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92話 新たなる冒険者パーティ その2
しおりを挟む回廊遺跡の27階層……モンスターレベルは15~25くらいまでとなっている。レベルアップを果たしたフェアリーブーストであれば踏破は可能な領域だ。しかし、時にはレベル外の強力な者が現れることもある。
春人が以前に倒したグリーンドラゴンなどが該当しているが、その発端はアルトクリファ神聖国の隠し扉の開放とされていた。しかし、回廊遺跡は隠し扉の開放はタナトスが自ら開放した以外ではされておらず、そういった意味では非常に予期し難い事態であると言えるだろう。強力なモンスターに出会ってしまうのは、多くの冒険者にとっては不運という他ない。
「新たなモンスターが来たようだぜ。おいおい、玄武コウモリと……亡霊剣士だと?」
少し離れたところで周囲を何気なく警戒していたレンガートが、モンスターの接近に真っ先に気付いた。2つにチームはレンガートの言葉とモンスターを確認すると、一斉に臨戦態勢へと移行した。
「へえ、少しはマシなモンスターが来たじゃん」
リッカは笑いながら、近づくモンスターを確認していた。レベル28の玄武コウモリが2体とレベル41の亡霊剣士が2体。フェアリーブーストだけであれば、全力で敗走しなければならない事態だ。
それも走って逃げるだけでは、追い付かれてしまう可能性が高い。ダンジョン脱出アイテムを使う必要があった。クリスタルの結晶であり、地面に叩きつけることで、指定ポイントまで強制的に転送する魔法の道具である。
「亡霊剣士は私がやってあげる。どのみち、ラムネ達だと逆立ちしたって勝てないし」
「……ちっ! ホントにムカつく奴だぜ……!」
悟はいちいち飛び込んでくる煽り言葉に反応してしまう。だが、事態はそんな余裕など与えていない。すぐにラムネにより悟は制止された。
「悟は落ち着きなさい。リッカ、亡霊剣士は任せるわ」
「しょうがないわね~、まあやってあげる」
「それでは私も参戦しようか」
リッカの隣に立ったのは薙刀を構えたナーベルであった。二人は2体の亡霊剣士にそれぞれ挑むようだ。
「半年ほど前の話か。当時、まだFランク冒険者だった高宮春人が鉄の剣で亡霊剣士を仕留めたというものがあったな」
「あ~知ってる。春人でしょ~~? アメリアの奴とコンビ組んで、いきなりSランク冒険者になったらしいじゃん」
「私達も天才と称されているからな。少なくとも、亡霊剣士くらいは倒せないといけないわけだ」
リッカとナーベルは目の前に亡霊剣士を見据えて話している。春人への尊敬の念を込めながら。彼女たちは結成されてから2か月ほど経過している冒険者だ。結成からの期間で言えば、眼前の亡霊剣士は倒せて当たり前という考えなのだろう。
しかし、冒険者の多くは何年かけても亡霊剣士討伐まで達成できない。マッカム大陸全土の冒険者は数万人以上存在しているが、亡霊剣士を倒せるのはその中でも1割程度といったところだ。
「奴らが亡霊剣士を引き付けている間に、俺達は玄武コウモリを始末するか」
「そうだな。ただしレンガート、気を付けろよ? 相手のレベルは28だ。俺達よりも強い」
「おう、分かってるぜ」
玄武コウモリの大きさは80センチ程度もあり、かなりの巨体である。そして、レベルは28を誇る強敵だ。レベル41の亡霊剣士と比較すると相当な差があるが、それでもCランク冒険者には荷が重い相手と言える。
玄武コウモリはアーカーシャ周辺にも現れることがあり、専属員やモンスター避けの灯篭で対策はされてきた。現在はモルドレッドが適宜始末している形になっている。
「ガードアップ!」
ヘルグとレンガートにラムネは後方からガードアップをかけた。悟に関しては足手まといになる為に、後方での待機をしている。
