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3話 王子殿下 その1
しおりを挟むオウデール王国の首都ハンニバルにあるソマーラス宮殿。
シドニー男爵家の長男であるグレス兄さんと長女の私は、この場違いの場所への入城が許可されていた。入り口に到着すると、信じられないくらいスムーズに中へ入ることが許されたのだ。
「あの兄さん……やっぱり信じられないんだけど」
「信じられない気持ちは分かるが事実だよ。現にスムーズに入ることが出来ただろう?」
「そうだけど……」
もちろん理由もなく入れるはずがない。バルカン様のことがあるにしても、こんなにスムーズに入れるはずがなく……本当の理由はアルベド・オウデール第三王子殿下に呼ばれたからだ。
「兄さんがアルベド王子殿下と知り合いだったのは、もっと信じられないんだけど」
「彼とは同じ歳だからな。まあ、幼馴染というやつだ」
幼馴染に王子殿下がいらっしゃったとは……小さい頃から兄さんを見ているけれど、初めて知ったことだった。
「昔から王子様と知り合いだったなんて、全然知らなかったわ」
「まあ、私も話してなかったからな。幼馴染とはいっても彼は第三王子。そんなに簡単に会えるわけでもない」
私達はその後、アルベド第三王子殿下がいらっしゃる私室へと足を運んだ。
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「よく来てくれたな、グレス。久しぶりだ」
「アルベド様こそお元気そうで何よりでございます」
「あ、あの……私は……!」
私室に入った後、アルベド様とグレス兄さんは簡単な挨拶で済ませていた。私は初対面だったので、しっかりとした挨拶を考えていた。しかし、緊張のためか上手く言葉が出て来ない。
「ははは、アリサ嬢。そんなに緊張することはないさ。今日はプライベートな空間ゆえ、堅苦しい挨拶は抜きにしようじゃないか」
「も、申し訳ございません、アルベド王子殿下。ええと、グレスの妹のアリサと申します。以後、お見知りおきを」
「うむ、第三王子のアルベドだ。よろしくな、アリサ嬢」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
アルベド様はとても優しく私に接してくれた。なんとなく、グレス兄さんに近い雰囲気を漂わせているわ。まあ、兄さんの幼馴染ということだし、雰囲気が近くても不思議じゃないのか。
「アルベド様、本日はバルカン・ヨーゼフ伯爵と妹アリサとの婚約破棄の件で来たのですが……」
「ああ、それは聞いている。アリサ嬢も大変な目に遭ったようだな。心中お察しするよ」
「いえ、そんなことは……ありがとうございます」
マジマジと見つめて来るアルベド様に私は思わず目を背けてしまった。
「アルベド様のご用件としては何があるのでしょうか?」
「ん? ああ、そっちは大した用件ではないんだが。まあ、グレスの顔とアリサ嬢の顔を見てみたかった、というだけのものさ。アリサ嬢とこうして対面できたことで用件は終了していると言えるだろう」
「は、はあ……左様でございますか?」
「うん、そういうことだから私の用件については、あまり気にしないでくれ」
アルベド様は普通に話しているけれど、視線がやけに気になってしまった。別に嫌な感じはしないけど……必要以上に私のことを見ているような気がする。
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