G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 夢追娘編 -

page.583

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僕は…スマホを静かにそっと机の上に置き…うつむいた…。


『あいつ…何であんなに頑固なんだよ…!』

『…。』

『女優も子役も経験無ぇくせに…どっから来んだよ!あの自分の演技への自信とか…あぁァ!?』

『…。』


ヤバいヤバいヤバい…。

公貴くんは、座ったままズボンの左ポケットに左手を突っ込み、右腕は机の上に置いて…怒鳴り散らかしている。


『歳はアレかもしれねぇけどなぁ!…先輩だぞ!俺のほうが!役者ではなぁ!!』

『…。』

『歳の1つ差が何だってんだよ!!あぁ?なんも変わんねぇっつーんだよ!!』

『…。』


どっ、どうしよう…えぇと…あ、そうだ。
何か考えふけってやり過ごそう…でも…。

そうだ…明日の免許の本試験のことでも考えよう…そうそう…あの…試験の過去問とか…その…。


《ヴーン…ヴーン…》


…!
またLINEの受信だ…送信相手は解ってる。
詩織からだよ?…絶対…。

僕は恐る恐る、少し顔を上げ…机の上のスマホを手に取り、ゆっくりと画面を見た…。


【{どうしたの金魚?返事来ないよ?)】


どうしよう…返さないと…。
詩織へのLINEの返信…。

けど…操作するのも…指をピクリと動かすことも…怖っ!

やっぱ無理無理無理!!
ごめん詩織!…返事返せない…この状況では…。

僕は、スマホを握った左手を小さく震わせながら…やっぱりそのまま机の上に置いた…。

そしてそのまま…またゆっくり下を向く…。


『クソっ!信吾はどこ行ったんだよ!こんなときによ!!』


…ひぃぃぃ…怖。


『信吾が居て見てれば詩織、まだいつも大人しく《演トレ》してたのによ…クソが…』


…た、助けて…この状況を…誰か…。


《ヴーン…ヴーン…》


また…詩織からのLINEだ…。
勇気を出して…またスマホを見る…。

【{行ったほうがいい?私そっち?)】


いやいやいやいや!!
だっ駄目駄目駄目駄目駄目!!

詩織!今来るとダメ!!絶対!!


「クソっ…クソが…」


…あ、あれ?
急に公貴くんが大人しく…なった…?

恐る恐る…僕はチラリと公貴くんを見た…。



公貴くんもポケットからiPhoneを出し、触り始めていた…。

とりあえず…良かった…。
このまま助かるかも…。

それにしても…うん。






もう一度スマホを見る。
詩織…本当に心配してくれてそう…ごめん。

何か書いて返さないと…じゃあ、なんて書こう。
書き方によって、詩織がここに来ることがないよう気をつけないとな…えぇと。

本当になんて書いて返そうかな…うーん。

少し安心し始めて、何気にまた公貴くんのほうをチラリと見ると…!!!

ひぃぃぃぃ!!!
こっち見てるー!!


『なぁ…おい。お前』


えぇーっ!?
しかも金魚ぼくに話しかけてきたぁぁー!!


『おい…なぁ』


ど…ど、どうしよう…!!


