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5話 バルカン・ヨーゼフ伯爵
しおりを挟む(バルカン・ヨーゼフ伯爵視点)
「バルカン様、ご報告がございます」
「どうかしたのか、リッチ?」
本日は執事のリッチが私への報告をする日となっていた。彼の言葉に耳を傾ける。
「はい……各地の事業についてなのですが、至急、お知らせしたいことが出ています」
「各地の事業についてだと? ほう……」
「各事業の責任者より、領民達がボイコットを起こしているという報告が入ってきております」
「なんだと、ボイコットだと?」
「はい、そういうことになりますね……」
どういうことだ? 私はリッチからの説明を受け酷く慌ててしまった。
「ちなみに、具体的に言うと、シュトレ交通網の整備やリューガ河川でのレジャー施設建設、ハインツ森林開拓事業の3つでボイコットが起きているようです」
「おいおい、どの事業も我がヨーゼフ家にとっては重要な事業じゃないか! なぜ今頃になって……」
どの事業に於いても働いている領民の力が必要なことは言うまでもない。私の直接の部下だけで事業が成り立つはずがないからな。しかし、今までは多少の小競り合いがあったりという報告が来ている程度だったのに……ボイコットで事業停止など、聞いたことがないぞ?
「今は完全に事業計画が中断していると見て良いのか?」
「報告上ではそのようです。現場監督クラスまでボイコットに参加しているとか」
「現場監督までが……なんということだ」
現場監督クラスは責任者である貴族階級のすぐ下の地位になる。領民の中でも仕事に熱心な連中で構成されている為、余程の事がない限り裏切ることはないはずなのだが。
「リッチ、各地の現場監督までが裏切っているとなると、非常にマズいな」
「そうですね。この状態が長引けば、当初の事業計画に支障を来すことは間違いないと思います。如何いたしましょうか?」
「力に訴えるというのはどうだ?」
これが最も単純かつ簡単な解決方法だろう。私の屋敷には私設軍の用意もしてある。戦争にも対応可能に鍛えられているはずなので、領民のボイコットくらいは簡単に殲滅できることだろう。
「バルカン様、そのお考えは危険かと思います。事業計画において、現場監督以下の者達との信頼関係は重要事項です。力で潰してしまっては、確実に計画が頓挫してしまうでしょう。それどころか、王都ハンニバルに助けを求められるかもしれません」
「ぬう、やはり私設軍を動かすのは危険か……」
「はい、そのように考えます」
マリンキー地方を治めるヨーゼフ家といえども、王都に出て来られてはかなり不利になってしまう。私設軍を動かせばそれだけ目立ってしまうからな……この方法は使えないか。
「提案でございますが、一度、彼らの様子を見に行くというのは如何でしょうか?」
「なに? 直接私が見に行くということか?」
「はい、それが良いかと思われますが。ここの近くでしたら、リューガ河川のレジャー施設が近いですので、如何でございますか?」
「……くそ、仕方がないか」
下々の引き起こした騒動にトップであるこの私が出向くというのは舐められそうなものだが。今回の場合は仕方がないか。原因を知ることも重要だからな。
「わかった。行ってみよう。リッチ、すぐに馬車の手配をするのだ」
「畏まりました、バルカン様」
まったく忌々しい連中だ……一体、私の支配に何の不満があるというのか。しっかりと給料は支払っているというのに!
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