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「ちょっと……まさかまたなの?」
無事着地を決め華麗にポーズをとる儂に娘が呆れたように尋ねてくる。
「うむ。儂じゃ」
どうだと言わんばかり胸を張って言うと、娘は頭が痛いのか、額を抑え項垂れた。
「もうっ、レイジくんを出しなさい!」
「嫌じゃい! せっかく表に出れたのじゃ。少しは体を動かしたいわいっ。それにの、ミタマは自分では気づいておらんが、魔法を連発しすぎて精神力が枯渇気味じゃ」
スケルトンの頭蓋にぶつかって気絶しおったが、そうならずとも魔法のひとつでも唱えれば気を失っておったじゃろう。
精神力の回復には休むのが一番じゃ。
このまま寝かせて、回復に努めさせるのがよいじゃろう。
と娘に説明すると、心配そうに儂の頭上を見ておる。
「かっかっか。はやりお主、ミタマのことが好きなのじゃな?」
「なっ。な、なな、なに勝手なこと――」
『あら、自覚なしかしら?』
『いいえ。きっとバレてない、と思っているんだと思いますよコベリアさん』
『あらぁ。バレバレじゃないの――』
『『ねー』』
「ねー、じゃないわよ!」
うむ。やはり上からではなく、みなと同じ視線というのはよいものじゃ。
あ、王子と王女が目を丸くしておるな。
二人はどうやら儂の頭上でぐったりしておるミタマが見えておるようじゃ。
王子は一度生霊になったからじゃろうが……王女はまたいったい、どうして見えておるのやら。
「えぇ、こほん。お主ら二人にはこのミタマが見えておるようじゃな?」
「ミタマ?」
「あ、レイジくんのことです、キャスバル王子」
「なるほど……えぇ!? な、何故レイジ殿が二人に!? リザードマンの霊はどこに行ったのだっ」
え……リザード……マン?
「キャスバル王子にはレイジくんが見えるのですか!? 彼、今どんな感じです?」
「い、今は……こう……魂が抜けたように眠っている、ような?」
「立ったまま眠っていますね」
「アリアン王女まで!? え、どうして見えるんですかっ」
「さぁ? 私にもわかりません。キャスバルが見えるようになったから、でしょうか?」
なるほどのぉ。一度見えるようになれば、あとはオールOKということじゃな。
そのキャスバル王子が見えるようになった理由はと聞かれたら、王女は頬を染め「きっと彼への愛です」などと言うておる。
くぅ~。いいのぉいいのぉ。
若いもんの甘酸っぱい恋はいいのぉ。
儂にもそんな時代があったわい。
「あ、愛の力で見えるように……」
「そうじゃ、愛じゃよ!」
「はいっ。愛です!」
「ところでレイジ殿があそこで眠っているということは、今喋っている彼は――リザードマンか?」
「儂リザードマンじゃないしいいいぃぃっ!」
こ、この王子。さり気なく失礼な奴じゃの。
そういえばミタマの奴も、最初儂のことを……なんじゃったかの? 恐竜じゃったか?
そんなことを言っておったし。
「よぉく聞け! 儂こそが最強にして伝説の古代竜、アブソディラスそのドラゴンじゃ!」
しーんっと静まり返る空気。
冷たい……冷たいのぉ。
「ソディア殿。リザードマンが言っていることは?」
「あ……えぇ、一応、本当のこそです」
『アブソディラス様が勇者召喚の生贄にされちゃったのですぅ』
『ついでにアブソディラス様を討伐した俺らも、一緒に生贄にされまして』
「なんと!? で、では、まことに古代竜であるか。いやぁ、あのように小さなトカゲが、まさかドラゴンとは思わず。これは失礼いたしました」
今のセリフも十分失礼じゃわいっ。
『そんなことはどうでもいいんです。今はここがどこだか知る必要があるのでは?』
『お、コラッダ。良いこと言うっすね』
『え? そ、そうですか? いやぁ、先輩に褒められて嬉しいなぁ』
そんなこととは酷いのぉ。
だいたいコラッダは、幽霊歴で言えばダントツ一位じゃろい?
コウ相手に先輩とは……あ、ミタマのアンデッド軍団という意味での先輩か。
えぇい!
それこそどうでもいいことじゃわい!
ここがどこかじゃと?
