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「まったくっ。父上がこの私に、さっさと皇位を譲っていればこのようなことにならなかったというのに!」
第二皇子は血迷ったのか、自分の父親に向かって剣を突き付けた。
「ラ、ラインフェルト!」
「ラインフェルト様、おやめくださいっ」
「黙れ! もういい、この場を制圧せよっ」
第二皇子がそう言い放つと、一部の騎士たちがその号令に従って動き出す。
おいおい、帝国騎士が皇帝じゃなくってその愚息に従うのかよ。
「なにをしておるっ。みなのもの、ラインフェルトを拘束せよ!」
皇帝もすぐに命令を出すが、とはいえ、皇帝の首に剣を突き付けている愚息を捕まえられるはずもない。
おたおたしている間に、裏切り者の騎士たちによってあっさり武器を取り上げられてしまった。
「アレスタン、早く逃げるんだ」
「クリフィトン兄さん、そうはいきません」
「リヴァ。二人は弟を連れてすぐにここを出るんだ。父上に注目が集まっている今なら──」
と話す第一皇子の後ろで、さっきまで重鎮席にいた貴族が剣を構えていた。
咄嗟にクリフィトン皇子を押しのけ前に出る。
「ベロニアン侯爵……貴公はラインフェルト派だったな」
「申し訳ございません、クリフィトン殿下。しかし強いて言えば、列席者の七割はラインフェルト殿下派でございますよ」
あぁあ。あっという間に貴族野郎どもが裏切って剣抜いてやがる。
しかしここで下手に動く訳にも行かないな。
そう、ここじゃまずい。位置が悪いんだよ。
「兄上、それに弟よ。下がっていただこうか」
「くっ。ラインフェルト、このようなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「そうです兄上。これはれっきとした謀反ですよ」
「心配ない。私が皇帝になれば、謀反ではなくなるのでね」
俺たちはラインフェルト派の騎士に押し出され、謁見の間の中央まで下がることになった。
これは俺にとって好都合な状況だ。
ただ向こうの人数が多い。
ったく。あいつは何をやってんだ。
「ラインフェルト、よくやりました」
「母上。ようやく私も決心がつきました。邪魔者は全て排除し、これからは民衆の顔色など窺う必要のない埃ある帝国の歴史を築きます」
「それでこそ帝国皇子、いえ、皇帝ですわ。さ、ドメストラ宰相。すぐに皇位継承の儀式を準備なさい」
「は、はい……」
おぉ、今ここで皇帝の座に就くってのか。
なかなか行動力あるじゃねえか。
もちろん現皇帝派、第一皇子派からは批判の声が上がる。
「黙れ! 見せしめにこの場で何人かの首を刎ねよ。誰でもいいぞ。卿らにとって鬱陶しい者はおらんか?」
と、ラインフェルトが自分についた貴族らを見る。
その間に俺は──
「セシリア。アレが戻って来たらすぐにでもやるぞ」
「はい、うん」
手足を縛られる訳でもなく、だが武器は流石に取られてしまっている。
が、それがなくても問題はない。
武器ならそこら中にいるラインフェルト派の奴らが持っているし、そいつらから借りればいい。
奴らの位置関係を確認しながら、すると三人の皇帝派貴族らしい奴らが玉座前に並ばせられた。
「よすのだ、ラインフェルト!」
「父上。あなたが生ぬるい国政を行っているから、こうなるのですよ」
「お前のような者が、帝国を導けるものかっ」
「あなたより上手くやってみせますよ! 首を刎ねよっ」
──バンッ!
