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100話 闇の軍勢 その2
しおりを挟むマシュマト王国は中央の都であるアルフリーズを中心に放射状に都市や村々が広がっている。それぞれの街などには特産品や科学技術の結晶、軍隊の修練など特色が備えられている。
それぞれ、特色を持たせることで専門的な仕事と人材を派遣できるようにしているのだ。同時に、労働者の適正に合わせて送りこめるという側面も持ち合わせていた。
北に位置するオードリーの村も例外ではなかった。この地域は農作物の確保が主な特徴となっている。
「農作物生産の特性……この村は必要ない。全員を処分いたしましょうか」
木目調のフードの人物が無機質な声で話していた。顔は見えないが、声は非常に繊細な高い声だ。フードの上からでも分かる胸の盛り上がりと、それと対比するかのような腰のくびれ、さらにジーンズのような旅装に覆われている細い脚などから、女性であることは伺えた。
「我々の目的の為には、なにが必要になるかわからないぞ? 皆殺しでも構わないが、それでは味気ないだろう。奴隷として使う必要も出て来るかもしれん」
聖騎士の風貌の人物は仮面の女性に向けて言葉を発した。顔は見えないが、声と背丈などから男であることが伺える。木目調の仮面を付けた女性は聖騎士の男に向かって言葉を返す。
「レヴィン、私があなたと組んでいるのは、目的とあなたの実力が見合っていると判断した為です。必要がなくなれば、協力関係はすぐに瓦解することをお忘れなきよう」
木目調の仮面の女性は抑揚を感じさせない言葉遣いで釘をさした。そして、そのまま去って行く。
「気まぐれな女だ。正確な目的も見えてこない。それを言うなら俺も同じか」
レヴィンと呼ばれた男は死体の山の傍で静かに話していた。
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そして、その聖騎士とフードを付けた仮面の女性が話している場所……その場所に向けられていたのは、1本のスナイパーライフルだ。距離は2キロ程度離れているが。
「どうだ? ニルヴァーナ」
スナイパーライフルで照準を合わせているニルヴァーナに質問をしたのはディランだ。彼らは一足早く、オードリーの村の近くまで到着していた。高台のスポットを確保して、敵の状況を監視していたのだ。
「……流石は闇の軍勢と呼ばれるだけはあるね、200体以上の黒騎士たちが暗躍しているよ」
距離にして2キロ離れている。スナイパーライフルの望遠レンズ機能を最大にして、ニルヴァーナは敵の戦力を把握していた。その照準にはレヴィンと呼ばれる聖騎士風の人物と仮面の女性の姿も捉えていた。
「頭目二人も居るみたいだね。中央付近の死体の山のところで佇んでいたよ」
「聖騎士風の人物と木目調の仮面を付けた人物か。人数は大体わかったが、あとは戦力分析だな」
ディランは真剣な表情だ。相手は大体のレベルすらわからない正体不明の集団。いくら好戦的なディランでも何も考えずに突っ込める相手ではない。彼はリグドに目をやり、戦力分析の状況を確認する。
「リグド、この距離から戦力の分析は出来そうか?」
ディランの質問に、リグドは首を横に振っていた。
「2キロ以上も離れた状況からでは不可能だよ。それに近づいたからと言って、レベルを確実に測れるわけでもない。頭目二人はわからないが、その他の黒騎士たちは人間ではないだろう」
リグドは懸念していたことを話した。この場所へ来て感じたことだ。頭目たち以外の黒騎士連中は、あるモンスターに雰囲気が酷似していたのだ。
「亡霊剣士。レベル41を誇る魔物だ。元々は冒険者となれの果て……その魂がモンスター化したと言われているね。厳密にはフィアゼスが生み出したモンスターには該当しない。副産物的なモンスターだ」
「確かに、あの黒騎士たちも見た目……というより気配は似ているね」
ニルヴァーナもスナイパーライフルを構えながら、リグドの説明を聞いていた。確かに、スコープの先から見える連中は亡霊剣士と似通っている。
「でも、強さが違うね。あの黒騎士連中は、亡霊剣士よりはるかに強いよ」
「だろうね……2キロ離れてはいるが、村周辺の大気がおかしなことになっている。ディラン、少しは敵戦力の分析になったかな?」
ディランはリグドの話を聞いて、少し満足そうな顔をしていた。