そんなもの、決まっておろうっ。
「ここは迷宮じゃ。魔導王国建国王の弟にして、王国を裏切った男が造った迷宮に決まっておろう!」
『『なんだってーっ!』』
「わざとらしいんじゃ!」
はぁはぁ……ミタマの奴、いつもこんなノリを耐えておったのか。
大変なんじゃな。主人というものも。
「迷宮の出口はどこかしら? 知ってるの、アブソディラス」
「知る訳ないじゃろう。ここはおろか、生前の儂は迷宮になぞ入ったことないのじゃぞ」
「何故ですかアブソディラス殿。伝説の古代竜ともなれば、あまたの迷宮をいともたやすく制覇できるでしょうに」
「うむ。出来るぞい」
「なによ、偉そうに」
「なんぞ言うたか小娘!」
「いいえ、なにもっ」
ふんぬぅ。ソディアの小娘め。
ミタマがおらんもんじゃから、不機嫌になりおって。
だいたい儂のこの体だってミタマなのじゃぞ。
ちょっとぐらいデレてくれてもいいんじゃぞ?
リアラに面影が似ておるが、中身のほうはまったくの別人じゃのぉ。
可愛げの欠片もないわい。
そもそも儂が迷宮に入れぬのは、体の大きさ故じゃ。
どこに小山ほどもある儂が入れるような迷宮が存在しておるのか。
巨体故、住処となる洞窟を探すのも一苦労なんじゃぞ。
じゃからこうしてミタマの体を借り、狭い所を歩き回るというのは実に楽しい!
「おほ。あそこに穴が開いておるぞい。行こうぞ!」
「え、ちょっと!」
「おほー。モンスターがいっぱいじゃて」
「待ってよっ」
「ほうれっ。グーパンチじゃ~」
「やめてっ。レイジくんの手が怪我しちゃうでしょ!」
「心配せんでも、封じたのは魔力だけじゃ。肉体の強度は儂譲りじゃて」
儂は殴った。そして蹴った。
襲い掛かるモンスターどもをことごとく蹴散らし前へ進む。
『進む方向わかって歩いてるんすかねぇ?』
愚痴をこぼしながら、あやつらも付いて来る。
ふむ。それにしてもじゃ……。
「出てくるモンスターどもが、全て魔法生物じゃな」
「そうね……ガーゴイルにスライム、それにゴーレムかしら。形は様々だけど、今のところはこの三体だけね」
「うむ。この先、竜牙兵なんぞも出てくるやもしれぬ。みなのもの、気合を入れて行くぞい!」
「ちょーっとその前に!」
ぬ。せっかく儂がかっこよく号令を決めたというのに邪魔しおってからに。
「休憩……させてよ」
「ぬ?」
見ると、アリアン王女はおろか、男のキャスバル王子までもが肩で息をしておる。
なんじゃのー、最近の若いもんは。
たかだか迷宮の五階や六階下りた程度でへこたれるとはのぉ。
『というかアブソディラス様。すっかり迷宮を攻略する気満々っすね』
「当たり前じゃろう」
「竜牙兵がレイジくんの影の中にまで、荷物を大事に背負っててくれてよかったわ」
『カラカラ』
「何を照れておるのじゃ竜牙兵Aよ」
『カラ! カ、カラカラ』
どうにもミタマの召喚する竜牙兵どもは、儂の知る竜牙兵とちと違うのぉ。
主人の扱い方次第で、個性でも出るんじゃろうか?
迷宮に落下して凡そ五階層ほど下りたじゃろうか。
人間の体力は少なく、ここで休憩を取ることになった。
ミタマの影に潜っておった竜牙兵が、後生大事にしておった荷物のおかげで食事というのもにもありつけた。
儂は普段あまり物を食わぬから、食事というものは新鮮じゃ。
もっとも、死霊になってからはそれこそ何も食べる必要は無くなったがの。
「食料はどのくらい残っておる?」
「三日分……ですが、これは私とレイジくんとの二人だった時の計算なので、四人だと一日半でしょうか」
「申し訳ありません。私たちがいなければ、もっと持ちましたのに」
「そんなことっ。は、早くここから出られれば問題ないわけですし」
そう言って娘が儂を睨みつけてくる。
儂だって出口はわからんのじゃ。
これはひとつの賭けである。
最下層まで到達すれば、迷宮の主がおるであろう。
そやつを倒し服従させ、出口まで案内させる――と娘らに話す。
「それ、今思いついただけ?」
「ぎくっ」
「やっぱり……迷宮の主がいなかったらどうするのよ!」
「い、いや、おるじゃろう。のう?」
助けを求めてアンデッド軍団に視線を向けるが、何故か逸らされる。
死霊使いに使役されているはずのアンデッドが、主人に対してこうも反抗的とは!