「ギシャアアア!」
玄武コウモリは一気に距離を縮めて羽ばたいた。ヘルグとレンガートの前に近づいた玄武コウモリは得意の怪音波を放つ。強力な周波数の音で相手の脳細胞を破壊する技である。
「ぬうっ!」
「ぐっ!」
目に見えない攻撃に晒されたヘルグとレンガートはやられこそしていないが、三半規管が狂ってしまったのか、反撃が出来ずにいた。すぐに玄武コウモリの追撃が始まる。しかし、その追撃よりも早く、ラムネの風神障壁が二人を守ったのだ。
「ギギギギギギ!」
「くっ、風神障壁が……持たない!?」
格上の敵からの噛みつき攻撃。その一撃は思いの外強力であり、ラムネの作り出す障壁では防御壁としては不十分であった。このままではヘルグたちに、強烈な一撃が通るのも時間の問題である。悟は自らの能力不足を痛感している。自分が前に出たところで、なにもすることができない。それどころか、先ほどのように玄武コウモリにやられることは明白だ。
「玄武コウモリにこれほど苦戦するなら、本当に考えた方がいいわね」
そんな時、ヘルグ達の前には、より強力な障壁が展開された。水の膜が彼らを覆っている。玄武コウモリの強力な牙も全く通している気配がない。その水の膜を張ったのはミーティアである。
彼女は銀の装飾品が散りばめられた美しい剣を所持していた。ミーティアは魔法と物理攻撃を行うことができる魔法剣士だ。そのまま玄武コウモリを切り裂くことも可能であったが、敢えて彼女は手を出さなかった。
「ヘルグ! 決めるぜ!」
「ああ、わかっている!」
なんとか怪音波の影響から戻ったヘルグとレンガートは狼狽えている玄武コウモリに向かって武器を放つ。レンガートは大剣、ヘルグは槍を構えて一気に攻撃を開始した。
「ギシャ!」
「ギギッ!」
さすがの玄武コウモリもダメージを負った素振りを見せるが、すぐにやられる気配はない。二人との攻防は続いて行く。
「亡霊剣士ね。確かにそこそこの実力だけど。負ける気はしないわね」
髪の刃を自在に変形させているリッカは、鋭利な剣を振りかざす鎧の化け物、亡霊剣士と戦闘を繰り広げていた。髪の毛の一本を刃のように変化させて攻撃が可能な為、操れる武器の数も相当数に上る。また、操る武器の幾つかが破壊されたところで大きな痛手にはならない。
リッカの高速の刃捌きに、亡霊剣士は劣勢状態となっている。感情を有しないとされる亡霊剣士ではあるが、明らかに焦りが見て取れるようだ。隣では、薙刀のナーベルが亡霊剣士と戦っているが、リッカよりも苦戦していた。実力伯仲の戦いとなっていたのだ。
「……」
余裕のあるリッカとは違い、ナーベルは苦戦している。そんな彼女をリッカは無言で応援していた。現在のレベル換算で言えば、両者は45相当と同じくらいではあるが、この余裕の違いは内に秘めた才能の格差があるのかもしれない。もちろん、武器による格差も出ているのは間違いがないが。
4者による局面で最初に決着がついたのはリッカVS亡霊剣士であった。亡霊剣士の連続の剣攻撃を、リッカは複数の髪の刃で捌いてみせる。そして、真上に移動させた刃の一つを一刀両断の要領で振り下ろしたのだ。
真っ二つにされた亡霊剣士はそのまま身体を溶かしていき、結晶石の塊を残した。さらに幾つかの宝石類も誕生していた。
「ラッキー! 宝石じゃん。かなり高く売れるかもね~」
結晶石と宝石類を拾いながら、リッカは他の局面にも目を向けていた。次に決着がついたのは隣のナーベルだ。互角の打ち合いをしていたが、ナーベル自体は一撃も受けてはいなかった。
徐々に押されていく亡霊剣士はそのまま致命傷を受けることになったのだ。一瞬の油断で勝負は変わっていたかもしれないが、ナーベルが戦闘中にそんな油断を見せることはなかった。常に最大限の集中力を維持しているのだ。
「ナーベル! おっつかれ~~!」
「ああ、ありがとう。リッカも無事で良かったよ」
