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7話 視察へ その2
しおりを挟む私とアルベド様、グレス兄さんの3人は後日、マリンキー地方のリューガ河川を訪れることになった。リューガ河川はマリンキー地方の西に流れる川で水量も多く、村々が経営している田畑に流す水路としての役割も兼ねている。リューガ河川の権利は領土の観点から言えば、ヨーゼフ家が持っていることになるけど、河川としては他の領地にも流れている為、事実上は中立の河川として有名である。
「あれが建設中のレジャー施設か。どういった物が出来る予定なのかな」
「私が記憶している限りでは釣り堀が大半を占めます。バルカン様の領地では池での釣りが流行っていましたから」
「なるほど、釣りか。リューガ河川には鯉を始めとして様々な魚が生息しているからな。マリンキー地方では領民の間で釣りが流行っているとは聞いていた。その為のレジャー施設を作れば繁盛すること間違いないだろうな」
「そうですね、領民への配慮は土地経営では非常に重要になると思いますし」
「それ以外にもボートを貸し出しての遊覧というレジャーも用意されているようです」
「なるほど、遊覧か……それも良いかもしれんな」
「はい、後は遊戯施設内での射的や金魚釣りなどもあります。こちらはお祭りの私設を年中無休で楽しめるとして設計されたようですが」
「ほほう、なるほど……話を聞いているだけで楽しくなってしまうな」
アルベド様は口元に手を当てて周囲を見渡していた。
「しかし今は、作業がストップしているようだ。まずは現場監督に話を聞いてみようか。アリサ、誰が現場監督かはわかるかい?」
「はい、それは大丈夫です。ええと……ジョージさん!」
私はレジャー施設周辺に立っていたジョージ・アレクセイさんの名前を呼んだ。恰幅の良い人で部下からの信頼厚い現場監督の一人だ。彼の姿が見えていたのは幸運と言える。
「えっ……? これは! アリサ様じゃありませんか!」
ジョージさんは私の姿を見るなり笑顔になり、走って近付いて来た。久しぶりというには日付が立っていないけれど、喜んでくれたのは素直に嬉しい。
「ジョージさん、ええと……こんにちは」
「ええ、こんにちはですね! しかし、どうされたんですか急に……それにグレス様と、そちらにいらっしゃるのはアルベド王子殿下じゃありませんか!」
ジョージさんは私以外にもグレス兄さんとアルベド様がいたことに心底驚いているようだった。まあ、一般の人からすれば驚くのは無理ないわね。厳密に言えば、私達の護衛として複数人の人が周囲には展開されているけれど。
「ああ、大丈夫だよ。あなたがリューガ河川の現場監督ということで間違っていないかな?」
「はい! 左様でございます! 私はリューガ河川の現場監督の一人、ジョージ・アレクセイと申します!」
ジョージさんはアルベド様に話し掛けられてかなりテンパっているようだった。まあ、無理もないけど……子持ちの40歳の彼でも王子殿下が相手だとそうなってしまうのね。
「事前の調査では、作業員達はボイコットを起こしているということだったが……間違いはないか?」
グレス兄さんがジョージさんに話しかける。ジョージさんはすぐに頷いて答えた。
「ええ、その通りです。理由はバルカン様の横暴にありますね。俺達の為に色々としていただいたアリサ様を理不尽に追放したっていうじゃありませんか!」
「ああ、やはりその噂が原因だったか」
アルベド様とグレス兄さんは、ジョージ様の理由を聞いても特に驚きを見せていなかった。ということは予想がついていたということだろうか。私は正直、驚いてしまったけれど……。
「ちょっと待ってください、ジョージさん。それでは、皆さんは私が婚約破棄されたからボイコットしているんですか?」
「そういうことになりますね! リューガ河川の事業だけじゃねぇ。他の事業もほぼ同時期にボイコットしたと聞いていますよ。それだけ俺達にとって、アリサ様は大切だったって話です」
「なるほど……アリサ、この1年間で随分と信頼を勝ち取っていたみたいだな。兄としては嬉しいよ」
「ふむ、私としては少し複雑な印象もあるが……」
「アルベド様はそうかもしれませんね」
「おいおい、グレス……そこはフォローして欲しいぞ」
「はははははっ」
「……?」
私は置いてけぼりを食らっているようだった。グレス兄さんとアルベド様はどんどん話を進めているような。でもこれで、ボイコットの理由がハッキリしたわ。私が原因だったのね、素直に喜んでいいのか分からない状況だけれど。
ただ、領民の人達の気持ちは嬉しかった。
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