23 / 119
23話 デスシャドー「サキア」
しおりを挟むオルランド遺跡7階層……かなり広大な階層であり、出現するモンスターのレベルは60~80以上にもなる。もはや、Sランク冒険者以外の立入りができない危険地帯。出現する宝も売れば100万ゴールド以上になる物も多い。
一度、取り尽くされた宝も運が良ければ再設置という形で出てくる可能性がある。まさに一攫千金と言えるだろう。
「すやすや……」
「う~ん、寝にくい……」
春人とアメリアの二人はそんな危険地帯で眠っていた。アイテムで敵の出現は制限しているが、完璧ではない。アメリアは春人と少し離れた場所で寝ていた。なぜか、春人とくっついて寝ることを進言していたが、さすがに春人は断ったのだ。
「まあ、厳密には断る必要はないと言うか……アメリアがそんなこと言ってくれるなんてな」
未だにアメリアみたいな美人が自分と一緒に寝てくれることが信じられない。春人はそんな考えを巡らせていた。顔だけで言えば、釣り合いは取れていないと本人は感じている。
アメリアを見ているといけない一歩を踏み出す衝動に駆られることも事実だ。健全な17歳であれば、普通の反応。エミルとの関係も偽であることを考慮すれば、彼がその感情を抑制する意味合いは低いと言える。
「はあ……アメリアの服装がもっと大胆だったら、多分、襲ってるだろうな……」
アメリアが今回は聞いていないことを確認しながら、春人は話す。彼女の旅の服装はほとんど露出はない。おまけに鉄ごしらえの胸当ても付けているので余計にだ。それでも魅力を隠しきれていないが。
「……あれ?」
そんな時、自分の懐から光が出ていることに気付いた春人。懐に手をやると、先ほど入手した黒のケースが光を放っていた。
「な、なんだ……!?」
春人は驚いて、思わずケースを投げる。地面に落ちたケースはさらに光を放ち続け、中から影のようなものが現れた。
「か、影……どうなって……!?」
そして、その影はみるみる形を形成し始めた。その形は……少女の形。黒い艶のある長髪であり、大和撫子のそれを思わせる。服装は、ボロボロのバスローブのような物を纏っていた。浮浪者と間違えそうな格好だ。
「え? え?」
目の前で起きた光景に春人は驚きを隠せない。と、言うよりなぜ少女が現れたのか意味がわからなかった。
「マスター、ご命令を」
人間の少女と全く変わらない見た目と声……耳が尖っているなども見当たらない。外見は14~5歳くらいに見える少女は春人をマスターと呼んだ。
「なにかご命令はないですか?」
「命令って……君はなんだ?」
春人は「誰だ?」とは聞かない。明らかに人間ではないことは分かるからだ。マッドゴーレムから出てきたアイテム……フィアゼスの宝の1つと考えるのが妥当だろう。
「私はデスシャドーです。「サキア」という名前もあります」
「……デスシャドーってなに?」
またわからない単語が出てきた。彼女は春人の質問も命令と捉えているのか、淡々と答える。
「デスシャドーはマスターの影に潜み、お守りする存在。ですので、私の全てはマスターの為にあります。マスター、以後お見知りおきを」
有無を言わせないサキアの言葉。春人はなんとなく理解した気になっていた。つまりは、そういうアイテム……若しくは魔法生命体ということだろう。
「サキアか……」
「はい、そのように呼んでいただければうれしいです」
「君はモンスターなのか?」
「……デスシャドーはアイテム扱いかと。基本の形は人間の肉体ですので、意志を持った道具です」
そう言いながら、サキアは服を下からめくり出した。身体を見せたのだが、春人は思わず顔を背ける。
「わかったから、服は戻して」
「……はい。人間の形から、すぐにマスターの影にも潜めます」
サキアは今度は、瞬時に影の形になり、春人の足元に姿を消した。見た目的には地面に吸い込まれたような形だ。
「ご理解いただけましたか?」
「う、うん……大体……」
サキアは春人の足元から人の姿になって現れた。間近に見る黒髪の少女。瞳は黒で染められており、吸い込まれそうになる。かなりの美少女であったために、春人は思わず目を背けた。
「私はあなた様にお仕えいたします。これから永遠に」
そして、サキアは春人と唇を重ねた。春人はもはや、何をされたのかすらわかっていなかったが、驚くほど気持ちのいい感触に包まれた。そして、サキアの舌も無造作に侵入してくる。一瞬、抵抗することも春人は忘れていた。
「……なにやってんの、春人?」
「ぷはっ……! あ、アメリア……! こ、これは……!」
春人はアメリアの存在も忘れていた。
「へぇ~、デスシャドーなんて初めて見た」
