上 下
7 / 20

7話

しおりを挟む
 私とデュラン兄さんは前に進み、アルフとシンディのところへと向かった。とは言っても、他の貴族の人達がいるから、なかなか会うことはできないけれど。


「アルフ様、お久しぶりですな」

「シンディ様、本日もとてもお美しいですね!」

「いやはや、素晴らしい雰囲気だ……」


 とてももてはやされている二人……私からすればそれは虚言でしかないように見える。あの二人……特にアルフは今はもてはやされる存在ではないのだから。婚約破棄の件はそれぞれの貴族にも情報として行っているはずだ。相手が私だとは伝わっていないのだろうか? そんなはずはないと思うのだけれど……。


「アルフ……とても気持ちがいいわね。私は幸せだわ」

「そうだね、シンディ……幸せだ」


 そんなやり取りが聞こえて来た。でも……アルフの表情は笑っていない。ずっと見て来たから分かるのだ。彼は……人形のようになっている。作り笑いを浮かべているに過ぎない。

「アルフ様、シンディ様。ご機嫌麗しく存じます」

「あら、あなたは……確かテレーズ・リジェント伯爵令嬢よね?」

「は、はい……左様でございます」


 私は二人に話しかけると同時にシンディの質問にも答えた。彼女は私を見ても何も感じている様子はなさそうだ。


「テレーズの兄のデュランと申します……よろしくお願いいたします」

「あらあら、これはご丁寧に」

 兄さんの挨拶も簡単に終了した。そして……

「デュラン殿……お久しぶりです。まさか、このパーティーに参加されているとは思いませんでしたよ」

「私達が参加しない理由がありますか? 貴族たる者どのようなパーティーでも出会う可能性はあるでしょう」

「そ、そうですね……これは失礼を」

「いえいえ、アルフ様。お気になさらずに」


 シンディとは違い、アルフは明らかに兄さんを見て動揺しているようだった。婚約破棄以降では初めての対面となるはずだしね。婚約破棄の手続きはお父様たちが行ったから……。


「さて、挨拶も済んだことですし……アルフ、向こうの食事を食べてみない?」

「あ、ああ……そうだな、シンディ。そうしようか」

「うふふ、私、お腹がペコペコだったの」


 なんという自然な会話だろうか……二人は既に私達から興味を離している。正確にはアルフではなく、シンディが離しているということだけれど。本当に婚約破棄のことは何も話さないつもりなのだろうか?

「それじゃあ、二人とも。私達はこれで失礼致しますわ」

「ま、またな……テレーズも……」

「は、はい……」


 アルフは辛うじて気まずそうにしていたけれど、シンディはまったく悪びれている様子がなかった。なんて人なの……他人の人生をメチャクチャにしておいて……謝りもしないなんて。
しおりを挟む

処理中です...