伯爵は意気揚々と婚約破棄をしたが、彼女の領内での努力を甘く見ていたようです

マルローネ

文字の大きさ
4 / 13

4話 王子殿下 その2

しおりを挟む

 私とグレス兄さんはアルベド様の計らいで、彼の私室のソファに座ることを許された。専用のメイド達が飲み物やお茶菓子を持ってきてくれる。

「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」

「ありがとう」

 流石、第三王子殿下のメイドだけあって身なりが凄いわ。私もあんな風な態度が取れるように勉強しないといけないかもしれない。

「アルベド様、先ほどはご用件については終わったとおっしゃいましたが……」

 私が私室にいるメイドをジロジロと見ている時、グレス兄さんは話を進めていた。私もそちらに向き直る。

「ああ、そうだが?」

「ふふ、安心致しました。アルベド様は我が妹を気に入ってくれたみたいで」

「ぬっ?」

 グレス兄さんの突然の発言にアルベド様の表情が変わった。私も同じく驚いているけれど。

「ちょっと兄さん! なんてことを言うのよ! そんな失礼なことを……!」

 いくら幼馴染だからと言って相手は王子様だ。私は慌てて兄さんに忠告した。しかし……。

「おやおや、ははははは! なぜ分かったんだ、グレス?」

「えっ……?」

「こう見えても、妹を見る男の目には慣れていますので、妹のことを気に入ったかどうかはすぐに分かりますよ。それが例え王子殿下であっても」

「なるほど……グレスの妹を見る目は伊達ではなかったというわけか」

「当然です、最愛の妹ですからね」

「ははは、これは一本取られたな」

 アルベド王子殿下とグレス兄さんは和やかなムードの中、笑い出した。いや、それはいいんだけど、当の本人である私は恥ずかしいんだけれど……。

「見惚れてしまったことは謝罪しよう、アリサ嬢。噂通りの、いや、噂以上の美貌だったのでつい、な」

「あ、いえ……そんな謝罪だなんて。お気になさらないでください、アルベド様」

 見惚れられたということは決して嫌なことではない。それは自信へと繋がることだから。少し恥ずかしいのはどうしようもないとして……私はアルベド様の顔をまともに見れなくなっていた。

「しかし……あの名家と名高いヨーゼフ家の現当主が、浮気三昧の上に婚約者を追放するとは。3度目の婚約も失敗に終わったようだ」

「ええ、そのようですね。妹の話では浮気ではなく、バルカン様の地位ゆえの必要事項だとかなんとか……」

「ふざけているのか、バルカン殿は……まったく」

 非常に嘆かわしい事態だと思う。彼の治めるマリンキー地方は王国内でも有数の緑あふれる楽園だ。国外の人々が森林公園などへの観光に来るほどなんだから。そこのトップが浮気三昧のバルカン様……イメージダウンどころの話ではない。

「しかし、アルベド様。バルカン様は1つだけ忘れていることがございます」

「忘れていること?」

「はい、妹がこの1年間に行っていた領地経営の基礎についてです。森林公園の景観の永続化方法や、インフラの整備。各村々との連携方法など非常に多岐に渡りますが、バルカン様はおそらく、妹がどの程度それらをやっていたのか把握し切れていないのでしょう」

「ほう、それは面白いことになりそうだな。出来れば資料を見せていただけるか?」

「はい、もちろんでございます。こちらにご用意してあります」

「うん、ありがとう」

 そう言いながら、アルベド様はグレス兄さんより渡された資料を読み始めた。え、私は聞いていなかったけど、そんな資料を兄さんは用意していたの? グレス兄さんはとても怪しい笑みを浮かべているけれど……。

「ははは……これは凄いな。わずか1年でよくこれだけの事業に関われたものだと思うが、バルカン殿はこれからが非常に大変になるだろうな」

「そのようですね……ふふふ。我が最愛の妹を振った罪はしっかりと償ってもらわないと」

「ははは、それは面白いな」

 アルベド様とグレス兄さんはとても意気投合しているようだった。傍から見ると怪しい秘密結社が計画を練っているみたいに見えるけどね……。私はなんて言えば良いのか分からず、言葉が出て来なかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...