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34話 悟のパーティ その1
しおりを挟む悟がこの地に転生されてから、数日が経過した。悟は冒険者ギルドの者に連れられて、ギルド本部から北にしばらく歩いたところにある寄宿舎に案内されていた。
そこで部屋を割り当てられ、その寄宿舎の間取りなどは、別の者から説明を受けた。それから数日……彼は割り当てられた2階の角部屋に一人眠っていた。
「組んだパーティは「フェアリーブースト」……はっ、どこの中二だよ」
まさか自分がそんな恥ずかしい組織に所属するなんて思わなかった。悟は恥ずかしさに打ちひしがれている。まだ、冒険には出かけていない彼ではあるが、「フェアリーブースト」はDランク冒険者パーティに該当する。
結成自体は3か月くらい前なので、春人とアメリアのパーティと同じくらいの時期だ。悟を除けば3人居て、リーダーのヘルグ、紅一点のラムネ、剛腕のレンガートの3人である。
ヘルグは21歳、ラムネは18歳、レンガートは23歳と比較的若い面子であり、17歳の悟がそこに加わる。
悟は物思いにふけながら自分の部屋を見渡す。8畳のワンルームの部屋と言えるだろう。トイレは各部屋にもあるが、共同風呂は1階にあるだけだ。相当な広さを有するが、どうも序列により入れるタイミングが決まっているらしい。
正直、この広さで1万ゴールドは高いと言える。しかし、冒険者として波に乗ることができれば簡単に払える額なのだろう。悟はそう考えていた。
そして、彼の部屋の扉をノックする音が鳴る。悟はノックをした人物の察しがついたのか、特に確認するまでもなく扉を開けた。
「ヘルグさん」
「おう、悟。談話室に来てくれるか」
「はい」
ノックをした人物はパーティのリーダーを務める男、ヘルグ。金髪の髪を後ろに長く伸ばした髪型の男で、丸い形のサングラスをしている。顔にある古傷から、日本でいうところのチンピラ風の人物だが、人はいいらしい。
悟は頷くと、彼の後ろを静かについて行った。そして、1階の談話室に入る二人。中には他の冒険者の姿もあったが、「フェアリーブースト」のラムネとレンガートの姿もあった。
レンガートは剛腕と聞いて、誰もが想像するような格好をした人物だ。鉄の鎧に身を包み、短い黒髪は敢えて立たせていた。表情も武骨で四角い形状の男である。
ラムネは紅一点と称されるだけあり、青い髪を三つ編みにした美人であった。気の強そうな鋭い目つきをしている。基本的な旅の格好だが、ホットパンツを穿いている為、比較的露出は大きい。
「悟も適当に座ってくれよ」
ヘルグに言われて、悟も彼らの近くの椅子に腰を掛ける。周囲の冒険者は新人がめずらしいのか、悟を見ていた。
「よし、「フェアリーブースト」も新しいメンバーを獲得したな」
「がははははっ、結成してから新しい面子は初めてだな。よろしくな、坊主!」
3人は結成当初のメンバーであり、新しく加入するのは悟が初めてなのだ。歓迎の意志が感じられた悟であった。レンガートの大声に悟は小さく頷く。
「はい、こちらこそ」
悟は内心ではうるさい奴だという感情が出ていたが、それを出すのは自分の首を絞めることになると判断し、愛想よく挨拶をした。
「よろしくね、悟……と呼べばいいかしら?」
レンガートとラムネとは今回が実質の初顔合わせである。悟が寄宿舎に住んだ次の日にパーティが決まったが、その時はヘルグのみとの顔合わせだったからだ。
メンバーは聞かされていた悟だが、レンガートは予想通り、ラムネは予想以上に美人だった。アメリアほどではないが、十分美人と呼べる体型をしていた。
「さて、面子も増え4人になった。俺たちの目的は忘れてないな?」
「ええ、早急なCランクへの昇格ね」
「おう、目指すはCランクだな!」
悟の前にそれぞれ座るパーティは各々言葉を発した。現在のランクはDランク……1ランク上に行くだけだ。悟はあまりに弱い目標ではないかと思えた。アメリアの人気の程から
も彼女はさらに上だと思えたからだ。
「あの、少し聞きたいんですけど」
空気読みには長けている悟。アメリア達の前では春人の件で失態を負ったが、日本ではリア充グループに居た。その経験を思い出しながら話す。
「Cランクへの道はそんなに遠いんですか?」
「ああ、お前はこの前冒険者になったばかりなんだったな。よし、すこし話してやろう」
さきほど、悟が鬱陶しいと感じたレンガートが自信満々に話し出す。悟はお前には聞いていないと思いつつも素直に聞き耳を立てた。
「冒険者ギルドはモンスターを倒せる強さでランク分けされているわけだ。悟のFランクはレベル1~5程度、俺たちDランクならレベル15程度のモンスターを相手にできるな」
