろう」
そういって神父は自分の部屋に行き、なにやらごそごそと音がした後戻って来た。
手には指輪が二つと、ビー玉を三つ持っていた。
「こっちは『帰還の指輪』だ。俺が使う『帰還』魔法と同じで、指輪を使うとこの教会に瞬間移動できる」
「へぇ。じゃあ帰りはそれを使えば、あっという間だな」
「あぁ。で、こっちの指輪は『転移の指輪』だ。魔術師の使う転移魔法と同じ原理なんだが、使い方がちょーっと違うからよく聞け」
転移魔法というのは、術者が自分の魔力をマーキングさせた場所に瞬間移動するという魔法だ。
魔術師でもない者にはそれが出来ない。代わりにこのビー玉だ。
「この玉一つに一カ所、位置を記憶させることが出来る。上書きも可能だから、うまく使えば狩場の移動も楽になるぞ」
「やったぜ。サンキュー、ありがたく貰っとくぜ」
「はっはっは。このクソガキ、やるとは言ってないだろ、やるとは」
いやいや、これはもう貰うっきゃないでしょう。
「せっかく地上に出れるようになったから、本当はのんびり景色でも楽しんだろうがいいのかもしれねえが……」
「それは居住権を手に入れてからでいい。時間の節約が出来るなら、今はそっち優先だ」
「まぁお前ぇならそう言うと思ったよ。ただし、あんま遠くには行くんじゃねえぞ」
子供のお出かけじゃねえんだ。遠くまで行くなと言われてもそうはいかないだろ。
「と、特に北東の国々では、国境線の小競り合いがいまだにあるからな。いちゃもん付けられると、面倒なことになるぞ」
「ふぅーん。セシリア、その辺まで行くのか?」
「ん、行かない。北の山の向こうは、私も知らないもの」
「そうか! ならよかった」
随分と安心した様子だが、神父がそこまで警戒するってのは珍しいな。
まさかそっち方面で戦争でも始まるってのか?
夜を待ってから、セシリアは空気穴から飛び立った。彼女には帰還の指輪も手渡し、位置を玉に記憶させたらそれを使って戻ってくるよう言ってある。
依頼を開始するときには、二人揃って地上のギルドに寄る必要があったからだ。
ギルドに寄ってからが、依頼開始期間のスタートになる。
セシリアは四日で戻って来ると言うので、その間にダンジョンで魔石狩りだ。
外に出れば野宿で水や火の魔石が必要になるからな。その分を狩っておく。
そして四日目の朝、教会の祈りの間で眠っていた俺の耳元に声が聞こえた。
「リヴァ、おはよう」
「んあ……セシリア。帰って来たのか?」
「うんっ、はい。山の上、ひゅーんって飛べうよ」
そう言ってセシリアが微笑んだ。
「はぁー。えらくすぐ戻って来たと思ったら、そういう事か。まぁよかったじゃねーか。暫く上を満喫できるぞ」
依頼を受けた後、食料、衣類、寝具と買い込んで地下の教会へ。買ったのは子供たち用のものだ。
それと大きな桶を二つと石鹸、洗髪剤も買い込んだ。樽が二つなのはそれをマリアンの店で買った時にアドバイスされたからだ。
「一つにはお湯をたぁーっぷり用意するの。もう一つはすこーしでいいのよ。すこーしの方に入って髪、体を洗ったら、たっぷり溜めた方からお湯を汲んで洗い流す。風呂場がない家庭はこうやって使うこともあるのよん。まぁ水の魔石を使わなきゃ、水汲みで力尽きちゃうけどねぇん」
そう教えて貰った。
水を沸かす方法は、火の魔石で可能──というのも聞いた。
水も火も、魔石は十分にある。
「無茶すんじゃねーぞ。上は下と違って、イレギュラーなことだらけだからな」
「分かってる──といいたいけど、実際行ってみなきゃなんも分からねえよ」
「そりゃそうだ。セシリアちゃんの言う事ちゃーんと聞いて、良い子にしてりゃいいのさ」
俺はガキかよ。
「セシリアちゃん、このガキ頼むわ」
「はい!」
元気よく返事するセシリアが小憎たらしい。
「お、そうだそうだ。ちょっと待ってろ。遠出するならいいもん貸してやろう」
そういって神父は自分の部屋に行き、なにやらごそごそと音がした後戻って来た。
手には指輪が二つと、ビー玉を三つ持っていた。
「こっちは『帰還の指輪』だ。俺が使う『帰還』魔法と同じで、指輪を使うとこの教会に瞬間移動できる」
「へぇ。じゃあ帰りはそれを使えば、あっという間だな」
「あぁ。で、こっちの指輪は『転移の指輪』だ。魔術師の使う転移魔法と同じ原理なんだが、使い方がちょーっと違うからよく聞け」
転移魔法というのは、術者が自分の魔力をマーキングさせた場所に瞬間移動するという魔法だ。
魔術師でもない者にはそれが出来ない。代わりにこのビー玉だ。
「この玉一つに一カ所、位置を記憶させることが出来る。上書きも可能だから、うまく使えば狩場の移動も楽になるぞ」
「やったぜ。サンキュー、ありがたく貰っとくぜ」
「はっはっは。このクソガキ、やるとは言ってないだろ、やるとは」
いやいや、これはもう貰うっきゃないでしょう。
「せっかく地上に出れるようになったから、本当はのんびり景色でも楽しんだろうがいいのかもしれねえが……」
「それは居住権を手に入れてからでいい。時間の節約が出来るなら、今はそっち優先だ」
「まぁお前ぇならそう言うと思ったよ。ただし、あんま遠くには行くんじゃねえぞ」
子供のお出かけじゃねえんだ。遠くまで行くなと言われてもそうはいかないだろ。
「と、特に北東の国々では、国境線の小競り合いがいまだにあるからな。いちゃもん付けられると、面倒なことになるぞ」
「ふぅーん。セシリア、その辺まで行くのか?」
「ん、行かない。北の山の向こうは、私も知らないもの」
「そうか! ならよかった」
随分と安心した様子だが、神父がそこまで警戒するってのは珍しいな。
まさかそっち方面で戦争でも始まるってのか?
夜を待ってから、セシリアは空気穴から飛び立った。彼女には帰還の指輪も手渡し、位置を玉に記憶させたらそれを使って戻ってくるよう言ってある。
依頼を開始するときには、二人揃って地上のギルドに寄る必要があったからだ。
ギルドに寄ってからが、依頼開始期間のスタートになる。
セシリアは四日で戻って来ると言うので、その間にダンジョンで魔石狩りだ。
外に出れば野宿で水や火の魔石が必要になるからな。その分を狩っておく。
そして四日目の朝、教会の祈りの間で眠っていた俺の耳元に声が聞こえた。
「リヴァ、おはよう」
「んあ……セシリア。帰って来たのか?」
「うんっ、はい。山の上、ひゅーんって飛べうよ」
そう言ってセシリアが微笑んだ。
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