G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

文字の大きさ
55 / 213
G.F. - 再始動編 -

page.530

しおりを挟む
母さんが『じゃ、お着替えのためにお座敷の部屋へ行きましょ』と先に向かおうとした。それでちょっと慌てるように、僕と歩美さんはリビングのソファーから立ち上がり…。


『私、車から金魚ちゃんの振り袖持ってきます』


歩美さんは静かにガラガラと玄関扉を開け閉めし、一旦家を出て、乗ってきた車へと向かった。

そして僕は…。


『母さん、僕は着替えのために下着換えてくるよ』


階段を上がって、また自分の部屋へと戻った。







…午前5時42分。歩美さんと母さんの二人掛かりで、女装メイクした僕の着付けをしてくれて…ようやくそれが終わった。


『はーぁ。疲れたけど…出来たわね』

『できましたね、お母さん。お手伝いいただきありがとうございました』


歩美さんが母さんに、小さく頭を下げてお礼を言った。


『いえいえ。歩美ちゃんもお着付けの御作法を習ってたのね。こんなに若いのに手際が良くて私、本っ当びっくりしちゃったわ』




振り袖は去年の初詣に着た赤色のとは違ったけど、今年はやや淡い緑色の振り袖。
帯は全体的には綺麗な赤色。それと金色と桃花色が混ざってる。

振り袖の全体に牡丹や春の花々がぶわあっと広がっていて、その輪郭は金の糸の刺繍でできてるし、とても豪華で…とてもお値段がお高そう…。

ど、何処かに袖とか引っ掛けたりして、振り袖を傷つけないよう気をつけないと…。




母さんはちらりと歩美さんを見て、ふふっと笑った。


『何だか…歩美ちゃんに《お母さん》って言われると、本当に本物の私の娘ができたみたい』


母さん…前に僕にも同じこと言ってたなぁ。
そして、僕と歩美さんもまたチラリと見合って笑った。

そのあとはダイニングへ移動。
リビングでは振り袖姿の僕が、ソファーには座れないから。







『…初詣は岸鉾神社で?』

『あ、はい。そうです』

『じゃあ待ち合わせの場所は、神社の駐車場?』

『えぇ。ですね』


テーブルに向かい合って座った、母さんと歩美さんがお喋りを始めた。


『それで何時なの?集合時間は?』

『一応…8時です』


そして僕が座ったのは、母さんの隣…じゃなくて歩美さんの隣。
母さんに《そこに座って!》と誘導されるように…。


『あら…今ようやく、もうすぐ6時よ。だったら来るの早かったんじゃない?』

『いえ。着付けにもう少し時間が掛かると思いましたし、ちょっと早く信吾くんとご実家を出て、どこかのお店で朝食を食べてもいいかなって…』


母さんは歩美さんとの会話を続けながら、僕と歩美さんの顔を交互に見て…ニヤニヤと嬉しそうに笑ってる…。
『まるで本物の姉妹…本当に私の娘たちみたい…』とか言いたげだ。


『だったら、ウチで食べていったら?朝食』

『えっ、いいんですか!?』

『なに言ってるの。私の若い頃にそっくりな顔して。ウチのみたいなもんなんだから。ご飯ぐらいで遠慮なんかしないで』

『…。』
『…。』


詩織がこの実家に来たときもそう…。
母さんはすぐに《身内みたいなものよ》だとか《私の子みたいなもの》にしたがる。

そんなに娘が欲しかったの?って、少し思う。


『お母さん、あ…ありがとうございます』


母さんはまたにっこりと笑って立ち上がり、キッチンへと向かって朝食の準備を始めた…。







紅白のかまぼこ、それとおせち料理の少しを一つの皿にまとめて、一杯のご飯も朱塗りのお盆に乗せて、母さんは運んできてくれた。


『お父さんまだ寝てるから。お父さんより先におせち出すのも失礼でしょ。だから、これだけね』

『ありがとうございます!いただきまーす』


歩美さんと並んで食べる、今年の初めての朝ごはん。
…なんか本当に元旦の朝だぁ!って感じで、なんだか気分が良かった。ご飯も普段より美味しく感じたかも。


「皆さーん!新年明けましておめでとうございまーす!」

「いやーぁ…遂に今年も明けちゃいましたけどねぇ!」


母さんがけてくれたテレビ。
マイクを握って袴姿のお笑い芸人さんの2人が、東京の?…どこだろう。大きな神宮の初詣会場に来ているみたいだった。

僕らも、あと数時間後には…。







朝食が済んで…3人でテレビを観ながら温かいお茶を飲んで、ゆっくりと雑談してた。

母さんが不意に振り向く…?


『お?お前たち早いなぁ。明けましておめ…!?』

『あら、お父さん。明けましておめでとう』


僕と歩美さんも、にこにこと笑いながらゆっくりと振り向いて、寝室から起きてきた父さんを見た。


『父さん。明けましておめでとう』
『明けましておめでとうございまーす』


可愛らしく丁寧に頭を下げて、父さんに挨拶した歩美さん。


『…おっ、おい!なんだ!?…ふっ2人いるぞォ!?』


ん?…えっ、あっ!!

…ヤバっ!!!

目が覚めて、起きてきたばかりの父さんが、を理解できる…わけなかったんだった…!
























しおりを挟む
感想 214

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

処理中です...