躾がなっておらん!
「しかし、アブソディラス殿の言うことにも一理ある。迷宮には主がかならずいるというではないか」
『確かに。キャスバル王子の言う通りでさあ。迷宮の主なら、出口も知っているでやしょう』
いや、そこ。儂の案じゃなから。
こうして最下層を目指すことになった儂らじゃが、腹が満たされれば眠くなる。
なんとも人の体というのは不憫じゃて。
「すみません。このような所で立ち止まっている余裕など無いというのに」
「仕方がないさアリアン。君たちは私を救出するため、一睡もせずあの地下通路までやってきたのだ」
「そうです。それに王子も、怪我が治ったとはいえずっと捕らわれの身だったのだし、お疲れでしょう?」
そして自分も疲れた――と娘が言う。
「ではアンデッドたちよ。儂らが休んでおる間、しっかり守っておるのじゃぞ」
『えぇ~。俺たちも休みたいっす~』
「な!?」
アンデッドなんじゃし、休む必要など無いじゃろう!
「コウ、お願い。私たちには今、十分な休息が必要なの」
「私はモンスターとの闘いにも慣れてはいるが、アリアンはごく普通の王女だ。ここまで諸君らに守られてきたからこれたが、さすがに体力的にも限界だろう。どうか、彼女だけでも休ませてやって欲しい」
「みなさま、申し訳ありません。私が足手まといなばかりに……」
『よろこんで見張りましょう!』
おい、そこ。
儂のときとは随分違うではないか!
「儂が命令した時には従わんのにっ」
『命令だからっすよ。俺たち、レイジ様のアンデッドですから』
『見た目がどうであれ、レイジ様はこっち。あなたはアブソディラス様でやすからね』
「ぬぅ~……じゃあこう言えばよいのか! 儂が寝ている間、守ってね、お・ね・が・い」
『お断りさせていただきます』
「なぬうーっ!」
「いいから寝なさいよ!」
しょんぼりじゃ。
娘からが怒鳴られるし、アンデッドどもは儂への尊厳をとうに捨てておるし。
しょんぼりじゃ。
無事着地を決め華麗にポーズをとる儂に娘が呆れたように尋ねてくる。
「うむ。儂じゃ」
どうだと言わんばかり胸を張って言うと、娘は頭が痛いのか、額を抑え項垂れた。
「もうっ、レイジくんを出しなさい!」
「嫌じゃい! せっかく表に出れたのじゃ。少しは体を動かしたいわいっ。それにの、ミタマは自分では気づいておらんが、魔法を連発しすぎて精神力が枯渇気味じゃ」
スケルトンの頭蓋にぶつかって気絶しおったが、そうならずとも魔法のひとつでも唱えれば気を失っておったじゃろう。
精神力の回復には休むのが一番じゃ。
このまま寝かせて、回復に努めさせるのがよいじゃろう。
と娘に説明すると、心配そうに儂の頭上を見ておる。
「かっかっか。はやりお主、ミタマのことが好きなのじゃな?」
「なっ。な、なな、なに勝手なこと――」
『あら、自覚なしかしら?』
『いいえ。きっとバレてない、と思っているんだと思いますよコベリアさん』
『あらぁ。バレバレじゃないの――』
『『ねー』』
「ねー、じゃないわよ!」
うむ。やはり上からではなく、みなと同じ視線というのはよいものじゃ。
あ、王子と王女が目を丸くしておるな。
二人はどうやら儂の頭上でぐったりしておるミタマが見えておるようじゃ。
王子は一度生霊になったからじゃろうが……王女はまたいったい、どうして見えておるのやら。
「えぇ、こほん。お主ら二人にはこのミタマが見えておるようじゃな?」
「ミタマ?」
「あ、レイジくんのことです、キャスバル王子」
「なるほど……えぇ!? な、何故レイジ殿が二人に!? リザードマンの霊はどこに行ったのだっ」
え……リザード……マン?
