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G.F. - 夢追娘編 -
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『…で?陽凪さん。何の場面やんの?』
公貴くんが組んだ腕を解いてそう訊いた。
『じゃあ…あの場面やりましょう。公貴くんが《銃を持った未成年者役》で、私は《未成年者に狙われた女性役》で、雅季くんは《女性を護る刑事…》』
『あー。あれか。わかったわかった。じゃあ早く用意しようぜ。アニキ』
公貴くんに急かされ、雅季さんもトレーニングルームの奥の扉へと向かって歩いて行く…?
僕らは床に直接ペタンと座って、3人の演技勝負の見学準備が完了。
『あの…浅見さん』
『ん?あー。あの扉だろう?』
…です。僕が訊きたかったのは。
浅見丈彦さんに、まるで心を読まれたように僕の質問を先に当てられた。
『あの扉の奥には、今まで実際に使った台本なんかの《資料棚》とか《小道具棚》と、あと《簡易更衣室》もあるんだ』
へぇ…なるほど。ありがとうございます。
『…だって。詩織』
…って教えようとしたんだけど、たぶん詩織には僕の声が聞こえてなかったと思う…。
詩織はキラキラした瞳で、まるで夢の遊園地に来た少女のように、あの扉へと向かう二人の背中を見詰めていたから。
『じゃあ私も…準備しようかな』
陽凪さんは一瞬で苦しそうな表情に変わり、床にペタンと座り込んで《肩で息をする》演技で…左手で胸部をぐっと押さえた。
本当に苦しそうに見える…さすが本物の女優。もう演技が凄い!
あの扉から先に出てきた雅季さん。
まるで本当に刑事みたいなトレンチコートを羽織って出てきた。そして陽凪さんの元に駆け寄り、陽凪さんを見詰めて心配そうに屈み込んだ。
最後に…公貴くん。
右手に、もちろん偽物だろう拳銃を握って、フラフラと扉を開けて出てきた。
『じゃあ僕の出番だな!』
浅見さんが慌てるように立ち上がって…。
『じゃあ行くよ…』
浅見さんは大きな声で《アクション!》とか《スタート!》とかとは言わず、カウントダウンのフィンガーサインを出し、小さく一回パチンと手を叩くと、公貴くんが少し急いで陽凪さんたちのところへと駆け寄った。
『なぁ、随分探したっての。このクソ女。俺に手間掛けさせやがって…』
『もう止めろ!撃つな!』
刑事役の雅季さんは屈んだまま振り返り、両手を広げて陽凪さんを護るように、公貴くんと真っ直ぐに向き合った。
『退けよクソ刑事。オメーも俺に撃ち殺されたいってかァ…アァ!!?』
本当にブチ切れたような怒りの表情を見せる公貴くん。
トレーニングルームの室内が、公貴くんのセリフのその声の大きさに包まれる。
公貴くんの演技も、その表情と声の迫力も凄い…。
『お願い…やめて。私を…刑事さんも撃たないで…』
陽凪さんが、その苦しそうな表情と演技を保ったまま、ゆっくりと公貴くんを見た。
『何だァ…クソ女。今更命乞いか…?』
狂気に満ちた公貴くんの表情…リアルだぁ。
人は殺人鬼に堕ちてしまうと、あぁいう表情になってしまうのかなぁ…そんなことまで、ふと考えてしまう。
…そう考えさせるほど、もの凄く超リアルな公貴くんの演技。
『彼女は右胸を撃たれてる。右の肺を撃ち抜かれているかもしれない。だから早く!今すぐ病院に行かせないと!本当に彼女の命が…!』
『だから早くシネっつってんだよ…俺はさっきから』
公貴くんが拳銃を構える。
そして拳銃の引き金に力がこもる…。
公貴くんが拳銃を構えたまま、ジリジリと近寄っていく…。
『け、刑事さん…もう、わ…私はも…う助かりません…だ、だから私に構わず…逃…』
『そんなことを言うな!おい!絶対に諦めるな!』
犯人役の公貴くんを睨みつける、雅季さんの鋭い視線も…凄いな。
僕だったら絶対できない…お笑いコントになっちゃうと思う。
『ツ…ツトム…』
『あ?な…なんで…俺の名前を知っ…?』