「ははは、さすがは俺達の頭脳だな。亡霊剣士以上の軍勢があの村だけでも200体以上……確か目撃報告では、合計で2000~3000体程度と言われてたな。あの軍勢はそういった能力で造られた可能性があるってことだな?」
「そういうことだね。ネクロマンサーの技法に似ている気がするよ。モンスターなどをアンデッド化して操る能力だが……あれは、死者の魂でも宿して鎧ごと操っているのか。2000~3000体の兵隊を作り上げる時点で、相当な実力者だろうね」
リグドの話を聞いて、ディランは物思いに老け込む。頭目とされているどちらかがそういった能力を持ち合わせている。そのように考えるのが自然だ。召喚獣を使役するレナやルナの能力にも近いと言えなくもない。
「リグド、ディラン。もう一つ気になることがあるんだけど」
そんな時、ニルヴァーナが静かな口調で口を開いた。彼女に特に変化はないが、様子からしてスナイパーライフルで何かを捉えたようだ。
「どうしたんだい?」
「蒼い獣が居るんだけど。頭に2本角を生やしているね。見たこともないモンスターだよ」
ニルヴァーナが捉えた魔獣は村の中の死体を食っているようだった。人間くらいの高さを誇る4足歩行の獣。地球にも生息している、虎などと比較してそこまで大きさはかわらないが、肌の色や角、形相は大きく違っていた。悪魔のような鋭い目つきと、巨大な歯を何本も携えている。
「一匹だけかい?」
「そうみたいだね」
「おいおい、マジで大陸外からの奴らってオチなのか?」
リグドは少し沈黙をした。大陸外からの者たち……その可能性についてだ。
「……可能性としては考えられるんじゃないかい?」
多少戸惑っているリグドと違って、ニルヴァーナは冷静だ。彼女はそこまで考えている素振りを見せていない。
「確かに考えられないことはないが。アクアエルス世界には、マッカム大陸以外にも大陸はあるからね」
リグドは大陸外からの者たちについてはそこまで驚いている節はない。可能性としては十分にあるということなのだろう。だが、正体不明の連中……さらに、蒼い見たこともない獣の存在が彼を狼狽えさせていた。
「どうしたんだ?」
「……800年前に生まれたとされる人工島の話は聞いたことがあるだろ?」
リグドの言葉にディランの表情が変わる。彼も知っているような印象だ。
「ああ、あの話か。マッカム大陸の東に位置する島だな。確か、フィアゼスの信奉者が作り上げたとされているが」
「そういうことだよ。その後、文明は滅び去ったとも言われている曰く付きの島ではあるね。アルカディア島と名付けられている」
「私も聞いたことがあるよ。公式ではほとんど向かわれていないけど、非公式の調査船は何度も行ってるらしいじゃないか」
「それだけじゃなく、この何百年かで名のある冒険者たちも挑戦したらしいよ。だが、基本的に戻って来れた者は居ない。現在は正体不明の魔物たちの巣窟と見る見解が濃厚とのことだ。文明自体も滅び去っているんだろうね」
話に参加していたニルヴァーナは再びスコープを覗いた。蒼い魔獣の姿は現在でも捉えることが出来ていた。見たこともないモンスターだ。
「なるほど……アルカディア島のモンスターの可能性はありそうだね」
「ああ、でないとマッカム大陸出身のモンスターで見たことも聞いたこともないモンスターなどほとんど居ないからね。伝説級のモンスターも含めて」
リグドは自らの知識が相当に高いことを自覚していた。伝説級のモンスターとは、鉄巨人などの非常に能力の高いモンスターの総称である。基本的には数百年前に大陸内に於いて国などを滅ぼしたことで、そういった名前が付けられる。
フィアゼスの親衛隊の面々はリグドも知らないモンスターではあるが、それら以外では、ほとんど彼が知らないモンスターは存在していなかった。
「よっしゃ、リグド。なかなか楽しそうじゃねぇか」
「アルカディア島からの者たちの場合、はっきり言って危険度の判定ができないよ。だからこそ驚いているんだ。まずは、ソード&メイジたちと合流して、作戦を練らないとね……」
「リグド、それは無理みたいだよ」
珍しく焦りの色を見せているリグド。早急に春人たちとの合流を考えていた。しかし、ニルヴァーナのスコープはそれを許してはくれなかったのだ。
彼女のスコープには問答無用で村に攻め入っている、春人たちの姿が映っていたのだから。
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