伯爵は意気揚々と婚約破棄をしたが、彼女の領内での努力を甘く見ていたようです

マルローネ

文字の大きさ
5 / 13

5話 バルカン・ヨーゼフ伯爵

しおりを挟む

(バルカン・ヨーゼフ伯爵視点)

「バルカン様、ご報告がございます」

「どうかしたのか、リッチ?」

 本日は執事のリッチが私への報告をする日となっていた。彼の言葉に耳を傾ける。

「はい……各地の事業についてなのですが、至急、お知らせしたいことが出ています」

「各地の事業についてだと? ほう……」

「各事業の責任者より、領民達がボイコットを起こしているという報告が入ってきております」

「なんだと、ボイコットだと?」

「はい、そういうことになりますね……」


 どういうことだ? 私はリッチからの説明を受け酷く慌ててしまった。

「ちなみに、具体的に言うと、シュトレ交通網の整備やリューガ河川でのレジャー施設建設、ハインツ森林開拓事業の3つでボイコットが起きているようです」

「おいおい、どの事業も我がヨーゼフ家にとっては重要な事業じゃないか! なぜ今頃になって……」

 どの事業に於いても働いている領民の力が必要なことは言うまでもない。私の直接の部下だけで事業が成り立つはずがないからな。しかし、今までは多少の小競り合いがあったりという報告が来ている程度だったのに……ボイコットで事業停止など、聞いたことがないぞ?

「今は完全に事業計画が中断していると見て良いのか?」

「報告上ではそのようです。現場監督クラスまでボイコットに参加しているとか」

「現場監督までが……なんということだ」

 現場監督クラスは責任者である貴族階級のすぐ下の地位になる。領民の中でも仕事に熱心な連中で構成されている為、余程の事がない限り裏切ることはないはずなのだが。

「リッチ、各地の現場監督までが裏切っているとなると、非常にマズいな」

「そうですね。この状態が長引けば、当初の事業計画に支障を来すことは間違いないと思います。如何いたしましょうか?」

「力に訴えるというのはどうだ?」

 これが最も単純かつ簡単な解決方法だろう。私の屋敷には私設軍の用意もしてある。戦争にも対応可能に鍛えられているはずなので、領民のボイコットくらいは簡単に殲滅できることだろう。

「バルカン様、そのお考えは危険かと思います。事業計画において、現場監督以下の者達との信頼関係は重要事項です。力で潰してしまっては、確実に計画が頓挫してしまうでしょう。それどころか、王都ハンニバルに助けを求められるかもしれません」

「ぬう、やはり私設軍を動かすのは危険か……」

「はい、そのように考えます」

 マリンキー地方を治めるヨーゼフ家といえども、王都に出て来られてはかなり不利になってしまう。私設軍を動かせばそれだけ目立ってしまうからな……この方法は使えないか。

「提案でございますが、一度、彼らの様子を見に行くというのは如何でしょうか?」

「なに? 直接私が見に行くということか?」

「はい、それが良いかと思われますが。ここの近くでしたら、リューガ河川のレジャー施設が近いですので、如何でございますか?」

「……くそ、仕方がないか」

 下々の引き起こした騒動にトップであるこの私が出向くというのは舐められそうなものだが。今回の場合は仕方がないか。原因を知ることも重要だからな。

「わかった。行ってみよう。リッチ、すぐに馬車の手配をするのだ」

「畏まりました、バルカン様」

 まったく忌々しい連中だ……一体、私の支配に何の不満があるというのか。しっかりと給料は支払っているというのに!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...