『あなたの、お…お母さんは…今も生きて…る…それと』
『生きてる?はぁ?嘘だろ…だって』
公貴くんの表情ご緩む…そして不安と困惑が混じった表情に変わっていった。
『そ、それと…あなたは自分が…一人っ子だと思っ…てるかも…し、しれな…いけど…』
『な…んだって…?』
『あなたには…ほ、本当は…』
『嘘だろ?…嘘だろ!…嘘だろォォー!!』
叫ぶ公貴くん…対して、声が枯れ、更に苦しそうに息をする陽凪さん。
『あな…には、ひと…り…姉…んが………い…の…』
『おい!待て…待て!しっかりしろ!…おい!おーい!!息をしろー!!!』
完全に倒れ込んでしまった陽凪さん。
その陽凪さんの肩を大きく揺する雅季さん。
公貴くんは両膝からガクッと崩れ落ち、大泣きしながら拳銃を両手で握り、自身の胸と喉元の二箇所を撃って…の演技で、仰け反るようにして後ろに倒れ込んだ。
『なんて事だ…くそっ。お前をずっと愛し続けていた…お前の姉だったのに…』
雅季さんは立ち上がり…顔を上げて空を仰ぎ…コートの内ポケットからスマホを出し…。
『…はい。刑事課の萩原です。少年拳銃強奪発砲事件は…はい。えぇ…終わりました…』
『はい!終了』
浅見さんのその一言で、陽凪さんも公貴くんも雅季さんも、演技から解かれて普段と変わらない様子に戻った。
『あーぁ…俺好きくないんだよ。前からこの役…くっそ』
そう言いながら立ち上がり、苦笑いを見せた公貴くん。
『役作りのクオリティは、今も高いレベルで維持できてると思うけどな。公貴』
雅季さんは『わはは』と笑って、公貴くんの肩を叩いてやった。
公貴くんも雅季さんを見て、照れた様子でもう一度ニヤリと笑って見せた。
『公貴くん。君な明日にでも一流俳優として復帰できるのにね。その演技力なら…』
陽凪さんのその言葉に『あ…んまぁ、ドラマ制作業界の《腐れ》が無くなれば、俺ももしかしたら…なぁ』って、謎の言葉で返していた。
ドラマ制作業界の…腐れ…?
『じゃあ…詩織ちゃん。誰の演技が一番だったか…指名して。はい』
浅見さんにそう言われて、詩織は一瞬『うーん…』って考えた。
そして、詩織が一番に選んだのは…。
『あの…えぇと…ごめんなさい!三人とも演技力が凄くて…選べませんでした。それと私、その…他の演技とかも見てみたいです!』
詩織がキラキラした視線でみんなを見て、そう答えを《…選んだ?》。
陽凪さん、雅季さん、公貴くんはまた互いを見合って…。
『この勝負、ドローだったかーぁ。私が一番だと思ったのに』
『んなわけ…ってことで演技力勝負、2回戦目やるか』
『OK…んで?次は何の場面やるんだ…?』
公貴くんが組んだ腕を解いてそう訊いた。
『じゃあ…あの場面やりましょう。公貴くんが《銃を持った未成年者役》で、私は《未成年者に狙われた女性役》で、雅季くんは《女性を護る刑事…》』
『あー。あれか。わかったわかった。じゃあ早く用意しようぜ。アニキ』
公貴くんに急かされ、雅季さんもトレーニングルームの奥の扉へと向かって歩いて行く…?
僕らは床に直接ペタンと座って、3人の演技勝負の見学準備が完了。
『あの…浅見さん』
『ん?あー。あの扉だろう?』
…です。僕が訊きたかったのは。
浅見丈彦さんに、まるで心を読まれたように僕の質問を先に当てられた。
『あの扉の奥には、今まで実際に使った台本なんかの《資料棚》とか《小道具棚》と、あと《簡易更衣室》もあるんだ』
へぇ…なるほど。ありがとうございます。
『…だって。詩織』
…って教えようとしたんだけど、たぶん詩織には僕の声が聞こえてなかったと思う…。
詩織はキラキラした瞳で、まるで夢の遊園地に来た少女のように、あの扉へと向かう二人の背中を見詰めていたから。
『じゃあ私も…準備しようかな』
陽凪さんは一瞬で苦しそうな表情に変わり、床にペタンと座り込んで《肩で息をする》演技で…左手で胸部をぐっと押さえた。
本当に苦しそうに見える…さすが本物の女優。もう演技が凄い!
