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8話 視察へ その3
しおりを挟む「アリサ様を蔑ろにする領主様に従えるわけがねぇ! 私達は協力してボイコットを引き起こしたって寸法でさ!」
ジョージさんの目線はとても真剣なものだった。その心意気は嬉しいけれど、彼らの待遇が心配にはなってしまう。
「アリサ嬢の為にボイコットを起こしたのは尊敬に値するが……大丈夫だったのか? ヨーゼフ家の私設軍を使って、強制的に鎮圧をされる可能性だってあるだろう?」
「それは確かに賭けでしたが……どうやら向こう側は強制的に従わせる気はないようで。その辺りはラッキーでしたね」
「1つ1つの事業規模が大きく、それによって働いている従業員の数も多いですからね。下手に戦力を投入するのは得策ではないと判断したのでしょう」
「うむ……そう考えるのが妥当か」
ジョージさん達が無事で良かったけれど、一歩間違えたら強制的に鎮圧されていた可能性もあるはず。私の為に動いてくれたとはいえ、それで鎮圧されていたとすれば、私は償う方法が思いつかなかった。
「ジョージさん! そんな一か八かの方法を取るなんて……!」
「へへっ! もしも失敗したとしても、アリサ様に恨みを言う連中は居ないですよ。他の事業をしている連中もね。全員、そのくらいの覚悟でやってます」
「そんな……!」
余計に罪悪感が生まれそうだった。私が各事業に関わってから約1年……想像以上に与えた影響は大きいようだ。確かに何度も視察を重ねては現場監督とも話をしたし、経験は浅いながらも幾つかの改善点を追及したりもした。
働いている作業員の人達とは仲良くなったという自信があったけれど。でもまさか、私のことでボイコットを引き起こすようになるなんて、夢にも思わなかったわ。
「だが、ボイコットをしていては給料も入らないだろう? 生活は困って行くのではないか?」
「そちらも懸念事項ではあります。ただ、バルカン様の方も各事業の進捗具合に支障が出ているわけですから。すぐにでも交渉の席を設けると思いますよ」
「交渉の席か……どういった要求をするつもりなんだ?」
グレス兄さんの質問にジョージさんは咳払いをしてから答えた。
「最初はアリサ様との婚約破棄を取り消させるように働きかけるつもりでした。でも、よく考えたら婚約破棄をされたアリサ様が元の関係に戻りたいとは思っていないとの意見が多くて。それで、バルカン様にはしっかりとした謝罪と給料の値上げ、それからアリサ様の案を採用するように言う予定です」
「随分と強気な交渉だな」
「近々、リューガ河川のレジャー施設に来るとのことなんですが……その時に交渉してみようと思っています」
なるほど、まだ交渉すら始まっていないということね。ジョージさん達の要求は3つというわけか。発端は私のようだけれど、領主であるバルカン様の態度に嫌気がさしたという見方が強いのだと思う。でも、あのバルカン様が彼らの要求に応じるとはとても思えないけれど。
ただ、各種大きな事業計画がストップしていることも事実。その辺りを踏まえて、どのような落としどころを見つけるか。重要なところね。
「む? あちらにいるのは、バルカン・ヨーゼフ伯爵じゃないか?」
「本当ですね、私がちょっと見て来ます」
何というタイミングだろうか。偶然にもバルカン様が現れたのだ。それに気付いたジョージさんは、走って彼の元へと向かった。大丈夫かしら……。
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