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33話 探索と調査
しおりを挟む「え? 大河内 悟?」
酒場「海鳴り」に戻ったアメリアは帰宅していた春人に、今までの経緯を話していた。やはり彼とは知り合いで、この世界に地球の住人が来たことに驚きを隠せないでいた。
「やっぱり知り合いだったのね。なんか色々言ってたわよ」
「……だろうね。あっちの学校でもクラスメイトだったけど、俺のことは嫌いだったみたいだし」
春人は当時のことを思い出しながら、悟のことを考える。口での罵倒以外にもすれ違い様に小突かれたことも多くある。
「冷静ね、春人」
「さすがに客観的になれるというか……こっちで命のやりとりしてるとさ」
春人自身が強すぎるため、命の危険に晒されるほどの苦戦はあり得ない。だが、通常の冒険者であれば死を覚悟するほどのモンスターは数多く倒していた。そういった経験が知らず知らず彼を成長させていたのか、遠い過去……ただの思い出という枠組みになっていた。
「なんか、当の本人がこんなだと、私が大人げない感じ……ちょっと殴ろうかなって思ってたのに」
「やめろ、アメリア。お前がそれをしたら大けがですまねぇ」
アメリアの怖い発言にバーモンドは慌てた様子で言った。彼女としても手加減は当然するが、怒りに任せた場合、どこまで抑えられるかということだろう。バーモンドもそれを心配していた。
「私もあまり好ましくありませんでした……春人さんに対して酷すぎます」
エミルはあからさまに敵意の感情を向けていただけに、バーモンドとしても彼女の発言は予想通りだった。
「まあ、春人がそんなに気にしてないならいいのよ」
アメリアも他人を悪く言い続けるのは好きではない。春人本人も気にしていない素振りがあったので、話を一旦打ち切った。
「で、アメリア。悟の奴はどうなんだ? そこまで強くは見えなかったが」
話の流れが一度終わったのを感じ取ったのか、バーモンドが話題を悟の強さへと切り替える。問いかけられたアメリアは、首を横に振って答えた。
「大したレベルじゃないわ。筋力はそこそこありそうだけど、戦士特有の闘気も感じられなかったし、魔法力も感じられない」
アメリアの話を聞いた春人は、こちらに転生した者すべてが力を持つわけではないと改めて知った。
冒険者になった者は戦士や魔導士が持つ独特の闘気や魔法力を有する者が多い。自らの身体を敵の攻撃から守ったり、攻撃の際に魔法を使用したりする必要があるからだ。闘気や魔法力がない一般人は基本的に戦いには向かず、レベル5程度のモンスターにも殺されてしまうほどである。
「ただの筋力なんざ、モンスターの戦いでは役にたたねぇからな。あいつは剣術指南を受けた方がいいかもな」
「ま、その辺りはパーティ組むようになったらわかるでしょ」
「あの……」
そんな時、割って入るようにアメリア達の会話を聞いていたエミルが突如質問をした。
「あの、私は冒険者の方のシステムには疎いんですけど……お話を少し聞いている限り、やはり春人さんは普通ではないんですね」
「そうね、春人なんて前代未聞レベルよ。新人のFランク冒険者から、レベル41の亡霊剣士を討伐して、暫定Aランクに昇格。それから、私とパーティ組んですぐに名実共にSランク冒険者よ。その期間、なんと1か月ちょっと……あり得ないわね」
アメリアの賞賛の言葉についつい照れてしまう春人は頭を掻きながら、明後日の方向に目をやっていた。事実とはいえ、改めて彼女の口から言われると恥ずかしいのだ。彼らはSランクになってから3か月近くが経過しているが、現状、最もモンスターレベルの高いオルランド遺跡の8階層を攻略している。
オルランド遺跡の8階層はこれまでよりも圧倒的にモンスターレベルが高く、レベル100以上のモンスターも徘徊していた。
実際に8階層に向かったのは、この2週間の間ということになり、二人がペースを上げたというのもあるが、相当な速度で攻略をしているのだ。「シンドローム」が台頭したというのも理由の1つとなっている。
「オルランド遺跡の8階層はさすがに面倒ね。徘徊するモンスターが強いせいで、時間がかかるし」
「うん……レベル100超えのモンスター10連戦はしんどかったよ……」
「あはは、あったわね、そんなこと。特にレベル130のポイズンリザードの猛毒は鬱陶しいから」