あの扉から先に出てきた雅季さん。
まるで本当に刑事みたいなトレンチコートを羽織って出てきた。そして陽凪さんの元に駆け寄り、陽凪さんを見詰めて心配そうに屈み込んだ。
最後に…公貴くん。
右手に、もちろん偽物だろう拳銃を握って、フラフラと扉を開けて出てきた。
『じゃあ僕の出番だな!』
浅見さんが慌てるように立ち上がって…。
『じゃあ行くよ…』
浅見さんは大きな声で《アクション!》とか《スタート!》とかとは言わず、カウントダウンのフィンガーサインを出し、小さく一回パチンと手を叩くと、公貴くんが少し急いで陽凪さんたちのところへと駆け寄った。
『なぁ、随分探したっての。このクソ女。俺に手間掛けさせやがって…』
『もう止めろ!撃つな!』
刑事役の雅季さんは屈んだまま振り返り、両手を広げて陽凪さんを護るように、公貴くんと真っ直ぐに向き合った。
『退けよクソ刑事。オメーも俺に撃ち殺されたいってかァ…アァ!!?』
本当にブチ切れたような怒りの表情を見せる公貴くん。
トレーニングルームの室内が、公貴くんのセリフのその声の大きさに包まれる。
公貴くんの演技も、その表情と声の迫力も凄い…。
『お願い…やめて。私を…刑事さんも撃たないで…』
陽凪さんが、その苦しそうな表情と演技を保ったまま、ゆっくりと公貴くんを見た。
『何だァ…クソ女。今更命乞いか…?』
狂気に満ちた公貴くんの表情…リアルだぁ。
人は殺人鬼に堕ちてしまうと、あぁいう表情になってしまうのかなぁ…そんなことまで、ふと考えてしまう。
…そう考えさせるほど、もの凄く超リアルな公貴くんの演技。
『彼女は右胸を撃たれてる。右の肺を撃ち抜かれているかもしれない。だから早く!今すぐ病院に行かせないと!本当に彼女の命が…!』
『だから早くシネっつってんだよ…俺はさっきから』
公貴くんが拳銃を構える。
そして拳銃の引き金に力がこもる…。
公貴くんが拳銃を構えたまま、ジリジリと近寄っていく…。
『け、刑事さん…もう、わ…私はも…う助かりません…だ、だから私に構わず…逃…』
『そんなことを言うな!おい!絶対に諦めるな!』
犯人役の公貴くんを睨みつける、雅季さんの鋭い視線も…凄いな。
僕だったら絶対できない…お笑いコントになっちゃうと思う。
『ツ…ツトム…』
『あ?な…なんで…俺の名前を知っ…?』
『あなたの、お…お母さんは…今も生きて…る…それと』
『生きてる?はぁ?嘘だろ…だって』
公貴くんの表情ご緩む…そして不安と困惑が混じった表情に変わっていった。
『そ、それと…あなたは自分が…一人っ子だと思っ…てるかも…し、しれな…いけど…』
『な…んだって…?』
『あなたには…ほ、本当は…』
『嘘だろ?…嘘だろ!…嘘だろォォー!!』
叫ぶ公貴くん…対して、声が枯れ、更に苦しそうに息をする陽凪さん。
『あな…には、ひと…り…姉…んが………い…の…』
『おい!待て…待て!しっかりしろ!…おい!おーい!!息をしろー!!!』
完全に倒れ込んでしまった陽凪さん。
その陽凪さんの肩を大きく揺する雅季さん。
公貴くんは両膝からガクッと崩れ落ち、大泣きしながら拳銃を両手で握り、自身の胸と喉元の二箇所を撃って…の演技で、仰け反るようにして後ろに倒れ込んだ。
『なんて事だ…くそっ。お前をずっと愛し続けていた…お前の姉だったのに…』
雅季さんは立ち上がり…顔を上げて空を仰ぎ…コートの内ポケットからスマホを出し…。
『…はい。刑事課の萩原です。少年拳銃強奪発砲事件は…はい。えぇ…終わりました…』
『はい!終了』
浅見さんのその一言で、陽凪さんも公貴くんも雅季さんも、演技から解かれて普段と変わらない様子に戻った。
『あーぁ…俺好きくないんだよ。前からこの役…くっそ』
そう言いながら立ち上がり、苦笑いを見せた公貴くん。
『役作りのクオリティは、今も高いレベルで維持できてると思うけどな。公貴』
雅季さんは『わはは』と笑って、公貴くんの肩を叩いてやった。
公貴くんも雅季さんを見て、照れた様子でもう一度ニヤリと笑って見せた。
『公貴くん。君な明日にでも一流俳優として復帰できるのにね。その演技力なら…』
陽凪さんのその言葉に『あ…んまぁ、ドラマ制作業界の《腐れ》が無くなれば、俺ももしかしたら…なぁ』って、謎の言葉で返していた。
ドラマ制作業界の…腐れ…?
『じゃあ…詩織ちゃん。誰の演技が一番だったか…指名して。はい』
浅見さんにそう言われて、詩織は一瞬『うーん…』って考えた。
そして、詩織が一番に選んだのは…。
『あの…えぇと…ごめんなさい!三人とも演技力が凄くて…選べませんでした。それと私、その…他の演技とかも見てみたいです!』
詩織がキラキラした視線でみんなを見て、そう答えを《…選んだ?》。
陽凪さん、雅季さん、公貴くんはまた互いを見合って…。
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