大柄な男特有の声なのか、若干野太くも響く声を轟かせていた。談話室にいる他の冒険者も彼の声には迷惑そうにしている。
「Cランクはもちろんさらに上よ。この寄宿舎のトップを務めてる「ハインツベルン」の人達ならレベル25のフランケンドッグも倒せるレベルでしょうね」
レンガートの説明を補足するようにラムネは語った。悟としてみれば、彼女の言葉の方が余程、耳に入ってくる情報だ。
「いまいち、基準がわからないですが……」
悟はまだ戦闘に出ていない為、感覚として理解できないでいた。彼は、戦闘経験がない為、レベルの意味合いもよくわかっていない。ただ、手に持つ鉄の剣や、鉄の盾をもってすれば熊などであれば、倒せるだろうという曖昧な自信があるだけだ。
ちなみにフランケンドッグは以前、春人が賢者の森で退治したことのあるモンスターである。当然、その程度のモンスターでは春人に傷を負わせることなどできない。
「よし、じゃあ早速、悟の力量試しも兼ねて回廊遺跡に行くとするか」
ヘルグは立ち上がり、皆を扇動するようにそう言った。彼の言った回廊遺跡は10年以上前に発見された遺跡である。しかし、37階層まで進んでも終わりが見えてこない為、現在でも攻略中の遺跡である。周辺でもっとも深い遺跡として知られている。
「回廊遺跡だな。どうだ? 小便ちびるなよ、新人」
「大丈夫ですよ。これでも体力には自信があります。少しくらいなら、戦力にはなると思いますよ」
「大した自信ね。期待しているわ」
レンガートの大声にイラつきながらも、悟は笑顔でそう言った。ラムネも期待してくれているということで喜びは大きい。
「まあ、回廊遺跡の1階層は最初期の冒険者にはぴったりの難易度だ。悟の実力を見極めながら進めば問題ないさ」
ヘルグの指示の元、談話室を出た4人は基本的なアイテムを買い終えてから北の回廊遺跡を目指した。
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回廊遺跡……春人が最初に踏む込んだサイトル遺跡と同じく、初心者用のダンジョンだ。まさに回廊のように折れ曲がった通路が続く遺跡で、下へと下る階段は螺旋階段になっている。形状的に、地下数百メートル以上の大遺跡であるが、一説には埋もれているわけではなく、異次元空間になっているのではないかとされている。
ヘルグたち4人はアーカーシャの北、山岳地帯の麓にあるその遺跡に到着した。距離で言えば15キロは離れている。距離が多少あったので、今回は馬車で来たのだ。運賃は片道1000ゴールドはするので、決して安くはない。
「よ~し、期待してるぜ、悟!」
「は、はい」
レンガートに背中を叩かれてハードルが上がってしまう。彼は初めての戦闘に、内心は震えていた。しかし、この状況で言い出すわけにもいかない。余裕を見せてしまったのだから。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。鉄の剣と盾があれば、おそらくレベル8程度までのモンスターはいけるはずよ。1階層はレベル5以下しか出てこないから」
緊張している悟を落ち着けるようにラムネは話した。おそらく、フォローするというのも含まれているのだろう。悟も少し緊張を解く。そして、先頭を切ったヘルグに続く形で、悟は2番手で遺跡に侵入を試みた。
「内部は明るいんですね……」
石造りの堅牢な建物……王家の古墳を悟は見たことがあり、それに近い印象を受けていた。しかし、1000年前とは思えない程、内部は原型を留めている……超能力の力とでも言えばいいのだろうか。
「結晶石の明かりが各ポイントにあるからね」
ラムネは悟の背後から明かりを見つめていた。そして、最後尾を歩くのはレンガートだが、彼はいきなり再設置された宝を発見した。
「おいおい、いきなりラッキーじゃねーか?」
レンガートが見据えた先には、荘厳な宝箱が置かれていた。稀にある宝の再出現。原理は不明だが、その再設置にありつけた者は、なかなか運がいいとされる。レンガートはわき道を逸れ、その宝箱を開けた。
「あ、おい……いきなり開けるなよ。トラップかもしれないぞ?」
ヘルグは無警戒のレンガートを叱責する。腕に自信があるからこその行動ではあるが、レンガートはため息をついた。
「はあ、再設置だが、なにも入ってないぜ」
レンガートは空っぽの宝箱をがっかりした様子で閉めた。再設置がされた宝箱でも、中身があるとは限らないのだ。
「しかし、ここはアルマーク達が金の首飾りを見つけた所だ。うまく再設置が行われれば、かなりの値打ち物も取れるかもしれないぞ」
悟はヘルグの言葉を意味も分からず聞いていた。かろうじて分かるのは金の首飾りは高価な印象があるというくらいだ。金の首飾りは売れば相当な値段になるが、「パーマネンス」の魔法が使えることの方が有用である。
