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5話 ブラック家 その3
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「ブラック公爵家の次男、ラターザ・ブラックと申します。本日はブラック家の本邸にお越しいただき感謝いたします」
「勿体ないお言葉です、ラターザ様。このエンブリオ、ラターザ様のお招きであればどこへでも行かせていただく所存です」
お父様は丁寧に挨拶をしてくれたラターザ様に頭を下げていた。私とユリア姉さまも一緒に頭を下げる。ちなみにエンブリオと言う名前は私たちのお父様の本名だ。
「エンブリオ殿、ユリア嬢。ご無沙汰しておりますね」
「はい、ラターザ様。ええと、こちらが娘のエリアスになります」
やや緊張した様子で私を紹介するお父様。やっぱり、多少の緊張はしているのね。
「エリアス嬢、久しぶりだね。こうして会うのは何時以来だろうか」
「そうですね、ラターザ様。お久しぶりでございます」
個人的にはそこまでの面識があるわけではないけれど、ラターザ様の柔らかい物腰に私の緊張は少しずつほどけて行った。敬語で話されないだけで、明らかに雰囲気が和らいでいる。
「とりあえず座ってください」
「はい、ありがとうございます」
私達はラターザ様に案内されてソファへと移動した。ラターザ様の対面に並んで座ることにする。
----------------------------------
「1週間前の出来事は私の耳にも届いております。とても大変な目に遭われたようですね」
「はい、ラターザ様。我が娘のエリアスは昔から薬士としての才能に長けていたのですが。婚約者であったアレク・ギース侯爵は浮気をしていたばかりか、エリアスの技術を盗んで追放するという暴挙に出たのです」
「あのギース侯爵家の当主であるはずのアレク殿が……にわかには信じられない事態ですね」
「はい……1週間経過しましたが、私も信じられないです」
利用されていただけ。私の薬士としての技術はまんまと盗まれたのだ。あの数カ月の婚約生活はなんだったのか……本当にわからない。
「まったく、信じられないことであるが、エリアス嬢が無事で良かった。私はそのことが気がかりでしたので」
「ラターザ様……ありがとうございます」
「いえ、お礼を言われることではないさ。私が勝手に心配していたことだからね」
ラターザ様は真剣な表情で私を見ていた。本当にお礼は必要ないといった態度だ。ならば、これ以上のお礼はしないでおこう。
「しかし、ラターザ様。私達は困っていますの。妹のエリアスはアレク様に捨てられてしまい……これからどのようにすれば良いのか……」
「確かにユリア嬢もそこは不安になるでしょうね」
「ええ」
先のことは確かに不安だわ。婚約破棄の原因がアレク様にあるとはいえ、私は傷物令嬢のレッテルが貼られるだろうし。今後、スムーズに婚約の約束がくるかは分からない。
「もしも、エリアス嬢さえよければだが……」
「は、はい。なんでしょうか、ラターザ様?」
急に声を掛けられてびっくりしてしまった。私はラターザ様に向き直る。
「君さえよければ、ブラック家の屋敷で働いてみないか? バルトロメイ家の令嬢を招き入れるのであれば、父上も賛同してくれるだろうし」
「えっ……ブラック家で働く?」
予期せぬ提案に私は一瞬戸惑ってしまった。ギース侯爵家を追放されて日もあまり経っていない時に、より上位のブラック公爵家で働ける可能性が出て来たのだから。非常に名誉なことであると同時に怖くもあった。
私は婚約破棄をされて薬士としての技術を盗まれた身。状況としては同じにならないかという不安だ。ラターザ様には申し訳ないのだけれど、無意識の内に考えてしまっていた。
「勿体ないお言葉です、ラターザ様。このエンブリオ、ラターザ様のお招きであればどこへでも行かせていただく所存です」
お父様は丁寧に挨拶をしてくれたラターザ様に頭を下げていた。私とユリア姉さまも一緒に頭を下げる。ちなみにエンブリオと言う名前は私たちのお父様の本名だ。
「エンブリオ殿、ユリア嬢。ご無沙汰しておりますね」
「はい、ラターザ様。ええと、こちらが娘のエリアスになります」
やや緊張した様子で私を紹介するお父様。やっぱり、多少の緊張はしているのね。
「エリアス嬢、久しぶりだね。こうして会うのは何時以来だろうか」
「そうですね、ラターザ様。お久しぶりでございます」
個人的にはそこまでの面識があるわけではないけれど、ラターザ様の柔らかい物腰に私の緊張は少しずつほどけて行った。敬語で話されないだけで、明らかに雰囲気が和らいでいる。
「とりあえず座ってください」
「はい、ありがとうございます」
私達はラターザ様に案内されてソファへと移動した。ラターザ様の対面に並んで座ることにする。
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「1週間前の出来事は私の耳にも届いております。とても大変な目に遭われたようですね」
「はい、ラターザ様。我が娘のエリアスは昔から薬士としての才能に長けていたのですが。婚約者であったアレク・ギース侯爵は浮気をしていたばかりか、エリアスの技術を盗んで追放するという暴挙に出たのです」
「あのギース侯爵家の当主であるはずのアレク殿が……にわかには信じられない事態ですね」
「はい……1週間経過しましたが、私も信じられないです」
利用されていただけ。私の薬士としての技術はまんまと盗まれたのだ。あの数カ月の婚約生活はなんだったのか……本当にわからない。
「まったく、信じられないことであるが、エリアス嬢が無事で良かった。私はそのことが気がかりでしたので」
「ラターザ様……ありがとうございます」
「いえ、お礼を言われることではないさ。私が勝手に心配していたことだからね」
ラターザ様は真剣な表情で私を見ていた。本当にお礼は必要ないといった態度だ。ならば、これ以上のお礼はしないでおこう。
「しかし、ラターザ様。私達は困っていますの。妹のエリアスはアレク様に捨てられてしまい……これからどのようにすれば良いのか……」
「確かにユリア嬢もそこは不安になるでしょうね」
「ええ」
先のことは確かに不安だわ。婚約破棄の原因がアレク様にあるとはいえ、私は傷物令嬢のレッテルが貼られるだろうし。今後、スムーズに婚約の約束がくるかは分からない。
「もしも、エリアス嬢さえよければだが……」
「は、はい。なんでしょうか、ラターザ様?」
急に声を掛けられてびっくりしてしまった。私はラターザ様に向き直る。
「君さえよければ、ブラック家の屋敷で働いてみないか? バルトロメイ家の令嬢を招き入れるのであれば、父上も賛同してくれるだろうし」
「えっ……ブラック家で働く?」
予期せぬ提案に私は一瞬戸惑ってしまった。ギース侯爵家を追放されて日もあまり経っていない時に、より上位のブラック公爵家で働ける可能性が出て来たのだから。非常に名誉なことであると同時に怖くもあった。
私は婚約破棄をされて薬士としての技術を盗まれた身。状況としては同じにならないかという不安だ。ラターザ様には申し訳ないのだけれど、無意識の内に考えてしまっていた。
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