亡霊剣士が結晶石になったのを確認したナーベルは笑顔になり、リッカとハイタッチをして互いの勝利を称え合った。その光景は仲の良い姉妹といった感じだ。
そして二人は玄武コウモリと対決している二人に焦点を合わせた。まだ、ヘルグとレンガートの戦いは続いている。レベルでは劣る二人だけに通常では勝てない戦闘を行っていることと同義なのだ。
ミーティアも参戦する様子を見せていない為に、殺されても不思議ではない状況だ。事実、ヘルグもレンガートも攻勢には出たものの、劣勢状態になっていた。そこにラムネが加勢する形で、なんとか勝負をしている。
レンガートとヘルグはそれぞれ、格上の玄武コウモリと打ち合っている。精神は最高潮の域に達しており、100%の実力が発揮できている状態だ。一般にはゾーンに入っていると言えるのかもしれない。その状況だからこそ、彼らは玄武コウモリの攻撃を凌ぐことが出来ていたのだ。
そこに加わるラムネの風神障壁の疾風波と呼ばれる風属性の衝撃波。彼女の魔法による攻撃は玄武コウモリを牽制することを可能にしていた。
そして、疾風波による一撃は少なからず、玄武コウモリの攻撃を阻害していたのだ。
「今だ! もらった!」
風神障壁を纏った状態のヘルグは、自らが相手にしている玄武コウモリが疾風波の一撃で怯んだ好きを見逃さなかった。勝負を決めるべく、渾身の槍による突きを玄武コウモリにお見舞いする。
「キキィィィィィ!」
「ぐうっ!?」
隙を見せた玄武コウモリであるが、ヘルグの攻撃に気付いたのか、玄武コウモリも渾身の攻撃をヘルグに打ち出した。命中はほぼ同時……玄武コウモリはヘルグの槍によって貫かれその命を散らした。ヘルグも本来であれば致命傷となる攻撃を受けていたが、ラムネの風神障壁により守られたのだ。
最も、玄武コウモリの一撃は風神障壁を突き破っており、威力は弱まっていたがヘルグの身体に到達していたのだ。ヘルグは致命傷ではないが、それなりのダメージを負っていた。
「はは、危なかった……」
ラムネの風神障壁がなければ、彼はあの世行きは免れなかった。それほどに、ギリギリの攻防だったのだ。そして、そんなヘルグの前に立ったのはレンガートだ。
「よう、立てるか?」
「ああ……、倒したのか。流石だな」
ヘルグと同じく風神障壁に守られていた為の勝利ではあるが、レンガートもまた玄武コウモリの討伐に成功していた。ヘルグに比べれば余裕のある勝利だ。「剛腕のレンガート」の異名は守れたというところか。
ヘルグとレンガートはその後、お互いの健闘を称え合った。彼らの中には、格上の強敵を倒したという達成感が生まれている。とても口では言い表せない喜びだ。
「ヘルグさん、レンガートさん。お疲れさまです」
「おう。ありがとうな、悟」
「ああ、ありがとう」
二人の戦いを遠くからしか見ることができなかった悟。協力できない悔しさを持ちながら、二人の前に立ち、彼らの功績を労った。レンガートとヘルグはそんな彼に対して、心から感謝をしていた。
暖かい人物だ、悟は改めてヘルグとレンガートという人物の懐の深さを感じ取った。協力できていないことに対して後ろめたさを感じている悟の心境すらも察したかのような態度であった。
「なんで感動話みたいになってんの? たかが、玄武コウモリ倒しただけで」
そんな状況を遠くから見ていたリッカは不満を漏らす。しかし、空気は読んでいるのか、茶化す気はないようだ。
「まあ、そう言うなリッカ。美しい仲間意識じゃないか。……!」
ナーベルは不満を漏らして口を尖らせているリッカを宥める。だが、その時、彼女は真っ先に気付いてしまったのだ。彼女たちの前に近づいて来ている強力な魔物の存在に。
戦いはまだ終わっていなかった。
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