ラインフェルトの号令とほぼ同時に、閉じられていた謁見の間の扉が開いた。
『ふはーっはっはっはっは。我こそは大精霊、雷獣ヴァーライルトール・デン!! なるぞっ!』
「──止まれ!」
瞬きひとつ。
俺の視界にはラインフェルトと皇帝、その周辺にいる裏切り者の貴族、首を刎ねられそうになっていた貴族たちが全員入っている。
駆け出す──
「シルフッ」
セシリアが精霊を召喚し、視界外の奴らを攻撃する。
剣を握る手に切り傷を付ける程度だが、そもそもお貴族様だ。実戦なんてほとんど経験がないだろう。
チクっとした程度であっさり剣を落した。
「アレスタン様!」
「ディアン、無事か!」
「もちろんですっ」
『ふははははははははは。我が救助してやったのだ。無事に決まっておろう。おっと、そこの者ども動くなよ』
「ぎゃああぁぁぁっ」
後ろでは感動の再会と、デンの雷に打たれた誰かの悲鳴が聞こえてくる。
「借りるぜ」
セシリアのことも、デンのことも、振り返ることなく俺は真っ直ぐ駆けた。
皇帝派貴族の首を刎ねようとしていた奴を蹴り飛ばし、すぐさま横にいた騎士も同じように吹き飛ばした。
その際、騎士の右腰に下げられた短剣を奪い取る。
──残り5……
皇帝の右側でニヤついている貴族を、蹴る。蹴る。殴る。蹴る。
──残り2……
ラインフェルトの腕を跳ねのけ、玉座に座る皇帝の襟首を掴んで後ろに放り投げる。
──ゼロ。
「はい、終わり」
騎士から奪った短剣は、ラインフェルトの首筋にピタリと張り付けてある。
「な、なんなんだこれは!?」
「「父上っ」」
放り投げた皇帝は、第一皇子とアレスがしっかりキャッチ。
「形勢逆転だな、第二皇子様」
「き、貴様……何者だ!?」
「俺か? ただの冒険者さ」
「ラインフェルト様から手を放せ、貧乏人め!!」
叫んで飛び込んできたのはスティアンだ。
こいつは本当に、状況が全く分かってないな。
もうてめーらに味方する奴らは全員、ディアンが引き連れてきた近衛騎士たちに取っ捕まってるつーの。
一歩下がって瞬き一つ。
「皇帝陛下。俺はしがない冒険者で、このスティアンは貴族のぼんぼんだ。冒険者が貴族のぼんぼんを殴り飛ばすと、いろいろ厄介だろ?」
ひらりと後ろを振り返ってそう言うと、意図を察したのか皇帝が頷いた。
「よい。余が許そう。そなたの好きにするがいい」
「はっ。結構いい皇帝じゃないか。スティアン、聞いたか? 動けなくても聞こえてるもんな?」
一瞬、動き出したスティアン──としてラインフェルトだが、逃がしゃしねぇ。
再び止まれと念じて瞬きをし、それから──
[ステータスの強奪に失敗しました]
[強奪出来るステータスがありません]
あらら。奴のステータスは俺より下だったか。
クランのボスなんてやってるわりに、意外と弱ぇーんだな。
「おいスティアン。待っててやるから歯ぁ食いしばれよ」
そう伝えた途端、奴らが動き出す。
「どうなっている? なんで動けなくなるんだっ」
「おい、歯ぁ食いしばれって言っただろ」
「へ?」
とぼけたってもう遅い。
俺の拳は奴《スティアン》の顔面に、クリーンヒットした。
第二皇子は血迷ったのか、自分の父親に向かって剣を突き付けた。
「ラ、ラインフェルト!」
「ラインフェルト様、おやめくださいっ」
「黙れ! もういい、この場を制圧せよっ」
第二皇子がそう言い放つと、一部の騎士たちがその号令に従って動き出す。
おいおい、帝国騎士が皇帝じゃなくってその愚息に従うのかよ。
「なにをしておるっ。みなのもの、ラインフェルトを拘束せよ!」
皇帝もすぐに命令を出すが、とはいえ、皇帝の首に剣を突き付けている愚息を捕まえられるはずもない。
おたおたしている間に、裏切り者の騎士たちによってあっさり武器を取り上げられてしまった。
「アレスタン、早く逃げるんだ」
「クリフィトン兄さん、そうはいきません」
「リヴァ。二人は弟を連れてすぐにここを出るんだ。父上に注目が集まっている今なら──」
と話す第一皇子の後ろで、さっきまで重鎮席にいた貴族が剣を構えていた。
咄嗟にクリフィトン皇子を押しのけ前に出る。
「ベロニアン侯爵……貴公はラインフェルト派だったな」
「申し訳ございません、クリフィトン殿下。しかし強いて言えば、列席者の七割はラインフェルト殿下派でございますよ」
あぁあ。あっという間に貴族野郎どもが裏切って剣抜いてやがる。
しかしここで下手に動く訳にも行かないな。
そう、ここじゃまずい。位置が悪いんだよ。
「兄上、それに弟よ。下がっていただこうか」
「くっ。ラインフェルト、このようなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「そうです兄上。これはれっきとした謀反ですよ」
「心配ない。私が皇帝になれば、謀反ではなくなるのでね」
俺たちはラインフェルト派の騎士に押し出され、謁見の間の中央まで下がることになった。
これは俺にとって好都合な状況だ。
ただ向こうの人数が多い。
ったく。あいつは何をやってんだ。
「ラインフェルト、よくやりました」
「母上。ようやく私も決心がつきました。邪魔者は全て排除し、これからは民衆の顔色など窺う必要のない埃ある帝国の歴史を築きます」
「それでこそ帝国皇子、いえ、皇帝ですわ。さ、ドメストラ宰相。すぐに皇位継承の儀式を準備なさい」
「は、はい……」
おぉ、今ここで皇帝の座に就くってのか。
なかなか行動力あるじゃねえか。
もちろん現皇帝派、第一皇子派からは批判の声が上がる。
「黙れ! 見せしめにこの場で何人かの首を刎ねよ。誰でもいいぞ。卿らにとって鬱陶しい者はおらんか?」
と、ラインフェルトが自分についた貴族らを見る。
その間に俺は──
「セシリア。アレが戻って来たらすぐにでもやるぞ」
「はい、うん」
手足を縛られる訳でもなく、だが武器は流石に取られてしまっている。
が、それがなくても問題はない。
武器ならそこら中にいるラインフェルト派の奴らが持っているし、そいつらから借りればいい。
奴らの位置関係を確認しながら、すると三人の皇帝派貴族らしい奴らが玉座前に並ばせられた。
「よすのだ、ラインフェルト!」
「父上。あなたが生ぬるい国政を行っているから、こうなるのですよ」
「お前のような者が、帝国を導けるものかっ」
「あなたより上手くやってみせますよ! 首を刎ねよっ」
──バンッ!