『おい…聞こえてんのか?って。つぅかお前!返事くらいしろ!!』

『はっ、はいっ!』


こんなに緊張してるのに、急でも女の子声に変えられる僕って…凄くない?
凄くないよ?こんなの普通だよ。普通普通。

…なんて、こんなふざけたことを考えてる余裕、無かったんだった…反省。


『ご…めんなさい…』


僕は慌ててスマホをまたまた机の上に置いて…震える手を下ろして…閉じた両ももの上に置いた両拳をぎゅっと握って…恐々と、公貴くんを見た…。


『お前…確か、俺と会ったこと…あるよな…?』

『あの…えっ…その…あの…』


そう…確かに。
少しだけ公貴くんと話したことがある…実は。

いつだったかな…?
11月の終わり頃?それとも、もう12月だったっけ?
日曜日が引っ越しで、その次の日…月曜日だったことだけは覚えてる。


『11月27日の月曜日、時間は朝9時頃。そこの事務室の前で…だろ?』


あ…ふーん。なるほどね。
公貴くん、日時と状況まで覚えてました…凄いね。めっちゃ怖いぃ…。


『俺、お前に《噂の新人ってのはお前か?》って、訊いたよな?違うか?』


そこまで正確に言い当てられると…もう素直になるしかなかった…。


『あの…はい。私…でしたね…』


僕は、あまりのヤバい状況に少し混乱したのか…公貴くんに可愛い笑顔で返事してしまい…。

その現実にショックして…僕はまた落ち込むように俯いて、視線を机上に落とした…あぁ。


『そうか。やっぱな…ってか、信吾どこ行ったんだ?あいつマジで!』


…。

残念ながら《僕の女装姿(金魚)と公貴くんは、実は会ったことがある!》ことはバレてしまった!…けど。
守らなければならない秘密はもう1つ。

《今目の前にいる娘こそ、実は君が探している信吾だ!》ってことだけは…絶対バレないように…。
これだけは守り切らないと…!

いや…絶対にこの秘密…守り通す…!!

そう決心し、心に誓って公貴くんを…そーっと見ると…。
公貴くんは…大人しく静かになって、また自分のiPhoneを触っていた。

ふぅ…助かった…か。


《ヴーン…ヴーン…》

《ヴーン…ヴーン…》


今度は2回きた。
ごめんごめん…。

LINEの返事、何かしてあげなきゃ。
えぇと?…今度は詩織、2連続って…何って書いて送ってき…?

……は?



【{お前…信吾だろ!だよなぁ?お得意の女装した)】

【{もうバレてんだよ。大人しく観念して自白しろ!)】


えっ、はぁっ!?
嘘っ!?バレ…た…!?

…えぇぇ!?
ヤバい…本気でヤバい!!!



心臓の音が…両方の鼓膜に届くぐらい…バクバクドキドキしてきた…。

目が…視線が…スマホに釘付けに…。
金縛りのように…動けない…。

かっ体が…重い…。

汗?…画面に一粒…ぽたり。



僕は…全身を小刻みに震わせながら…ゆっくり…ゆっくり…と…。

…公貴くん…のほうを…見…た…。


『あーぁ。信吾、ほんと何処行ったんだろうなーぁ…なぁ…』


…!!

冷めたようなジト目で…僕をじーっと見てる…公貴くん…!


『もうバレてんのに、まーだ黙ってやり過ごそうってしてんのかなーぁ。あいつは…』


うわぁ…も、もう無理…。
観念するしかなかった…。

僕はまた何度目か下を向き…震える小声で…。


「あの…なんで…わかっちゃっ」

『お前の左耳を見れば判んだよ!』

『!!』

『わーっはっはっはっはー!』


公貴くんは、自分のiPhoneをポケットへ戻しながら、高らかと大笑いしだした…。


『お前、忘れてないよな?』


…えっ?
忘れてない…よな??


『YOSHIKAが俺の姉貴だってことをな!』


…あっ。


『わーっはっはっはっはー!』

『…。』


僕の《秘密が絶対バレないよう守り通す!》の決心は…ものの5分で打ち破られた…あぁ。






そのあと…公貴くんは話してくれたんだ。

YOSHIKAさんから聞いたんだって。
『信吾くんが女の子になるとき必ず、左耳に金魚のぶら下がったピアスをしてんの』ってことと…『信吾くんの女の子姿の名前は《池川金魚》ちゃんって言うの。絶対に《信吾くん》なんて呼んじゃダメ!』ってことを…。

それと、どちらから話が出たのか…僕のLINEのIDも。


『…ってことで。なぁ

「…は…はぃ…」


公貴くんはウンウンと頷きながら、ニヤリと笑った。


『お前にひとつ《聞いてほしい話》と、あと《頼みたいこと》があるんだ』

『…聞いてほしい話と、頼みたいこと?』

『あぁ。聞いてくれないか?』


…って、どんなこと…?


















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