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13話

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「来てくれるかしら……アルフは……」


 私は彼との思い出の地である教会跡に来ていた。もちろん単独ではなく護衛付きだけれど。貴族街にあるとはいえ、廃屋になっているので万が一の危険のためだった。


「このような場所にアルフ様と来られていたのですか?」

「ええ、そうよ」


 護衛の一人であるマリーが私に話し掛けて来た。周囲を見ながら不思議に思っているようだ。確かに変な場所でアルフに会っていたと思う。

「なぜこのような場所でアルフ様と? なにか理由があるのでしょうか?」

「あの頃は私は花嫁修業で忙しくて……アルフはアルフで父親のグウェイン様に厳しく育てられていたでしょうからね。お互いにストレスが溜まっていたのだと思うわ」

「ああ、なるほど。そういうことでしたか。それで少しでも屋敷から離れた場所で会っていたのですね」

「そういうことになるわね」


 現実逃避というわけではないけれど、花嫁修業の辛さを忘れたいと思うところはあった。アルフもアルフで色々と忘れたいことはあったでしょうから。そういう意味で、この場所はお互いにとっての憩いの場となっていたのだ。

「どういうことを話されていたのですか?」

「他愛もない話よ。好きな動物、書籍、趣味などを語り合ったわ。ボードゲームなどをしたこともあったわね。仕事以外の全てを話し合ったような気がしたわ」

「うふふ。テレーズ様、楽しそうですよ?」

「ええ、楽しかったからね」


 気付いたらマリーに楽しく話している私がいた。マリーとはアルフ様並みに中のよい関係だ。女性だから恋愛関係になることはなかったけれど。私にとってはデュラン兄さんならぬ、マリー姉さんといったところか。

 私はアルフとこの場所で仕事以外の全てを話していた。仕事のことを話してしまうと、この廃屋の意味がなくなるのでしてなかったけれど。彼の好きなことや嫌いなことも知っている。この廃屋での思い出……それを考えるだけでも、今のアルフは別人のようだった。

 絶対にシンディ様に何かを言われているはず……そうでなければ、あのアルフがあんなに理不尽な婚約破棄をするわけがないから。もしも婚約破棄をしなければならないとしても、いつものあの人なら、もっと紳士的に振る舞ってくれるはず。


「誰か来たようです……」


 護衛のマリーが念のため警戒していた。廃屋に入って来た人物は……。


「……アルフ様。来て下さったのですね?」

「ああ、テレーズ。この手紙は……私に会いたい。この廃屋で、という意味なんだろう?」


 ちゃんと伝わっているようで良かったわ。私は久しぶりに笑顔になれた気がする。アルフ様が来てくれたのだから。
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