「キャスバル王子にはレイジくんが見えるのですか!? 彼、今どんな感じです?」
「い、今は……こう……魂が抜けたように眠っている、ような?」
「立ったまま眠っていますね」
「アリアン王女まで!? え、どうして見えるんですかっ」
「さぁ? 私にもわかりません。キャスバルが見えるようになったから、でしょうか?」
なるほどのぉ。一度見えるようになれば、あとはオールOKということじゃな。
そのキャスバル王子が見えるようになった理由はと聞かれたら、王女は頬を染め「きっと彼への愛です」などと言うておる。
くぅ~。いいのぉいいのぉ。
若いもんの甘酸っぱい恋はいいのぉ。
儂にもそんな時代があったわい。
「あ、愛の力で見えるように……」
「そうじゃ、愛じゃよ!」
「はいっ。愛です!」
「ところでレイジ殿があそこで眠っているということは、今喋っている彼は――リザードマンか?」
「儂リザードマンじゃないしいいいぃぃっ!」
こ、この王子。さり気なく失礼な奴じゃの。
そういえばミタマの奴も、最初儂のことを……なんじゃったかの? 恐竜じゃったか?
そんなことを言っておったし。
「よぉく聞け! 儂こそが最強にして伝説の古代竜、アブソディラスそのドラゴンじゃ!」
しーんっと静まり返る空気。
冷たい……冷たいのぉ。
「ソディア殿。リザードマンが言っていることは?」
「あ……えぇ、一応、本当のこそです」
『アブソディラス様が勇者召喚の生贄にされちゃったのですぅ』
『ついでにアブソディラス様を討伐した俺らも、一緒に生贄にされまして』
「なんと!? で、では、まことに古代竜であるか。いやぁ、あのように小さなトカゲが、まさかドラゴンとは思わず。これは失礼いたしました」
今のセリフも十分失礼じゃわいっ。
『そんなことはどうでもいいんです。今はここがどこだか知る必要があるのでは?』
『お、コラッダ。良いこと言うっすね』
『え? そ、そうですか? いやぁ、先輩に褒められて嬉しいなぁ』
そんなこととは酷いのぉ。
だいたいコラッダは、幽霊歴で言えばダントツ一位じゃろい?
コウ相手に先輩とは……あ、ミタマのアンデッド軍団という意味での先輩か。
えぇい!
それこそどうでもいいことじゃわい!
ここがどこかじゃと?
そんなもの、決まっておろうっ。
「ここは迷宮じゃ。魔導王国建国王の弟にして、王国を裏切った男が造った迷宮に決まっておろう!」
『『なんだってーっ!』』
「わざとらしいんじゃ!」
はぁはぁ……ミタマの奴、いつもこんなノリを耐えておったのか。
大変なんじゃな。主人というものも。
「迷宮の出口はどこかしら? 知ってるの、アブソディラス」
「知る訳ないじゃろう。ここはおろか、生前の儂は迷宮になぞ入ったことないのじゃぞ」
「何故ですかアブソディラス殿。伝説の古代竜ともなれば、あまたの迷宮をいともたやすく制覇できるでしょうに」
「うむ。出来るぞい」
「なによ、偉そうに」
「なんぞ言うたか小娘!」
「いいえ、なにもっ」
ふんぬぅ。ソディアの小娘め。
ミタマがおらんもんじゃから、不機嫌になりおって。
だいたい儂のこの体だってミタマなのじゃぞ。
ちょっとぐらいデレてくれてもいいんじゃぞ?
リアラに面影が似ておるが、中身のほうはまったくの別人じゃのぉ。
可愛げの欠片もないわい。
そもそも儂が迷宮に入れぬのは、体の大きさ故じゃ。
どこに小山ほどもある儂が入れるような迷宮が存在しておるのか。
巨体故、住処となる洞窟を探すのも一苦労なんじゃぞ。
じゃからこうしてミタマの体を借り、狭い所を歩き回るというのは実に楽しい!