レベル130の強敵ポイズンリザード、口から散布される毒霧は、春人たちも回避しきるのが難しく、少なからず毒の影響を受けてしまう。弱い冒険者の場合は絶命を免れない程強力な毒の為、春人たちと言えど身体能力の低下は起きてしまうのだ。
「ま、二人で協力して戦えば余裕なんだけど……まだまだ、大丈夫よね」
「ええっ? コンビなのに協力してないんですか!?」
強すぎる二人の為、協力する必要性が生まれていない。8階層にて戯れで二人で戦ったこともあるが、レベル160のストーンゴーレムを一瞬で消し炭にしたことがあった。それを聞いて驚いたのはエミルだけではない。バーモンドも何気ない二人の会話を聞いて驚きを隠せないでいる。
「お前ら……あまり冒険内容聞いていなかったが、そんなことしてたのか? ポイズンリザードの毒霧は死を招く強力無比の一撃のはずだぞ?」
元冒険者でもあるバーモンドは現役時代を思い出していた。彼が冒険者の時代は、アメリア達が生まれたころの時代……当然、オルランド遺跡などは発見されてはいなかった。
しかし、フィアゼスの遺した遺跡や建物、住処は各地にあり、トネ共和国領ではポイズンリザードが何体か出現したことがある。その時のことをバーモンドは思い出す。
「数体のポイズンリザードが村を襲い、何千という人々を殺したんだよ。トネ共和国の冒険者も討伐に乗り出したが……毒霧で、半分以上の者は死んだらしい」
何千という村人と何十という冒険者が犠牲になり、倒したポイズンリザードは3体……それ以上の被害は経済的損失という意味合いで危険と判断され、トネ共和国はその地域を放棄し、現在に至っている。
「トネ共和国の端だったのが幸いだったが……17年くらい経過した現在でも、ポイズンリザードの群れの住処になってるらしいぞ。噂ではさらにボス格のリザードも居るらしい」
まさに危険極まりない領域と言えるだろう。アメリアはその噂は聞いたことがあった。バーモンド以外からだ。
「ジラークさんや老師が話してるの聞いたことがあるわ。あと、トネ共和国の依頼でも、放棄した地域の奪還ていうのがあったはず。Sランク冒険者専用だったけど」
「あ、そういえば……報酬が1000万ゴールド~2000万ゴールドってなってたな」
「確か、そうだったわね。ボス格のリザードも倒せば、2000万ゴールドよ」
まさに破格の報酬であるが、国単位の依頼の場合はそれだけ規模も大きくなるため、そういった額になることもあるのだ。
「レベル130のモンスターを延々と倒してボスまでだしね。ま、考えてみる? 春人」
「最低でも、1000万ゴールドか……アメリアがしたいなら」
1000万ゴールド以上の報酬。一般人であれば、一生をかけても届かないかもしれない金額。それでも、17年経過した今でも成功させた者はいなかった。しかし、リザードの毒霧を受けても能力低下程度で済ませる二人にとっては狙い目の依頼なのかもしれない。
「そういえば、神聖国のミルドレアが引き受けようとしたことがあるらしいぞ。冒険者じゃないから断られたらしいが」
バーモンドは思い出したかのように言った。その名前を聞いて、春人とアメリアは苦笑いをする。ミルドレアは現在、各遺跡の隠し扉の封印を解いて、中のモンスターを倒して宝を奪取している。強力なモンスターが周囲に展開される可能性があるため、アーカーシャに報告しているのだ。
アルトクリファ神聖国は2週間前のレジール王国強硬派の進撃の阻止、さらにグリフォン討伐を受けて、牽制にもなっているのか、アーカーシャに対して様子見をしている。
少なくとも、問答無用で遺跡自体を奪うことはしないだろうというのが、ギルドでの見解だ。もちろん、隠しエリアの宝は別の話だが。
「あの戦闘狂の男ね……まあ、人間は襲わないみたいだから性質は悪くないけど……しかもちゃんと報告するし……」
「でも、ミルドレアならリザード討伐も引き受けようとするだろうね」
ミルドレアはこの短期間の間に、ギルドでも有名になっていた。その理由は報告にくる姿が目撃されているからだ。また、本気を出せる存在を探しているとも言っていた、という声も聞いている。
「まあ、強いからいいけど。オルランド遺跡を先に攻略されたらたまったもんじゃないわ」
オルランド遺跡は現在、春人たちが主に攻略を進めている。以前、8階層に隠し扉があると言っていたことを思い出し、ミルドレアが来ることを、アメリアは懸念していた。
「しかし、オルランド遺跡はポイスンリザードよりも強いモンスターがいるんだろ? ストーンゴーレムもそうだが。さらに奥地には、現在神聖国でわかっている中では最強の存在とされる、鉄巨人が眠っているかもしれないと言ってた奴もいるぞ」