ラインフェルトの号令とほぼ同時に、閉じられていた謁見の間の扉が開いた。
『ふはーっはっはっはっは。我こそは大精霊、雷獣ヴァーライルトール・デン!! なるぞっ!』
「──止まれ!」
瞬きひとつ。
俺の視界にはラインフェルトと皇帝、その周辺にいる裏切り者の貴族、首を刎ねられそうになっていた貴族たちが全員入っている。
駆け出す──
「シルフッ」
セシリアが精霊を召喚し、視界外の奴らを攻撃する。
剣を握る手に切り傷を付ける程度だが、そもそもお貴族様だ。実戦なんてほとんど経験がないだろう。
チクっとした程度であっさり剣を落した。
「アレスタン様!」
「ディアン、無事か!」
「もちろんですっ」
『ふははははははははは。我が救助してやったのだ。無事に決まっておろう。おっと、そこの者ども動くなよ』
「ぎゃああぁぁぁっ」
後ろでは感動の再会と、デンの雷に打たれた誰かの悲鳴が聞こえてくる。
「借りるぜ」
セシリアのことも、デンのことも、振り返ることなく俺は真っ直ぐ駆けた。
皇帝派貴族の首を刎ねようとしていた奴を蹴り飛ばし、すぐさま横にいた騎士も同じように吹き飛ばした。
その際、騎士の右腰に下げられた短剣を奪い取る。
──残り5……
皇帝の右側でニヤついている貴族を、蹴る。蹴る。殴る。蹴る。
──残り2……
ラインフェルトの腕を跳ねのけ、玉座に座る皇帝の襟首を掴んで後ろに放り投げる。
──ゼロ。
「はい、終わり」
騎士から奪った短剣は、ラインフェルトの首筋にピタリと張り付けてある。
「な、なんなんだこれは!?」
「「父上っ」」
放り投げた皇帝は、第一皇子とアレスがしっかりキャッチ。
「形勢逆転だな、第二皇子様」
「き、貴様……何者だ!?」
「俺か? ただの冒険者さ」
「ラインフェルト様から手を放せ、貧乏人め!!」
叫んで飛び込んできたのはスティアンだ。
こいつは本当に、状況が全く分かってないな。
もうてめーらに味方する奴らは全員、ディアンが引き連れてきた近衛騎士たちに取っ捕まってるつーの。
一歩下がって瞬き一つ。
「皇帝陛下。俺はしがない冒険者で、このスティアンは貴族のぼんぼんだ。冒険者が貴族のぼんぼんを殴り飛ばすと、いろいろ厄介だろ?」
ひらりと後ろを振り返ってそう言うと、意図を察したのか皇帝が頷いた。
「よい。余が許そう。そなたの好きにするがいい」
「はっ。結構いい皇帝じゃないか。スティアン、聞いたか? 動けなくても聞こえてるもんな?」
一瞬、動き出したスティアン──としてラインフェルトだが、逃がしゃしねぇ。
再び止まれと念じて瞬きをし、それから──
[ステータスの強奪に失敗しました]
[強奪出来るステータスがありません]
あらら。奴のステータスは俺より下だったか。
クランのボスなんてやってるわりに、意外と弱ぇーんだな。
「おいスティアン。待っててやるから歯ぁ食いしばれよ」
そう伝えた途端、奴らが動き出す。
「どうなっている? なんで動けなくなるんだっ」
「おい、歯ぁ食いしばれって言っただろ」
「へ?」
とぼけたってもう遅い。
俺の拳は奴《スティアン》の顔面に、クリーンヒットした。
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