「パーマネンス……強化効果を永続化させる魔法ね。本人の意思で自由に解除も可能になる……フィジカルアップやマインドアップが永続化されるのは非常に有用だわ」
「現状、パーマネンスを使える人間はいないからな。アクセサリーの補強で使えるのはとてつもなく便利だよな」
ラムネの言葉に同意するようにレンガートも頷いていた。パーマネンスは現在、人間で使える者はいないと言われている。モンスターの中では、魔導士のような衣を纏ったパラサイトと呼ばれる人型モンスターが使えるが、レベルは16なのでそこまで脅威にはならない。
フィジカルアップは5分間、自身の攻撃力を1.4倍にできる。マインドアップは魔法力、スピードアップやガードアップもそれぞれ掛け率や時間は同じ。ドラゴンなどが使うハイパーチャージは全ての能力が2倍という凄まじい性能だが、1分という時間制限になっている。それぞれ元の能力が高い程、より効果が大きいのは共通だ。
「実際、フィジカルアップを永続化できれば、格上の遺跡探索もできるようになりそうだけど……」
「あとは、ステータスロックの永続化とかな」
ラムネの話に付け加えたのはヘルグだ。ステータスロックは10分間、猛毒などの異常攻撃の耐性を上げる魔法だ。これにパーマネンスを組み合わせれば、耐性上昇効果が何時間でも持続する。実際、状態異常の耐性は個人ごとに異なる為、必ず同じ効力というわけではないが。
そんな有用なレアアイテムの「金の首飾り」はBランク冒険者パーティ「センチネル」ことアルマークとイオのコンビが所有していた。一時期、そのアイテムを巡って、襲われたこともあるが、返り討ちにしている二人であった。
「まあ、運が良ければまた金の首飾りクラスが取れるかもしれん。とにかく先へ進むぞ」
「はい」
「わかったわ」
「仕方ねぇか」
ヘルグに促され、レンガートもため息混じりに立ち上がった。まだ1階層に入ったばかりだ。先へ進む必要があった。だが、その歩みを阻む者が居た……悟にとっては初めてのモンスターの登場である。
モンスターの数は10体以上になるが……悟以外はとくに焦っている様子はない。そのモンスターはレベル4のお化けガエルであった。高さは約1メートルの巨大なカエルだ。伸縮自在の長い舌を持ち、その下は二股に分かれている。同時に2か所に舌を伸ばして攻撃も可能だ。木製の盾では貫通されるほど、その舌の威力は大きい。
「悟、まあ大丈夫だと思うけど、鉄の盾で確実に攻撃を弾くようにね」
「わ、わかりました」
「念のために、ガードアップをかけておくわ」
ラムネは魔導士であるため、補助魔法も得意としている。ガードアップをかけられた悟は黄色い光に包まれた。5分間は防御力が1.4倍になる。
「来るぞっ!」
お化けガエルは「ゲロロ」という特有の声から、一斉に舌を伸ばしてきた。先陣を切っていたヘルグとレンガートは臆することなく突っ込んで行く。レンガートは大剣、ヘルグは槍を携えている。二人とも戦士系の人間だが、お化けガエルの舌の直撃を受けてもダメージを負っている気配はない。
「来るわ! 悟!」
「わかってますよ!」
二股に伸びてきた強力な舌攻撃は、悟とラムネにも飛んで来た。ラムネは風を呼び出し風神障壁を展開、ガードする。悟は手に持つ鉄の盾で、飛んで来た舌攻撃をガードした。
そして、間髪入れずにその舌を鉄の剣で斬り飛ばす。
「ゲロッ!」
斬られたカエルは痛そうな叫び声を上げ、後ろへと後退した。さらに追撃を加えようとする悟だが、さらに2発の舌攻撃が飛んできた。
「ぐわぁぁ!」
1発目は盾でガードに成功したが、2発目は盾を外れ、胴体に命中してしまった。
「悟! 平気か!?」
「ち、さっさと倒すぜ! ヘルグ!」
ヘルグもレンガートの意見に賛成したのか、二人は近くのカエルを次々と斬り飛ばし始めた。悟はその場でダウンをしてしまい、激痛で意識が遠のいている。ガードアップの効果により、致命傷は避けていたが、それでも軽くはない。
「悟! しっかりしなさい!」
悟に攻撃を喰らわせたお化けガエルは、ラムネが風の魔法で仕留めていた。彼女はすぐに悟に駆け寄り、ヒールの魔法をかけた。回復魔法により傷は癒えていくが、意識は遠のいて行く。悟は少し考えを巡らせた。レベル4のモンスターでもこれだけ強いのだ。
地球の肉食生物と比較しても全くひけをとらないレベルではない……あんな長距離の攻撃をしてくる奴なんていない……鉄の剣と盾を持てば、運動神経の良い自分なら、ライオンでも追い払うことくらいはできるし、上手く命中すれば殺せるかもしれない……そんな化け物が一気に10体以上出てきた……それをたやすく倒せる彼ら。
この世界はおかしい……。
悟はそこまで考えた時点で気を失ってしまった。
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