「おほ。あそこに穴が開いておるぞい。行こうぞ!」
「え、ちょっと!」
「おほー。モンスターがいっぱいじゃて」
「待ってよっ」
「ほうれっ。グーパンチじゃ~」
「やめてっ。レイジくんの手が怪我しちゃうでしょ!」
「心配せんでも、封じたのは魔力だけじゃ。肉体の強度は儂譲りじゃて」
儂は殴った。そして蹴った。
襲い掛かるモンスターどもをことごとく蹴散らし前へ進む。
『進む方向わかって歩いてるんすかねぇ?』
愚痴をこぼしながら、あやつらも付いて来る。
ふむ。それにしてもじゃ……。
「出てくるモンスターどもが、全て魔法生物じゃな」
「そうね……ガーゴイルにスライム、それにゴーレムかしら。形は様々だけど、今のところはこの三体だけね」
「うむ。この先、竜牙兵なんぞも出てくるやもしれぬ。みなのもの、気合を入れて行くぞい!」
「ちょーっとその前に!」
ぬ。せっかく儂がかっこよく号令を決めたというのに邪魔しおってからに。
「休憩……させてよ」
「ぬ?」
見ると、アリアン王女はおろか、男のキャスバル王子までもが肩で息をしておる。
なんじゃのー、最近の若いもんは。
たかだか迷宮の五階や六階下りた程度でへこたれるとはのぉ。
『というかアブソディラス様。すっかり迷宮を攻略する気満々っすね』
「当たり前じゃろう」
「竜牙兵がレイジくんの影の中にまで、荷物を大事に背負っててくれてよかったわ」
『カラカラ』
「何を照れておるのじゃ竜牙兵Aよ」
『カラ! カ、カラカラ』
どうにもミタマの召喚する竜牙兵どもは、儂の知る竜牙兵とちと違うのぉ。
主人の扱い方次第で、個性でも出るんじゃろうか?
迷宮に落下して凡そ五階層ほど下りたじゃろうか。
人間の体力は少なく、ここで休憩を取ることになった。
ミタマの影に潜っておった竜牙兵が、後生大事にしておった荷物のおかげで食事というのもにもありつけた。
儂は普段あまり物を食わぬから、食事というものは新鮮じゃ。
もっとも、死霊になってからはそれこそ何も食べる必要は無くなったがの。
「食料はどのくらい残っておる?」
「三日分……ですが、これは私とレイジくんとの二人だった時の計算なので、四人だと一日半でしょうか」
「申し訳ありません。私たちがいなければ、もっと持ちましたのに」
「そんなことっ。は、早くここから出られれば問題ないわけですし」
そう言って娘が儂を睨みつけてくる。
儂だって出口はわからんのじゃ。
これはひとつの賭けである。
最下層まで到達すれば、迷宮の主がおるであろう。
そやつを倒し服従させ、出口まで案内させる――と娘らに話す。
「それ、今思いついただけ?」
「ぎくっ」
「やっぱり……迷宮の主がいなかったらどうするのよ!」
「い、いや、おるじゃろう。のう?」
助けを求めてアンデッド軍団に視線を向けるが、何故か逸らされる。
死霊使いに使役されているはずのアンデッドが、主人に対してこうも反抗的とは!
躾がなっておらん!
「しかし、アブソディラス殿の言うことにも一理ある。迷宮には主がかならずいるというではないか」
『確かに。キャスバル王子の言う通りでさあ。迷宮の主なら、出口も知っているでやしょう』
いや、そこ。儂の案じゃなから。
こうして最下層を目指すことになった儂らじゃが、腹が満たされれば眠くなる。
なんとも人の体というのは不憫じゃて。
「すみません。このような所で立ち止まっている余裕など無いというのに」
「仕方がないさアリアン。君たちは私を救出するため、一睡もせずあの地下通路までやってきたのだ」
「そうです。それに王子も、怪我が治ったとはいえずっと捕らわれの身だったのだし、お疲れでしょう?」
そして自分も疲れた――と娘が言う。
「ではアンデッドたちよ。儂らが休んでおる間、しっかり守っておるのじゃぞ」
『えぇ~。俺たちも休みたいっす~』
「な!?」
アンデッドなんじゃし、休む必要など無いじゃろう!
「コウ、お願い。私たちには今、十分な休息が必要なの」
「私はモンスターとの闘いにも慣れてはいるが、アリアンはごく普通の王女だ。ここまで諸君らに守られてきたからこれたが、さすがに体力的にも限界だろう。どうか、彼女だけでも休ませてやって欲しい」
「みなさま、申し訳ありません。私が足手まといなばかりに……」
『よろこんで見張りましょう!』
おい、そこ。
儂のときとは随分違うではないか!
「儂が命令した時には従わんのにっ」
『命令だからっすよ。俺たち、レイジ様のアンデッドですから』
『見た目がどうであれ、レイジ様はこっち。あなたはアブソディラス様でやすからね』
「ぬぅ~……じゃあこう言えばよいのか! 儂が寝ている間、守ってね、お・ね・が・い」
『お断りさせていただきます』
「なぬうーっ!」
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