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16話 教会事件簿 ①
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「シェル……なぜ、お前がここに居るんだ……?」
「ダンテ様……」
いまさらだけど、ダンテ様は私の存在に気付き、ひどく狼狽えていた。そういえばここに至るまで、ダンテ様は私が来ているとは思っていないはずだったのよね。その質問には、隣に立っているハロルドが答えた。
「ダンテ殿……彼女は私の付き添いだよ。皇帝陛下からの経由で私も出席の許しを得たので、シェルを誘ってみたんだ」
「そ、そういうことか……ハロルド殿」
「なにか不味いことでもあったかい?」
「いや……なにも……」
ダンテ様からすれば、私がここに居ることは邪魔以外の何物でもないはず。でも皇帝陛下の御前でそれを言うわけにはいかない。彼はなんとも言えない表情をしている。その様子を見ていたソシエはこれみよがしに、笑いながらダンテ様に話しかけていた。
「ダンテ様? なにかご不都合がありましたか? やっぱり、ご自分が振った相手が近くに居ると困ってしまいますかね?」
「な、何を言っているのかな……? ああ、失礼した。あなたは皇帝陛下の側室の……ソシエ殿だったな……」
「はい! ライドウ皇帝陛下の側室であり、シェル・エドガーの妹になります。階級は伯爵令嬢ですよ!」
「そ、そうであったか……ん? エドガーだと……?」
ダンテ様はソシエのカミングアウトに狐につままれたような顔になっていた。やはり彼は、私の妹がライドウ皇帝陛下の側室だとは知らなかったようね。そういえば、ダンテ様と婚約した時にその話はしていなかったかしら……?
侯爵令息の立場でそのことを知らないのはどうかと思うけど、ソシエは予想通りなのか、怪しげな笑みを浮かべている。
「知らなかったのか? ソシエはそこに居る、貴公が婚約破棄をした相手、シェル嬢の妹に当たる」
「こ、皇帝陛下……そ、それはつまり……」
「そうだ、余とシェル嬢は血のつながりこそないが……家族になっている、ということだな」
ライドウ皇帝陛下は「そんなことも知らなかったのか?」という様子で、淡々と話していたけれど、ソシエはこれみよがしに、ダンテ様に視線を合わせていた。まるでゴミでも見るかのように……彼女なりの仕返しといったところかしら……。
「そ、それは失礼いたしました……私の知識不足で……。で、ではパーティが中断するのもなんですし、みなさまも楽しんでください……!」
アイミーも狼狽えてはいたけれど、ダンテ様の狼狽えはその比ではなかった。どうすればいいのか、わからなくなった彼はパーティを強引に続けようとしたが、そんなことで私たちを誤魔化せるはずもなく……。
「無理ですよ~~ダンテ様? もう、みなさんの興味はダンテ様の婚約破棄に移っています。なぜ、私の大切な姉さまを振ったのか……詳しく話してもらいますからね?」
「く、詳しく……?」
「はい、詳しくです」
有無を言わせないソシエの言葉……四面楚歌状態、とはこういうことを言うんだと思う。ダンテ様は自らの性癖をこの公衆の面前で披露する危機に立たされていた。眼前には最高権力者の皇帝陛下も居るのに……。
ソシエ……恐ろしい子……。ダンテ様にとって、本日は人生の中でもっともピンチな日になっているでしょうね。
後に語り継がれる教会事件簿……その事件簿の発端が始まろうとしていた。
「ダンテ様……」
いまさらだけど、ダンテ様は私の存在に気付き、ひどく狼狽えていた。そういえばここに至るまで、ダンテ様は私が来ているとは思っていないはずだったのよね。その質問には、隣に立っているハロルドが答えた。
「ダンテ殿……彼女は私の付き添いだよ。皇帝陛下からの経由で私も出席の許しを得たので、シェルを誘ってみたんだ」
「そ、そういうことか……ハロルド殿」
「なにか不味いことでもあったかい?」
「いや……なにも……」
ダンテ様からすれば、私がここに居ることは邪魔以外の何物でもないはず。でも皇帝陛下の御前でそれを言うわけにはいかない。彼はなんとも言えない表情をしている。その様子を見ていたソシエはこれみよがしに、笑いながらダンテ様に話しかけていた。
「ダンテ様? なにかご不都合がありましたか? やっぱり、ご自分が振った相手が近くに居ると困ってしまいますかね?」
「な、何を言っているのかな……? ああ、失礼した。あなたは皇帝陛下の側室の……ソシエ殿だったな……」
「はい! ライドウ皇帝陛下の側室であり、シェル・エドガーの妹になります。階級は伯爵令嬢ですよ!」
「そ、そうであったか……ん? エドガーだと……?」
ダンテ様はソシエのカミングアウトに狐につままれたような顔になっていた。やはり彼は、私の妹がライドウ皇帝陛下の側室だとは知らなかったようね。そういえば、ダンテ様と婚約した時にその話はしていなかったかしら……?
侯爵令息の立場でそのことを知らないのはどうかと思うけど、ソシエは予想通りなのか、怪しげな笑みを浮かべている。
「知らなかったのか? ソシエはそこに居る、貴公が婚約破棄をした相手、シェル嬢の妹に当たる」
「こ、皇帝陛下……そ、それはつまり……」
「そうだ、余とシェル嬢は血のつながりこそないが……家族になっている、ということだな」
ライドウ皇帝陛下は「そんなことも知らなかったのか?」という様子で、淡々と話していたけれど、ソシエはこれみよがしに、ダンテ様に視線を合わせていた。まるでゴミでも見るかのように……彼女なりの仕返しといったところかしら……。
「そ、それは失礼いたしました……私の知識不足で……。で、ではパーティが中断するのもなんですし、みなさまも楽しんでください……!」
アイミーも狼狽えてはいたけれど、ダンテ様の狼狽えはその比ではなかった。どうすればいいのか、わからなくなった彼はパーティを強引に続けようとしたが、そんなことで私たちを誤魔化せるはずもなく……。
「無理ですよ~~ダンテ様? もう、みなさんの興味はダンテ様の婚約破棄に移っています。なぜ、私の大切な姉さまを振ったのか……詳しく話してもらいますからね?」
「く、詳しく……?」
「はい、詳しくです」
有無を言わせないソシエの言葉……四面楚歌状態、とはこういうことを言うんだと思う。ダンテ様は自らの性癖をこの公衆の面前で披露する危機に立たされていた。眼前には最高権力者の皇帝陛下も居るのに……。
ソシエ……恐ろしい子……。ダンテ様にとって、本日は人生の中でもっともピンチな日になっているでしょうね。
後に語り継がれる教会事件簿……その事件簿の発端が始まろうとしていた。
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