「知ってるの?」
とりあえず事の顛末をアメリアに話した春人。意外にもアメリアはそこまで驚いてはいない。
「神聖国の文献で見たことあるわ。影のモンスターって感じで、主人の半分のレベルを発揮できるとか。使いように寄っては相当便利よね」
「はい、私はマスターの2分の1の強さになります。マスターが強い程、私の力も上がります。
「ほほう、どれどれ……」
アメリアはサキアの力を感じようと、彼女に近づいた。そして……
「……え?」
「アメリア……どうしたの?」
「え、な、なんでもないわ」
アメリアは何を思ったのか、サキアからすぐに離れた。不思議な行動に春人は疑問に思ったが、アメリアからその後の返答はない。
「……まあいいわ。でも、春人とキスしていたのはどういうわけ?」
「はい、親愛の証です。舌も入れた方がいいと思いまして」
恥ずかしげもなく、サキアはアメリアに語った。彼女は春人に向き直る。
「ふ~ん、舌まで入れたんだ。春人どうだった?」
「あ……うん、まあ……」
エミルとさえしていないディープキス。非常に気持ちは良かったが、アメリアの冷たい視線に、春人は何も言えないでいた。
「えっと、サキアだっけ?」
「はい」
「私はアメリア。よろしくね」
「アメリア……覚えました。よろしくお願いします」
サキアは頭を下げ、アメリアに挨拶をした。アメリアもサキアの頭を撫でていた。
------------------------------------------------------------
「そ、それで俺に付いてくるの?」
「いけませんでしょうか?」
先ほどまでのサキアとは違い、かなり寂しそうな表情になるサキア。見た目がいくつか下の少女にこんな表情をされては春人の性格からNOとは言えなかった。
「ま、まあ……いいか。よろしく、サキア」
「はい、マスター。よろしくお願いします」
サキアは急に明るくなり、春人に抱きついた。影とは思えないぬくもりに春人は思わず顔を赤らめる。今までの女の子の中でも、積極的という意味合いではトップである。厳密には人間ではないが。
「春人、デレデレじゃない……なに? こういう引っ付いてなんでもしてくれる子とか大好物なわけ?」
「い、いや……別にそういうわけじゃ……」
春人はアメリアに否定の言葉を出したが、内心はすこし図星を突かれて戸惑っていた。男であればこういうシチュエーションには憧れる。それを言おうかとも思った春人だが、別の突っ込みが入ると感じやめておいた。
「でもさ、サキアってどんな存在なんだ? フィアゼスの宝だろ?」
フィアゼスの名前を聞いたサキア。少し、その表情は変化した。
「ジェシカ・フィアゼスのことですね? はい、私の生みの親になるかと」
「ずいぶん抽象的ね、当時のこと覚えてないの?」
淡泊なサキアの回答に、アメリアが突っ込む。
「記憶は曖昧です。当時、私はまだ起動していませんでしたから」
「色々と話聞いてみたけど、それは後でいっか。とりあえず、戻りましょ」
フィアゼスの宝で意志のあるサキア。当時の話など、文献ではわからないことも聞けるかもしれない。それを考えれば超レアアイテムと言えるだろう。
「戻るのか……この状況、エミルになんて説明しよう……」
つい漏れてしまった春人の心の声。それを聞いたアメリアの表情が変わった。
「春人って、エミルに言い訳するのが最優先なんだ」
「言い訳? ……別に最優先ってわけでは」
「……」
アメリアは春人の言葉を聞いていない。いや、聞こえてはいるが、敢えて無視をしたのだろう。
彼女は春人に顔を近づけ、彼の顔を覗き込んだ。春人は思わず顔を背けるが、彼女はそれを許さなかった。そして、アメリアの唇が春人のそれを塞いだ。
「………!!?」
長い……長い時間だった。あまりの出来事、こちらの世界に来て一番の驚きの瞬間かもしれない。それほどに春人は驚いた。ものすごい力で春人を拘束するように動かさないアメリア。春人も抵抗はできないでいた。
「……あ、アメリア……?」
「じゃあ、行きましょ」
解放された春人は唇の感触が生々しく残っていることなど忘れてしまっていた。アメリアの表情を見るのに精一杯のためだ。しかし、彼女は特に気にすることなく、先に出発の準備を進め始めた。
春人は呆然と立ち尽くしており、そんな彼女を後ろから眺めている。サキアもまた、首をかしげて冷静な表情をしていた。本日は春人にとって、かなりの変化と言えるのかもしれない。1つはサキアの存在、そして1つは……アメリアとの関係である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる