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4話 王子殿下 その2
しおりを挟む私とグレス兄さんはアルベド様の計らいで、彼の私室のソファに座ることを許された。専用のメイド達が飲み物やお茶菓子を持ってきてくれる。
「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
「ありがとう」
流石、第三王子殿下のメイドだけあって身なりが凄いわ。私もあんな風な態度が取れるように勉強しないといけないかもしれない。
「アルベド様、先ほどはご用件については終わったとおっしゃいましたが……」
私が私室にいるメイドをジロジロと見ている時、グレス兄さんは話を進めていた。私もそちらに向き直る。
「ああ、そうだが?」
「ふふ、安心致しました。アルベド様は我が妹を気に入ってくれたみたいで」
「ぬっ?」
グレス兄さんの突然の発言にアルベド様の表情が変わった。私も同じく驚いているけれど。
「ちょっと兄さん! なんてことを言うのよ! そんな失礼なことを……!」
いくら幼馴染だからと言って相手は王子様だ。私は慌てて兄さんに忠告した。しかし……。
「おやおや、ははははは! なぜ分かったんだ、グレス?」
「えっ……?」
「こう見えても、妹を見る男の目には慣れていますので、妹のことを気に入ったかどうかはすぐに分かりますよ。それが例え王子殿下であっても」
「なるほど……グレスの妹を見る目は伊達ではなかったというわけか」
「当然です、最愛の妹ですからね」
「ははは、これは一本取られたな」
アルベド王子殿下とグレス兄さんは和やかなムードの中、笑い出した。いや、それはいいんだけど、当の本人である私は恥ずかしいんだけれど……。
「見惚れてしまったことは謝罪しよう、アリサ嬢。噂通りの、いや、噂以上の美貌だったのでつい、な」
「あ、いえ……そんな謝罪だなんて。お気になさらないでください、アルベド様」
見惚れられたということは決して嫌なことではない。それは自信へと繋がることだから。少し恥ずかしいのはどうしようもないとして……私はアルベド様の顔をまともに見れなくなっていた。
「しかし……あの名家と名高いヨーゼフ家の現当主が、浮気三昧の上に婚約者を追放するとは。3度目の婚約も失敗に終わったようだ」
「ええ、そのようですね。妹の話では浮気ではなく、バルカン様の地位ゆえの必要事項だとかなんとか……」
「ふざけているのか、バルカン殿は……まったく」
非常に嘆かわしい事態だと思う。彼の治めるマリンキー地方は王国内でも有数の緑あふれる楽園だ。国外の人々が森林公園などへの観光に来るほどなんだから。そこのトップが浮気三昧のバルカン様……イメージダウンどころの話ではない。
「しかし、アルベド様。バルカン様は1つだけ忘れていることがございます」
「忘れていること?」
「はい、妹がこの1年間に行っていた領地経営の基礎についてです。森林公園の景観の永続化方法や、インフラの整備。各村々との連携方法など非常に多岐に渡りますが、バルカン様はおそらく、妹がどの程度それらをやっていたのか把握し切れていないのでしょう」
「ほう、それは面白いことになりそうだな。出来れば資料を見せていただけるか?」
「はい、もちろんでございます。こちらにご用意してあります」
「うん、ありがとう」
そう言いながら、アルベド様はグレス兄さんより渡された資料を読み始めた。え、私は聞いていなかったけど、そんな資料を兄さんは用意していたの? グレス兄さんはとても怪しい笑みを浮かべているけれど……。
「ははは……これは凄いな。わずか1年でよくこれだけの事業に関われたものだと思うが、バルカン殿はこれからが非常に大変になるだろうな」
「そのようですね……ふふふ。我が最愛の妹を振った罪はしっかりと償ってもらわないと」
「ははは、それは面白いな」
アルベド様とグレス兄さんはとても意気投合しているようだった。傍から見ると怪しい秘密結社が計画を練っているみたいに見えるけどね……。私はなんて言えば良いのか分からず、言葉が出て来なかった。
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