バーモンドは何時だったかは定かではないが、酒場の冒険者が語っていたことを思い出していた。レベル400の伝説のモンスター「鉄巨人」……1000年前にも英雄の親衛隊として活動していたとされる存在だ。
その存在がオルランド遺跡に居るのではないかという噂は冒険者の間にも広がっていた。攻略をしている春人たちも感じていることだが。
「確かに……レベル130のポイズンリザードやレベル160のストーンゴーレムが出てくる8階層ならあり得るかも……隠しエリアもあるって言われているし」
もし、1体でも地上に出てくればどうなるか……それは想像したくない光景でもあった。まず、そんな化け物を倒せる存在がどれだけ居るのかという不安も出てくる。
「アメリア……遺跡の調査は慎重にした方がいいね」
「そうね……でも、私は戦闘狂じゃないけど、苦戦するような敵がいることは期待したいわ」
春人は思わず冷や汗に苦笑いをしてしまった。アメリアの表情は明らかに戦闘狂のそれだったからだ。苦戦するほどのモンスターの存在……春人も望んでいないと言えば嘘になってしまう。既に単騎であろうと、160のストーンゴーレムすら倒しているのだ。
しかし……春人は一抹の不安をよぎらせる……この不安はなんだろうか? オルランド遺跡の奥地にはとてつもない魔物が潜んでいる。そんな直感、これは以前から感じていたことでもあるが。
「ねえ、アメリア。モンスターは最強が鉄巨人ということなんだよね?」
春人からの予期せぬ質問。バーモンドは「はあ?」と小さく声を上げた。アメリアはなんとなく春人の心中を察したようだ。彼女としても同じ疑念はあったのだから。
「サキアに聞いた方が正確かも。どうなの、サキア」
「私は当時の記憶はあまりありませんので……難しいです。しかし、ジェシカ・フィアゼスの親衛隊が「鉄巨人」だけというのは考えられません」
なんとなく出てきたサキアからの言葉。おそらく、どの文献にも載っていない内容だ。親衛隊という名称からも他のモンスターが存在しても全く不思議ではない。むしろ、複数から構成されるからの「親衛隊」なのだろう。
「確か、半年くらい前に見つかった塔……神聖国領にはなると思うけど、山岳部のその塔には、新たな文献があるって言われてたような」
「そんなこともあったな。瘴気とモンスターのレベルから、まだ調査は行き渡ってないらしいが」
アメリアはそう言いながら、塔について考えていた。バーモンドも同じく頷いている。神聖国領のマルレーネ山脈にて、フィアゼスの作ったとされる廃墟と化した塔が見つかった。
神聖国は当然、調査に乗り出したが、モンスターレベルが高すぎること、さらに毒の瘴気が蔓延していることからも、あまり調査は進んでいない。
「多分、そこでの文献が一番新しいだろうけど……現在まで発見された中では「鉄巨人」以上の存在は確認されていないわ。でも、新たな文献が見つかってるみたいだし、一度その塔にも行った方がいいかもね」
その塔はアシッドタワーと名付けられた。瘴気が蔓延していることからの名称というわけだ。フィアゼスの新たな情報……サキアの記憶とは別に、更なる発見があるかもしれない。
「確か、モンスターのレベルは80~90前後なはずだ。お前らなら余裕だろうけどな、気を付けろよ」
バーモンドも止めはしなかったが、瘴気の問題や塔の奥にはさらに危険なモンスターが居るかもしれないとの判断だ。春人とアメリアは頷きで答えた。
「春人さん、あまり無茶はしないでくださいね」
「うん。大丈夫、無理はしないさ」
エミルは本気で心配しているのか、震えながら言った。想像以上にモンスターのレベルが高いことに驚いているのだ。通常レベル50程度のモンスターであればSランク冒険者なら大したことはない。
しかし、レベル100を大きく超えてくるとそうはいかない。彼女も普段酒場で冒険者の話を聞くことが多いので、レベルの脅威はわかってきたのだ。春人は彼女を安心させる為に、エミルの頭を優しく撫でる。エミルは一瞬戸惑うが、特に何も言うことなく流れに任せた。
「春人、見せつけるわね」
「え? あ、いや……!」
アメリアは一人、笑顔で怒っていたそうな。その後、春人はつねられて責め立てられることになる。
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